「レイミアは考える」
~~~~~エジムンド~~~~~
キティハーサの人口の大部分は妖精でございます。ですがそれは、他に人間がいないという意味ではございません。プレイヤーの皆様のような召喚されし客人や、私どものような古来人がおります。
古来人と一言で申しましたが、それぞれに事情はございます。単純な意味での原生住民。航海の途上で難波した者。ロックラント帝国から逃げ渡って来た者。それらが子を育み集を成したのを称して古来人と申します。
……さよう。私も魂を持っております。あの少年が連れていた妖精のように、「向こう側」を見遥かす目がございます。
……なぜ、と申されましたか。
残酷なことをお聞きなさいますな。しょせん神ならぬ身、皆目見当もつきません。
強いてあげるとするならば、固執ゆえ、であろうかと思われます。
いわく言いがたいほどの長きに渡り、私どもはこの館の中におりました。一年の大半を雪に閉ざされ、陽の目を見ることすらろくにない豪雪地帯の真っ只中、寒さと狂気を血肉として蓄え、時を過ごしてまいりました。
主のラリー様は話し相手を。
娘のレイミア様は自由と冒険を。
私は、おふたりの喜びを望んでおります。
それぞれの思いの強さ故に、私どもには魂が宿っているのはないでしょうか。
~~~~~レイミア~~~~~
「――それで、どんな方たちだったの? エジムンド」
秘密の控え室に戻って来たエジムンドを捕まえたのは、母のマダム・ラリーだ。外見や人数や印象など、冒険者一行の話をせがんでいる。
「リーダーは丸耳族の少年のようでした。ツンツン尖った髪型が印象的な……とても元気な方で……」
エジムンドがわざとらしい大きな声で一行の特徴を説明を始めたのは、レイミアが、興味ないふりをしながらも長い耳をぴくぴく動かして聞き耳を立てているのを知っているからだ。
ふんふん、なるほど……。レイミアはこっそりと頷く。
少年の姿を思い描き、勝手に想像の翼を広げる。
たくましき妄想の中で、レイミアは囚われの姫になっている。
家族を名乗る悪漢に屋敷の奥に囚われているところに、果敢な少年が現れる。少年は悪漢を打倒し、手を取り合ったふたりは、猛吹雪の中を新天地へ 向けて歩み出す……。
「……埒もない妄想ですけども」
何度となく描いた妄想。かなわぬ想い。
はあ……大きなため息をつく。
主上の定めた行動規則に縛られた彼女らに自由はない。ネタバレはもちろん、事実と反する会話も出来ない。どこまでいっても自分たちは、古い屋敷に住まう快楽殺人者の親娘とその執事に過ぎない。
「……」
そっと手を見る。長く細い指。様々な凶器を握り幾人もの命を摘み取ってきた手は、目に見えぬ血に汚れている。
理性でどうにかなるものではない。感情でも制御できない。本人が望まなくとも、プレイヤーとふたりきりになれば、殺しにかからざるを得ない。
それが宿命。
「……手に手をとり、新天地へ?」
レイミアは、ふっと自嘲気味な笑いを漏らす。
~~~~~イチカ~~~~~
オレの家は空手の道場を経営している。
親父は館長で、当然のようにオレの兄貴もその兄貴もその兄貴も空手をやってた。思い起こせば死んだお袋も、道場で型の演武をしていたような記憶がある。つまりオレん家はどこまで遡っても肉弾戦の家系で、ご多分に漏れずオレの青春は空手に捧げることとなった。
うちの学校に空手部はなかったから、放課後はまっすぐ家へ帰る日々が続いた。
時々他の部活の助っ人に駆り出されることがあって、そこで知り合ったやつらと遊ぶこともあったけど、そういうのはどこか上っ面をなぞるような関係で、心の底から楽しいと思えたことは一度もなかった。カラオケをしていてもショッピングをしていても、常にどこかしら白けている自分がいた。
そんな俺がゲームをするなんて、ちょっと考えられないことだった。ガキの頃ならいざ知らず、この歳になってゲームなんて。
夜遅くまで画面に向かってピコピコピコピコ。HMDまでかぶって世界からも切り離されて、親父や兄貴たちからは本気で病院へ行くよう勧められた。
でもやめなかった。
予感のようなものがあった。もっともっと楽しくなるような感触があった。
マヤみたいな勢いのいいバカがいて、涙みたいな意外な一面を見せるやつがいて、先生みたいなどうしようもないクズもいる。コルムとかいうのはいけ好かないが、まああいつとはいずれ決着をつけるとして……。
学校の連中みたいな変な群れ方をしていないし、それぞれがそれぞれに好き放題やってて、結果的にひとつの目的に繋がっているのがなんだか心地いいような、不思議な安心感がある。
地味だ地味だと思ってたハチコーも、なかなかに変なやつだった。決してクラスで目立つほうじゃなく、ゲームばかりやってて暗いやつなのだと思っていたら、意外や意外、はち切れんばかりにうるさいやつだった。予測のつかないガキっぽさがあるやつだった。
部屋にいてもつまらんので探索とやらについて行ってみると、なんのことはない家捜しのことだった。
ハチコーは3階のその他の部屋の、入れるところは全て入り、開けれるところは全て開け、そのひとつひとつに興奮したり落胆したりしていた。浮き沈みの理由がオレには全然わからないが、やつなりにはいろいろあるんだろう。
執事のおっさんの部屋は、たしかにおっさんのいう通りオレたちのと同じ間取りで、違いといえば衣装類を収めるタンスがあるくらいだった。
「……ブラックだなあ」とハチコーはつぶやいていたが、黒さでいうなら無断で家捜しするクズのほうがよっぽど黒いだろうと思う。
「おまえけっこうずけずけと家探しすんのな……」
するとなぜかハチコーは目に見えて凹んだ。
「ずけずけのプロにそう言われるのはひどく心外ですわ……」
「誰がプロか」
「人ん家の壺でキャッチボールしたりとか初対面の人をおっさん呼ばわりしたりとか?」
「いきなり留守に上がりこんで引き出し漁ったりはしねえぞ」
「そんなん常識だから。むしろ伝統だから様式美だから」
「初めて聞いたぞそんな常識」
ハチコーは半眼になり、
「ふっ、素人はこれだから……」
「こいつ……ぶっ飛ばしてえ……!!」
「さあて、これでだいたい3階は終わりかな~? わざとらしく風の音が聞こえるから、何かあってもいいんだけどな~?」
ハチコーはきょろきょろと辺りを見回し、壁に耳を当てたり床を叩いて音をたしかめたりしている。
「……おまえさ、さっきからやたら楽しそうだよな」
「はあ? 楽しいよ? あったり前じゃん!! 探索こそゲームの最大の見せ場だろ!! 謎の小部屋、開かない扉、見えるのに近寄れない宝箱!! 強力無比な番人や徘徊するモンスターをやり過ごしながらそれらを手にする快感!! すれすれの緊迫感!!」
ぐぐうっと拳をにぎりこんで、月にでも吠えんばかりの大興奮状態だ。
「お、おう……。楽しそうでよかったな」
「イチカだって小さい頃は冒険したろ?」
「オレは表で遊んでたし」
それ以外は道場にいたし。
「イチカが真っ黒に日焼けして路地裏駆け回ってた頃、俺はゲーム内で冒険してたの!!」
「寂しいやつだな……」
「寂しくねえし!! 今どきの子供だったらむしろ普通だし!!」
「わかった。わかったから、な?」
「おいやめろ!! その上からなだめる感じをやめろ!! 俺は可哀想なやつじゃない!!」
「これからはオレが遊んでやるから、な?」
「やめろー!! 肩をぽんぽんするのをやめろー!!」
「そうですよイチカさん」
横からルルが口を挟んでくる。
「なんだちっこいの」
「体格差別反対!! いやそうじゃなくてですね。あるじ様の場合はしょうがなかったんですよ。なんせマヤちゃんがずっと病院暮らしでしたから」
「……マヤが?」
「ええ、退屈な病院暮らし。室内での遊びなんてたかが知れてるでしょう? 看護婦さんのロッカールームで隠れんぼしたり、霊安室でままごとしたり、院長先生の部屋で高鬼したり」
「……それ大丈夫か?」
「アウトでした。いずれもこっぴどくおこられたそうです。罰として作文を書かせられました。いかにして怒られないように病院内で遊べるかを題材にしたら、ますます怒られました。だもんで、あるじ様は考えました。どうにかしてマヤちゃんを退屈させないよう寂しがらせないようにしようと。それが当FLCだったわけです」
当、のあたりで自慢げになるルル。
「こいつがアホの子だったことはわかった」
「そうなんですよねー。しかも本人にはあまり自覚がなくて、むしろちょっと頭がいいキャラだと思ってたという。ブレザー姿の名探偵を気取っていたという」
「そりゃあ最悪だな。死ねばいい」
「うるせえよおまえら!! そこまでは思い込んでねえよ!! あとイッチーのコメントは辛辣すぎだから!! もうちょっと抑えて!! セーブして!! 心痛で死んじゃう!!」
壁を叩いたハチコーが変な声を出した。
「――お? おおお?」
3階の西端の壁の一部におかしな部分があった。10センチ四方くらいか。そこだけ新しい木材で組まれていて、他とは一見して色が違った。押してみると滑らかな動作で引っ込み――
「隠し部屋だ」
ドン、と大きな音がして、からくり仕掛けの動く音が響いた。音の発生源は物置部屋で、さっき調べた時には何もなかったはずなのに、今見ると部屋の奥行きが広くなっていて、そこに螺旋階段が出現していた。
鉄製の螺旋階段を2階分くらい上った先には、鉄格子付きの小窓のついた部屋があった。
オレたちに口を噤むようハンドサインを送って、ハチコーはこっそりと小窓から中を覗いた。オレも脇から覗いてみる。
ベッドと小机と衣装箪笥がひとつずつあるだけの、簡素な造りの部屋だった。
「……なんだ、誰もいないのか……?」
ハチコーが試しに扉を押すと、あっさりと内側に開いていく。
「開いてる? あ……これ鍵が……!!」
一見かかっているように見える南京錠だが、掛け金にきちんと通っていないのでかかっていない。見せかけでぶら下げているだけだ。
「やっべえ……面白くなってきた。いいぞいいぞ、こいつは燃える……!!」
ぶつぶつと危ないことをつぶやきながら、ハチコーが部屋の中に入る。扉を押し開けて、足音を立てないように慎重に。
――と。
扉の陰で誰かが動いた。
「ハチコー!! 後ろだ!!」
「――おおおおおお!?」
素早く振り返ったハチコーが、すんでのところで振り下ろされた凶器を――木製のトレイの角を――真剣白刃取りで受け止める。
「――きゃぁあああ!?」
攻撃しているのに、悲鳴を上げているのはその女のほうだった。
えっと、長耳族の……ようは映画に出てくるエルフみたいな女だ。
マントみたいに長い金色の髪。溶けてなくなりそうなほどに白い肌。古びた屋敷の牢獄の、囚われの姫君ってところか。ちょっとお転婆な感じだけど。
「おおおおおおお姫様だぁああ!?」
「だだだっだだだ、誰なんですの!?」
「うおおなにこれ超可愛い!! 長耳族の囚われの姫とかストライクすぎてもうなんかやばい!! 手近にあるものを武器に使って果敢に脱出計るところとか、可憐で可愛くて最高すぎる!!」
「な……なんて鋭い眼光!! 野生の獣のような迫力!! 犯される!? 頑張らないとダメなのに、負けるわけにはいかないのに……もう腕の力がもたない!! ああっ、私はどうしたら……!?」
「落ち着けおまえら」
バシバシッとふたりの頭をはたいて事を納める。
ひとまず落ち着いて話をしようという流れになった。
「では皆様は……冒険者様……なんですか?」
ベッドの端にちょこんと座るお姫様(仮)。食事運搬用? のトレイを盾のように胸に抱えて、疑わしそうな目でこちらを見ている。
オレたちは入口のところに立っていて、喋るにはかなり距離がある。
……まあ怪しく見えるわな。冒険者だからといって、いきなり人ん家のこんなところに紛れ込む意味がわからねえもの。まさか家探ししてたとは言えないだろうし。
「そうなんです!! そして俺は、貴方を助けにきたんです!!」
ハチコーが跪き、お姫様(仮)の手をガシッと掴み、謎のアピールをする。
「……そんな話だったか?」
「……100%考えなしの、ただのナンパですねえ」
ルルは顔を手で覆ってため息をついている。
「たす……けに……?」
お姫様(仮)は、呆然とその言葉を繰り返す。
「そうなんです!! 貴方が囚われてるという話を聞きつけて、これはお救いせねばと馳せ参じたわけなんです!!」
「私を……救う……?」
お姫様(仮)は、電流に打たれたかのようにぶるりと震えた――と思うと、突如顔を両手で覆い、うつむいた。
「大丈夫ですか!? どこか具合が!?」
焦るハチコーが肩に触れると、お姫様(仮)は「あ……ぐうっ!!」と呻いた。
顔を真っ赤にし、焦点の合っていない危ない目で、ぶつぶつと何事かをつぶやいている。
「私を救う?」「果敢な冒険者様」「手を取り合って脱出」「無限のフィールドへ……」「……そして、エピローグ」
ずいぶん長いことそうしていて――やがて何かを得心したようにうなずくと、お姫様(仮)は改めてハチコーと目を合わせた。
「まあ……!!」
目尻いっぱいに涙をためて、ハチコーの手を取り、両手で包み込むようにしている。
「なんと善き日でしょう。まさか冒険者様に来ていただけるとは。こうして陽の光も差さぬ凍てつく監獄まで助けに来てくださるとは……。このレイミア、感激で胸がいっぱいです」
「レイミアさん!!」
「いや!! レイミアと呼んでくださいな!!」
「レイミア!! 俺のことはハチヤと呼んでください!!」
「ハチヤ様!!」
異様なテンションで盛り上がるふたりは置いといて、遠くドアの開く音と、螺旋階段を踏む音がしたのにオレは気づいた。
誰かが下から上って来た。まあ仕掛けの音も大きかったし、こんだけ騒げば気付くわな。
問題はどん詰まりなので隠れるスペースがないってことだ。……戦うか?
「戦いませんからね」
ルルがオレの気持ちを察したようにアイテムリストを示してくる。……なんでわかった?
促されるまま身隠しの秘薬を使った。姿を消して、上ってくる誰かをやり過ごすらしい。……戦った方が手っ取り早い気がするが。
「戦いませんからね」
わかったっての。勘のいいやつめ。
ハチコーは、ルルに引っ張られて部屋から出て、かけ金を元の状態に戻して姿を消した。足音を立てないようにとの配慮か、ドアからあまり離れてはいない。
姿が見えないのになぜそれがわかるかというと、カーソルを移動すればキャラネームをターゲットすること自体はできるからだ。逆に言うと、互いに画面内のカーソルの届く位置にさえいれば、はぐれるような事態だけは避けられるみたいだな。
気が付くと、画面にアールからのメッセージが届いていた。
――PTチャット――
アール:足音が通り過ぎた。そっちに行ったかもしれない。気をつけろ!!
気付かなかったな……まあいまさらだが。
~~~~~エジムンド~~~~~
仕掛けの作動に気づいて駆けつけた時、そこにはすでに誰もおらず、お嬢様は目を見開き興奮状態にあらせられました。
「え、エジムンド!? 何!? 何をしに来たの!?」
「お嬢さ……」
お嬢様は、「まさか……!!」と大仰な仕草で口を押え、
「とうとう私を始末しにきたのね!? お母様をそうしたように!!」
「え? あの、お嬢様……?」
「ああ……なんということ……!!」
くるくるばたんと勢いよくベッドに倒れ込み、シーツを掴み、顔を埋め、これ見よがしにすすり泣かれます。
「ごめんなさいお母様……私……何も出来なかった……」
……は?
「思えばこの男が屋敷にやって来た時から不穏なものを感じていたのに、お母様のいう通りにしていればよかった。街に行って救いを求めればよかった……!!」
この方はいったい何を……。
「でも……でもね、覚えていなさいエジムンド!! この体犯されようと、切り刻まれ豚の餌にされようと、魂までは穢せはしない!! 私は誇り高きラリー家の娘として、誇り高く散ってみせるわ!!」
……何か恐ろしい無茶ぶりをされている気配を感じ、私はがっくりと膝をつきたくなるような脱力感に苛まれました。
この体犯されようと? 切り刻んで豚の餌? いったいなんの冗談ですか。
……しかしまあ、問題ございません。そんなお嬢様のお世話をするのも、執事めの役目でございますから。
――修正せよ。
――修正せよ。
主上の声が、私の体の内からやって来ます。なるべくお客様に違和感の残らぬように事態を収めよと、強制力が働きます。
お嬢様は顔を上げ、こちらを見ていらっしゃいます。優美な耳を先端まで赤く染め、熱病に冒されたように目を潤ませ、はあはあと息を荒げ、なぜか口元を笑みの形に歪ませておられます。
前後のセリフから考えると、「決然と」といったたたずまいのおつもりなのでしょうが、いかんせん「病的」にしか見えません。
「お嬢様……ラリー様は……」
生きておいでです。プレイヤーの皆様に聞こえないような小声で注進すると、お嬢様はぐにゃりと口元を歪ませました。
「ふふ……そうでしたね……。忘れてましたわ。ではさっそくオーダーブックを確認しなくては……」
お嬢様はやはり小声でつぶやくと、空中からオーダーブックを取り出されました。
我々NPCにとっての命とすらいえる行動規則には、持ち場がどこであるとか、何を話すとか、どんな条件が揃えば戦闘するとか、主上から与えられた根本的な決まり事が明記されております。
たとえば私がこの館でプレイヤーの皆様をお待ちしているのも、オーダーブックに従ってのことでございます。
ブックということで本当に書物の形をしていますが、実際にはNPCとしての記憶ライブラリの片隅に、情報の集合として存在しています。
しかし……NPCである私どもが、記載事項を忘れるということは通常ありえないはずなのですが……。
お嬢様は確認作業を終えると、息を吸い込み、胸元で手を組まれました。
「エジムンド!? あなたどうしてこんな時間に!! ……さてはとうとう私を始末しにきたのね!?」
仕切り直しでございます。
「なにをおっしゃいます。ラリー家の忠実なる下僕の私がお嬢様を害するなどと滅相もない」
「忠実なる下僕が聞いて呆れるわ!! 人をこんなところに閉じ込めておいて!!」
「忠実ゆえにでございますよ。お嬢様が矛を収めて下されば、すぐにでもお出しいたします」
「この人でなし!! 人非人!! 冷血漢!!」
「なんとでも」
「ロリコン!! ペド野郎!! ケモナー!!」
「……そこまで書いておりましたかな?」
小声で訊ねると、お嬢様はにやりとお笑いになりました。意趣返しのおつもりでしょうか。たしかに本筋に影響さえ与えなければ、発言は自由でございますが。
「ああ、勇敢なる騎士様が現れて、私を冷たき監獄より連れ出して下さらないでしょうか!! むっつりエロジジイの魔の手より奪いさって下さらないでしょうか!!」
――面倒なことが始まったのに、私は気がつきました。
お嬢様が、何かとんでもないことをお考えになっておられる。
どこに目的があるのか、どんな実を結ぶのかはわかりませんが、どうあれ、それを断行しようとしておられる。
面倒な――とてもとても面倒な――。
しかしほんのりと嬉しく、微かに弾むような気持ちになるのは、なぜでございましょうか。私にはわかりかねますが……。




