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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
「サイゴノ戦イ」

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114/118

「そして僕らはここに集った」

 ~~~ハチヤ~~~




「皆の者! よく聞くでござる!」

 その場の全員に呼びかけたのはジェイクだ。

「敵は中ボスクラスのNPCが23体、悪役同盟ヴィランズ・ストライク35体とアードバトンモドキが20体、レジェンド級モンスターが3体、ボス1体でござる! 各自強烈な範囲攻撃を持った相手故、まとまって一か所で戦うのは愚策! 各自担当を決め、引き離して遠方で戦うでござる!」

 FLCトップチーム『カンプナトゥ旅団』最強の聖騎士パラディンが、どんな土壇場でも崩れない相変わらずのリーダーシップで、てきぱきと指示を出していく。


 結果──

 ゴルガリの魔塊まかいにはカイ人形とヤスパールが。

 釜の漕ぎ手コルドロンズ・スカラーには『カンプナトゥ旅団』、『ミルキークイーン』、『ドグラマグラ特攻隊』、『死神の手』など、ヒーローズユニオンが総力で。

 世界喰らい(ワールドイーター)にはサーディンの『ポイズンフィッシュ』とイチカが。 

 オデッサ、リマールなどの魅了状態にあるNPCたちには機械兵の生き残り150体が。

 帝国兵と悪役同盟とアードバトンモドキの残りには魔法少女隊及びレヴンドール大森林のモンスターたちが全力で当たり、倒し次第他の戦局に合流することとなった。





 で、俺はというと……。


「ハチヤー! 援護は任せろー!」

「ハチヤ様ー!」

 コルム、レイミアたち遠隔攻撃部隊の協力の元、いよいよ千眼サウザンドと相対する。

 




 ~~~カイ人形&ヤスパール~~~




 数百年も昔のことだ。

 マドロアの士官学校に在籍していたふたりは仲の悪いことで有名だった。

 だが若きふたりは才能に満ち溢れていた。

 魔力に満ち、武力に溢れ、タッグを組めば無敵だとも言われていた。


 それぞれが存命中にはかなわなかった仮定の話だ。

 だけど今──

 本人の髪の毛を編み込んで作られた魔女人形と。

 黒水晶を核として魂を同期させたミスリル機械人形と。 

 いびつな、だがそれゆえに純粋なタッグとして、ここに実現を見た。 

 

「滅ビヨ……木偶人形でくにんぎょう……」

 両足のローラーブレードを高速回転させ、ヤスパールは走った。

 速度を乗せた槍斧ハルバードを地面すれすれからかち上げるように叩きつけると、ゴルガリの魔塊まかいのHPゲージががくんと減った。


「はあー!? ずいぶんでっかいブーメランだなあ!? デカ女ぁ!」

 カイ人形はヤスパールを煽りながらも素早く詠唱を完成させた。

「喰らえ! 『電撃ライ・ヴォルト!』」

 魔杖まじょうの先端から放たれた弧状の電撃は、ゴルガリの魔塊の直上でさらに数十条にも枝分かれて降りかかった。


 高速で振り回されるミスリル銀製の槍斧。

 逆棘をもって絡みつくような電撃の魔法。 

 両者の放つ練達の技が、雷纏う竜巻と化してゴルガリの魔塊を打ち砕いてく。





 ~~~バロンウッド~~~




「出たぞ、釡の漕ぎ手だ!」

「うお、マジか……ゴルガリの魔塊(むこうさん)もデカいけど、こっちもデカい……っ」


 単眼の巨人(サイクロプス)をモチーフにした釜の漕ぎ手が、ヒーローズユニオンの前に姿を現した。


 肌は薄い緑色。筋骨隆々の肉体を申し訳程度の布で覆っている。角など余計な突起物は生えていない。顔の造作も、目玉がひとつと口ひとつといういたってシンプルなものだ。

 余計な装飾のない分、巨大さ異様さが際立つ。


「さすがにビビるわ……、てかこいつじゃなくて、もっと他の相手と戦えばよかったんじゃあ……」

「……でも他の選択肢って言ったら世界喰らいとゴルガリとこいつと、NPC連合だぞ?」

「超最悪のニュースと超最悪のニュース、どちらから聞きたいですか? みたいな選択肢だなおい……」


 歴戦のメンバーたちですらも、怖気づくほどの難敵だ。


「皆の者ー! 怯むことはないでござる! たしかにFLC史上誰も倒したことのない強敵でござるが、だからといって不可能ということはないでござる! なにせ拙者たちは──」


 ジェイクの励まし(?)は逆効果で、メンバーの心に恐怖を植え付けていく。


 折り悪く──


 うおあああああああー!


 釡の漕ぎ手が吼えた。

 手にしたデカいかおで思い切り地面を叩いた。


 ズドオオオオオオーン……!


 激しい震動が同心円状に広がる。

 40人全員、まともに巻き込まれた。


「うお……!」

「マジでか……!?」

「バインドの範囲攻撃だと……!?」


 バインド状態は、攻撃防御等は普通に出来るが、移動がまったくできなくなる状態異常の一種だ。

 隙をつかれたメンバーたちは、なすすべなくその場に縫い止められた。

 

「ぬうう!? これはヤバいでござる! 皆、回復魔法を! 盾優先で──」


 ジェイクの声も間に会わず──


 ズシンンン……重く鈍い音と共に、回復役の僧侶プリーストのひとりが櫂の直撃をもらった。

 他の唱える者(スペルキャスター)に比べれば比較的防御力の高い職業である僧侶だが、そのキャラクターはたまたまMP優先の装備にしていた。HP、防御力は極限までカットした長期戦装備で、それ自体は悪くない選択肢だったのだが……。


「僧侶が即死!?」

「やべえ! 一撃デケえ!」

「早く! 早くバインドを!」


 メンバーの間に恐慌が拡がっていく。

 お付きの妖精あいかたたちの間にも、それは漏れなく伝染していく。

 慌てふためきご主人様にしがみつき、中には泣いて逃げ出す者まで出る始末だ。


「皆の者! 落ち着くでござる! まだまだ戦いは始まったばかりで……! 少しずつ立て直していけば……!」


 ジェイクの声も、一度崩れた仲間たちの耳には届かない。


「皆の者……」

「──うるっしゃあああああああああああああああああ!」


 大声が響き渡った。


 男性のものではない。

 女性特有の高い声。発しているのは小人族の司祭ビショップ、バロンウッドだ。

 白いひげをふさふさ生やした好々爺然としたおじいちゃんが、体いっぱい叫んでた。

 

「てめえらいつになったら学習すんだ!? ああっ!? このまえムカつくイケメンに言われたばっかりじゃねえか! 忘れたのかよあの屈辱を! ああっ!? あいつはなんて言った!?」


 ──あんたの……いや、あんた『ら』の愛が足りない。だから妖精が自我を持たない。簡単な理屈じゃん。オレたちふたり以外に見たことないんだったら、それはあんた『ら』の愛の程度が低い。


「思い出せよあの日のことを! あいつはこう言ったんだぞ!? 私らの『愛』が足りないって! 程度が低いって! こんなクソゲーにここまでつき合って入れ込んで、人生の色んなものを捧げ尽くした私らに対してだ! ふざけんなだろ! ふざけんなだよねえ!? だったらさあ──」


 すううううっ……、バロンウッドは大きく息を吸い込んだ。


「ビビッてんじゃねえよ! やれることを一からやれってんだよ! わかったか! ああっ!? おうこら、返事は!」


 おう、とかはい、とかすいません、とか……。

 とにかく慌てた様子で皆が反応した。


「声が小せえええええええ!」


 腹から声を出すように要求すると、皆は改めて謝罪の声を上げた。


「……よし」


 バロンウッドは満足げにうなずき、ジェイクに向き直った。


「バロンウッド……すまないでござる。拙者も少し取り乱した」

「ふん、いいんだ。んなこたあよ」

「ロールプレイを滅茶苦茶にさせて」

「そ、そのことは言うんじゃねえよ。つうかそれよりさ……ですね、ですな?」


 もはやキャラが滅茶苦茶になっている。


「なんでござるかな?」

「いやあその、さ……こんな状況で実に実に言いづらいことなんだけど……」


 バロンウッドはジェイクにだけ聞こえる声で囁いた。

 曰く…… 


「……大声出し過ぎた。親がめっちゃドア叩いてるから、ちょっと離席するわ。あとよろー」

「う、うおう? わ、わかったでござる」


 刹那ほたるの両親が躾に厳しい教育者だったことを思い出したジェイクは、なんとなく背筋を寒くした。


 ともあれヒーローズユニオンはバインド状態を脱し、改めて堅陣を組み直した。




 ~~~サーディン~~~




「へっへっへ……メガネのお姉ちゃん、けっこういい啖呵を切るじゃんか。こっちまで熱くなっちまったよ」


 肩を揺すって笑うサーディン。

 眼前ではイチカが世界喰らいとタイマンでどつき合っている。

 パナシュとメイルーは魔法でイチカを援護しながら、しらっとした目でサーディンを見ている。


「ちょっとマジでさー、サーくん他の女に目移りしすぎじゃねー?」

「空手女に告ったのも引いたけど、今回のもマジで引くわー」

「ちょ、ちょい待ておまえら、誰がいつ目移りしたよ?」

「はあー? 知らねえと思うのかよ。サーくんさー、興味ある女には進んでちょっかい出してくタイプじゃん。めんどそーにされっと、なおさら盛り上がるタイプじゃん」

「んーだべ、案外涼しい顔しておいて、裏ではこっそりメッセでも送ってんじゃねえの?」

「待て待て待てって、完全に濡れ衣じゃねえか。風評被害だよ。そんなの聞いたらイッチーちゃんが誤解して……」


 ギロリと、イチカは戦いの最中であるにも関わらず、サーディンをガン見していた。

 うすら寒くなるような視線を送ってきていた。


「い……イッチーちゃん? ど、どうかしたのかなー……?」

「──サーディン」


 低く鋭い声で、イチカは告げた。


「この戦いが終わったら……」

「お、終わったら……?」

「おまえぶっ殺すから」

「なんでだよおおおおおおー!?」


 サーディンの悲鳴がこだまする中、イチカはもう知らんとばかりに世界喰らいに向かって行った。




 ~~~アンバー~~~




 それはとんでもない光景だった。

 見たこともないような巨大なモンスターと、たくさんの大人の冒険者たちが全力で戦っている。

 個人で戦況を打開する者もいるし、みんなで力を合わせて共闘する者もいる。


 重い攻撃が誰かの体を打つ音、矢弾が空を切る音、魔法を唱える声、それらが幾重にも積み重なり、ブワアアアーンと、いわく言いようのない音をかき鳴らしている。


「うへえー……みんな派手にやってんなあー……」

「なぁに、怖気づいたの? バド」

「は? は? はああーっ? おまえ何言ってんの? 言ってくれちゃってんの?」


 鳥頭の杖の一撃で帝国兵のひとりの頭をぶっ飛ばしたアンバーは、動揺して声を上擦らせるバドに流し目を送った。


「あのね、強がってもわかるんだよ? バドがなんやかや怖気づいちゃってるの。強い大人の人たちに囲まれて安心してたらいきなり矢面に立たされて動揺してるのよね?」

「はあっ!? はああっ!? はあああーっ!? おまえホント意味がわかんねえんだけど! あのな、オレなんかこれもんのこれもんで、これもんだからな!?」


 樹皮人ドライアド化がさらに進行し、樹をモチーフにした変身ヒーローみたいになっているバドは、わけのわからない言葉を発しながら手近の帝国兵に突っ込み、腕を伸ばしてどてっぱらに風穴を開けた。


「ほらあ! ほらほらほらあ! オレ強いだろ!? 全っ然強いじゃん! なああっ!? なああああーっ!?」


 たしかに強い。アンバーたち魔法少女と比較しても遜色ないほど強くなった。

 だがふたりぐらいの年齢では、女の子のほうが精神的な成熟が早い。まして数多くの修羅場をくぐり抜けてきたアンバーから見れば、バドのそれは子供の背伸びにしか見えない。 


「ふふ、そうね。頑張ってるね。可愛い可愛い」

「か……可愛いっておまっ……」


 強がるバドと、それを煽って楽しむアンバー。


「あーらあんたたち。こんなところで何してるの? おデート?」

 茶髪のでっかいおさげにそばかすがトレードマークの魔法少女キリエ(20歳)が、じゃれるふたりに声をかけてきた。


「だ……誰がそんなことするかよ! こいつとデートなんて冗談じゃねえ!」

「ああーら、それはこっちの台詞よ! わたしのほうこそ、あんたとなんか願い下げだわ!」 


 じゃれ合い一転、ぷいっと顔を背け合うふたり。


「あーっはっはっは! さっそくやってるじゃないかあんたら!」


 魔法少女たちを引き連れ現れたのは妖精貴族コデットだ。

 ギーラの絶命銃で負った傷も癒え、今や万全、戦闘用の真っ赤なドレスに身を包んでいる。


「……ホント可愛い。鼻血出そう……」

「師匠師匠、ハンカチハンカチ」

「ふたりとも~、よろよろです~」


 コデットの後ろから現れたのはなぜか頬を染めたモルガンと、かいがいしくその世話を焼くレフだ。

 ふくちゃんは相変わらずのマイペースで、のんびり手など振っている。


「みんなまで……つーかなんだってんだよ! オレらふたりはそんなんじゃねえっての!」

「まったくですよ! しかもよりによってこんなやつと!」


 アンバーはバドの腹を思い切り蹴飛ばすと、モルガンとレフのもとへ駆け寄った。


「というかレフ、大丈夫なの? こんなところまで来ちゃって……危ないからどこか他の場所へ行ったほうが……」

 胸元で手を組み、慈愛に満ちた顔をレフに向けるが……。


「う、うん……まったくだよね、危ないよね(アンバーが)」

 レフはうずくまるバドに心配そうな目を向けた。


「危ないのはどこだって一緒よ」

 モルガンは薄く微笑みながら、アンバーとレフの頭を均等に撫でた。

「だったらまだ目の届くところにいてくれたほうが、私は助かるわ」

「師匠……」

「師匠……」


 盛り上がる3人のところへ、バドがよろよろと歩み寄る。


「うぐぐ……なんてことしやがる。敵の前にアンバーに殺されちまうぜこりゃあ……」


 その呻きにみんなが笑い声を上げ、そして……


「──おーう、しびれを切らして向こうからやって来たようだぜ?」


 コデットの向けた目線の先には複数のアードバトンモドキがいる。

 名前付き(ネームド)のモンスター──悪役同盟ヴィランズ・ストライクの生き残りと合流した彼らの数は58体。

 どのモンスターも、一匹に対してバランスのとれた高レベルPTひとつを当てなければならぬほどの強敵揃いであり、つまりはそれぞれがちょっとした中ボスくらいの強さがあり……。


「さすがに苦戦は免れない、なんて思うなよ? ボウヤたち」

 

 コデットが何もない空間から光の剣を引き抜くと、他の魔法少女──魔法淑女ぐらいの年齢の者もいるが──たちもそれにならった。

 杖や剣や槍や槌──コデットの趣味で、犬や猫や鳥といった可愛らしい意匠が施されている──を携えた彼女たちは、一斉にマジックワードを唱え始めた。


「天に召しませ──」「月に変わって──」「愛の言葉は──」「魔法のプリンセス──」「ホーリーナイト──」


 マジックワードと共に、彼女らの体を覆っていた戦闘衣装が変形を始めた。

 露出度アップ、カラーリングチェンジ、リボンやフリルや宝石などによるさらなる装飾ドレスアップ。 

 さながら魔法少女アニメの最終決戦前のように、究極形態へと進化を遂げた。


「……バド、なんでこっち見てんのよ」

「別に」

「……レフもよ。ちらちら見るのやめてちょうだい」

「あ、いやその……ボクは別に……っ」


 アンバーががるると唸ると、ふたりはあさってのほうを見た。


「なんだよアンバー。早く進化しろよ。教えてやっただろ? アルティメットコスチューム・ビーストスタイル」

「コデット様は黙っててください! あれは……あんなの……! あんなの本当に……人前でする格好じゃ……!」


 顔を真っ赤にするアンバー。ニヤニヤ笑っているコデットとキリエ。スクショの準備に怠りないモルガンとハテナ顔のふくちゃん。バドとレフは興味ないふりをしながらもちらちらとアンバーのほうを窺っていて……。


「もうっ……、みんなのバカ……っ!」


 アンバーは、これから始まる恥辱の予感に身を震わせた。




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