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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
「サヨナラ協定」

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103/118

「星月祭の惨劇」

 ~~~王都イリヤーズ~~~



 

 機軍総督きぐんそうとくギーラを打倒し、妖精側は俄然優勢となった。

 機械都市マドロアからの攻撃が途絶えた分、ロックラント帝国へ戦力を集中できるようになった。

 各方面各戦局が有利に進み、このままいけば妖精側の完全勝利も夢じゃない。

 誰もがそう思っていた。

 その日までは。


 ちょうど、星月夜祭の終了日だった。


 星月夜祭というのは空に輝く赤と白の2連星がもたらす豊穣と安寧を祝う祭りだ。

 キティハーサ全島で、きっちり1週間休みなしで行われるその祭りは、最終日の王都イリヤーズでの大花火大会をもって終わりとする。

 その夜のことだった。


 夜闇の中、無数の灯りが踊っていた。

 松明にランプに魔法の灯り。空に打ち上げられる連続花火。


 路地には屋台が立ち並び、肉や魚介が焼かれていた。

 あらゆるところにテーブルが出ていて、ぎっちり人で埋まってた。

 街路に広場、店舗に店先、すべての家の屋根の上や煙突のてっぺん。

 なんせ妖精の都だから、どこにでもテーブルは出せた。

 どこででも祝い、酒宴を張ることが出来た。

 みんなご機嫌に笑っていた、呑み喰らい、踊り歌っていた。

 夢のように美しい、平和そのものの光景――そこへ、奴ら(・ ・)は乗り込んできた。


 ひと際盛り上がっているナナリーの広場の喧騒の中へ、アードバトンが分け入って来た。

 アードバトン――長い髪の毛も髭も、すべてが白いおじいちゃん妖精。王にして、キティハーサのアイドル的存在。この世界における正義と平和の象徴。

 

「おおー、アードバトン様じゃねえか!!」

「アードバトン様ー!! こっちで呑もうよー!!」

「アードバトン!! アードバトン!!」

 妖精たちはもちろん、冒険者たちの中からも歓迎の声が上がる。

 盛んに口笛が吹き鳴らされ、ジョッキが掲げられた。


 アードバトンの格好がいつもと違った。

 黒い外套を着ている。ビロード地で、金糸の刺繍が入っている。腰のあたりを金鎖で緩く縛っている。背中の部分に開いた穴から羽根を出し、パタパタ羽ばたいている。


「おおー。アードバトン様いつもよりダンディじゃん?」

「洒落乙ー」

「後ろの……なんだ?」


 アードバトンの後ろには、同じく黒い外套を着こんだ連中がぞろぞろとついて来ていた。

 百人近くいるだろうか、アードバトンと同じくらいの背丈だ。同じように背中の穴から羽根を出している。

 違うのは、彼らの外套に刺繍は入っておらず、金鎖の部分が赤いということだ。

 まるで階級を表しているようだった。

 序列やまとまりある行動を嫌う妖精とは思えない、統一された服装だった。

  

「なんか……いつもと雰囲気違うね……」

「怖いっつーか……」

「喋んないし……」


 アードバトンは笑っていた。

 いつものようににこにこと、満面に笑みを浮かべていた。

 

「あれ……なんかこれ、ヤバくね?」

「笑ってるのに笑ってないっつーか……」

「目が……」


 ぴりぴりと、危険な雰囲気が広がっていく。

 みな押し黙り、肩を寄せ合い、ひっそりとこの異様な状況の推移を窺い始めた。


 パチパチ火の爆ぜる音と、単発の花火の音だけが辺りに響いた。


 アードバトンが白木の杖を取り出したのを合図にして、黒衣の男たちが散開した。

 各テーブルにひとりがついた。ホバリングしながら冒険者や妖精たちを見下ろした。

 出口である東門や、街路のきわには複数名がついた。

 まるで、ナナリーの広場を封鎖するような動きだった。


「え……なにこいつら……」

「怖いんだけど……」

「……なんかわたしたち、囲まれてない?」 


「っべー。ちょっと離席してたわー。んーで、なんの話だっけー?」

 ひとりのプレイヤーが離席から戻って来た。

 それまでのやり取りを知らない彼は、すぐにアードバトンを見つけて歓声を上げた。

「おおおー!? アードバトン様だ!! なにしてんの!? ねえねえ!?」

 タワーシールドを背負った重戦士へヴィファイターを操作し、アードバトンの元に向かう。

 大きな図体を揺らして、のっそのっそ。

 その間、誰も何も言えなかった。

 身動き一つ出来ずにいた。

「あっれー? どしたのアードバトン様? なんで喋んないの? いつもみたいのやってくれよ。『ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう』ってやつ」


 ――ひと際大きな花火が上がった。

 赤と白の大輪の花。

 それが同時に打ち上げられ、夜空を彩った。

 一瞬、みなの注意が空に向いた。


「ふぉっふぉっふぉっ……」

 アードバトンが口を開いた。

 口腔は、異様に赤く染まっていた。

 まるでどこかで血液を呑んででも来たかのように、よだれが赤い糸を引いた。

 はっとして、重戦士はアードバトンを振り向いた。

「よく来たの若いの。どれ、わしが……」

 白木の杖を腰だめに構えた。

 湾曲した持ち手を捻じった。

祝福・ ・をくれてやろう――」


 キィン。

 アードバトンの手元で何かが鳴った。


 重戦士の股間から頭頂へ向けて、まっすぐ一本の線が入った。

 剣線だ。

 アードバトンが斬りつけた。

 分厚いプレートメイルも背に負ったタワーシールドも、まるで役に立たなかった。

 重戦士は体をふたつに断ち割られ絶命した。


 仕込み杖だ。

 アードバトンの白木の杖の中に納められていた刃が、重戦士を一撃で葬ったのだ。

 

「――きゃー!!」

「うっそだろ……!?」

「ちょ、ま――」


 悲鳴が爆発的に広がっていく。

 アードバトンの凶行に誰もが驚き――そして気が付いた。

 自分たちの前にも同じ格好をした人物がいることに。


 バサリ、黒衣の者たちが同時にフードを跳ね上げた。

 みな、同じ顔をしていた。

 長い髪の毛に髭。すべてが白く、いつもにこにこ笑みを絶やさないおじいちゃん妖精。


 ――無数のアードバトンがそこにいた。


 彼らは同時につぶやく。


「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」

「ふぉっふぉっふぉっ。よく来たの若いの。どれ、わしが祝福をくれてやろう」


 同じ口調、同じ抑揚で、機械のように彼らはつぶやいた。

 つぶやきながら白木の杖の持ち手を捻じった。

 中に潜んでいた鋭い刃で、縦横に剣線を描いた。


 修羅場が始まった。


「……支援魔法くれ!! 援護!! 援護!!」

「とりあえず救援要請しなきゃ!!」

「どこも同じだって!! 王都中敵だらけだ!!」

「ダメだ!! 洒落にならん!! 逃げろ!!」

「攻撃力高すぎんよー!!」

「げ……っ、こいつ魔法まで使うんかよ!!」

「――しかも広域殲滅呪文だぞ!?」

「止めろ、止めろー!!」

「あっ、こら!! 勝手に逃げるな!!」


 酒を呑めばステータスが下がる。

 食べ過ぎればステータスが下がる。

 キャラの能力が落ちている瞬間を狙われた。

 花火に気をとられている瞬間を狙われた。

 王都は人でごった返していて、隊列も連携も整えづらい状況だった。


 呼応するように、ロックラント帝国の攻撃が始まった。

 東門のところにいた数名がかんぬきを開けた。

 どっと、帝国騎士たちが乗り込んで来た。


 内と外からの連携攻撃の前に、冒険者たちはたちどころに殲滅された。

 妖精のNPCたちもなすすべなかった。


 ――こうして王都は、敵の手に落ちた。





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