第8話 異世界ダンジョンのスケール、想像の十倍で大興奮
カナタはギルドの扉を押して外に出た。
──カラン。
ギルドの熱気から外へ出た瞬間、空気が一気にひんやりと感じられた。
そのひんやりした風が肌を撫でて、思わず深呼吸したくなる心地よさがあった。
(……よし。いよいよ“初依頼”だな……)
胸の奥でワクワクが爆発しそうになる。
冒険者証はまだ新品の金属光沢を放ち、手の中で軽く光を返した。
(ギルドで登録して、依頼を受けて……今日、ついに俺が“冒険者”デビュー……)
思わずニヤけそうになるのを抑えつつ、
カナタは街道の方へと歩き出した。
周囲には買い物袋を下げた人、冒険者っぽい装備をした若者、
荷馬車で物資を運ぶ人──活気のある街らしい風景が広がっている。
(さて……冒険者ギルドからサウス・アルデ・ダンジョンまでは徒歩20分って言ってたし、
軽い散歩みたいなもんだな……)
自然と歩幅が弾む。
そんな高揚感を胸に抱えながら、
カナタは街の外へと続く道を軽快に歩き始めた。
街道へ足を向けると、石畳の道は少しずつ人の流れが落ち着いていき、
建物の密度も徐々にまばらになっていく。
(……お、街の外側はゆったりとした時間が流れている……こういうの趣を感じるって言うんかな……?)
そのまま進んでいくと、視界の先に──
巨大な石造りの城壁がそびえ立っているのが見えた。
(……え、城壁!? こんなガチの城壁あるのか……
いや、異世界なら定番だけど……実際に見たら想像より立派なんだな……)
城壁の前には検問のようなゲートがあり、
人々が数人の兵士に身分証を提示していた。
「次の方、身分証をお願いします」
列に続いて進むと、カナタにも兵士が声をかけてきた。
「えっと……これでいいですか?」
カナタは冒険者証を取り出して差し出す。
兵士はカードを確認すると、軽く頷いた。
「冒険者ですね。通っていいですよ。
サウス・アルデ・ダンジョンに向かう方、多いですからね」
「ありがとうございます」
(……すげぇ……冒険者証ってこういうときにも使えるのかよ……
身分証明までバッチリとか、異世界版パスポートみたい感じか……)
城壁の外へ出ると、一気に空気が変わる。
遠くに見える山、その麓にぽつんと開いた洞窟のような影──
あれが目的のサウス・アルデ・ダンジョンだ。
(徒歩20分って聞いたけど……ほんとに街のすぐそばにあるんだな……)
道にはこれからダンジョンへ向かうらしい冒険者たちも歩いている。
剣士の二人組、ローブ姿の少年少女、商人風の人々までさまざまだ。
街から少し離れただけで自然が広がり始め、風の匂いも変わる。
(初依頼でダンジョン探索とか……完全にRPGの導入……
ドラク◯ネイティブの現代日本人なら興奮不可避だろ……)
スキップしたい衝動を抑えながら、
カナタは山の麓のダンジョン入口を目指して軽快に歩いた。
山の麓へ近づくにつれ、ダンジョンらしきものがはっきり見えるようになってきた。
(……お、あれが入口か? でっけぇ……)
遠目からでも分かる。
山肌にぽっかりと**“半円形にくり抜かれたような巨大な穴”**──
それがサウス・アルデ・ダンジョンの入口らしい。
近くまで歩くと、その大きさがさらに際立った。
入口は縦10メートル、横10メートル。
人が何十人並んでも通れそうなほど広い。
(……いや、これマイ◯ラの洞窟みたいだな……)
しかし、入口の前に立ってみると、どうにも言葉にしづらい“違和感”があった。
入口自体は縦横10メートルの半円形でとんでもなくデカいのに、
奥がやけに暗く、妙に奥行きがなさそうに見える。
(……なんだこれ……
別に入口が崩れてるわけでもないし……なんかおかしくないか……?)
とはいえ理由は分からない。
入口の近くでは新人らしいパーティが緊張した顔で準備しているし、
慣れた冒険者が普通に出入りしている。
(……普通に使われてるってことは、こういう……ものなのか?)
そのとき、入口の横に立てられた案内板が目に入った。
《サウス・アルデ・ダンジョン》
《内部構造は“特殊空間”。外観とは異なるため注意》
(……あー、そういうことか……
外から見えるのと中身は違うってパターン。
だから入口はデカいのに奥が薄く見えたのか……)
もやっとしていた違和感の正体に気づき、
カナタの胸に期待が一気に広がる。
思わず息をのみ、巨人が口を開けて待ち構えているような巨大な半円の入口──
その暗がりの奥をじっと見つめた。
(……いざ、初ダンジョン……)
カナタは洞窟の入口をくぐり、一歩、また一歩と暗い洞窟の中へ踏み込んだ。
入り口付近の明かりが背後に遠ざかり、洞窟独特の冷たい空気が肌を撫でる。
(……お、けっこう暗い……けど、これはこれで雰囲気があるな……)
足音が石の床にコツンと響き、
前方にはうっすらとした闇が広がっていた。
しかし──
数歩進んだその瞬間だった。
──ぱあっ。
目の前の空間が、突然“開けた”。
「……お?」
洞窟の通路はほんの数メートルしかなかったはずなのに、
暗闇を抜けた先には──
大空が広がっていた。
頭上には青空のように明るい“光源”が天井から降り注ぎ、
足元には風に揺れる草原。
遠くには丘、岩場、小川らしき光の筋まで見える。
(……うわ、これ……看板にあった“外観と中身が違う特殊空間”ってやつか……
実際に入るとこんな感じなんだ……このダンジョンを最初に発見した人すごいな……)
驚きと興奮が一気に胸に押し寄せる。
振り返ると、今くぐってきた入口だけがぽつんと存在し、
その向こうには外の世界の景色が“額縁みたいに”小さく見えていた。
(外から見たあんな小っさい入口から、なんでこんな“世界”が広がってんだよ……
これがファンタジーの異世界か……)
カナタは思わず笑みをこぼし、草原へ一歩足を踏み出した。
柔らかい草の感触が足裏に伝わる。
ほんのり風が吹いていて、草原の匂いまでする。
(……これ、現代の技術じゃまず無理だろ……
これが自然とできる世界なのか……そういう部分は現代を余裕で超えてんだよな……)
ダンジョン内部は、まさに“もうひとつの世界”だった。




