第6話 冒険者ギルドへ──チートスキルで掘り出し物の“マジックアイテム”ゲット
ウィンドウが示す矢印に従い、カナタは冒険者ギルドに向かって石畳の道を歩き出した。
(……いや、本当に案内までしてくれるの便利すぎだろ……
スマホのマップとかじゃなくて、“脳内連動ナビ”じゃん。
これには、イーロ◯・マスクもびっくり……)
そんな軽口を心の中で漏らしながらも、視線は自然と周囲へ吸い寄せられていた。
(……うわ、やっべぇ……異世界“ぽさ”感じるなこれ……)
建物はどれも石と木で組まれ、屋根は赤茶色の瓦。
壁には古いヨーロッパの街角を思わせる細工が施され、軒先には麻袋や道具を吊るした露天がずらりと並ぶ。
通りを行き交うのは、革鎧に剣を背負った冒険者風の男、
ローブを揺らしながら書物を抱えて歩く魔法使いの少女、
そして活気に満ちた行商人たち。
荷馬車の軋む音、魔法灯のかすかな光、鼻をくすぐるスパイスと焼き菓子の匂い──
五感全部が“異世界”を突きつけてくる。
「……すげぇ……マジでゲームとかアニメの世界を歩いてる感じだな……」
気づけば口元が勝手に緩んでいた。
右を見れば、槍を肩に担いだ男たちが笑いながら酒樽を運んでいる。
左を見れば、ローブ姿の少女が浮遊魔法で荷物を浮かせていたりする。
(すご……魔法使ってる……マジかよ。
あれ、俺もできるんだよな……。
……いや“できる”どころじゃなくて、俺の方が絶対強いだろ……)
自分のチートを思い出し、思わず頬が緩む。
街は賑やかで、どこを見ても新鮮だった。
細い路地からはパンの甘い香りが流れ、
広場の方からは人々の声と楽器の音が聞こえてくる。
(しかし……ギルドに向かうだけでも面白いなこの世界……)
カナタの胸の奥に、冒険への期待がじわじわと広がっていく。
歩いていると、どこか懐かしくて温かい“甘い香り”がふわりと漂ってきた。
(……あ、この匂い……前にも通りで感じた、あのパンの香りだ)
カナタは匂いに釣られるように足を止め、視線を向ける。
通りの角に、小さな木造のパン屋の露天が出ていた。
粗削りの木箱を積み上げただけの簡素な台。
その上には焼きたてらしい丸パンが山のように並んでいる。
湯気がうっすらと上がり、陽光を受けてふわりと白く揺れた。
(……露店から来る匂いって、なんでこんなに美味そうなんだ……)
露店の奥から、エプロン姿の青年がこちらに気づいて声をかけてきた。
「おっ、兄さん。焼きたてだよ。一つどう?」
「えっと……これ、一ついくらですか?」
「100Gだよ。今朝焼いたばっかで、たぶん今日いち美味いタイミングだよ」
(100Gか……まぁ普通の値段だよな。
ていうか、1000億G作った直後だと感覚おかしくなるな……)
カナタはポケットの中で、意識をそっと集中させた。
(……100Gって言ってたよな。
どんな貨幣かわからないけど、とりあえず“100G相当の貨幣”を生成──)
意識した瞬間、ポケットの中で金属が生まれるような、かすかな重みが指先に触れた。
(……できたか?)
取り出してみると、手のひらには灰色がかった金属貨幣が一枚。
次の瞬間──
ウィンドウがふわりと目の前にせり出した。
【ITEM DATA】
▷ 名称:スチール貨
▷ 価値:100G
▷ 材質:低純度鉄合金
▷ 備考:一般的に最も流通している小額貨幣
(へぇ……これが100Gの硬貨か……スチールっぽい感じなんだな……)
「じゃあこれ、ひとつください」
「まいど!」
スチール貨を渡すと、店主は笑顔で紙袋にパンを入れて手渡してくれた。
カナタは店の近くにあった縁石に腰を下ろし、さっそく紙袋を開く。
(見た目からして、ふわっふわ……)
手に持つと、ほんのり温かい。
指が沈むほど柔らかく、表面の焼き色が食欲をそそる。
「……いただきます」
ひと口かじった瞬間──
「……っ!? うっま……」
外側は薄くパリッとしていて、噛んだ中身は驚くほどふんわり。
ほのかに甘く、小麦の香りがふわっと広がる。
(やべぇ……普通に美味すぎる……
食堂で毎日食ってた100円パンとはレベルが違う……
なんだこのクオリティ……異世界パン、バカにできねぇ……)
夢中で2口、3口と食べ進め、あっという間に完食してしまった。
「……ふぅ……幸せ……」
紙袋を丁寧に折りたたんでインベントリにしまい、立ち上がる。
(異世界って……もっと荒んだ世界かと思ってたけど、
普通に食生活のレベル高いな……)
満足感と期待感を胸に、カナタは再び歩き始めた。
パンを食べ終え、気分よく歩き出して数分。
ふと視界の端で、金属のきらめきが揺れた。
(……おっ? アクセサリー屋か……?)
路地の端に、小さな布を敷いた露天があった。
その上には、指輪、ブレスレット、ネックレス……
色とりどりの装飾品が無造作に並んでいる。
近づくと、店主の男が気さくに声をかけてきた。
「いらっしゃい。見てくだけでもどうぞー。マジックアイテムのアクセサリー、色々ありますよ」
「マジックアイテム……!?」
その単語だけで、カナタの興味が一気に跳ね上がった。
(マジックアイテムのアクセサリーって……絶対RPGでいう“装備品”……
装備したらステータスが上がるやつだろ……)
並んでいるアクセサリーの中で、ふと目を引かれたのは
銀色の鎖に青い石が埋め込まれたブレスレット。
カナタは何気なく手に取った。
「これ、効果ってあるんですか?」
店主はニコニコしながら胸を張る。
「そりゃもう凄いですよ! 身につけるだけで“全属性の魔法が強化されますし、運気も上がって、悪運は全部弾きます! あと女性にもモテるかもしれないですよ!」
(……絶対デタラメだろ……)
カナタは心の中でため息をつきつつ、
何気ないふりで意識をアクセサリーに向ける。
──ふわぁん。
ウィンドウが展開された。
【ITEM DATA】
▷ 名称:粗悪な魔力ブレスレット
▷ 効果:ほぼなし
▷ 状態:欠損・魔力回路不良
▷ 市場価値:5G程度
▷ 備考:装飾品としては使える
(……5Gってお前。100Gのパンより価値低いじゃねぇか……
つーか“全属性強化”どころか、ただの壊れかけアクセサリーじゃん……)
念のため、他のアクセサリーもざっと見てみる。
店主の口上とは裏腹に、どれもこれも表示されるのは
【効果なし】
【回路不良】
【ぼったくり価格設定】
といった無惨な単語ばかり。
(……まぁ露天のアクセなんてこんなもんか……)
そう思ったそのとき。
露天の端に、他の品より少し埃をかぶったネックレスが見えた。
(ん? これ……ちょっと気になるな……)
何とはなしに手を伸ばし、ネックレスを持ち上げる。
その瞬間、ウィンドウが自動で展開された。
【ITEM DATA】
▷ 名称:紅玉の魔導ネックレス
▷ 効果:魔法攻撃力上昇〈中〉
▷ 状態:劣化・魔力回路不安定
▷ 市場価値:150,000G前後(修理後)
▷ 備考:中級魔導士に人気の実用品。適切な修復で本来の性能を発揮する。
(……っ! 本物じゃん……これ……)
カナタの胸が一気に跳ねた。
(他が全部ゴミだから逆に埋もれてたけど……
これ、修理したら普通に“当たりアイテム”だろ……)
店主は価値に気づいていないらしく、特に気に留めるそぶりもない。
(よし……これは逃せない)
カナタはネックレスを手にしたまま、何気なく店主に声をかけた。
「これ、ちょっと古そうですけど……いくらです?」
店主は無造作に肩をすくめる。
「そいつか? だいぶ古いし魔力も弱いと思うから……えーっと、600Gでいいよ」
(……こいつ、これがどれだけ価値あるか全然分かってねぇ……
ならもっと下までいけるな……)
カナタは笑みを浮かべつつ、
チートで「説得補正」を言葉に乗せた。
「うーん……傷もあるし、石も曇ってるし……300Gなら考えますけど」
店主は一瞬だけ迷ったが──
「……まぁいいか。持ってってくれ!」
(……バカが……)
心の中でガッツポーズしながら、カナタは貨幣を生成し、代金を支払った。
(こういう“掘り出し物探し”もチートがあればいいな……)
代金を支払い、紅色のネックレスを手の中で軽く揺らす。
石は曇り、鎖はところどころ黒ずみ、魔力回路も不安定──
ウィンドウが示していた通り、ぱっと見でも“壊れている”のが分かる。
(……まぁ、でもチートあるしな)
カナタは人気の少ない路地へ少し移動し、ネックレスを掌に乗せた。
(“修理”。本来の状態に戻れ──)
──ぱぁっ。
淡い光がネックレス全体を包み込み、ひび割れた魔力回路が脈動するように繋がっていく。
曇っていた紅玉は一瞬で透明感を取り戻し、濃い深紅の光を宿しはじめた。
錆びていた鎖も、まるで鍛え直されたかのように均一な光沢を帯びていく。
「……お、おお……!? マジかよ……」
掌からすべり落ちそうになるほど、あまりにも美しい変化だった。
そこにあるのは、
先ほどまでの“古びたガラクタ”とは似ても似つかない──
まるで宝石店のショーケースに並んでいそうな、深紅に輝く魔導ネックレス。
紅玉の中心では、修復された魔力が淡く脈を打ち、
そのたびに石の奥がきらりと光を返す。
(……すげぇ……これは普通に高級品だろ……
いや、中級魔導士に人気ってウィンドウに出てたけど……
人気どころか、これ……見た目だけでも相当いい物っぽいけど……)
思わずニヤけが漏れる。
(……修理だけでここまで変わるとか……
チート、やっぱ反則すぎるな……)
ネックレスはインベントリーへしまい、
カナタは胸を躍らせながらギルドのある通りへと歩き出した。
路地を抜け、通りをまっすぐ進んだ先──
視界の開けた場所に、それは突然現れた。
「……うわぁ……でっか……! これが、冒険者ギルド……」




