海はごみ捨て場じゃないんですけど!
思い付きでふりがなをふりまくったらめちゃくちゃ作業量が増えたので、今後はたぶんもうやらないです。
海はごみ捨て場じゃないんですけど!
昔々、ある海にたいそう美しく、たいそうかわいらしい海姫さまがおりました。
海姫さまがいるここは海底。今日も海姫さまが平和に暮らして――
「海はごみ捨て場じゃないんですけどぉ?!」
いられませんでした。
海藻と珊瑚で作った箒を片手に激怒です。
それもしかたありません。
だって、海姫さまの住処の周りは見渡す限り、陸地から流れてきたごみでいっぱいでしたから。
「なんなのよ、毎日毎日、わけのわからないごみが流れてくるなんて! きっと陸の生き物の仕業ね! 許せないわ!」
陸地のものが流れてくることは今までにもときおりありました。
海底にはないそれらを集め眺めては、いったいどんんあことに使うのかしら、と眷属達と楽しく話し合うこともありました。
けれど、こうも大量に、連日、しかも命の危険があるものが流れてくるのでは、さすがの海姫さまも血管がぶち切れそうでした。
ニンゲンが使っていたのであろう壊れた魔道具。
ニンゲンが加工したのであろう細長い金属や、薄っぺらい金属の欠片や、塊になった金属。
魚達や眷属達が捕まり易く絡まり網に糸。
一昨日は眷属が飲み込んで取れなくなってしまった曲がった金属――釣り針という悪しき道具だとのちに知って、海姫さまはニンゲンに恐怖しました――を悪戦苦闘しながら取ってやりました。
鑑賞に耐えうるきれいな硝子もありましたが、量が量です。集めるのにも飽きてしまうというものでした。
海姫さまはうんざりしていました。
来る日も来る日も掃除ばかりなのです、誰だって嫌になります。
そのうえ――
「姫さま~! 海姫さま~!」
「どうしたの、チョウチンアンコウのアンコ!」
「出ました~! また乱暴者が現れました~!」
「またなの?!」
「まだ死んでませ~ん! 死にそうにもないです~!」
「もおおおお!」
いったいどうやって移動させているのやら、ニンゲン達の間では陸地の魔物を深海に投棄するのが流行っているようで、見たことのない、どう見ても陸地の生き物が頻繁に姿を現すようになりました。
大抵は深海の水圧でぺしゃんこになって死んでしまいますが、極稀に水圧で死なずに、しかも溺死もせず、水中で呼吸をする術を持つ魔物が大暴れをすることがありました。
住処も餌場もぐちゃぐちゃにされて、仲間達も奪われてしまうのですから、海に住む生き物たちにはたまったものではありません。
襲われたみんなは、泣いて海姫さまに報せてくるのでした。
海姫さまは魚達や眷属達をいじめる者をけして許しません。
それに、万が一にでも海底火山が噴火してしまうようなことになれば、被害はとんでもないことになります。
得物の三叉槍を携さえた海姫さまは、すぐさま不届き者の首級を挙げるのでした。
ですが、海姫さまもただ黙って掃除ばかりをしているわけではありませんでした。
海底に流れついたごみの一覧を作って、近くのニンゲン達の国に突撃しました。
「私たちの住処を汚しているアナタ達ニンゲンに文句を言いに来たのだわ!
アナタ達ニンゲンのせいで私たちは多大な害を被っているのだわ!」
「えぇ……いきなりそんなことを言われましても……」
海姫さまのいきなりの来訪に国王達は驚きましたが、突きつけられたごみの一覧を見て、顔を見合わせました。
そして口々に謝罪を述べるのでした。
その心から反省したニンゲン達の様子に、海姫さまは少しばかり溜飲を下げました。
「ふふん。いい心掛けなのだわ。アナタ達の真摯な反省の態度に免じて今日のところは広い海原のような心で許してあげるのだわ」
海姫さまの寛大な心にニンゲン達は感謝を捧げました。
「ただし、次に変な物、海の眷属達や魚達の命に関わる物をわざと海に流したりしたら、津波でこの国を沈めます! 心することね!」
ニンゲン達は平伏して海姫さまの言うことを心に刻みました。
それからその国は、国を挙げて海洋ごみ問題に取り掛かりました。
その国で作った物、使う物にはそれぞれ印を付けて、管理をするようになりました。
魔物を相手にする冒険者達には海姫さまのいる海域への魔物の転送を禁止しました。
海へごみを流せば海姫さまに津波で沈められてしまうぞ、と言われて子どもたちは育ちました。
うっかり海へ落としてしまって、取れなかったものは必ず海姫さまに謝罪と報告をしました。
その甲斐あって、その国からのごみはほとんどなくなったそうです。
めでたし、めでたし。
――と、いけばよかったのですが、海姫さまは今日も海底をせっせと掃除していました。
流れてくるごみには近くの国の印はひとつもありません。
海姫さまが突撃した国とは別の国から流れてきたものばかりです。
実は、なんということでしょう。海流の関係で、近くの国とは別の国からもごみが流れてきていたのです。
「え~ん! 相変わらず掃除ばっかりなのだわ~! 次はどこの国に行けばいいのだわ~?!」
箒とちりとりを両手に、海姫さまが嘆きました。
眷属達も掃除をしながら重苦しくため息をつきました。ため息は細かな泡になって上へ上へと上っていきました。
「くう……、業腹ですが、ここはニンゲンに協力を仰ぐしかないのではありませんか……?」
「あんなにかっこいい去り方をしといて?!
かっこ悪いのだわ!」
海水にとけていく海姫さまの涙がきらきらと光っては消えていきます。
ゆらゆらと海がゆれて、また新たなごみがごろんごろんと海底に流れ着きました。
「海はごみ捨て場じゃないのだわ~!!」
海姫さまの嘆きは今日も止まらないのでした。
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