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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
マダム・ラリーの館

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17/118

「幕間:女の子の友達」

ハチヤ 軽戦士ライトファイター35LV 丸耳族

 ルル 司祭ビショップ25LV

 迷惑スキル:諸人もろびとこぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。


 コルム 斥候スカウト35LV 丸耳族 

 バクさん 聖騎士パラディン25LV

 迷惑スキル:極限状況強制転移エクストリーム・ジョウンター。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。


 マヤ  女騎士レディナイト20LV 小人族 

 バランタイン 騎士ナイト 14LV

 迷惑スキル:ライオン騎士ナイト。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。


 イチカ 闘女バトルレディ 5LV  獣人族 

 シショー 鉄鍛冶アイアンスミス4LV

 迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。


 アール・オブリス 僧侶プリースト5→7LV  兎耳族 

 ママ 歌姫ディーバ4→5LV


 モルガン 魔女ウィッチ4LV 長耳族 

 ふくちゃん 吟遊詩人バード2LV

 ~~~武田藍たけだあい~~~


「もうすぐ夕飯だから、るいのこと呼んで来てあげて~。どうせまた本に夢中なんだろうから」

 呆れと慈しみが半々くらいの母に仰せつかって、藍は姉の部屋を訪れた。ノックしたって返事はないに決まってるので最初からしない。

 ドアを開けると、古びた書物の匂いが鼻についた。日に焼けた紙の匂い、時代を重ねたインクの匂い、パラフィン紙に染みついた装丁の匂い。部屋の主にとっては芳しい香りだが、藍にとっては「本臭い」だけだ。

 姉妹ともに同じ間取りのはずの広めの10畳間は、しかし藍のものとは違ってやたらと狭く感じる。それは本棚を埋めつくしても足りず床へと版図を伸ばす、一万冊には及ぼうかという蔵書のせいだ。

(……いつ見ても理解できん)

 漫画、小説、雑誌もある。とにかくジャンル問わずに活字を集めましたという部屋。本の虫の住む部屋。自分自身のお小遣いで買える量ではない。古本市を巡ったりゴミに出されるのを救ったりという地味な収集活動の結果だ。

 ベッドや衣装箪笥や勉強机といった日々の暮らしに関わる部分は、それら圧倒的な趣味の品に追いやられ埋めたてられ、それぞれが陸の孤島のように孤立していた。女の子らしい小物やグッズの類は一切なく、妹としては将来が心配になる。

「……また増えたんじゃない? 床が抜けるってママに怒られるよ、おぇ」

 声をかけるが反応がはない。スウェットにショートパンツという部屋着に着替えた涙は、勉強机の上に数冊の本を乗せ、スタンドの灯りで読んでいる。

 自己主張の少ないぺたんとした肉体、引っ込み思案の性格。友達はいない恋人も好きな人もいない。野暮ったい分厚い前髪のカーテンの奥にあるのはしかし、類稀なる美貌だ。美男美女の両親から生まれた藍は、自身相当なものだと自覚しているが、それでもこの姉にはかなわない。武器の扱い方を知りさえすれば、彼女を取り巻く環境は一変するはずなのだが……。


(なに読んでんだ……?)

 机の上の本にはいくつかの本が乗っていた。セクハラ問題関連書籍と衣服の通販雑誌が数冊。それぞれ細かに付箋紙が貼られ、傍らのメモには注文番号とおぼしきアルファベットと数字の羅列や、「付け入られやすい隙とは?」などの謎の言葉が記載されている。

 藍は「くっ……」と呻くと口元に手をあて天井を見上げた。

「……とうとうお姉ぇにも春が来たか」

「――!?」

 そこで初めて気がついたのか、涙は声にならない悲鳴を上げた。慌てて本とメモを後ろに隠す。

「み――見た!?」

「もうばっちし。あんだけ接近しても気がつかないんだもん。いやしかし」

 顔を真っ赤にした涙の肩を叩き、「あの奥手なお姉ぇがねえ」としみじみ。

「ふぇ、ええ!? ち、違うよ!! そんなんじゃないから!!」

「あ、まだなんだ。でも好きな人のためにオシャレしようと思ったんでしょ? すごいよ。類人猿もびっくりの進歩だよ」

「――!?」

「はいそこ『どうしてそれを!?』みたいな顔しない。誰でもわかるわ。むしろわからないほうがびっくりだわ」

「うう……。そ、そんなにわかりやすいかな……」

 涙は自分の顔をぺたぺた触る。

「ひどいもんよ。さながら歩く広告塔ね」

「そんなに……」

 涙はしょげた。

「んで、いつもの冴えない格好を反省して服を買おうと、そこでティーン雑誌じゃなく大人の女性向けの通販誌をチョイスしちゃうあたりがいかにもお姉ぇなんだけど……」

「――だ、ダメなの?」 

「いや、いいんじゃない? 意気込みだけは」

「だけですか……」

「でも第三者の視点がないと、お姉ぇだけで選ぶとかなり痛々しいことになる。断言」

「だ、第三者の視点……?」

「紙面だと微妙なサイズの違いや発色のニュアンスが伝わらないし、一番いいのは実際にお店に行って店員さんに聞くことなんだけど。あ、スーパーの中に入ってる服飾品売り場とかじゃなくね。ちゃんとしたお店。専門店」

「う……ううーん。ダメ……店員さんの目に耐えられる自信がない」

 拳を握ってシミュレーションして……やっぱり無理だと諦めて肩を落としてため息ひとつ。

「出来てれば苦労はしない、か。――お、なにその目。あたしに頼むつもり?」

「う、出来れば……。藍ちゃんモテるし」

「まあね」

「友達も多いし」

「そりゃそうよ」

「勉強も運動も得意だし」

「うんうん」

「わたしには何もない……」

「はい戻ってくるー!! セルフで泥沼に浸からないー!!」

 自動落ち込み装置付きの涙を引っ張り上げ、相談に乗ることにした。このまま落ち込まれても面倒くさい。


「お店にはあとで行くとして。まずは一番手近なところから」

「……な、なに?」

「そのうっとうしい前髪をばっさり行こうか」

 ハサミをチョキチョキ、のジェスチャー。

「む、無理無理!!」 

 ぱたぱたと凄い勢いで手を振る涙。

「なんでよ。お姉ぇの場合、あたしの血を引いてるだけあって素材は悪くないんだから、まずは顔を出してアピールすることだよ」

「こ、これは……競走馬の遮眼革ブリンカーと同じだから、視界を制限して集中力をアップさせごめんなさい顔を出すとか恥ずかしくて死んじゃいます藍ちゃん」

 拳でぶつ真似をすると、涙は素直になった。

 まったく、藍はため息をつく。

「よくそんな引っ込み思案のくせにアピールしようと思ったよね」

「うん……」

 もじもじもじもじ。

「そんなに好きなの?」

「え、あ、や。ま、まだそこまで言い切れる段階じゃ段階ですねまっただ中ですねごめんなさい藍ちゃん」

 再びぶつ真似。

「――いちいち面倒いので今後は聞かれたことには正直に答えるように」

「はい藍ちゃん」

 素直。


「んで、どんな人なの」

「えっと……すごく……優しい人かな」

 涙は頬を赤らめ夢見るような表情になる。

「その人にはね、ふたつ離れた妹さんがいて、でもその妹さんは小さい頃から病気がちで、入院と通院の繰り返しでほとんど学校に行けなかった。お父さんは会社だから、お母さんが付き添いしてた。でも妹さんはお兄ちゃん子でね。お兄ちゃんがいないと寂しがって泣くもんだから、その人は放課後毎日病院に行ってた。自宅療養中もなるべく独りにしたくないもんだから、友達とも遊ばず、ずっと妹さんと家にいた。本当にずっとだよ? 遊びたい盛りの男の子が、友達からの誘いを全部断って、やがては誘ってくれる友達もいなくなって。それでもいつでもからっとにこやかに笑ってて……」

 ほう、とため息。

「その顔がすごくいいんだぁ……」

「そ、そうなんだ」 

 水を向けたくせに若干引き気味の藍。

 しかしどこかで聞いたことのある話だなと思う。

「ところでそれってもしかして、うちのクラスの登校拒否ガリの兄貴のこと?」

 心当たりを聞いてみると、

「登校拒否ガリ……? え、あ、そうなのかな? その子ってもしかして、蜂屋摩耶はちやまやちゃん?」

「……ビンゴっぽいね。しかしよりにもよってあいつの兄貴かぁ」

 痩せっぽちで頭が悪くてうるさくて扱いに困る摩耶。腹立たしいことに意外と美形。たしかにあれの世話を見るのは大変かもしれない。

「そうかー。クラスメイトなのか。すごいねえ、そんな偶然ってあるんだねえ」

「別に、公立だし普通でしょ。兄貴のお迎えと強制登校も有名だし」

 運命っぽくしようとした涙をばっさりと切り捨てる。

「あたしもちらっと見たことあるけど、見た目は冴えない感じだったような……」

「そ、そんなことないし!!」

「あばたもえくぼなんじゃないのー?」

「違うもん!! ひどいこと言わないで!!」

 姉を弄って遊んでいると、母が部屋に入ってきた。

「藍ー。ミイラ取りがミイラになってない?」

「あ、ママ」

 藍は振り返りざま、

「いま、お姉ぇの初恋について話してたの」

「なん……ですって……!?」

 硬直する母。ぎぎぎ、と油の切れたロボットのような動きで涙を見る。

「ちょ――藍ちゃん!?」

 母は「くっ」と呻き口元に手をあて天井を見上げた。

「……とうとう涙にも春が来たのね」

「同じリアクションやめて!?」


「……で、なんで居座る気満点なの?」

 夕食後、紅茶片手に涙のベッドに(勝手に)腰かけた母と藍である。涙が口を尖らせて不満の意を表しているが、まったく怖くもないし障害にもならないので放っておく。

「あら、やっぱりこのお茶っ葉美味しいわね」

「でしょ。わたし、香りを嗅いでぴんときたんだ」

 恋(ばな)好きな母は明らかにワクワクしている。藍自身も好きな方で、しかもそれがこの姉の話ときてはたまらない。

「ねーママ、パパ放っておいていいの?」

「いいのよ。あの人はナイター見始めたら周りなんか気にならないんだから」

「男の子っていくつになってもそうだよね」

「その分コントロールしやすいのよ」

「さっすがママ」

「年季入ってるからね」

 出ない力こぶ。

「やな会話……」

「大丈夫よお姉ぇ。そのうちお姉ぇも混ぜてあげるから」

「けっこうです!!」

「どんな子かしら。なんだかドキドキするわね」

「盛り上がらないで!! むしろふたりとも出てって!!」

「ほほーう、そんなこと言っていいのかな? お姉ぇ」

 脅迫するような藍の口調にびびる涙。

「な……なに?」

「パパにチクっちゃうよ」

「な――」

「お姉ぇも覚えてるでしょ? 去年のあたしの誕生会の惨劇を……」

 語り始める藍の表情に陰が差す。彼女にとっても辛い思い出なのだ。

「ホッケーマスクを被ったパパが男の子たちを追い回して外まで出て行って、ご近所さんに警察呼ばれた時のこと……」

 泣き叫ぶ友達。回るパトランプ。またたく間に広がる噂・噂・噂――。

「11才の金曜日事件ね。あれは笑ったわよねー」

 マイペースな母はけらけらと笑っている。が、藍と涙には鳥肌ものの記憶だ。

「……わかったわ、藍ちゃん」

「……わかってくれればいいの」

 

 ~~~ハチヤ~~~


「おーう。遅かったな、アール」

「ばんわーです。アールさん」

 夕飯後にレベル上げに付き合う約束をしていたアールは、10分遅れてログインしてきた。

「ごめんね、遅れて」

「いやいいよ。しかし珍しいな。いつでも時間厳守なお前が」

「うん……色々あって」

 はは、乾いた笑いを漏らすアール。ん、なんか微妙に元気がない?

「ママさんもばんわーです」

「コン……バン……ワ」

 ルルがママに挨拶している。

「ママさんも元気……なのかな? まあ、よろしく」

「コン……バン……ワ」 

 相変わらずの凶悪な面相のママは、アールの体にからみつくようにまとわりついている。こういう相方なのだと知っていても、アールが憑りつかれているようにしか見えない。


「あ、ちょっと待って」

 アールの声が遠くなる。マイクを外すか遠ざけたかしたみたいだ。「――ママってどういうこと? これわたしなの?」、「や、違うのよママ。これはアール・オブリスの亡き母という設定で……」、「お姉ぇひどーい」。生活音というか、誰かとの話し声が聞こえてくるが、詳しい内容まではわからない。

「ごめんごめん。待たせた」

「別にいいって。なんだ、家族?」

「ああうん、ちょっと後ろで騒いでるんだ……」

「へえー。理解のある家族でいいよな。うちなんかゲームは子供にいい影響を与えないって本気で思い込んでるからさ。とても見てる前でゲームなんかできねえよ」

「うちも普段はこんなことないんだけど……」

 アールはどことなく気まずそうだ。

「ちょ、ちょっと待って」

「お? おう」

 再びマイクを外すアール。「早くメアド聞きなよお姉」、「まだ知らなかったの?」、「だ、だって学校でいつでも会えるし……」、「そんな弱腰じゃダメよ。ガンガン行かないと。ママだって昔はパパが置きっぱなしにしてた携帯を勝手に操作して――」、「それ犯罪だよママ……」。

「も、戻った」

「おう。じゃあさっそく始めるか」

「うん……」


 ヴィンチの街の周辺でのレベル上げ。今日は人数が揃わなかったので俺とアールだけだ。コルムは家族と外食。先生は友達と女子会。摩耶は食休みで寝たまま起きて来ない。イッチーは来る予定だったんだが……たぶんあいつも寝てるんだろう。

 通常、レベル差のある者同士がPT組んでレベルをすることはしない。レベル補正がかかって、まともな経験値が入ってこないからだ。 

 パワーレベリングで外から俺が回復魔法や強化魔法でアールを補助して格上の敵と戦わせることも出来るが、それはアールの生真面目さが良しとしなかった。たしかに効率的だけど卑怯臭いしな。

 んで、落ち着いた結論としては俺が他の低レベルの職業スキルを一緒に上げるというものすごいオーソドックスなものだった。


「んー。懐かしいな。この感じ」

 低レベルのレベル上げは、面倒なようでいて実はけっこう楽しい。軽戦士ライトファイターとは違う他職業の(今回は戦士ファイター)視点は新鮮だし、なにより昔戦ったモンスターと再び相まみえるのが懐かしい。

「そうですねえ。あるじ様」

 ルルもぱたぱたと機嫌良さそうに飛んでいる。妖精のレベルはプレイヤーに準ずるので、レベル5の俺に対してルルは7割の4(端数切り上げ)だ。

「お、三つ目熊だ。行くぞアール」

「う、うん」

 グリズリーに第三の目を加えたようなフォルムの三つ目熊が、雪原をかき分けて走って来る。アールの堅身バディで防御力を上げ、俺たちはこれを迎え撃つ。

 三つ目熊の爪攻撃2発を左右にステップを踏んで回避。避けきれなかった噛みつきは盾で止めてダメージを軽減する。

 反撃は俺のアックスと、アールのメイスだ。尼僧ナン唱える者(スペルキャスター)の中でも物理攻撃が得意なほうだから、それだけでもけっこうなダメージが与えられる。プラス、回復魔法でヘイトが溜まりやすいので、

「ガルゥ!!」

 三つ目熊の矛先がアールに向く。が、そこはすかさず俺が咆哮ウォークライでターゲットを取り返す。

「ありがとうハチヤ」

「いいって。俺もつい、軽戦士ライトファイターの癖で避けすぎた。もっとヘイトを溜めなきゃだったわ」

「カワイイボウヤ……ヨクデキマシタ……」

「それはどっちに言ってるんだろうな……」

「逆に聞きますが、ママさんにカワイイボウヤって言われたいですか? あるじ様」

「ごめん、俺が悪かった」


 その後も俺たちは順調に狩りを続けた。予想通り、戦士と尼僧の組み合わせは相性がよい。攻撃力も高くヘイト管理もしやすく、司祭ビショップ歌姫ディーバの補助も受けられるので、かゆいところにも手が届く。三つ目熊、一本角雪狼、雪ゴブリン、ゴブリンリーダー、ちょいと格上のモンスターも混ぜてぽんぽん景気よく倒していく。

「ね、ねえハチヤ」

 狩りを始めて30分ぐらい経った頃。

「……あのさ。ボクと」

「思ったんだけどさ。アール。俺たち、メアド交換しないか?」

「――!?」

 ガタガタガタッ。

『来たー!!!!!?』、「お姉ぇ!! やったよ!! 向こうから!!」、「ああ……涙……っ」、「おーい、どうしたー? ママと藍もいるのか? うるさいぞー」、「あらパパ。ナイターもう終わったの?」、「ママも扉閉めるの手伝って!! またあの惨劇が――」

 何をいってるのかわからんが、本当に賑やかだな。

「め、めめっめめめめめめっめめめ!?」

「ヤギ化すんな。どうしたアール」

「な、ななななんでもないっ。そ、それよりどうして急に……」

 棒立ちになってしどろもどろになるアール。

「いや今日もだけどさ。きちんと連絡がつけられると、PT組んで経験値稼いだりクエストこなしたりの都合がつけやすいじゃん。コルムや先生はあらかじめ予定わかってたけど、イッチーなんかなんでログインしないかすらわからないんだからな。メアドさえ知ってればいくらでも連絡が……どした?」

「……あ、ううん。なんでもない」

 アールは息を吐いて首を横に振る。なんだかほっとしたような雰囲気だ。

 カタカタカタ。

 メッセージウインドウにメアドを打ち込む。

「ほいこれが俺の」

「あ、うん」

 アールはそれを見て、

「携帯番号も……いいかな?」

 おそるおそる、といった感じに聞いてくる。

「あ、あの……別に変な意味じゃなくて、その……わかんないこととかあったりしたら、メールで聞けないようなこととかあるかもしれないし……」

「おう、もちろん」

 また、アールの後ろが騒ぎ出す。

『おおー!!!?』、「やったじゃんお姉ぇ!!」、「頑張った!! 偉いわ涙!! やれば出来る子ね!!」、「おーい、みんなで何やってんだー? パパも混ぜてくれないかー?」


 その後一時間ほどしてようやくログインしたマヤが、ふらふらとおぼつかない足取りで歩いてくる。

「ふぁーあ。お兄ぃ。おあよーう」

「お、やっと起きたか眠り姫」

「ばんわーです。マヤちゃん」

「ルルちゃんおあよーう。あれー? お兄ぃだけー?」

 マヤが首をかしげる。一応レベル上げの約束は覚えていたらしい。

「なんだか、胸がいっぱいだとかですぐ落ちちまったよ」

「胸が? 食べ過ぎかなー?」

「お前と一緒にすんなっつの」

 ぽこりとマヤの頭を叩く。


 ピロリン♪

 

 机に置いておいた携帯がメールを受信した。

 開いてみると、涙からだった。

『こんばんわ。涙です。電話番号は×××―○○○○―××××です。これからも、なにとぞよろしくお願いいたします。』

 顔文字もデコレーションも、不要なものは何もない、礼儀正しいあいつらしいメールだった。

 フレンドリストに登録しようとして、ふと気づく。

「……そういや、女の子のアドレスって小巻以来ふたり目なんだよな」

 小巻が女の子枠に入るのかどうかは別として。

 男友達もいない俺に、女の子の友達――でいいよな?――ができた。なんだか不思議な感慨を抱いちまうな。

「……試しに電話もしてみるか。メール送って来たくらいだから起きてるだろ」

 ピ・ポ・パ。番号を打ち込んでいく。いきなり電話したら驚くだろうか。また家族の人たちと騒いでいるのだろうか。そんなことを思いながら。

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