その7
夏休みが終わり2学期に入っても、俺は水やりを欠かさなかった。
学校が始まれば当番制 でやるから必要無いのだが、日課になってしまっていて今更辞めるのもどうかなと続けていた。
麻生は生徒会に入っていて忙しい為、今までの様には来れなくなっていた。
「ごめんね、私から始めたことなのに…」
その日、いつもの様にホースで水を撒いていると、久しぶりに麻生がやって来た。
「別に、どうせ俺は帰宅部だから…気にしないでいいよ」
「朝倉君、部活は入らないの?」
今更の様に麻生が聞いてきた。
「俺?この通り太っているから運動はニガテだし、入りたい部がここにはないから」
「入りたい部って?」
麻生は興味津々といった顔で聞いてきた。
「…天文部」
俺の返事に彼女は目を丸くした。
「朝倉君って星観るの好きなの?」
意外そうな彼女の言葉に頷く。
「うん、天体望遠鏡も持ってるし、田舎のじいちゃん家に行く時は持っていって一晩中観察してる」
「そうなんだ。私は星空を観ても、星座とかがよく判らない。凄いよ!」
感心したように麻生が言う。
「…そういえば、今日はうちに夕飯食べに来るのか?」
俺は照れ隠しに話を逸らした。
「うん、迷惑でなければ。お願いしたいな」
「迷惑じゃないさ、むしろ母さんは大歓迎だと思うよ」
俺の母親と妹は、麻生が家に来ると大喜びだ。麻生の方がうちの子供じゃないかと思うほど仲が良い。
時々自分は仲間はずれの様な気がして居たたまれなくなる事もあるけど、3人が楽しそうなのを見ていると『いいか』と思う。
「じゃ、あとでお家に行くね」
「うん、あとでな」
麻生は生徒会の仕事に戻って行った。
そして冬休みのある日。
麻生が突然やって来た。
いつもは前日、もしくは何時間か前に連絡をしてからやって来るのが普通だった。こんな連絡なしでの来訪は麻生らしくなかった。
「こんにちは、大樹君いますか?」
階下から麻生の声が聞こえてきた。
「あら、五月ちゃん。大樹なら部屋にいるわよ…大樹、五月ちゃんが来てるわよ!」
母親のデカい声に嫌な顔をしながら、俺は階段を下りて行った。
「母さん声、デカい!……麻生、どうしたんだ?いきなり来るなんて珍しい」
「うん…朝倉君、今日ヒマ?もしよければ、ちょっと付き合ってほしい所があるんだけど」
「別にいいけど、ちょっと待ってて」
そして俺は出かける支度をする為に部屋へ戻った。
麻生はいつもより口数が少なかった。俺はそんな彼女の後からただついて行った。
「え?ここ?」
「うん、朝倉君から星の話を聞いてから、一度来たかったんだ」
そこは郊外にあるプラネタリウムだった。
二人並んで座るとしばらくして上映が始まった。
上映の間、無言で満天の星空を見ながら星座の説明を聞いていた。
「何かあったのか?」
上映が終わって外に出た時、俺は麻生に思い切って尋ねた。
「…ううん、何もないよ。綺麗だったね」
そう言うと、いつもの様に笑っていた。
この時2人で出かけた事が、休み明けの一大事になるとは思わなかった。