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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
「サヨナラ協定」

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100/118

「完全なるラクシル」

 ~~~ハチヤ~~~




 ギーラの周囲に、無数の機械兵が壁を作るように立ちはだかった。

 トーチカの銃眼から狙い撃ってくる狙撃兵のように、絶命銃パニッシャーを撃ち放って来る。

 壁の一体一体が武器を持っているため容易に近づくことも出来ず、非常にやりづらい。


「……ナギハラウ?」

 訊ねてくるラクシルに、俺は首を横に振った。

「えええー!? なんでですあるじ様!?」

 ルルが悲鳴じみた声を上げた。

「機械兵をなんとかしないとギーラまでたどり着けませんよ!?」

 たしかに、ラクシルの神秘の砲塔ミスティック・ガン・タレットなら一気に障害を排除することが出来るだろう。動かない敵に対し、遠距離からの強烈な一撃という選択は非常に正しい。

 だが問題はその後だ。

 ヒーローズユニオンの主力は現在メリダに足止めをくらっているので、ギーラを一気に倒すには打撃力が足りない。戦闘が長引けば長引くほどに絶命銃による被害が増えるのは目に見えているので、これはなんとしてでも避けたい。


「ごもっとも。だけどまだその時じゃねえ」

 俺はラクシルたちに待機を命じ、コルムには遠隔攻撃を指示し、ひとり壁に向かって突進した。

 名を穿つ者の剣を抜きざま、叫んだ。

「『剣よ!! 剣よ!! 我が声を聞け!! 我が敵の名を知れ!! は汝の敵なるぞ!! 地の果てまでも追い駆けて、討ち果たさねばならぬ者なるぞ!! 知らざるならば胸に刻め!! 憎き其の名は――ナンバー32!!』」  

 機械兵の一体の名を呼んだ。

 剣は即座に効力を発揮し、俺の体を宙に浮かばせた。強力な推進力で、ロケットのように発射した。

 ズドン。

 重い一撃がナンバー32の体を貫き四散させた。

 壁の一角に穴が開き、そこからギーラの顔が見えた。

 

 ギーラはにやりと笑い、銃口を俺に向けてきた。

 俺はターゲットをとられる前に、さっと壁の背に隠れた。

 機械兵の攻撃の届かないぎりぎりの範囲を見切り、周縁をぐるりと回るように移動を続けた。 

「……やっぱりか。この密集状態では壁自体が邪魔になり、高速で移動する目標への精密射撃はできない。遠距離ならまだしも、近距離ではターゲットすらとれない。貴重な絶命銃は無駄撃ち出来ない。あいつは撃ってこない」

 マントの裏に吊るした銃は、もう半分以上を使っている。使い切れば蹂躙されるのみ。それをやつは望まないだろう。


 推論を裏付けるために、続けて二度、同じ行為を繰り返した。

 そのたびに壁が縮まる。ギーラの行動範囲が狭まる。

「ちょこまかとよく逃げる……!!」

 苛立つギーラの声が聞こえてくるが、やはり撃ってはこない。


 ――注意は完全に俺に向いている。メリダへの援護が出来ない。


「ラクシル!! ヤスパール!! 狙いはメリダだ!! みんなを解放しろ!!」

 俺の指示に従い、ラクシルたちがメリダに突撃を開始する。

 メリダは盾を使用してヒーローズユニオンの面子をとどめることに集中していて、ふたりの攻撃を躱す余裕がない。 

 ラクシルの双斧ダブルアックスとヤスパールの槍斧ハルバードがメリダの背面を捉えた。

 凄まじい金属音が鳴る。火花が散る。衝撃で、メリダの背が反り返った。

「ア……ッ、アアアア……ッ」

 メリダの口から悲鳴が漏れた。 


 盾による拘束が解けた。 

 ――ヒーローズユニオンが活動を再開した。


「おのれ……狙いはそちらか!!」

 狙いを察したギーラは激昂したが、すでに遅い。

 モルガンが解放されれば再び指輪の力が使える。半レジだろうと動きさえ止まれば、一気に畳みこんで決着をつけることができる。

「機械兵どもよ、我が盾となれ……!!」

 ギーラはせめても視界を遮ろうと、さらに多くの機械兵を呼び寄せるが――。


「――どおおおおおおっせーい!!」

 

 およそ女の子らしくないかけ声をかけながら、アンバーが鳥頭の杖を振るった。

 完成前の機械兵の壁の一角が吹き飛んだ。


 ――視界が通った。


「『ギーラ』!!」

「『ギーラ』!!」


 俺の魔剣と、モルガンの指輪が同時に発動した。

 指輪の効力で動きの止まったギーラに、魔剣が突き刺さった。

 もちろん一撃では終わらない。沈まない。


 だけど――


「突っ込めー!!」

「ゴーゴーゴー!!」

「一番手柄じゃああああああ!!」


 雪崩れ込むヒーローズユニオンの面々の全力攻撃が、余った壁を打ち崩した。ついに単騎になったギーラの腕を、足を捉える。ギーラも必死で反撃してくるが、もはや絶命銃の一発や二発ではどうにもならない。


「こんな……こんなところで……滅ぶのか……!! こんなことで終わるのか……!!」

 ギーラのHPバーが急速に減っていく。

「ニンゲン……どもが……!!」

 主の危機を救おうとメリダが奮戦するが、ラクシルとヤスパールのふたりを振り切ることが出来ない。


「……マス……ター」

 メリダが弱々しい声を発する。

 ラクシルとヤスパールの猛攻の下から、ギーラを垣間見る。

「……」

 微かにわずかに、唇を動かした。

 連続する攻撃魔法の爆音の中、声は聞き取れない。


 メリダの体の内側から、まばゆい光が溢れた。

 爆発的な閃光が、その場のすべてを呑みこんだ。






 ~~~ギーラ~~~




「おのれ……おのれ……っ!!」

 満身創痍の体を引き摺るようにしながら、ギーラは階段を上っていた。

 階下から、追っ手の声が迫る。

 メリダの自爆で絶対絶命の窮地を脱しはしたものの、他に逃げ場があるわけではない。


 ――そもそも逃げられるように創られていない。


「こんなバカげた話があるか……!! 悪のままに振る舞い、滅ぼされるように創られて……そのまま死んでいくなどということが……!!」

 

 たどり着いたのは総督室だった。

 応接セットに書棚に銃架。執務机のひき出しには、二つ折りの写真立てが納められている。

 開くと、ホログラムが空間に投影された。掌サイズの女性の像が浮かび上がった。

 万年雪のように白い肌。流れるように見事な白金色の髪。宝石を磨いたように青い瞳。

 ホログラムの中で彼女は振り向く。はにかみながら愛の言葉を囁く。

 遥かな昔のお姫様だ。彼女はギーラの先代と恋に堕ちた。駆け落ちの直前に先代に裏切られ、身を投げた。


 だからこれは、裏切られる前の映像だ。

 彼女の瞳は先代を見ている。その唇は先代の名を呼ぶ。

 

「ぐうううう……っ!!」

 眼帯の下の左眼が激しくうずいた。


「――追い詰めたぞ!!」

 勢いよく扉を開き、冒険者たちが乗り込んで来た。

 ハチヤ、コルム、アール、モルガン、それぞれの妖精たち。

 バド、アンバー、ヤスパール、ラクシルの腕に抱かれたカイ人形。


「ひさしぶりだなあ、鉄火てっかの」

「貴様は……」

 鉄火の主、それが先代のふたつ名だ。一介の銃士ガンナーから成り上がり、マドロアの軍務の長にまで登り詰めた。

「いや、末の子か。姿かたちはそっくりだが別もんだ。てめえはただの操り人形。ま、アタシが言うこっちゃねえのかもしれねえが」

 シシシ、カイ人形は笑う。


「……どういうことだ? カイ」

 ハチヤが訊ねる。

「そのままさ。こいつの遥かな先代と、アタシは面識があった」

「それって……まさか……っ」

 口を押さえて驚きを露わにするルルに、カイ人形はうなずく。

「そのまさかさ。ラクシルと愛を誓っておきながら逃げた。最低の屑野郎の子孫なんだ。こいつは」


 ひくりと、ギーラの唇が引きつる。

「……まったくその通り。実にくだらない男ですよ。たかだか女ひとりの幻を、死ぬまで夢に見続けた」

「たかだか女ひとりだあ?」

 カイ人形がすごんでくる。

 ギーラは笑った。

「だってくだらんでしょう。たかだかひとりの女のために、何人殺したと思ってるんです? 百や千じゃ効かない数だ」

「……ラクシルのために殺したって言いてえのか?」

 カイ人形を抱くラクシルの腕に、わずかに力がこもる。

 その表情に変化はない。機械兵なのだから当然だ。内心何を思っているのか、それは誰にもわからない。自分勝手に想像し、押し付けることしかできない。 


「さぁて……」

 ギーラはマントの下に両手を差し入れた。二丁の絶命銃を握り、低くつぶやく。

「……そいつは決着がついてからにしましょうか」

 銃把を握る手が、微かに震える。

 決着はすでについているのだ。ここまで追い込まれた時点で、ギーラに戦う力は残されていない。この銃を抜けばその瞬間、撃つ間もなく血を吐き、崩れ落ちるように絶命する。そう設定・ ・づけられている。


「てめえ……」

 カイ人形が険しい顔をしている。

「……?」

 ラクシルが不思議そうに首を傾げている。


「……皮肉なものだ」

 ギーラは笑った。

 最後の瞬間のメリダの顔を思い出した。

 彼女は最後のミスリル機械兵だ。カイの出奔後、数十年を経たのちに創られた。

 

 左眼がうずく。


 彼女は先代の副官を務めた女性だ。優秀で従順だった。死後も側仕えにしようとしたのはなぜなのか。自爆までして血路を開いたのはなぜなのか。

 それはギーラにもわからない。


 左眼の義眼・ ・がうずく。


 ギーラの左眼には、先代の記憶が詰まっている。

 彼はギーラに囁く。命令する。

 計画の遂行を、完全なる魂の器の完成を。

 完全なる(・ ・ ・ ・ )ラクシル(・ ・ ・ ・)を、この手に。


「――待って!!」

 アンバーが立ちはだかった。

 皆がギーラに攻撃を加えようとするのを押しとどめた。


「アンバー!?」「なにやってんだおまえ!!」

 モルガンとバドが同時に叫ぶ。


「待って!! お願いだから待って!! わたしはこいつに聞かなきゃならないことがあるの!!」

 アンバーはギーラを庇うように手を拡げ、懸命に叫んだ。

「わたしは探さなきゃならないの!! わたしと同じようにさらわれて、助からなかった人たちのことを!! まだ助けられるかもしれない人たちのことを!! こいつなら知ってるはずなの!! こいつでなきゃ知らないはずなの!! 殺しちゃったら聞き出せない!! だから……お願い!!」

 突然の行動に他の冒険者は戸惑い、攻撃できずにいる。


 アンバーの背の小ささと肩の細さを眺めながら、ギーラは思い出していた。

(コデットの館を襲った時にいた娘か。ヤスパールとコデットを人質交換しようとしてきた。本物のニンゲンみたいなことを考える娘――)

 銃を押し付けて人質にするか、口八丁でたぶらして連れ出すか。

 上手くやれば、この場を脱出することぐらいは出来そうだ。

 自由になった後で撃ち殺せば、その後の差し支えも無い。

(この身が保てば……の話ですがね)

 皮肉に口元が歪む。

 どれほど策を巡らそうと、実行できるだけの余力はもう残されていない。


「……ひとついいことを教えてあげましょう」

 アンバーの背に声をかけた。

「肉体から分離した魂を他の器に移すことを目的として、研究は行われていたんです」

「魂を……移す?」

 アンバーが、おそるおそるといった口調で聞いてきた。

「機械兵みたいな不完全な技術じゃないですよ? もっと高度な、マドロアの技術の粋とも呼べるものです。『欠けなく抜き出した魂を全き肉体に移し、あたかも魂の持ち主が生き返ったが如くする』。そういったものです。だからさらわれた人間の行き先は、絶命銃の弾以外にもある。地下の研究室には、まだ無事なのもいるかもしれません」


 ――何をしている。ギーラ。

 ――この娘は突破口となる。

 ――誑かせ。おまえだけを案内するからと唆せ。

 ――早くしろ。悩んでいる暇はない。

 ――ギーラ。貴様の目的を忘れたか。 

 ――ギーラ。

 ――ギーラ。

 ――ギー……


 先代の命令を、ギーラは無視した。

 無視して、銃把を握り直した。

 抜きざま構えた。

 狙いは、左眼――。

「……まったく、戦時下だってのに呑気な話で――」

   




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