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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
「サイゴノ戦イ」

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112/118

「妖精の卵」

 ~~~ハチヤ~~~




 FLC製作会社である@トリッパーが、大手ゲーム会社であるトライアルに買収された。ネットワークゲームの配信業務に積極的でないトライアルはFLCを延長せず、期日通りに配信終了することを決めた。


 手島てしまさんはクリスマスの夜、そのことを俺にだけ教えてくれた。

 一連の発表は2月末にされる予定であり、今日この瞬間に知っているプレイヤーは俺しかいない。

 コルムもアールも、そしてルルも知らない。

 

 なぜ俺だったのか、それは簡単な理由だ。

 俺がヒーローズユニオンのリーダーであり、有力NPCと「縁」があるからだ。

 戦局を左右できる位置にいるからだ。

 手を組むのにふさわしい相手だったからだ。


 終わりを知っているのに知らないふりをするのは、けっこうな苦痛だった。

 あるはずのないサービス延長。

 出来るはずのない次回作。

 諦めるなとみんなを激励するたびに、鼓舞するたびに、胸が痛んだ。


「あるじ様? 大丈夫ですか?」

 手の止まった俺に、心配そうにルルが話しかけてくる。

「けっこうヤバヤバな状況ですけど、眠いですか? だからあれほど、夜更かししないよーにって言ったのに。もう」


「……そうだな、うん、悪かった」

 

 素直な俺に、逆にルルは戸惑ったようだった。


「うえっ……、ホントにどうしちゃったんですか?」

 覗きこむような仕草の可愛いこと。


「大丈夫だって。一瞬寝落ちしそうになっただけ」

「全っ然大丈夫じゃないじゃないですかー!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐルルを見ながら、俺はそっと、胸に手を当てた。


 ──手島さんは烏塚恭二に直談判し、ひとつの約束を結んでくれた。


 それは、王都決戦で俺たちが千眼サウザンドに勝てば、AIを一部の好事家に売るという計画の範囲を、全プレイヤーにまで広げてくれるというものだった。


 NPCのAIを持ち運び出来る記憶媒体に移動して、パッケージングして、商品として発売する。

 その形状から、「妖精の卵」と呼ばれる新規のビジネスモデル。

 俺たちはその鏑矢かぶらやになる。


 もちろんそのためには烏塚恭二の数々の不正行為に目を瞑らねばならない。つきたくない嘘もつかなきゃならない。

 俺の中の正義感はボロボロだ。


 ああ……ホントさ。

 あの夜の手島さんの言葉は、ただの脅し文句じゃなかったんだ。


「あるじ様! あるじ様! こら! ちょっと、なにまたぼーっとしてるんですか!」

 ルルがぷんぷん怒りながら、俺の髪を引っ張っている。

「動けー! 動けー! こら、あるじ様! 寝落ちしてる場合じゃないですよー!」


「……うしっ、行くぞルル」

「え? あるじ様? 起きたんですか?」

「起きてるってーの、最初から」

「えー? うっそだぁー。だってあんなにつついても引っ張っても反応なかったのにー」

「気合いをこめてたんだよ。もう迷わないように。一歩も後ろへ下がらないように」

「はぁ……?」


 ルルは首を傾げた。思い切り傾けすぎて、その場で横に一回転した。

 羽根や腕をぱたぱたさせて、なんとか体勢を立て直した。

  



「よおーしみんな! 打ち合わせ通りだ!」

 俺の号令に従い、みんなが一斉に戦闘を解除した。

 ほぼ同時に、数本の花火が打ち上げられた。


「行っくよーみんなー! 着いて来てー!」

 とーこの操作する公式のガイド妖精フェアリーチャコが、皆を誘導するようにキラキラ光のエフェクトを放ちながら飛んでいく。

 東門から壁沿いに北方向へ。まっしぐらに飛んでいく。

 プレイヤーの約5分の1が、あとに続いた。

 自分の妖精あいかたたちをその場に残して。


「へ? え? あるじ様、これっていったい?」

 突然のみんなの行動に驚くルル。

「なんでみんなは行かないんですか?」

「わかんないか? おまえでも(・ ・ ・ ・ ・)?」

 俺の言葉に、ルルはきょとんとした表情になった。


 残された妖精たちは、ご主人様を放っておいて、何かを見つめている。

 大量の帝国兵と、アードバトンモドキ100体。 


「え、まさか……まさかですよね?」

「そのまさかだよ」


「え、えぇー……」

 ルルは自分の想像が当たったことに逆に引いている。

「まさかまさかの……『諸人もろびとこぞりて』ですか? この規模で? この敵相手にこの人数で?」


 いまさら言うまでもないことだが、ルルの迷惑スキルである諸人こぞりては、「近くに一定以上のレベルのモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態に入っていなければ、一定以上の確率でトレインを引き起こす」というものだ。

 この場面、「一定以上のレベル」という条件は達成してる。

「一定以上の確率」という条件も、これだけの人数がいれば達成するのが当たり前。


「そうさ。あらかじめ根回ししておいたんだ。もしこんな状況になったなら、俺の合図と同時に戦闘状態を解除すること。ランナー(・ ・ ・ ・)は帝国兵とアードバトンモドキを抜いて走る(・ ・ ・ ・ ・)こと。一斬一殺の化け物だらけの世紀の大トレイン。そりゃあ難しい操作ではあるんだけどさ」


『フィーッシュー!』

 ひとりの妖精がアードバトンモドキを引っかけた。それは連鎖的に拡がった。

『捕まったら即死だぞおおおおおー!』

 妖精と合流したプレイヤーたちが、ひと塊になって逃げて行く。

 主戦場から離れて行く。


「おまえらわかってんなー!? 言っとくが、補足されても戦闘すんなよ!? 魔法もなし! オンリーランニング!」

「巡回中の帝国兵は⁉」

「基本無視! どうしても避けられないなら、誰かが囮になって路地裏に連れ込んで、死ぬなり倒すなりすること! そのためにも、常に誰がターゲットになってるかの確認を怠らないこと!」

「OKOK! つうかそんなの今さらだろ!」

「だな! オレたちゃずっと、こんなこと(・ ・ ・ ・ ・)ばかりしてきたんだ!」

「そうそう、パーティでも常に問題児扱いされて!」

「狩り場によっちゃ置いてかれたりして!」

「あの時のソロプレイの寂しさ!」

「だからこそだろ! 今日こそ我らに栄光を!」

「あっははは! 一世一代のトレインじゃー!」

「オンリーラーンニング!」

 命がけのランニング。

 だけど誰の声にも、悲壮感はない。

 むしろこの状況を楽しんでるようにすら聞こえる。


「……おーおーおー、さっすが初期組。逃げ方にもなんだか貫録があるぜ」

 手庇てびさしながら逃亡者たちの後ろ姿を見送った。

「な? これでとりあえず、当面の危機はごっそり減っただろ?」

「はあまあ……でも結局、あとに残るのは……」

 ルルの視線の先には……。



 帝国兵20数名とアードバトンモドキ10名。

 さらに、大本命の千眼と世界喰らい(ワールドイーター)が残っていた。


「は……っ」

 千眼は鼻で笑った。

「なぁるほど、迷惑スキルを逆用するか。こいつぁ面白えことを考えやがったなあ。だけどよう、それでどうなる? あいつらを延々引っ張り続け、ここから引き離したところで、そこからどうする? オレ様とこいつのコンビを同時に相手出来るかい? 言っとくが、オレ様たちにあんな子供だましが聞くと思うなよ?」


 千眼が軽く手を振ると、世界喰らいが動き出した。

 小山ほどの大きさの毛むくじゃらの球体。

 目が無い。

 耳も鼻も手も足もついてない。

 無数の牙を持つ巨大な「口」のみがついている。

 そいつが、のそりのそりと俺たちのほうに向かって来る。


「ね、ね、あるじ様。それで、こっちのほうはどうするんですか? 何かいい作戦は……」

「当然あるさ。二段構え三段構えだ。多少、プレイヤースキルに拠る部分は大きいけどな」

「プレイヤースキル?」



「はっはっは! あーっはっはっは!」


 大きな笑い声が上がった。

 イチカだ。

 白豹タイプの獣人族の闘女バトルレディが、盛んに拳を打ち合わせながら世界喰らいに向かって歩いていく。


「いいねえいいねえ! こういうシチュエーションを待ってたぜ! おいおまえ、世界喰らいとか言ったよな?」


 張り切るイチカに、サーディンたち様々な援護魔法が飛んだ。

 攻撃力アップ、防御力アップ、素早さアップ、回避率アップ、魔法回避率アップ、炎属性付与……。

 魔法のエフェクトが折り重なる。

 彼女に戦う力を与える。


「対戦成績は0勝1敗! 文句なしでおまえの勝ちだ! だけど残念! オレは諦めが悪いほうでな!」


 嬉々として突っ込んでいくイチカ。



「なるほど……プレイヤースキル……」

「そゆこと」

 俺の頭の上で、ルルは感心とも呆れともとれるようなため息をついた。



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