「俺にはまだ難しすぎる」
ハチヤ 軽戦士35LV 丸耳族
ルル 司祭25LV
迷惑スキル:諸人こぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。
コルム 斥候35LV 丸耳族
バクさん 聖騎士25LV
迷惑スキル:極限状況強制転移。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。
マヤ 女騎士20LV 小人族
バランタイン 騎士 14LV
迷惑スキル:ライオン騎士。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。
イチカ 闘女 5LV 獣人族
シショー 鉄鍛冶4LV
迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。
アール・オブリス 尼僧5LV 兎耳族
ママ 歌姫4LV
モルガン 魔女4LV 長耳族
ふくちゃん 吟遊詩人2LV
~~~~~ハチヤ~~~~~
FLC独特のシステムに、音声入力というものがある。
一部の剣技や秘技、魔法を使用する際に呪文詠唱や技名を発声することで、威力や範囲を拡大する。あるいは発動コマンドそのものとするというものだ。
子供がチャンバラごっこでやるような「風よ渦巻け!! 秘剣・ドラゴンブロウ!!」みたいなのが実践出来るといういかにも中二病的なシステムだが、けっこう人気があった。ちなみに秘剣ドラゴンブロウは俺が小学生の時に編み出した秘剣だ。竜巻のような一撃、でドラゴンブロウ。うん、若かった。
速度自体は変わらないし威力は上がるし、恥ずかしいこと以外はいいことづくめのシステムのようだが、問題は、発声を中断すると技に失敗してしまうということだ。
FLCにおいての技の中断は、「キャラが動いた時」と「ダメージを受けて発動ロールに失敗した時」だけなのだが、音声入力は別だ。噛んでもだめだし、咳き込んでもダメ。発音は正確にしなければならない。訛ってる人とか外国人には厳しい。クライマックスな状況でもわりと失敗する。扱いの難しいシステムなのだ。
「『リ・ロ・テッカ!! 我は紡ぎ繰り返す……』」
え、ルルさん?
いきなり呪文詠唱を始めたルル。これは沈黙の呪文だ。
状況を説明しよう。俺たちは、バクさん以外の全員が部屋の中にいた。客室を4間繋げた程度の部屋で、一方に机や椅子やベッド、衣装箪笥。もう一方には様々な武器や怪しげな薬品の詰まった薬品棚があった。
机の上には羽根ペン始め文房具セットや分厚い書物が並び、衣装箪笥の中には女性物のドレスが掛けられていた。偽ラリーの部屋ってところか?
武器のほうは大鉈や包丁、バスタードソードにクロスボウと多種多様。薬品類も豊富で、紫や緑などの見るからに毒々しいのや、粉末状のがビンに詰めてあった。鉄の処女やファラリスの牡牛みたいな大掛かりな拷問具まである。生活臭とのアンバランスがやべえ。なに折衷なんだよ。マジでまともな人間の住み処とは思えんぞ!? 連続殺人鬼やべえ!! 超怖ぇ!!
「――お嬢様!? なぜここに!?」
いいリアクションのエジムンドさん。でもロリペドの変態。
「久方ぶりの外は気分がいいわぁ、ねえエジムンド?」
レイミアは首をこきこきと鳴らした。
「レイミア……」
笑顔一転、厳しい表情になる偽ラリー。
「あなたいったいどうやって……」
「それはもちろん、手伝っていただいたのですわ。こちらの冒険者の方々に。以前に協力者となってくださった方は、あなた方に殺されてしまいましたから」
エジムンドさんに追及の目を向ける偽ラリー。口に手の甲をあて、ビックリマーク付きの動揺の表情を浮かべるエジムンドさん。
「……長い日々でしたわぁ。来る日も来る日も、目に入るのは壁だけ。窓もなければ光も差さない暗闇の中、怨みつらみのみを友にして生きてきたのですから――」
レイミアの髪の毛が逆立つ。表情に険が宿る。あれ? これじゃまるで……。
「ねえ、お――」
その時だった。ルルの手が輝きを放った。
「『黄金の羊、月下の柵を跳べ、沈黙』!!」
強化された沈黙の呪文が飛ぶ。対象は――3人!?
『――!?』
突如喋れなくなったエジムンドさん、偽ラリー、レイミアの3人は、それでも口ぱく会話を続ける。
――FLCという面倒くさいゲームにおいて、やってはいけないことは無数にあるが、中でも最上位に位置するのがこの「イベント中に沈黙を飛ばす」である。
沈黙は発声を妨害することで呪文を唱えられなくする呪文なので、当然会話もできなくなる。にも関わらずイベントは進行するので、「何を喋っているかわからないまま」状況だけが進行してしまうわけだ。雰囲気台無しなのだ。
普通に考えればシステム上無効にすればいいだけなのだが、律儀にかかり、それでいてイベントは進むという謎仕様。そんなことはルルも重々承知なはずなのだが……。
「おおーっと。これはてへぺろですねえ」
わざとらしく額を手で叩く仕草をするルル。
「いやおかしいだろ!! 音声入力までしておいてそれはねえよ!! 完全に狙ってやったろ!!」
「ぴゅ~ぴゅ~♪」
「嘘のつけない性格だなおい!!」
あからさまにおかしいルルの行動。
いったいどうして……と考えていたら、傍らではコルムが皆を部屋の外へと誘導し始めていた。
「――なにやってんだ? コルム」
だがコルムは答えない。皆も困惑していて、すぐに動こうとしない。
「『リ・グリ・ラオム。我は叫び吼え猛る……』」
誰かが呪文の詠唱を始めていた。範囲攻撃系の炎魔法。焦熱円火。
唱えているのは偽ラリー――と、レイミア!?
焦熱円火は30レベル相当の呪文だ。威力が強く、敵も味方もNPCも巻き添えにする無差別型。イチカやモルガン、アールはもちろん、俺やコルムだって、くらえばただでは済まない。
「ちっ、半レジでしたか……!!」
ルルが悔しげに爪を噛む。
呪文に耐えきることを抵抗という。半分抵抗することが半抵抗。通称半レジ。沈黙の持続時間は2分だから、半レジは1分。強化したルルの沈黙を半レジしたということは、ふたりとも高位の唱える者だということで……。
「皆どいて!!」
叫ぶコルムの脇から、弾丸のようにバクさんが飛び込んできた。
揺れる尻尾を追って、大量の幽霊が突入して来た。
人型・妖精型の無数の怨念の集積が黒く塊っている。地を駆け、天井にぶら下がるなどした気味の悪いのが、分厚い壁のように洪水のようにひしめき合って殺到して来る。
「――な、ななな!?」
なんだこの数は!! 何十何百体もの――恐らくは、館全域の幽霊のトレイン!?
「なんでこんな……!?」
「――早く逃げなよ。ハチ」
集中攻撃でバクさんが消えるのを見届け、コルムもまた群れの中心に入っていく。
次の標的はもちろん飼い主だ。
「ちょっ、ま……!!」
制止の声は間に合わない。コルムのHPバーはあっさりと削り切られ、あとには俺たちPTとNPCの3人が取り残された。
トレインのヘイトは当然俺たちのほうへ来ると思っていたが違った。コルムはいち早くPTから抜けていたのでニュートラル状態になっていた。だからヘイトは、より敵対的な行動をとった者に向けられる。
この場合はもちろん――
『きゃあああぁ!?』
格下とはいえ300体もの幽霊の同時攻撃を受けては、3人ともたまったものではなかった。呪文詠唱を中断され、瞬く間にHPを削られていく。
エジムンドさんが偽ラリーの盾になっているが、時間稼ぎにしかならなそうだ。
キャラの数が多すぎて処理落ちが発生する中、無数の黒き手や牙が画面を埋め尽くし這い回った。
~~~~~レイミア~~~~~
――さて、私の物語はこれにておしまいでございます。
ハッピーエンドではなくトゥルーエンドでもない、無慈悲なジェノサイドエンド。きっとハチヤ様は納得いってらっしゃらないことでしょう。少なくない被害を出し、語る者ひとり残らない惨劇を目の当たりにしては、無理もございません。
――でも私は、それでいいと思うのです。
真実の私は、とても醜い存在でございますから。
虫のいい話ではありますが、せめてハチヤ様の中だけでも、私は綺麗な自分でいたかった。
古き家系の末の娘が、無慈悲な殺人鬼に屋敷を乗っ取られ囚われる。
そこへ旅の冒険者が訪れ、永の闇を切り払い、真実と救いをもたらす。平和が到来したかと安堵したのも束の間、娘は亡者どもの牙にかかり、儚い命を散らす――。
美しい筋書きではありませんか。ゲーム開始以来初めての、おそらくはこれで最後の「私たちの物語」の幕引きに、これ以上を望んでは罰が当たりましょう。
……でもそう。もし少しだけ、ほんの少しだけわがままを言わせていただけるならば……。
――あなたと一緒に旅がしたかった。
夢想せずにはいられないのです。私がもしアール様の筋書き通りの、運命に翻弄される娘だったとして、ハチヤ様たちに救われていたらどうなっていたでしょうか。屋敷を出て、それから何をしていたでしょうか。お母様他お亡くなりになった方々を弔い、因縁深い屋敷を後にし、どこへ行っていたでしょうか。
ハチヤ様と一緒に旅をしていたでしょうか。
山を越え、谷を渡り、大平原を走破し、この世の神秘の数々を余さず見聞し、やがては大断崖の頂きに達する。その果てしない道程に、長耳族の娘として、冒険者の一員として、常にハチヤ様の傍らにいられたなら、幸せこれに勝るものはございません。
「……ア!!」
……さて、無駄話をしすぎましたね。
死者の群れが、すぐそこまで迫っています。貴様だけ楽にはさせぬぞと、猛っています。
もうじき黒き牙が私の喉笛に食らいつき、鋭き爪が胸を切り裂くでしょう。爛れた舌が肌を舐め、最後の尊厳までも犯し尽くすことでしょう。
止むを得ないことです。終わりの定まった物語の、これが定めなのですから。私も母も、あまりに多くの人を殺しすぎました。
「……ミア!!」
今度こそ本当に、私の話はおしまいです。次の方がいらっしゃるまで、しばしの眠りにつくといたします。
では、ごきげんよ――。
「――レイミア!! 手を伸ばせ!!」
~~~~~ハチヤ~~~~~
黒い塊の中に手を突っ込んで、触れてきたものを無理矢理引っ張った。
レイミアだった。きょとんとした顔で俺を見ている。手と俺とを見比べている。自分のしたことが信じられない、といったような表情だ。
「走るぞ!!」
有無を言わせず手を引いた。入りきれずに部屋の入口にたむろしていた幽霊を移動技の突撃でふっ飛ばして廊下へ出た。
あくまで移動技なので威力自体はさほどでもないが、のけぞり硬直が発生するので、トレインを強行突破するのには有用だ。
俺のトレイン歴を舐めんなよ。300体程度でびびってられるか。
バリンッ。
部屋の中で何かが割れる音がした。NPCの戦闘不能時に鳴る音。それがふたつ。
「えいくそ!!」
コルムにかけてもらった韋駄天に加えて、移動系の上級特技、神足通を重ねて、後続を引き離して――だめだ。それではレイミアがついて来れない。
振り返れば、レイミアの後ろには無数の幽霊が肉薄していて、それをルルが懸命に追い払っている。
司祭のルルとしては範囲魔法で一気に追い払いたいところだが、立ち止まらなければ魔法は使えない。そして足を止めれば一気に食いつかれ、詠唱は無理矢理中断される。
「ちくしょう!! どんだけ詰んでんだよ!!」
2階の端まで到達する。階段を駆け上がりながら、あの牢に閉じこもることを考えた。パニックルームに引き籠って脱出の時を待とう。それしかない。
「――様!! ハチヤ様!!」
レイミアが俺の名を呼んでいる。
「もうおやめ下さい!! この手をお離し下さい!! このままではあなたまでも――!!」
「うるせえよ!!!!!!!!」
「――!?」
叫び返すと、レイミアは驚いて言葉を飲みこんだ。
「ハチヤ様ハチヤ様ってさあ!! 会ったばかりで、おまえは俺の何を知ってんだよ!! 何も知らねえじゃねえか!! 連れのことだって何一つ知らねえだろうが!! 見ろよ!! 聞けよ!! もう少しだから!! 簡単に諦めてんじゃねえよ!!」
「……」
「俺の相方のちっこいのはルルっていうんだよ!! 昔からの相棒はコルムで、その相方の犬はバクさんって言うんだよ!! マヤは妹で、こうるせえ騎士のおっさんはバランタインで!!」
「……様」
「ずっと6人だけだったけど、最近増えたんだ!! 暴力女のイチカ!! 起きてんだかどうかもわからないシショー!! 設定厨のアール!! どう見てもモンスターのママ!! 残念先生のモルガン!! あわれなふくちゃん!!」
「……が……とう」
「ほらな!? 何言ってるかわかんねえだろうが!! すぐには飲みこめねえだろうが!! だからさ!! もっと時間をかけて教えてやるから!! この館を脱出したって、それで終わりじゃねえぞ!? 引っ張り回してやるからな!! ――どこへ行きたい!? カラバル平原か!? アクバル湿原か!? 大断崖は最後だからな!! あとは街か!? そうだな、街を巡ろう!! イリヤーズがいいか!? ヴィンチの街はもう飽きたよな!! 機械都市マドロアなんか渋いかもな!!」
「だい……き……です」
レイミアの声がか細く震え、急に返事が聞こえなくなった。
泣いているのか? そう思って振り返った。
「なあおい!? レイミア――」
バリンッ。
~~~~~蜂屋幸助~~~~~
理科室やPCルームなどの特別教室棟であるC棟2階の階段の踊り場に、俺はひとり座り込んでいた。
5月の空は薄い青色で、雲ひとつなく晴れ渡っていた。
パックのコーヒー牛乳を啜っていた。といっても中身はすでに空っぽで、むなしくずずっと音がするのみだ。ストローの先端を噛みながら、なにをするでもなくぼーっとしていた。
あれから数日が過ぎていた。どうしてあんなことになったのか。コルムがなんのために自らの命と大好きなバクさんの命を捧げてまで3人を仕留めにいったのかはいまだにわかっていない。皆と入れ違いに館に入って行った(らしい)サリュも戻ってこなかったので、シナリオを説明してくれるNPCがいない。
クエストは達成人数がふたり(コルムと俺がやられたから)欠けたため、モルガンの禁固日数が係数分減らなかった。5日になるところが7.5日だ。
説明を求めたが、あいつは答えようとしなかった。「いつか話すよ」とだけ断って、その場でログアウトした。
それ以来、関係がぎくしゃくしている。今までこんなことなかったから仲直りの仕方がわからなくて……すごく困惑している。
「ねーねー。あるじ様ぁ~……」
携帯の中からルルが気遣わしげな声を出してくる。
「あ? なんだよ」
「まだ怒ってます~……?」
「は? 怒ってねえよ」
「怒ってるんだ~……」
「怒ってねえよ」
こいつはコルムの指示に従ってただけなので怒る筋合いもないのだが、俺のテンションが低いままなので、まだ怒ってると思っているみたいだ。
「たしかにあん時は怒ってたけどさ、今は全然だよ。気にすんなって」
「ならいいんですけどねえ……」
ルルがため息をつき、つられて俺もため息をつく。
「相変わらず景気悪い顔してるわねー」
「――!!」
人の声がしたのに驚いて、慌てて携帯をズボンのポッケにしまう。
いつの間にか、階段下に小巻が立っていた。腰に手をあて、困ったもんだのへの字口をしている。
「げげ、小巻」
「げげ、とはご挨拶ね。迎えに来てあげたのに」
階段を上って俺の前に立つ小巻。仁王立ちに足を開いているのでスカートの中が見えそうだ。いや見ないけども。
「迎えに? ……ああもう授業時間か」
「そうよ。当麻先生が探して来いって。まったくなんだってあたしに……」
ぶつぶつと不満げな小巻。
「……しかしまあ、あんたもよくこんな人の来なそうなところ見つけるわね」
腰に手を当てながら、しんと静まりかえった辺りを見渡す小巻。
「いいだろ。俺のベストプレイスだ」
「全然うらやましくないから今すぐそのサムズアップを止めなさい」
特別教室の中でも使用頻度の低いものばかりが密集している2階奥の階段は、誰も来なくて静かで、ひとりぼーっとしてたい時にはちょうどいい。1年の時からの俺のお気に入りスポットなのだ。
「ただぼっちなだけじゃん。かっこ悪」
「ぼっちじゃねえしむしろ孤高な感じでかっこいいし」
「どうせひとりであの変な妖精アプリと話してたんでしょ」
ジト目になる小巻。ポッケの中ではルルが抗議のバイブを作動させている。「変じゃないですよ!!」とか、そんな感じだろうか。
「……なあ、それって有名? 俺って痛い子?」
クラス的に。
「当たり前でしょ。最近はイヤフォンで誤魔化してるみたいだけど、まあバレバレよね」
「うへ」
「それよりあんた、さっさと行くわよ」
「行く行く。もう少ししたら行くよ」
「行く行く詐欺止めなさいよ。ったく、昔っからへこみ出すと動かなくなるんだから……」
ぶつくさ言いながら、小巻は俺の隣に座り込んだ。
「――で、なんなのよ」
「ん?」
「ん? じゃないっての。へこんでる理由をとっとと話して楽になんなさい。んで、とっとと授業に戻るわよ」
「さっすがクラスのムードメイカー。面倒見いいっすねー憧れますわー」
「――それ以上煽ったらぶち殺すわよ?」
「あっ、はい」
拳を握らないでください怖いです。
「いやだけどさ、どっから話したらいいものか……」
「好きなように好きな順番で話せば? 気の長いあたし様が聞いてあげるから」
「そいつはありがたいこって……」
ここしぱらくあった話を、小巻は笑うでもなくバカにするでもなく疑うそぶりすら見せず、淡々と聞いてくれた。相槌を打って、ところどころ質問を挟んで。
話してるうちに気が紛れて、自分の中でぱきぱきと整理がついていくのがわかる。
……相変わらず聞き上手なやつだ。
「そんなの簡単じゃない」
「……マジすか」
「そのコルムって人は友達なんでしょ。あんたの数少ない」
「数少ないは余計だが、まあその通りだな」
「だったら信じるだけでしょ。いずれ話してくれるってんだから、待つだけでしょ。簡単じゃない」
「……本当に簡単そうに言うなおまえ」
「あんたが難しく考えすぎてるだけでしょ。事実だけを積み重ねればいいのよ。そいつがいいやつで、他人のために体張れるやつなら、何か理由があったのよ」
「理由か……」
レイミアたちを黙らせなければならなかった理由。トレインを起こさなければならなかった理由。禍々しい部屋。事実の積み重ね――?
「……わからん」
「見せたかったものとそうでなかったものを選り分けて考えればいいんだって」
「……なんでおまえのほうが詳しい感じなんだよ」
「頭の出来が違うから?」
「うっせ」
「人の気持ちがわかるからかもね。あんたと違って」
「さらにうっせーし」
ふふん、不敵に笑うと、小巻はスカートの尻をはたきながら立ち上がった。
「ま、どうでもいいわ。立ち直ったならもう行くわよ。どうしても気になるならもう一回チャレンジすればいいじゃない。やり直しは出来るんでしょ?」
やり直し。
口の中でつぶやいた。そうか。簡単なことじゃないか。もう一度、あそこへ行けばいいんだ。
「でも時間が……」
垢バンになるような行動をとって、PTを召集して、再チャレンジする。最終クエストクリアと並行してやるには、相当に日程が厳しい。
「そんなの、あんたのやる気次第でしょ」
「……簡単に言うよな」
ちぇ、と舌打ちするが。
「だって簡単なんだもん」
小巻はご機嫌に笑う。
「……なんかおまえ嬉しそうだな」
「そう? あんたが沈んでると楽しいからかな。あたしたちって天秤の関係よね」
「……正直は美徳ってのは、あれはなんかの間違いだと俺は思うわ。害しかないわ」
あはは、と爽やかに笑う小巻。軽やかな足取りで、俺の前を行く。
――その笑顔は、よく太陽に喩えられる。闇に光射す太陽に。凍てつく寒さをぶっ飛ばして温めてくれる慈愛の光に。その光が俺を照らすことはあまりないけども、こいつに救われる人間が多いのを俺は知ってる。
そして俺は思うのだ。
レイミア。俺たちは太陽のように、彼女の孤独を癒すことが出来たのだろうかと。もし出来ていなかったのであれば、もう一度、あの場所へ行こうと――。




