「大集結!!」
~~~イチカ~~~
──イッチーちゃん。オレと、あの丘の上の教会で結婚式を上げようぜ?
──へっへっへー。イッチーちゃん。オレぁまだ無傷なのよ。武装も無事。盾役としちゃあジェイク卿にもイッチーちゃんにも勝てないかもしんないけど、時間を稼ぐぐらいなら……さ?
──好きだからさ。決まってんじゃん。
イッチーちゃん、イッチーちゃん、イッチーちゃん。
何度蹴飛ばしても、殴り倒しても、そいつは向かってきた。
世間様でいうところのイケメンのくせに、将来有望な学生で、他にいくらでも女をとっかえひっかえ出来るご身分のくせに、物好きにも自分に向かってきた。
公衆の面前で、告白までしてきた。
一度ならず二度までも。
リアルでも、ゲームの中でも。
どうしてそこまで頑張れるのか、聞いたことがある。
どうしてこんな自分のために、そこまで頑張れるのか。
答えは簡潔だった。
これ以上ないほど明確だった。
──愛してるからじゃん? やっぱ。
「そんなの……知るかよ……!」
あの時と同じように、イチカは世界喰らいに向かっていく。
「……お姉さん! そろそろやばいかも!」
あの時と同じように、世界喰らいの防御力を減らしていたブロミーが悲鳴じみた声を上げる。
「よし、タッチ交代だ!」
すっかり萎んだブロミーの体を、バスケのバックパスのように後ろへ放り投げる。
「ナイスキャッチ!」
そいつが、調子のいい声をあげる。
「頑張れ、イッチーちゃん!」
無邪気な声援をおくってくれる。
「……言われるまでもねえよ!」
ひとつだけ、あの時と違うのは──
「そこで大人しく見てろ! このオレが……!」
そいつが傍にいることがいやじゃなくなったことで──
「すべて! 決めてやるから……!」
「『天空翔破!』」
ライダーキックのような跳び蹴りで突っ込んだ。
ズドンッ。
イチカの足裏が世界喰らいに命中し、重い音をたてる。
着地すると同時に、すかさず連続攻撃。
左の順突き、右の逆突き、右の中段回し蹴り。腰の入った強烈なコンビネーションをヒットさせる。
ブロミーが防御力を下げてくれたことで、ヘイトは充分。
あの時と違って、タゲがふらつくことはない。
「オラオラオラ! ボディががら空きだぞ!」
──ググルァアアアッ!!
世界喰らいは猛り狂い、牙をイチカに突き立てようとした。
「当たるかバァーカ! 回避盾を舐めんなよ!」
上から降って来た牙を横に躱した。
躱しながら裏拳を当てた。
体ごと突進してくるのを、横っ飛びで躱して後ろをとった。
追い足を使って素早く距離を詰め、左右の連打を当てていく。
世界喰らいの体から、「シュウウウッ」と白煙のダメージエフェクトが上がった。
──ゴグルァアアアッ!!
振り向いた世界喰らいが、さらに仕掛けてくる。
右、上、左、たて続けの連続。
これにイチカは、すべて交叉を合わせた。
一撃くらえば被ダメージ増のカウンター技で、すべての攻撃を切って落とした。
──おおおー!
──いよっ! さっすが武神!
──我らのアイドルうううー!
味方から、やんやの声援が上がる。
帝国兵の生き残りが、側面からイチカを攻撃していく。
世界喰らいと歩調を合わせた挟撃。
「イッチーちゃん! 危ない!」
サーディンの支援も間にあわないような、絶妙なタイミングだったが──
「……はんっ」
イチカは鼻で笑った。
ゆるぅり……イチカの体が粘性をもった液体のようにうねった。
後ろ足を引いて回転する。それを連続で繰り返す。
避けきれない攻撃は前腕で受け流す、足で蹴り飛ばす、当たる瞬間ミートポイントをずらす。
世界喰らいと帝国兵の怒涛のラッシュを、流水の動きですべて避け切った。
「サーディィィィン!」
イチカは笑った。笑いながら大声を上げた。
「モタモタしてんじゃねえよ! オレを守るんだろうがよお!」
「悪い! イッチーちゃん!」
「はん、謝る前に体を動かしな! こいつら雑魚の相手は任せたからなあ!」
「OK! 任せろ!」
サーディンに後を託し、一歩踏み出しかけて──
「どうした!? イッチーちゃん!」
なかなか動こうとしないイチカに、サーディンが声をかけた。
「サーディン!」
「なんだい!? イッチーちゃん!」
「こいつが終わったらなあ!」
「うん!」
「わかんねえ! わかんねえけどさ! なんとなく、そう思った! とにかくこいつが終わったらだ!」
「ええー……!?」
その言葉のあとに何が続くのか、彼女自身にもわかっていなかった。
世界喰らいを倒したら? FLCが終わったら?
何が終わったらなのかすら、彼女にはわかっていなかった。
だけどそう言わなきゃいけない気がした。
無心で叫んでいた。
相手の突きに合わせるように、相手の蹴りに合わせるように。
彼女の体が、そう叫んだ。
「待てよ……!? これが終わったら……ってまさか、そのフラグみたいなセリフは……逆に言うなら、オレへの愛の告白ってことなのかい!?」
サーディンは自分の都合のいいように解釈したが、
「知らねえよ!」
こいつならそう答えるだろうなと思ってた通りの言葉が返ってきたことがおかしくて、イチカはただ笑った。
ふたりのやり取りに、味方がどっと沸いた。
上空高く飛んでいたチャコが、すかさずこの出来事を拾い、エリア内にアナウンスする。
「おおおーっとお! イチカ=サーディン、まさかのカップル成立です! なんやかやで絶対無理だろと思われていたふたりが、まさかまさかのゴォールイン! イチカ選手の鉄壁のガードがいままさに崩れましたああああああ!」
「うるせえ! 別に崩れてねえよ!」
イチカは心外というように叫び、
「そういう意味じゃないんですー!」
チャコが叫び返した。
笑いの波が、さらに拡散していく。
~~~ハチヤ~~~
「……ふん、なかなかやるじゃねえの。獣のお姉ちゃん。世界喰らいと本気でサシで渡り合えてるよ」
上空に浮かぶ千眼が、悔しさを押し殺したような声を出す。
「いやあー……あれには俺もびっくりだわ」
「えー、そうですかあ? ルルは気づいてましたよー? むしろ女子陣全員周知の事実でしたよー?」
きゃいきゃいとルル。
「え、ほんとに!? あそこのカップル成立するの、みんな気づいてたの?」
「あったりまえじゃないですかー。あるじ様が鈍感すぎるんですよー」
「ええー!? ほんとにー!? 嘘だよ! 絶対気づいてなかったって! 少なくとも男連中は全員! ほらあいつ! あいつだってきっとそうだぜ!? 千も目があるくせに、全然わかんなかったって顔してるもん! モテなそうだし!」
「ええー? それはひどいですよー、あるじ様ぁー」
「うるっせええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええー!」
俺たちのいちゃいちゃに業を煮やしたのか、千眼が狂ったような大声を張り上げた。
「ぎゃーぴーぎゃーぴー騒ぎやがって! てめえは鳥か! 鳥頭か! これが戦いの最中だってことを忘れんじゃねええぞおおおおおおおおおおおお!」
千眼はババッと手印を結ぶと、自分の真横の空間を指し示した。
紫色の巨大な魔法円が浮かび上がる。
世界喰らいと大差ないサイズのそこから──
ピッシャアアアアンッ!
雷光煌めくエフェクトと共に姿を現したのは、紫色の玉だった。
それは地面に落ちると直ちに身を成した。
王都路面のレンガ、その下の木枠、土砂、草や雑多な生物の死骸を呑みこみ、幾体かの帝国兵の体をもその身に取り込んでむくむくと盛り上がり、巨大なゴーレムの体を形成した。
「ゴルガリの魔塊だと……!?」
レヴンドール大森林でラクシルと共に相手した、レジェンド級のモンスター。
「あーっはっはっはあああああああ! どおーうだあ! びびったかあああ! あの時は無茶苦茶な方法で乗り切ったが今回はどうかなあ!? その程度の余剰戦力で乗り切れるもんかなあああ!?」
「余剰戦力とは言ってくれたもんだねえ! 行くよ! あんたたち!」
コデット率いる魔法少女隊が動き出した。
思い思いの武器を振り上げ、ゴルガリの魔塊に突撃していく。
アードバトンモドキと帝国兵の残党もここに戦力を集中し、大乱戦となった。
「もういっちょおおおおお!」
千眼が腕を振ると、さらにもうひとつ魔法円が現れた。
出て来たのは釜の漕ぎ手だ。
長い間妖精釜を守ってた巨人。肌は薄い緑色で、筋骨隆々の肉体を申し訳程度の布で覆っている。角など余計な突起物は生えていない。顔の造作も、目玉がひとつと口ひとつといういたってシンプルなもの。
だが強い、その圧倒的な防御力と攻撃力は、世界喰らいやゴルガリの魔塊に匹敵すると言われる。
あの時だって、直接戦いはしなかった。
俺たちは逃げ回ってただけだった。
「ボスキャララッシュってわけかよ……!」
さすがは烏塚恭二のプログラムだ、容赦がねえ。手心なんて加えやしねえ。
「これで終わりと思った? ざーんねん♪」
地面に無数の魔法陣が出現した。
先ほどまでのものと比べれば全然小さいが……。
「なんだ……? オデッサ、リマール……王都側のNPCばかりじゃ……」
俺はそれ以上台詞を続けられなくなった。
騎士、魔法使い、僧侶、妖精……。
魔法陣から出て来たのは、味方のはずのNPCたちだった。
ただし目からハイライトが消えていた。
あげく頭上に、ハートのマークのアイコンがあった。
「実はいいもの拾ってさー♪」
ご機嫌な口調で千眼。
肩に担いでるのは、紛れもないあれだ。
ローラナの名もなき教会での戦闘で失われた、ソブリンちゃんの武器……。
「ま、まさか、『愛情☆どくどくハンマー』!? 殴った者を強制的に魅了状態にする! 愛がどくどくなんだか血がどくどくなんだかわからないいわくつきの武器!?」
「あーっはっはっはあ! そおーうだよ! まさにそいつだあ! どおーうだあ!? この意味がわかるかあ!? オレ様ちゃんの攻撃には魅了の付加効果があるってこったあ! 汝のものはオレ様のもの! オレ様のものもオレ様のものお! あーっはっはっはああああ! さすがに驚いた!? めちゃめちゃ驚いてる!? いいねえいいねえ、最っ高にいい気分だねええええええー!」
「くそっ! あいつにあの武器を使わせるな! みんな! 魔法と飛び道具で一斉射撃だ! あいつの目を殺して攻撃をぶち当てろ!」
俺の指示に従って、みんな思い思いに遠隔攻撃の準備をするが……。
「嘘……!? なにあれ……!?」
「ダメ……あんなの殺せない!」
「バカおまえら……あんなのがなんだって……! っくううう!?」
みんなが動揺して攻撃を取りやめた。
あるいは顔を背け、あるいは口元を覆い、中には衝撃のあまり武器を取り落す者までいる。
「……あるじ様! あれ!」
「妖精の……幼生体だと……!?」
妖精の幼生体。
妖精釜で遭遇した、小さき生き物。
彼らは/彼女らは、妖精に成長する前の子供であり、手足の長さも羽根の有無も、髪や瞳の色も、それこそ性別すらも定まっていない素体たちだ。
人間でいうなら胎児みたいなものだ。
そいつらが、千眼の体を取り巻いている。
ケタケタと笑いながら飛び交い、結果的に千眼を遠隔攻撃から守っている。
「面白しれえよなあおまえらは!? こんなのが攻撃できないでいる!」
千眼は幼生体のひとりをつむんずと掴み、無造作に握りつぶした。
仲間が殺されたにも関わらず、幼生体たちはさきほど変わらず、きゃははと笑いながら飛び交っている。
「この程度の知能すらもないようなのの生き死にに思い悩み苦しんでよお!」
「やめろ! 千眼!」
「うるせえよ! オレ様ちゃんに指図するんじゃねえよ! こんなのはなあ! ただの記号なんだ! 感情も何もありゃしねえ! 人型の笑い袋みたいなもんなんだ!」
千眼はさらにもうひとりの幼生体を掴み、握りつぶそうとする──
その手に、一本の矢が突き立った。
「はああああああああっ!? なんだなんだ!? なんなんだこいつはあああああ!?」
千眼は幼生体を投げ捨てると、矢を引き抜いた。
「誰だ! いったい誰がこんなものを撃ちやがった! てめえらの大事な大事なお仲間ちゃんに当たったらどおーうすんだよおおお!? お優しいてめえらは飛び道具なんか撃てねえはずじゃなかったのかよおお! ってうあああああああ!?」
叫ぶ千眼のもう一方の手に、新たな矢が突き立った。
同じ矢羽根の、同じ弓から放たれた矢。
そいつの持ち主は──
「コルム!」
声の先にそいつはいた。
丸耳族の斥候。浅黒い肌をした長身の青年が立っていた。
「ちょっと遅れたかな、ハチヤ。いや? けっこういい局面かもな」
ニヒルに笑いながら、コルムは弓に矢をつがえた。
「ちょっとあなた、ずいぶん遠慮ない攻撃だったけど……」
コルムの脇に、長耳族の綺麗な女の子が立った。
「相手は幼生体なんですよ? 少しは遠慮呵責ってものがあっても……」
「だってただのモドキだろ?」
「もう、ちょっとあなたは無神経すぎるんですよ……」
ふたりとも、東門の向こうから現れた。
「レイミアも!?」
「あらっ」
俺の声に、レイミアは嬉しそうな声を出した。
唱える者の証の長杖をぶんぶか振りかざした。
「ハチヤ様! 妖精釜へはこれでもう、行く必要はございません! わたくしもう、いっぱい見ましたもの! だから今度は……!」
「勝利を見せてくださいな、だろ?」
コルムがレイミアの台詞をぶんどった。
「ちょ、ちょっとあなた! それわたくしの大事な……!」
「女の子なら戦わなくちゃ。愛も自由も、カーテンコールの立ち位置だって、戦って勝ちとらなきゃ。そう言ったのはレイミアだろ?」
中身は女の子なコルムがそう言うと、レイミアがぶんむくれ、周りがどっと沸いた。
周りが──東門から続々と現れた仲間たちが。
ラクシル、機械兵たち。
ソブリンちゃん、メイドのベルと猫耳族。
カイ、ヤスパール。
レヴンドール大森林のモンスターたち。
モルガンとレフ。
マダム・ラリー、エジムンドさん、館のアンデッドたち。
すべてのプレイヤーが、妖精が、NPCが、表の帝国兵を一掃し、王都内へ終結した。
「間に合ってくれたのか……みんな……!」
感極まっていると……。
集団の中から、誰かが飛び出た。
誰かと思ったらマヤだった。
バランタインと共に、チコに騎乗していた。
幽霊犬の騎士ってところか。いや全然強そうじゃないけども。
「騎士たる者はあああああああああああああ!」
マヤが出現し、声を張り上げた。
「いかなる弱者を相手にしてもおおおおおお!」
マヤの前に乗っているバランタインが、後を続けた。
『決して手を緩めぬものなりいいいいいいいいい!』
ふたり、声を揃えた。
ウォンウォンウォン、チコも一緒になって声を上げた。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
みんなが一斉に、鬨の声を上げて──
そして、最後の戦いの、火蓋が切って落とされた。




