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君の隣に  作者: ミサ
第1章
3/35

その3

「おい、朝倉っ、メイはまだ来ないのか!」

「はい、今向かっていると連絡はありましたが…」

今日は【アンジェリア】の販促用パンフレットの撮影の為、郊外にある撮影スタジオでメイが来るのを待っていた。

 今回は唯香は使わず、メイだけで撮影をする予定だ。それなのに30分も遅刻している。

 カメラマンの兼島さんはファッション雑誌の写真を主に撮っている人で、被写体の長所を引き出す事を得意としている。

 今回も多忙な彼に吉澤主任が何度も頭を下げて、やっと仕事を受けてもらっていた。

 それなのにモデルが時間どおりに現場にこないとはどういう事だよ!

「兼島さん、申し訳ありません。もうすぐ到着すると思いますので…」

「おはようございます。遅れてしまい申し訳ありませんっ!」

 スタジオの扉が勢いよく開き、肩で荒い息をしているメイが現れた。額には汗が光っている。

「何してるんだ!みんな、君を待っているんだぞ」

 俺は、メイのそばに行くと大きな声で叱責した。

 彼女はまだ息が上がってるにも関わらず、兼島さんの前まで行くと深々と頭を下げた。

「お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません。今日、お世話になります《メイ》です。よろしくお願いします」

「……早く準備して。出来次第、撮影にはいるから。遅れた分詰めていくから、覚悟しなさい」

 兼島さんはメイにそう言うと、カメラの準備を始めた。

 メイは再度頭を下げると、俺達の所へ近づいてきた。

「遅れてすみません。今日はよろしくお願いします」

 吉澤さんは安心した様に息を吐くと、さっきまでの険しい顔は?っていうくらいの笑顔をメイに向ける。

「君がメイ君か!初めまして、この企画の責任者の吉澤です。今日は君にかかっているんだから、頼むよ。おい朝倉、彼女を控室へ案内しろ」

 俺は仏頂面でメイを控室へ連れて行く。その間2人とも無言だった。

「メイちゃん!心配したのよ」

 控室には雪村さんとメイク担当の石原さんが待機していた。

「さぁ、入って!朝倉君は出ててよ!」

 そう言って、俺はドアの外へと締め出された。



 撮影は悔しいことに大成功だった。

 最初はぎこちなかったが、時間が経過する毎に兼島さんも乗ってきてメイへいろいろ指示を出していた。

 彼女も兼島さんが何を望んでいるかが解るようで、指示以上のポーズや表情をカメラへ向ける。

 だから、撮影は予定時間を大幅に超えていた。

 撮影が終わって帰る時、兼島さんはかなりご機嫌になっていた。

「いやー君みたいなモデルは久々だよ。こんなに楽しい撮影は久しぶりだった。いい写真が撮れたと思うよ。また、君と仕事出来る事を楽しみにしているよ」

「ありがとうございます。私も楽しかったです」

 メイはにっこりとほほ笑むと、兼島さんをスタジオの外まで見送りに行った。

「メイちゃん、お疲れ様。送っていくわ。一緒に帰りましょう」

 スタジオに戻ってきたメイに雪村さんが笑顔で言う。

 そんな雪村さんへメイは申し訳なさそうな顔をした。

「あ、私、自転車で帰るので…大丈夫です」

 彼女の返事にそこにいたみんなが驚いた。

「自転車で来たの?ここまで」

「はい、あともう少しってところでタイヤがパンクしてしまって…それで遅れてしまいました。すみません」

「え?でも、パンクしてるのよね?帰り自転車使えないじゃない」

 雪村さんが考えるように言う。

「あ、だから自転車押しながら歩いて帰ろうかと…」

「だめっ!自転車は車に載せて行くから、一緒に帰りましょう」

 メイの腕に掴まりながら雪村さんは何故か俺達の方を見た。

「ねぇ吉澤君、朝倉君、自転車くらい車に載るわよね?」

 今日は会社のワゴンでスタジオに来たので、自転車くらい載せるのは訳ないが……

「あぁ、大丈夫だ。そのままメイちゃんの家までこいつに送らせるよ」

 吉澤主任がご機嫌に答える。

 その言葉に俺は仰天した。冗談じゃない。

「主任!会社に戻らないと…」

「いや、今日は時間も遅いし直帰でいいよ。それよりメイちゃん、ちゃんと送って行けよ。命令だ」

 恐る恐るメイの方を見ると、視線を外して俯いている。

「…自転車どこ?載せとくから、さっさと着替えてきたら?」

「……スタジオの入り口に置いてます」

 そう言って控室へと戻って行った。

 俺は自転車を載せる為に、入口へと向かった。


 彼女の家に着くまで2人とも無言だった。ラジオの音だけが車内に響く。

「それじゃ…ありがとうございました」

 彼女のマンションの前に車を止めると、後部から自転車を降ろす。彼女は自転車を受け取ると俯いてお礼を言った。

「今日は、お疲れ様でした。悔しいけど、君のとこの社長の言う通りだった。この前俺が言った言葉は撤回する。ごめん」

 俺の言葉を聞くと、彼女はビックリしたように俺を見た。

「ううん、私もこの前は随分失礼だったと思う。ごめんなさい。今日は、楽しかった。ありがとう」

 そう言うとメイは、俺に軽く頭を下げマンションへと入って行った。



 翌日---

 会社へ行くと主任に呼ばれた。

「朝倉、来い!」

 何事かと主任の所へ行くと、机の上に昨日撮影された写真が数枚載っていた。思わず手にとり1枚1枚見ていく。

 写真の中のメイは別人の様な顔で、こちらを見つめている。

「彼女と契約することに決まった。唯香と2人【アンジェリア】の顔になってもらう。メイの方はお前に任せる。俺は唯香で手一杯だからな。ほら、契約書持って【next】行ってこい!」

「はいっ!」

 俺は契約書を持って、再びメイの事務所へと向かった。

 


 






 

  



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