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君の隣に  作者: ミサ
第1章
8/35

その8

 冬休みが終わって初めての登校日。

「おはよう!」

 俺はいつものように教室へと入って行った。

「……?」

 普段なら先に来ているクラスメートから「おはよう」と返事が返ってくるのに、今日は誰も返事をせずにジッと俺の方を見ている。心なしか笑っているような。

 何だ?俺の顔に何かついてるとか…

「おい、大樹。あれ……」

 クラスでも中の良い林原が俺の後ろにある黒板を指差す。

 つられて振り向いた俺は、そこへ書かれていた内容に唖然とした。

 そこには黒板いっぱいに相合傘が書かれていて、その中に俺の名前と麻生の名前が書かれていた。

 一体何で?

「おはよう!」

 その時いつものように元気いっぱいに麻生が入ってきた。

 しかし教室の中の雰囲気がいつもと違う事に気づき、近くにいた俺の方を見る。

「何…どうしたの、みんな」

「よっ、ご両人!」

 クラスの中でもお調子者の橋本が大きな声で言うと、みんながどっと笑った。

 意味が判らない麻生は戸惑っている。

「…麻生、あれ」

 俺が指差す方向を見た彼女は絶句した。

「何よ、これ」

 そう言うと黒板を消しに行く。

「照れるなって、いいじゃん。クラス初のカップル?凸凹コンビでお似合いだぜ。2人で休みの時にプラネタリウム行ったんだろ?他のクラスの奴が見たってよ!」

 追い打ちをかけるように橋本が言う。

---ああ、見られてたんだ。だからか---

 橋本の言葉で俺は納得した。

 すると麻生は黒板を消していた手を止めると、橋本やクラスの皆の方を見て笑った。

「ああ丁度その日、偶然に朝倉君と会ったのよ。ねぇ、びっくりしたよね」

 そう言うと俺の方を見た。俺も話を合わす様に頷く。

「うん、まさかあんな所で会うとは思わなかった」

 俺達の話にみんなは『なーんだ』という感じで、その話はそれで終わった。

「そうだよねー、五月と朝倉君だなんて身長的にも釣り合わないって」

 女子が麻生に向かって笑いながら言っている。

 麻生の声は聞こえなかったが、俺は何故か女子のその言葉に微かに胸が痛んだ。

 それが何故かはその時の俺には判らなかった。



 その出来事の後から、何となく2人とも話をする機会が無くなっていた。

 麻生が家に来る回数も減り、お蔭で俺は母さんと妹に責められていた。

「大樹!あんた五月ちゃんと喧嘩でもしたの?この間母さんが電話すると、五月ちゃん『迷惑になるので…』って夕飯に来るの断ったのよ。あんた何言ったの!」

「…何も言ってないって」

 俺は問い詰めて来る母親から逃げるように、部屋に戻った。

 たぶん、あの事が原因だ。

 そうだよな、俺と噂になるって麻生からしたら嫌だろう。

 彼女は背が高く、ほっそりとしていてクラスでも人気がある。片や俺はチビだし太っていて取り柄なんて無いに等しい。

 考えたら何か辛くなってきた。今まで太っている事を気にした事なかったのに……



 そして3学期も終わりに近づいた頃。

 珍しく麻生が俺の家にやって来た。

「久々だね。こうして夕飯に呼ばれるの」

 麻生は嬉しそうに、母さんや妹と話をしていた。

 俺は話に加わる事もなく、食事をしながら3人を見ていた。

 夕飯の片付けを麻生は申し出て、母さんと2人台所へと立って行った。

 しばらくすると、2人は話をしながら居間に戻ってきた。

「ご馳走様でした。おばさんの料理美味しいから、つい沢山食べちゃいます」

「五月ちゃん、褒めるの上手ねーおばさん、調子に乗っちゃいそうよ」

「…麻生、母さん調子に乗せないでくれ。俺達が迷惑だ」

「何でよ?」

 母さんが拗ねたように俺を見る。

「エンゲル係数と俺達の体重が増える」

 俺達の会話を聞いて、ツボに入ったのか麻生が弾けたように笑い出した。

「あはは…仲がいいですね!」

「どこが!」

 俺達親子がハモったのが、更に彼女を笑わせる事になった。



「今日は、楽しかった。ありがとうね」

 途中まで送って行くと、麻生は別れ際そう言った。

「?何だ、いきなり」

「ん、ただ何となく言いたかっただけ」

 そう言うと手を振って帰って行った。



 ---翌日

 俺が教室へ入ろうと扉に手をかけた時、麻生の声が聞こえてきた。

「私、太った人は嫌いよ!」

 彼女のその言葉は俺の胸にグサッと刺さった。

「おい、朝倉!早く中に入れよ」

 その場から動けない俺の後ろから、クラスの奴が教室に入る為に扉を開けた。

 扉が開く音に中にいた、クラスメートが一斉にこちらを見た。

 麻生は俺を見ると、ショックを受けたように目を見開いた。そして、慌てて顔を反らして2度と俺の方を見ようとはしなかった。

 教室の中は恐ろしいくらい静かだった。

 俺は何事もなかった様に隣の奴に挨拶をすると、そのまま席についてその日1日をやり過ごした。



「朝倉君…」

 帰り道、麻生が俺を呼び止めた。

 見ると彼女は俯いていた。表情は判らない。

「何?」

 自分でも驚く位、冷たい声が聞こえた。

 そんな俺の返事に彼女の肩が震える。

「今朝はごめんなさい。クラスのみんなが昨日、私たちが一緒に歩いていたのを見たって、しつこくからかってきたからカッとしてしまってつい…」

 普段なら『気にしないでいいよ』と言うはずだが、その時の俺は何故か彼女を俺と同じ様に傷つけたいと思ってしまった。

「いいよ…別に、俺も『女で背が高い奴』は好きじゃないし」

「……ごめんね」

 彼女の声が震えているのに気づいた時には遅く、麻生は走って行ってしまった。

 そんな彼女の後ろ姿を見て、俺は激しく後悔した。



 終業式の日

 今日は謝ろうと俺は心に決め、学校へと向かった。

 終業式が終わり、みんながぞろぞろと教室へ戻って行く。

 麻生はクラスの女子と笑いながら歩いていた。

 声をかけるタイミングがつかめず、そのまま教室へ戻る。

 先生が戻って来た為、みんな各々席へと着く。

「えー今日で1学年は終わりだ。4月からは2年生になるんだから、後輩のお手本になる様な行動をとる事。春休みだからと浮かれんじゃないぞ……それから麻生、前に出て来い」

 そう言うと麻生を呼んだ。

 彼女は席を立つと教壇まで歩いて行き、先生の隣に並んだ。

「麻生は今日でこの学校を去る。お父さんの仕事の都合でS県へ引っ越すことになった。本人の希望で今日まで内緒にしていた」

 クラスみんなが騒ぎ出した。中には泣き出す女子もいる。

「みんな、内緒にしててごめんね。父と母が離婚したから、私は父と一緒に父の故郷へ引っ越す事になったの。離れるけど、みんなの事は忘れないから」

 そう言うと、クラスメート全員に向かって深くお辞儀をした。

 その後彼女の周りには人垣が出来て、みんながお別れの言葉を言っている。

 俺は思いがけない出来事に動揺し、何も話せないままその輪の中から離れて教室から出た。



 その日の夜

 麻生は俺の家にやって来た。

 母さんや妹に引っ越す事を伝える為だった。

「大樹!五月ちゃん来てるのよ、下りて来なさい」

 大きい声で呼ばれたが、俺は下りて行かなかった。

 遠くで母さんが『ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに、あの子ってば』と言っている声が聞こえる。麻生が『それじゃ』と言ったのが聞こえた。

 おそらく帰るのだろう。玄関が開く音が聞こえた。

 俺はとっさに窓際に行き、彼女の帰る後ろ姿を見た。何故か寂しそうに見えたのは気のせいだろう。

 それが俺と麻生の最後だった。

 そして俺の初恋が終わった瞬間でもあった。





 


 






 

 

  

 

中学編、終了です。

次回より本編へと戻ります。

お付き合いいただけたら光栄です。


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