表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
「サヨナラ協定」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/118

「王都突入!!」

 ~~~ハチヤ~~~




 王都への突入は滞りなく進んだ。

 ヒーローズユニオンはもともと精鋭揃いだし、コデット率いる魔法少女隊はそもそも枠外に強いし。

 アンバー、バド、ブロミーらの個別ユニットもそれぞれにレベルが上がっていて、戦力としては十分。

 帝国兵の哨戒なんて、遭遇した瞬間ぶっ潰せるだけの大戦力がある。


 その先頭に立っている。

 あまつさえリーダーを担っている。

 それは、一プレイヤーとしてスタート地点の周辺フィールドをくすぶっていた頃には味わえない感覚だった。

 俺もルルも、他のみんなも、あの時とは比較にならないほどに成長している。


「やー! 気持ちいい! 最っ高だなルル!」

「そうですねー! あるじ様! 気分はヒャッハーですね!」

「うおお、敵がゴミのようだー!」

「汚物は消毒だー、ですねー!」


 なんの憂いもないと思ってた。

 俺たちの行く先に、敵はないって。


「……ね、ねえちょっとハチヤ。水差すようで悪いんだけどさ……」

 最高潮に盛り上がってる俺の肩を、アールが叩いた。

「ちょっとスムーズにいきすぎてる気がするんだ。警戒を強めたほうがいいのかも……」

 

 不安がって盛んに周囲を見回すアール。

 つられてママさんもキョロキョロしてる。幽体の体が、キョロキョロするたびに空気中に霧散しそうになっている。


「みんな熱気に浮かされすぎてる、これはちょっと……」

 

 アールの深刻な表情に、俺も思わず足を止めた。


「ちょ……なんですかあるじ様ー!」

 俺の背中にぶつかったルルが、鼻をおさえて非難の声を上げた。

「そんな肉食系女子の言うことをいちいち真に受けちゃってー! あのですね、はっきり言っときますけど、これから先どんな罠が待ち受けてようと、この数と勢いなら一気に踏みつぶせちゃいますから! ナナリーの広場はもう目前だし、全然気にする必要なんてないんですよ!」


「ああ……うん……」

 ルルにうなずきを返しながらも、俺は立ち止まったままでいた。

「だけどそれってなんか、フラグっちゅーか……」


「……」

 ふと──目の前に透明な壁があるように感じた。

 その壁は、俺にこう告げていた。


 この先には行くなって。

 行けば破滅が待っているって。

 

 第六感的な、言い知れぬ違和感があった。

 

「なあみんな、ちょっと待ってくれないか?」


 呼びかけた時には、すでに周りにはほとんど人がいなくなっていた。

 俺とルル、アールとママさん。

 たったそれだけ。


「……ハチヤさん?」

「どうした兄ちゃん、臆病風に吹かれたか?」

 先頭からアンバーとバドが戻ってきた。


「や……なんとも説明できないんだけど……」


 俺がまごついてる間にも、一行の進軍は止まらない。

 やがてひと塊になって、ナナリーの広場に入った。

 瞬間──


 ドン、と。


 何か炸裂するような音が響いた。

 音のほうに目を向けると、ひとりのプレイヤーが地面に落下したところだった。

 軽装備の戦士だった。

 先行して門にとりつき、内側から閂を外そうとしていたのだ。

 この戦の一番手柄を狙っていた。


 だけど死んだ。

 一撃でHPを0にされた。  


「ふぉっふぉっふぉっ……」

 黒衣の老人が、閂に腰掛けて笑っていた。


 老人は、白木の杖に模した仕込み剣を携えていた。

 刃が血で濡れている。

 笑みの形に開かれた口腔が、血のような液体で真っ赤に濡れている。 


「……トン」


 誰かが言った。


「……アード……バトン」


 白木の杖に黒衣。

 まん丸い顔のお爺ちゃん妖精。

 常にニコニコ笑みを絶やさないFLCの公式マスコットキャラが、真っ黒な、地獄の深淵のような目を俺たちに向けていた。

 

「ひっ……」


 誰かが悲鳴を上げた。


「気持ち悪っ……」


 誰かが一歩、後退った。


 ドドドンッ。


 一度に3つの音が鳴った。


 家の上、壁の上、尖塔の上、高いところに登って斥候役を務めていたプレイヤーたちが、音と同じ数だけ落ちてきた。


 犯人はやはり小柄な老人。

 一撃必殺の剣技を誇るアードバトン……。


「──モドキでござる!」


 思い切り、ジェイク卿が叫んだ。


「本人ではござらん! モドキでござる!」


 絶対の防壁にして無敵の聖騎士パラディンが、衆を鼓舞するように声を発した。


「本人は囚われているのでござる! きっとどこかに幽閉されているのでござる! だから皆の者! これしきで動揺してはならないでござる! 拙者らは決して……」


「……ふぅん、そうかい」


 誰かが声を発した。

 見上げると、中肉中背の男が空高く浮いていた。

 黒いビロード地の長衣の腰を金鎖で緩く縛り、金糸の刺繍の入ったフード付きの外套を頭から被っている。

 男はフードを脱ぐと、醜悪な顔を晒した。小指ほどの小さな目玉が密集している。


千眼サウザンド……!」


 俺が呼びかける前に、千眼が何かを放り投げた。

 小さな風呂敷包みが放物線を描き、石畳に落ちた。

 

 ゴン、と鈍い音がした。

 人間よりはずっと軽いもの。

 丸い球形の何か。

 そいつが跳ねて転がった。

 ゴン、ゴツ、ゴ、ゴ、ゴ……。


 ジェイク卿の爪先に当たって止まった。


「なんでござるか……?」

 おそるおそるといった調子で、ジェイク卿はその風呂敷包みを拾って開いた。


「ひっ……!」

 悲鳴を上げたのはジェイク卿ではなかった。

 隣にいた女の子の僧侶だった。

「ひゃー!?」

「きゃー!?」

 悲鳴は女の子僧侶の妖精に伝染した。

 隣にいた全身金属鎧フルプレートの妖精トトコちゃんにも移った。

 ドミノ倒しのように立て続けに伝播した。


「アードバトンだ……!」

「本物……!?」

「マジで死んでたのかよ!?」

「ちょ……ま……っ!?」


 それはたしかに、アードバトンの首だった。

 いつ斬られたのかもわからないような、塩漬けされガチガチになった首。

 

「ちっ……だけどこれがなんだっていうんだ……!」

「そうだよ! 今さらじゃない!」

「あいつを倒すって結果が変わるわけじゃないんだ!」

「びびるな! 行くぞみんな!」


 みんなが勇を鼓し、千眼に立ち向かおうとする。

 といっても千眼は上空高くにいて、近接攻撃は届かない。

 弓矢や魔法などの遠距離攻撃部隊が、一斉に攻撃準備に入った。


「……あれ?」


 俺はおかしなことに気が付いた。

 みんなが一様に上空を見ている。

 憎き敵、千眼をにらみつけている。


 ──遠距離攻撃部隊を守るべき、盾役たちすらも。

 盾も構えず、周囲を警戒もせず、誰も彼もが上を見ている。


「みんな……!」


 アールが悲鳴のような声を上げた。


 同時に複数の音がした。

 矢をつがえる音。

 呪文をつぶやく音。

 誰かが走り寄る音。

 剣が鞘走る音。  

 切り裂く音。

 鎧が擦れる音。

 血の迸る音。


 悲鳴。


「地上だ! 来るぞ!」 

 

 警戒を促すアールの声は、あまりに遅すぎた。

 建物の陰から、窓から、植え込みの中から──様々なところに潜んでいたモドキたちが、駆け寄りざまに抜き打ちで斬り捨てた。

 狙いは盾役。

 無防備なところを、一刀のもとに斬り殺した。


「前衛が……崩れた……っ」 


 誰かのつぶやきに重ねるように、モドキたちが声を発した。


「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」


 100人近いモドキたちが、呪文でも詠唱するかのように台詞をつぶやいた。


 かてて加えて──


「おいおい、マジかよ……」


 俺は思わず目を剥いた。

 声が擦れた。


 ……ポウ。

 東門の少し手前の石畳の上に、蛍光紫の六芒星が出現した。

 モンスターがポップするゲートだ。

 その大きさは、出現するモンスターの強度によって変わる。


 今回のは超特大だ。

 ちょうどあの時と同じくらい。

 ローラナ山中で行われた結婚イベントの時と同程度の大きさがある。

 

 ……つまり……たぶん……出てくるのはあいつだ。


 この世の生まれた時から存在し、一切の感覚器官を持たず、飢えのみにて喰らい進む化け物。

 村をひと呑みにし、街を喰らい、国すらも齧りとるとされる化け物。

 巨体に似合わないスピードと圧倒的な攻撃力で、数多のプレイヤーを葬り去ってきた化け物。

 FLC最強にして最恐の化け物。

  

 その名は──


世界喰らい(ワールドイーター)……」


 誰かの絶望が、ナナリーの広場に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ