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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
マダム・ラリーの館

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12/118

「名探偵アール」

 ~~~~~3人~~~~~


「――レイミア」

 黙って成り行きを見守っていたマダム・ラリーが口を開いた。

 長耳族は、丸耳族の何倍もの時を生きる長生の種族だ。マダム・ラリーも見た目はレイミアとさほど変わらないが、齢を重ねた分だけ言葉に重みがある。  


「算段があるというのですか?」

「ラリー様……それは主上システムの意志に反します」

 エジムンドが狼狽えるのに、マダム・ラリーはふんわりとした微笑みを返す。


「お母様……私、ずっと考えていました。ネタバレは『出来ない』。事実に反する言葉は『修正される』。――つまり一瞬だけなら嘘はつけるんです」

「お嬢様……ですが修正されてはもともこも……」

 危惧を抱くエジムンドに、レイミアは確信を持って答える。

「修正されている。そう思っていただければいいのです――」 


 ~~~~~ハチヤ~~~~~


「なるほど。つまりこういうことだね」

 みんな集まったアール・マヤ組の客室。窓を背にしたアールは芝居がかった口調で言った。


「この館にはマダム・ラリーとエジムンド氏以外にもうひとりの人物がいる。それはマダム・ラリーの娘であるレイミア。3階隠し部屋の奥、鍵と鉄格子付きの牢に閉じ込められていると」

 後ろ手に腕を組み、もったいぶった足取りで部屋を往復する。


「お、おうそのとおり」

「ハチヤたちが事情を聴こうとした時に折り悪くエジムンド氏が現れ、詳しいところまでは聴けなかった」

「仕掛けの音がかなりデカいんだよな……。これ以上怪しまれるとやりづらいし。本当はもうちょっといたかったんだけど……」

「ちょっと後ろ髪引かれ過ぎじゃないですかねえ……」

「ふたりの会話にはいくつか奇妙な点があった。まずレイミアがエジムンド氏に脅されているようだったこと。もちろんそんなところに閉じ込めているくらいだから真っ当な主従の関係ではないのだろうけど。有体に言って、命の危機に直面しているように見えた」


「『始末しにきたのね』と言ってた。あとおかしいのが……」

「『お母様のように』という言葉。そしてその否定だね」

「お、おう……」

 完全にキャラになりきっているアールは、ミステリに出てくる名探偵のように押しが強くよどみない。俺は助手ポジで、他は聴衆といったところか。

 毎度思うけど、学校ではあんなにおどおどしたやつなのに、こういう時はやけに強気だ。リアルとはまったく違う人間になったようだ。


「レイミアは最初、『お母様にそうしたように』といっていた。体を犯し切り刻んで豚の餌にし魂までも穢すような鬼畜のエジムンド氏に、同じようにして始末されることを恐れていた」

「そんな人には見えなかったんですがねえ……」

 これはルル。

「……わからないものだよ。人間なんて」

 憂いに満ちたアールの声。何があったのそのキャラ。


「しかし彼女は後に前言を撤回している。いや撤回、というよりは台本を読み『言い直しをさせられたように見えた』でいいね? ハチヤ」

「あ? ああ……。そうだな。なんか仕切り直したみたいな……」


「それはルルが答えられると思います」

 手をあげるルル。

行動規則オーダーブックですね。NPCが主上システムから与えられた絶対命令が書いてあるんです。それに反しちゃったんじゃないですかね。ルルも、保持者ホルダーになる前は何も考えずに出来てたことなんですけど、保持者になってからはけっこううっかりしちゃうことがあるんですよ」

 聞き捨てならない。俺はルルに詰め寄る。

「どのへんだ!? どのへんがうっかりなんだ!? マドンの鍾乳洞でスライムの群れをトレインさせて窒息死させた時か!? 死の大墳墓で棺の女王(コフィンクィーン)を蘇らせて追わせた時のことか!? そういえば最近トレインキツいもんな!? オーダー読んで直せるんならもっと直してもいいんだぞ!?」

「え? あれはオーダー通りですよ?」 

「うっかりじゃねえのかよ!!」


 俺とルルのやり取りを見ていたアールがぽつりとつぶやく。

「なるほど……わざと間違えた、か」

「過ちを起こすのも愛なんですよねえ」

「おっまえ……!! 愛って言ってりゃすべて許されると思うなよ!?」

 しみじみうなずくルルに、全力でつっこむ。


 アールは真剣な表情を崩さない。

「仕切り直しの前後で違うのは『お母様』の存在。前者ではエジムンドに殺害され、後者には名前すら出てこない。『お母様』は言ってはいけないワードだった。だけど、そんなうっかりってあるだろうか? 下手をすれば話の核心に迫るようなワードだぞ? ミステリだったら、うっかり真犯人の名前を教えてしまうぐらいの内容だぞ? ――だからボクはこう思うんだ。彼女はわざと間違えた。規則に従って行動しているアピールをした上で、台詞を言い直した。より正確には、故意に矛盾を生じさせた――」

「……あ。そっか」

 アールの発想に驚いた。レイミアのあれはわざとだったのだ。俺たちがいるから。真実を伝えるために。

「その通り」

 よく出来ましたって感じのアール。

「本当に言いたかったのは最初の部分なんだ。つまり『マダム・ラリーはすでに始末されていて、今いるのは真っ赤な偽者』」

 おおー、みんなが感心の声を上げる。


「……でも、なんでそんなことをする必要があった? レイミアが告げたい内容は、既存のシナリオに反することだ。どうしてそんなことを……?」

 ぶつぶつと考え込むアール。


「なんてやつらだ……!!」

 俺はとにかく義憤にかられていた。

 エジムンドさん……歴戦の傭兵(妄想)とはいえ、いい人だと思ってたのに……。

「早くレイミアを助けないと……!!」

「まあ待て。ハチヤ。正義漢なのは君のいいところだが、まだ早い」


「……ようはふたりまとめてぶっ倒せばいいんだろ?」

 戦闘民族のような発言は当然のようにイチカ。

「イチカも待ってくれ。まだ早い。まだ謎がいくつか残っている」 

 アールは指を4本立てた。

「大きく4つだ。客室に出る幽霊ゴーストは誰だ? 死眼虫デッドアイインセクトは誰の『目』だ? 南京錠は誰が開けた? レイミアはなぜ生かされている? 順番に考えよう。まずはひとつめ。ハチヤ」

「うん?」

「FLCのモンスターは、脈絡もなくいろんなところに出てくるものかい?」

「いや、そんなことはないな。雪原ステージには雪のモンスター。火山なら火のモンスター。モンスター同士の食物連鎖もあるし、ねぐらだってちゃんとある」

「なら幽霊は?」

「アンデッド系のは、当然誰かが死んだとこに出る。フィールドで出るのは冒険者とか妖精の幽霊だけど、この館だったら……」

 あ。

「……誰かがあの客室で死んだ?」

「その通り。しかも幽霊になるほどの恨みを残してね」

 ママさんがいい子いい子するようにアールの頭を撫でている。泣き女(バンシー)の手には畏怖の手(フィアタッチ)の能力があり、直接攻撃の際に相手のHPに加えてMPを削れるのだが、さすがにアールのは削らない。


「次は死眼虫だ。誰かがこの館の中に放った偵察機。だが誰が? 何を見るために?」

「内部犯か外部犯かってことね」

 盗撮には一家言ありそうな(そんな教師って……)モルガンが口を挟む。

「ラリー・エジムンド組か。レイミアか。サリュか。ということになるね。ラリー・エジムンド組ならボクらの動きを見張るため。レイミアならラリー・エジムンド組の動きを見張るため。サリュだったら兄の行方を追うため」

「秘密を知りたいだけってのも理由にはなると思うけど」

「モルガンと一緒にしないでください」

 俺がツッこむと、

「盗撮なんてたいがいそんな動機から始まるものよ?」

 モルガンはけろっとして言う。

「現実ではそうかも知れんけどね!?」

「しかもあんな自動操縦で録音録画機能付きでバッテリーの持ちもよくて擬態も高レベルなもの持ってたら、使いたくなるのが人情ってものよ」

「あんたどっちの肩持とうとしてんですか!!」

「モルガンの言いたいことはわかる。手段と目的が逆なんだね。しかしこれがゲームである以上、答えは整合性があるものだと思う。ハチヤ、そうだろ?」

「おう。このゲームって変なとこにばかりこだわるから、意味のない設定なんてないはずだ」


 ところでさ、と切り出す俺。

「サリュはまあ、クエストの依頼時に俺たちにくっつけたってことで理解できるけど、レイミアが死眼虫放ったってのは考えにくくないか?」

「……なぜそう思うんだい?」

「だって、レイミアは牢に閉じ込められてるんだ。そんなものを放つ暇がない」

「閉じ込められる前にだよ。いいかい? 彼女はかねてからエジムンド氏の行動に疑問を持っていた。街に行って助けを呼ぼうとしていたくらいだ。何がしかの保険をかけておく動機があって、保険の種類にもいくつかあって、その中から彼女は死眼虫を選択した。唱える者(スペルキャスター)系の上位でしか作れないものを。加えてエジムンド氏の発言だ『矛を収め』と氏は言った。つまりレイミアはラリー・エジムンド組とは対立関係にある高位の唱える者だった。あくまで可能性の話だけどね。ボクは実際にはこれはないと考えている。そんな高位の唱える者なら、捕えておく方が難しい」


 アールは笑うが、

「や、それなんだけどさ……」

 俺は手を上げる。

「フィールドのオブジェクトについては、実は破壊可能なものと不可能なものがある。あの部屋は破壊不可能なオブジェクトだったから、イベント以外の方法では自力の脱出は出来ない。たとえどんな強力なキャラクターであれ」

「むむ……そうなのか。ゲーム故の仕様というのもあるのか……難しいな」

 アールは腕組みして唸る。こういうゲーム独特の決まり事は、アールのような初心者にはわかりづらいだろうな。


「まあいいだろう。そこについてはもうちょっと考えるさ。さて次だ。南京錠は誰が開けた? 」

 コルムがアイテムボックスから鍵束を取り出してみんなに見せる。

「これはオレが客室で倒した幽霊が持っていた鍵束だ。結束してある鍵は2本。ひとつはおそらく南京錠のものなんじゃないかと思う。まだ試してはないけど、形状がそれっぽいし、イベント的にもそれで正解だろう」


「ありがとう。コルム」

 軽く拍手するアール。

「客室で殺された人物がこの屋敷の鍵を持っていた。これは不思議な話だ。その人物は何者だったんだ? なぜそんなものを持っていた? なぜ南京錠の鍵をかかっている風に見せかけるなんて小細工を施した? 大げさに言ったけどこれは単純で、レイミアを救おうとしたからだ。鍵を盗み出し、レイミアを救おうとしたけれど、ハチヤと同じようにエジムンドさんに見つかりそうになってやり過ごした。だが上手く行かなかった。――おそらくはサリュの兄なのではないかと思う。少し前にこの館を訪れ、戻って来なかった人物という意味で、おそらく彼がもっとも確率が高い。もうひとつの鍵がなんの鍵かわかれば、もっと動機も絞ることが出来ると思うけど、それは今後の展開次第かな」


「そして最後の疑問だ。なぜレイミアは生かされている?」

「そりゃあ娘だから……」

「それが普通だ。何がしかの理由で彼女らは反発し合い、閉じ込めざるを得なかったというのが、一番簡単な推理だ。だがボクはいまのところ、彼女は娘ではないと推理している。そして、直接の娘でないなら閉じ込めてまで生かしておく理由は無い。とっとと始末したほうが楽チンだ」

「……お金の匂いがするわね」

「ボクもその線が怪しいと踏んでるんだ。隠し部屋であり牢であるあの場所は、おそらくパニックルームだ。日本じゃ見かけないけど、外国の富裕層の家にはわりと一般的に備えがある。賊に侵入された時に、一時的に避難するための場所さ。それを改造したんだと思う。この家には財貨があり、だから仕掛けもあるし、悪意の集う理由にもなる――」


 アールがぱんと手を打ち鳴らす。

「さ、足りないピースをかき集めよう。探索エリアは3か所だ。3階の隠し部屋にてレイミアと再接触。2階の幽霊の出た客室の再捜索と、できればマダム・ラリーの居室。欲をいうならレイミアの元居室。1階各所。かてて加えて、鍵の一致する扉の探索……」

 ちら、と俺を見るアール。

「ハチヤ。おそらくは最大の脅威となるだろうエジムンドさんのことなんだけど」

「まかしとけ。それなら大丈夫だ」

 さっき玄関を開けようとしたら、どこからかエジムンドさんがすっ飛んできて、「この吹雪がやむまで外にはお出になられませんよう」と注意するイベントがあった。

 あれを上手く利用すれば、完全にエジムンドさんの動きは封殺できる。 


 ~~~~~サリュ~~~~~


 針葉樹の根元に立っても、降り積もる雪はやり過ごせない。周りの積雪が厚みを増し、それは足元から膝、太股、臀部と這い寄るように登ってくる。

 設定上、彼女が埋まりきることはないものの、容赦のない過酷な環境にとどまり続けるのは「精神的に」けっこう来る。


 マダム・ラリーの館の窓を眺め続けるNPC。しかも兎耳族の女の子とあって、サリュはけっこう有名なキャラだ。話しかけても何も答えず、ひたむきにまっすぐに窓を見据える眼差しは、押しの強いFLCの登場人物の中にあっては異質で、「視線の先に」様々なネタ画像を張り付けた一連のコラージュは、ネット界隈でも人気がある。


「やっと……」

 ぼそりとつぶやく。

「やっと……クエストが始まったのに……」

 最終局面にならないと、彼女の出番はない。

 ゲーム開始から「死に続けている」兄には及ばないものの、

「寂しいなあ……」

 閃光がきらめき、爆発音が轟く館の中を想像し、もう少し、今少し、彼女は時の経過を耐え忍ぶ。

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