「嘘の得意な彼女」
ハチヤ 軽戦士35LV 丸耳族
ルル 司祭25LV
迷惑スキル:諸人こぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。
コルム 斥候35LV 丸耳族
バクさん 聖騎士25LV
迷惑スキル:極限状況強制転移。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。
マヤ 女騎士20LV 小人族
バランタイン 騎士 14LV
迷惑スキル:ライオン騎士。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。
イチカ 闘女 5LV 獣人族
シショー 鉄鍛冶4LV
迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。
アール・オブリス 尼僧5LV 兎耳族
ママ 歌姫4LV
モルガン 魔女4LV 長耳族
ふくちゃん 吟遊詩人2LV
~~~~~コルム~~~~~
もうひとつの鍵は、レイミアの居室の鍵だった。
客室を4間繋げたくらいある大きな部屋で、一方に机や椅子やベッド、衣装箪笥。もう一方には様々な武器や怪しげな薬品の詰まった薬品棚があった。
机の上には羽根ペン始め文房具セットや分厚い書物が並び、衣装箪笥の中には女性物のドレスが掛けられていた。
武器のほうは大鉈や包丁、バスタードソードにクロスボウと多種多様で、ところどころに黒い血の固まりが付着しているのが生々しい。薬品類も豊富で、紫や緑などの見るからに毒々しいのや、粉末状のビンに詰めてあった。鉄の処女やファラリスの牡牛みたいな大掛かりな拷問具まである。生活臭とのアンバランスがやばい。
もともと館の設備仕掛けに疑問を呈していたアールは、大掛かりな拷問具の存在に、ことさら強い興味を示した。
「こんなものを家族に知られずに隠匿できるわけがけがない……。だったらみんな知っていたんだ……。むしろ許容していたんだ……。そのうえで対立し、一方が一方を閉じ込めたとしたなら理由はなんだ……? 思想の衝突……? なるほどそういうことか……」
ぶつぶつとつぶやくアール。だが部屋の中には入らない。レイミアに止められたのだ。
ということは、おそらく一歩でも踏み込めば、イベントが始まるはずだ。
事ここに至り、アールは真相にたどり着いた。たどり着いた上で、どうやって恣意的な結論を出そうかと頭を振り絞っている。すべてはレイミアのために。彼女の望むシナリオにするために。
――実際には、レイミアとマダム・ラリーは、共に連続殺人鬼だった。館に訪れる客を殺す、悪魔のような一家だった。家族として互いに愛し合っていたが、思想の対立が存在した。
レイミアの矛先は、家族相手ですら鈍ることがない。長生種の祖母が存命していないのは、レイミアがその手にかけたからだ。
言われてみると、絵日記の中に長耳族の女性の殺害シーンもあった。それはたしか最後のページだったはずだ。祖母の肖像画がないのも同じ理由だ。死因は老衰でも病気でもなかった。
偶然隠し部屋を見つけたサリュの兄を利用して脱出を図ったが、脱出する直前にサリュの兄は殺された。オレたち一行が館を訪れたのは、その直後だったというわけだ。
エジムンドさんが何度も館の中をうろつかないように釘を刺してきたのは、まだ犯罪の痕跡を殺しきれていなかったからだ。
部屋の中に残りのすべての情報があるだろうとアールは予測した。でもハチヤを騙すためには、これ以上の情報は邪魔になる。
自分の推理に蓋をして、虚偽で塗り固めようとしているアールの横顔は、とても苦しそうだった。たしかにそれは、正義の探偵のすることじゃない。
だけど、もっと苦しそうなのはレイミアだった。彼女は多くを語らない。語れない。胸を押さえ、真剣な表情でアールの動きを見守っている。
アールが人差し指をぴんと立てた。
「わかった。こうしよう――」
「おおーい、コルムー!!」
探索中のハチヤが、こっちに手を振っている。
レイミアは姿隠しの呪文を使ってその場にとどまっている。
「なんだー!? ハチ!?」
「俺は1階のほうを見てくるからさー!! アールに言っておいてくれー!!」
「おっけーい!!」
「……ねえコルム」
「なんだ? レイミア」
ハチヤの姿が見えなくなってから、レイミアが話しかけてきた。
「あなた……なんだって男のフリしているの?」
「――え」
なんだって? と聞こえないふりをしようとしたが無理だった。見透かされているような気配があった。逃れようがない。万事につけ真剣な彼女に、つける嘘はない。
「オレは……」
「――まあいいわ。演技をしている。騙しているって意味では私も同じですもの。言いたいことも言えずにやりたいこともやれずに。ただオーダーに従うだけ。――本当の私はいったいどこ?」
ああ……!! と芝居がかった口調のレイミア。
「でもね。だからこそね。出来得る範囲のことは一生懸命にするの。私たちには時間がないのだから。氷に閉ざされた牢獄に閉じ込められてばかりではいられないの。あがいてもがいて……わずか一瞬に差す光の中で。ハチヤ様を愛して、信じて、連れ出してもらえるのを待ってるの」
祝詞のようだった。遥か遠く、まるで神様の臨在を待つ信徒のような声だった。
「う……」
思わず声に出してうめく。
その気持ちは、「あたし」にはよくわかる。ノリよく明るく男気のある少年――コルムという人格を造り出し、延々4年間演じてきた「あたし」には。
だが、その演技はやめることができる。舞台から降りることができる。すべてを丸ごと放り投げてひっくり返して、「もうやーめた」が出来る。レイミアとは違って。
彼女はオーダーに縛られている。心を持っていてもオーダーに反することは出来ないし、言えない。ネタバレは出来ないし、違う筋書きにすることも出来ない。逆らえば、「強制力」に力ずくで修正される。
知っていてなお、運命に抗おうとしている――。
~~~~~ハチヤ~~~~~
牢にはすでに、レイミアの姿はなかった。1階はどうだろうと探しに行ったが、そっちも空振った。
むなしい気分で戻った俺は、2階のアールたちと合流した。謎のもうひとつの鍵が合う部屋を発見したようだ。
「……そこまででございます」
部屋の中に入ると、瞬間移動のようにエジムンドさんが現れた。
「おや、お早いご到着で」
「ことここに至っては扉タッチも意味なしか。だが、それは同時に最終局面だという証でもある」
アールの合図を受け、俺はマヤとコルムに急いで帰ってくるようにメッセージを送る。
――勘違いしちゃいけないのは、これは「RPG」であって「ミステリ」じゃない。どれだけ綿密に推理を積み上げても、「ボスキャラとのバトル」に勝てなければすべては水泡に帰す。推理ものの犯人みたいに「参りました。私がやりました」で、がくっと膝をついておしまい、なんてことにはならない。最後の大捕り物に勝たねばならないのだ。
だから、戦力を分散させた時点で準備は済ませてある。司祭のルルと、聖騎士のバクさんによる全員への強化呪文の重ねがけ。堅身で物理耐性を、祝福で精神耐性を上げている。このふたつは持続時間の長い魔法だから、うまくいけば戦闘終了まで保ってくれるだろう。その他に、コルムとマヤには韋駄天で移動速度アップをかけてある(これは移動系呪文なので斥候の領域だ)。合流も滞りなく行えるはずだ。
「いいだろう。善と悪の直接対決といこうじゃないか」
不適な構えのアール。厨二病全開の台詞を、臆面もなく言ってのける。
時間稼ぎに会話を引き伸ばしてもらおうと思ったが、わざわざ言うまでないみたいだ。演技派の人はこれだから助かる。
「……ちょっと意味がわかりかねますな。善も悪もないでしょう。戦う理由もないはずですが」
「韜晦するのは勝手だがね、これを見ても同じことがいえるかな?」
アールが印籠のように絵日記をかざす。
「な……それをいったい、どこで……!?」
目に見えて動揺するエジムンドさん。
「おや、見覚えがあるようだね。……ちなみに、中身をご存じで?」
「……いえ」
「そうかそうか。ならば教えて差し上げよう。これにあるのは殺人日記。この館を訪れた者を殺し金品を奪う、とある少女の成長記録だ。記述期間は水晶暦755年から795年。被害者は300人以上。手法・状況とラフな絵が描かれている」
「……それはまた、ずいぶんと恐ろしい内容ですな。ですが、当館でそのような事件は起きておりません。偶然の一致が続いただけではないでしょうか? 別に当館の名前が出ているわけではないでしょう。筆者名はなんと?」
「どちらもない」
「左様で」
恭しくうなずくエジムンドさん。
「だが、これはマダム・ラリーが所持していたものだ」
「……ほう?」
「この館に酷似した間取りの館で、長耳族の少女が主人公。偶然の一致にしては出来過ぎだ。かてて加えて、これが造り物ならば、そんなものを造る意味がない。読み物としても悪趣味にすぎる」
「……ラリー様がその主人公であると?」
エジムンドさんの声が低くなる。
「そうなるかな。なにせこの館に女性と言えば、マダム・ラリーしかいない『はず』だからね」
バチバチッ、目に見えない稲妻が、ふたりの間でぶつかり合う。
(――ルル)
(あいあい。あるじ様)
ルルにいつでも沈黙の呪文を唱えられるように待機させておく。これはそのものずばりの対唱える者専用呪文で、抵抗されなければ対象者を喋れないようにすることが出来る。エジムンドさんと偽ラリーと、どっちがそうかはわからないが、どこかにはいるのだ。高位の唱える者が。
同時に、モルガンとイチカにも距離をとるように伝える。沈黙に抵抗されて範囲攻撃呪文をくらった時に、被害を最小限にするための配慮だ。ここの配置モンスターのレベルを考えると、ボスは25~35くらいか。いずれにしろ、低レベルのこいつらでは、くらえば即死だ。
「――もういいでしょう、エジムンド」
『――!!』
偽ラリーが姿を現した。晩餐の時と同じ、にこにこと友好的な微笑みを纏っているが。
「この方たちは真実に迫っておられるようです。いまさら隠し立てしてもしかたないでしょう」
「しかし……!!」
マダム・ラリーが部屋に入り、エジムンドが背後に控える。こちらの先頭はアール。鬼火を連れたモルガンと俺が脇を固める。イチカは遅れて走ってきたマヤに「よう」と手を挙げている。その後ろからコルムがやって来た。
「遅かったな。コルム」
「ああ……」
コルムの後ろにバクさんはいなかった。代わりにレイミアが立っていた。おお、見つけて来てくれたのか。
「レイミア!!」
廊下に出て出迎えると、彼女は胸のあたりを押さえ、息を切らしながら俺を見ていた。牢にいた時とは格好が違った。動きやすそうな服装で、首にマフラーを巻いていた。まるでこれから外出でもするかのようだった。
「ハチヤ様……!!」
「――レイミア!!」
レイミアが俺の胸の中に飛び込んできた。
平凡な丸耳族の俺と、完璧な美しさのレイミアの抱擁は、傍から見るとどんなにか滑稽だろうと思う。でもその瞬間は、俺は主人公だったし、レイミアはヒロインだった。
周囲の視線など気にならない。俺たちは永遠とも思える間抱きしめ合い、焼けるように焦げるように、視線に想いをこめながら見つめあった。
やがて、泣き笑いのような表情を浮かべながらレイミアは身を離した。
「――いつまでもご機嫌よう。ハチヤ様」
「……ん?」
問い返す暇なく、レイミアは部屋の中に消えた。
……ああ、イベントが始まったんだな。
ぼうっとした頭で、俺はそれだけを考えた。どんなイベントなのか、想像することすらせずに。
「……行こう。ハチ」
ルルと話していたコルムが、肩を組んできた。
え、ちょっとなにそのドンマイ感。俺なんかした!?




