第1話
2013年 4月20日 高校に入学してから少し経過した日、瀬川 魁人は、人生初の臨死体験を経験した。
そんな貴重な体験をした本人は現在、
ジリリリリリッ
「……んあ、もう朝か」
普通にベッドから起床していた。
名前はさっきも言った通り瀬川 魁人〈せがわ かいと〉、5月21日生まれの十六歳、ぴっちぴちの高校生だ。最近おこったことは臨死体験、まさかこの年で経験するとは思わんかったわ。
まぁそのことはひとまず置いておくとしよう。
とりあえず今日は日曜日、いつもなら学校はお休みなので起きる必要はないんだけど、今はそうも言ってられない、なぜならそろそろコイツが、目を覚ます頃だからだ。
魁人はちらりと自分の隣に目をやる。そこには明らかに不自然な盛り上がりができた掛け布団ができあがっていた。
じっと一分程待ってみると、もぞもぞと中から何かが出てきた。
「……みゅ……」
妙な声を漏らして出てきたのは、小学生くらいの女の子。
「おはよソフィア」
ソフィアと呼ばれた少女は、目を両手でぐりぐりと擦ってから、やがてこっちに顔を向けた。
「おはよう! ご主人様!」
……一応言っておくが、別に俺が言わせているわけではないからな?
彼女の名前はソフィア・ヴァレンタイン、ちょっとわけあって一緒に住んでいる女の子? だ。
銀髪の長髪に、紫がかった赤い瞳がとても美しい女の子、なのだが……彼女には徹底的他とは違う部分が存在していた。それは――
パタパタ
……やはりこの背中についてる二つの羽、いや、翼? だろうか、腰のあたりから生えている二つの漆黒の翼が、パタパタとうれしそうに揺れている。
もうおわかりいただけただろうか? そう、この子、ソフィアは人ではない。
吸血鬼なのだ
第一話 新生活、魔獣使いは大変そう……
「ご主人様、おなか空いた~」
ソフィアのお腹からきゅるる~という可愛らしい音が部屋に響いた。
「あ~、そうだな、じゃあ朝ごはん食べに行こうか」
「うん!」
眠い頭を数回叩いてから、うれしそうに布団から飛び出したソフィアに腕を引っ張られベッドから抜け出した。
「はやく! はやく!」
「ああ、わかったからそう焦るなって」
こっちはまだ起きて覚醒してないっていうのに、なんでこんなに元気なんだソフィアの奴、子供って切り替え早いのかな。
そういえば吸血鬼は朝に弱いってよく聞くけどあれは嘘なのかな?
「で? そこんとこどうなんだ?」
「みゅ? 何が?」
「ああ、えっと、吸血鬼って朝苦手?」
「なんで? たいようさんぽかぽかしててとっても気持ちいいよ?」
ソフィアは太陽のような笑顔でそう言った。
どうやらガセだったみたいだ、まぁ魔獣の中でもトップクラスの吸血鬼が、太陽の光に弱いなんて致命的な弱点あるわけないか。
まぁこいつがその吸血鬼っていうのも未だに信じられないんだけど
チラッと隣を見ると、楽しそうに階段を降りるソフィアの姿。マジ可愛いなぁ
そんな感じで魁人が顔を思わず緩ませていると、二人は一階のリビングへと到着した。
「おはよーー」
とリビングの扉を開けると、穏やかだった気持ちが一転した。
理由? そんなの簡単だ。
目の前では壮絶なバトル、いや兄妹喧嘩が勃発していたからだ。
朝っぱらから何やってんだあの二人
「ねぇねぇご主人様、あの二人なにしてるの?」
それを見たソフィアが興味心身に聞いてくる。
「ああ、遊んでるだけだよ」
「そうなの!? ならソフィアの遊んでい~い?」
「あ~うん、でもご飯食べらね。お腹ぺこぺこだろ?」
「うん! 分かった」
ソフィアは元気よく頷くと、トテトテと魁人から離れていつもの自分の席へと座った。
まったくあの二人、ソフィアに悪影響になるようなものみせやがって、後でよく言っとかないと。
そう考え、とりあえず魁人もソフィアの隣の席へと腰掛ける。
するとリビングからすぐに母さんがパンと牛乳を俺の目の前においてくれた。
「おはよう魁人」
「おはよう母さん」
「あ~~ソフィアもごはん! ごはん!」
「はいはい、ソフィアちゃんにもちゃんとあるわよ~」
そう言って母さんはうれしそうにリビングに消えると、すぐにお盆を持って戻って来た。
乗っているものはホットケーキにアップルジュース、それとデザートのプリンが乗っかっていた。
明らかにソフィアだけ特別扱いだ。でもまぁ仕方ないだろう。俺だって家族に飯作れって言われたら、確実にソフィアにだけ+αつけるし
「はいどうぞ、ソフィアちゃんだけ特別よ?」
置かれるやいなや、ソフィアは目を輝かせて俺の袖をひっぱってきた。
「わ~い! ほっとけーきだー! りんごジュースも! ほらほらご主人様! ソフィアだけ特別だよ!」
やばい、マジ天使だ。
「おお! よかったな~ソフィア、じゃあちゃんと母さんにお礼言おうな?」
「うん! ありがとうお母さん!」
「あう!!」
殺人的フェイスで言われ、母さんは鼻血を出してよろめいた。
こう見えても母さんは結婚する前は名のしれた魔獣使いで、現役時代は相当な腕だったとか、まぁ今の姿を見てるととてもそうには見えないが、
ちなみにうちは代々魔力の高い人間が生まれる家庭らしく、両親は元対魔獣執行員として名を轟かせる程の二人だ。ちなみに親父は現役でバリバリ働いており、母さんは俺が生まれた時にやめたらしい。
ついでにあっちで喧嘩しているのは隼人〈はやと〉兄さん、二つ上で、魔力教育の名門、白銀学園の生徒会長として有名、クールで男の俺から見てもかっこいい自慢の兄だった。
それから最後に妹の鈴鹿〈すずか〉、二つ下で中高一貫である白銀学園の中学での生徒会長、もちろんの如く優秀、魔力が高い影響で金髪になってしまったらしい、別にツンデレってわけでもない。むしろクールだった。
そして最後に俺、魁人だが、瀬川家始まって以来の無能力、否、無魔力者、いわばダメっ子だ。まぁ別にそれで両親から虐待などを受けているわけでもないから別に気にしてない、むしろ一般人として楽に生活できるのでどんとこいだ。
と、ようやく鼻血から復活した母さんがよろよろと立ちあがった。
「ああ本当に可愛すぎるわよソフィアちゃん……息子達より愛してるわ!」
「いや、それは親としてどうなんだ?」
まさかの会ってわずか三日で俺達息子の愛より、ソフィアへの愛が勝ってしまったらしい。まぁいいんだけど。
ちなみに父さんは今日も朝早くから仕事に行っている。
「それより母さん、あの二人はなんで朝から喧嘩なんてしてるの?」
「ああ~、そんなの少し聞き耳立てればわかるわよ」
言われて確かに、と思いつつ、魁人はパンをかじりながら意識を後ろへ向けた。
「もう! だから私がお兄ちゃんを起こしにいくっていってるでしょ!」
「ふん、それは認められないな、魁人を起こすのは兄であるこの俺だ。断じてお前などではない」
「それはこっちの台詞よ! 第一お兄ちゃんは私に起こされた方がうれしいに決まってるもん! このブラコン男!」
「そんな一人妄想はよそでやるんだなブラコン女が、健全たる俺の弟が、お前のようなやつに起こされて喜ぶものか!」
「少なくと 隼人お兄ちゃんよりは喜ばれるもん!」
なんとも馬鹿な喧嘩内容だった。
「何と言われても、俺が起こす!」
「あ、ずるい! 待て!」
二人はそのまま嵐のように階段を駆け上がって行った。
「本当、変ったわね~あの二人」
「そうだな……」
母さんは笑って言うけど、俺としては苦労が増えて疲れるだけだよ。
3日前の事件が巻き起こしたのは、ソフィアがうちに来たことだけではない。なぜか今までクールビューティーだった二人が、この無能で普通な高校生である俺に、意味不明に好意を見せてきたのだ。
いや、まぁよくあるブラコンってやつだけど、あそこまで行くと疲れるわ。
「ご主人様! ほっとけーきおいしいよ!」
「……ああ、そうだな」
口元をハチミツでべっとりにしながら美味しそうに食べるソフィアを見て思う。
子供ができた父親って、こんな気持ちなのかな~と。
「ひどいよ魁人お兄ちゃん……」
「魁人、お前いつからそんな子に……」
降りてくるなり、いきなり意味のわからんことをほざく二人に呆れながら、魁人はソフィアの口につい
ているハチミツをティッシュで拭う。
「わけのわからんこといっとらんで、さっさと飯食えよ。パン冷めるぞ」
「むぅ、魁人お兄ちゃんがツンデレだ……」
「右に同意」
「本当意味分からん」
ああ、今までの俺の中に築きあがれた二人のイメージが音を立てて崩れていくのを感じる。
そんな魁人の思いをよそに隼人と鈴鹿はソフィアを睨む。
「ソフィア・ヴァレンタイン、お前は既に勝っている気でいるのかもしれんが、俺は決してお前に魁人を譲る気はないぞ」
「そうよ、たとえあなたが魁人お兄ちゃんの魔獣になったからって、別に魁人お兄ちゃんがあなたの物になったわけじゃないんだからね」
「もきゅもきゅ? ご主人様は物じゃないよ? あむ」
ソフィアの無垢な笑顔と言葉にあてられてか、二人が胸のあたりを手で押さえる。
「そ、そんなのわかってるもん」
「ぐっ、まだだ、まだ」
そして負け犬のような台詞を吐きながら泣きながらパンをガッついていた。
「ごちそうさまでした!」
「はいお粗末さま」
「おいしかったよ! お母さん!」
「あらそう? うれしいわ~、そうだ! ソフィアちゃん、お昼何食べたい?」
「ああごめん母さん、今日はこの後出かけるから昼はいいや」
母さんには悪いけど今回は仕方ない、なんとも面倒くさいけど新しい学校に必要なものを買いにいかなきゃいかんのだ。
「なっ! 許さんぞ! 二人で出掛けるなんて!」
「そんな羨ましいイベント! やらせませんよ!」
「なんでお前らが反応すんだよ!!」
しかもパン飛ばしてるし、きたねぇ!
母さんはそんな魁人達をよそに、デザートのプリンを食べているソフィアにそっと聞く。
「じゃあ夕飯は何食べたい? ソフィアちゃん」
「ゆうはん? なんでもいいの?」
「そうよ~母さん何でも作っちゃうわよ~」
「じゃあねじゃあね、ソフィアおにくたべたい」
両手をいっぱいにひろげてソフィアはアピールする。いっぱい食べたいということだろうか。どちらにしろとても愛らしい。
「あらそう! じゃあ美味しいお肉焼いてあげるわね!」
「わ~い!」
母さんはうれしそうに笑うと、すぐに買い物の準備に取り掛かる。そんな母さんに隼人兄さんが思いだしたように声をかけた。
「あ、母さん、俺今日は魚が食べたいんだが」
「あっそ、じゃあ隼人は川で魚でも釣ってきなさい」
なんとも無上な一言だった。しかも考えた素振りすらない。どうやら兄さんへの愛はもう消えてしまったらしい。
と、そんな馬鹿なことをしてたら、もう9時を超えてしまったみたいだった。
「っと、あんまり遅くなるのもなんだし、そろそろ行くかソフィア」
「うん、わかったご主人様!」
プリンを食べ終わったソフィアの手を引いて、魁人は自室へと戻る。
「あ、待て魁人! 買い物なら俺も!」「わ、私も付いて」
「あなた達はダメよ、私の買い物の荷物持ちをやってもらうんだから」
立ち上がり後を追ってこようとした二人の前に、母さんが仁王立ちして道を塞ぐ。
「な! 母さん! それは横暴だ!」
「そうよ! それに荷物持ちなら隼人お兄ちゃんだけでも十分じゃないの!」
「ああもうごちゃごちゃ言ってないで早くしなさい、あんた達連れて行けば今度ソフィアちゃんと一緒に寝れるんだから!」
「な!? 本音を出したな母さん! いくら母さんの言うことでも今回ばかりは聞く耳持てん!」
「私も、今回ばかりは隼人お兄ちゃんと同じ意見だよ!」
「ほう、あんた達、私とやろうっていうのかい?」
まぁ下でそんな会話が聞こえたが、シカトシカト。どうせあの二人は付いてくるとか言い出しそうだったので、昨日のうちに母さんと交渉していたのだ。
あの二人は一応あれでも名門、魔白花学園の生徒会長だ。いくら兄妹といえど、あんな豹変した二人がついてきたら大騒ぎになるに決まってる。
っとはいってもただ問題はそれだけじゃないんだよなぁ。
魁人は着替えを済ませ、ソフィアを目にする。
そう、問題はソフィアなのだ。
ソフィアは一見小学生、よくて中学生くらいの見た目だが、問題はそこではない。
パタパタ
……そう、問題は羽だよ羽、翼! 吸血鬼の背中には皆目印のように翼がついていると知れ渡っているため、このまま外にいったら騒ぎになる可能性があるのだ。
このことを昨日母さんに聞いたら『コスプレで通るから平気よ』なんて言ってけど、信用できん。
とかいって何か方法があるわけでもないし、
「なぁソフィア、お前背中に生えてる羽ってしまえたりしないか?」
「はね?」
ソフィアはぴっと自分の羽を指さした。
「そうそうそれそれ、どう?」
「うう~~~~~~~~」
突然唸り声をあげたソフィアは体に力を入れるように踏ん張る、が、羽はプルプル震えるだけで、引っ込んだりすることはなかった。
「無理か……」
んじゃまぁ仕方ない、別に良い策があるわけでもないし、このままいくしかないか。
ちょうどその時、下から母さんの声が聞こえた。
「魁人――! もう出るから鍵閉めていくのよーー!」
「はいよーー!」
どうやら二人は犠牲になったみたいだ。
「うし、じゃあ俺達も出るか」
「うん!」
こうして俺達二人は外へと出かけていった。
注※デートじゃないよ?
いかがだったでしょうか? 正直ソフィアが可愛すぎて書きまくってます。ただ可愛く書けているかは不明です……というか作者の妄想です
一応長期連載物にしようかな~とは思ってます。ストーリーの大筋は昔から考えていたので、ただ細かいシーンを考えてないから、そこばかりは行き当たりばっかりです。なのでのちのち書き直すかもしれません。
あとこの作品も挿絵師募集しようかと思います。一応イメージ元の作者がいますが、ちょっとその人に頼むのは恐れ多いので^^;
当面の目標はお気に入り登録数100突破+挿絵師獲得!
追記、タイトルは急いでつけたので適当ですw 何かいいのあれば求む。