第13話 噂通りの美貌との初遭遇 ギリギリの救出劇で“月光の祈り”とついに接触する
部屋に差し込む朝の光は、すでに鋭さを失い、柔らかく落ち着いた温度になっていた。
壁の時計の針は──ちょうど「午前10時」を指している。
カナタは椅子に座り、軽く伸びをしながら背中を鳴らした。
「……よし、そろそろ行くか……」
昨日の夜、酒場で聞いた三人の名前が脳裏に蘇る。
黒髪の静──リヴィア。
金髪の華──エステル。
銀髪の清──セラフィナ。
(……女好きの冒険者どもが“全員一致で美人”って言うパーティ。
あいつらが揃って褒めるって、相当だぞ……普通じゃねぇ)
カナタは指先を軽く弾き、ウィンドウを展開した。
【SEARCH】
▷ 検索対象:『月光の祈り』
▷ 現在地:サウス・アルデ・ダンジョン
「……やっぱりダンジョンか……行動早いな、朝型か……」
表示を確認したカナタは、ウィンドウを閉じると同時にダンジョンに向かう準備を始める。
「……よし……準備完了……」
そのまま一拍置き──
「透明化」
身体がふわりと光に溶けるように消え、完全に姿が消失する。
「テレポート」
軽く指を弾いた瞬間、空気が揺らぎ──
カナタの身体は一瞬でダンジョン入口前に跳躍した。
午前10時のサウス・アルデ・ダンジョン前には、
朝の依頼帰りとこれから入る冒険者が入り混じり、賑わいを見せていた。
(……このあたりの時間帯、冒険者多いよな……まあ、透明になってるから問題ない……)
人波の間を静かにすり抜け、カナタは気配を消したままダンジョンの扉へ向かう。
──スタッ。
第一階層に足を踏み入れた瞬間、湿った冷気が肌を撫でる。
(……今日はまず偵察。評判通りかチェックしないとな……)
表情は落ち着いていても、内心では確かな高まりがあった。
(……月光の祈り……絶対に見つけてやる……)
カナタは軽く地面を蹴り、ふわりと浮かび上がる。
風魔法を纏い、静かに──しかし勢いよく、ダンジョンの奥へと進んでいった。
サウス・アルデ・ダンジョン第一階層。
視界いっぱいに草原が広がり、子供や新米冒険者の声と草を撫でる風音が混ざり合っていた。
(……さて……とりあえず探してみるか……)
カナタはふわりと浮かび、風魔法で草原の上を滑るように進んでいく。
ときおり速度を上げたり、進路を左右へ軽く切り替えたりしながら、
地形に沿って自由に風を踏むように移動した。
──パッ
気分次第でテレポートに切り替え、一瞬で別の場所へ跳ぶ。
(飛んで、跳んで、また飛んで……広すぎるだろここ……)
数十分でかなりの範囲を捜索したが、肝心の三人の姿はどこにもない。
(……これ、普通に探すのムリじゃね……)
カナタはため息をつきながら、再びウィンドウを展開した。
【SEARCH】
▷ 検索対象:『月光の祈り』
▷ 現在地:サウス・アルデ・ダンジョン/5階層
「……5階層かよ。そりゃ見つかんねぇわ……」
ウィンドウを閉じると同時に、指を軽く弾いた。
「テレポート」
──瞬間、視界が反転する。
次の瞬間には、サウス・アルデ・ダンジョン5階層の空中にいた。
(……5階層はこんな感じか……)
下を見下ろすと、草原自体は1階層とよく似ていたが──
冒険者の姿はまばらで、空気には静かな緊張が漂っていた。
(……この数の少なさなら……あの三人の姿も見つけやすいはずだ……)
カナタは空中で軽く姿勢を整え、周囲を見渡した。
透明化したまま、高度を落として、
“女性パーティ”ばかりを優先的にチェックしながら、探索を再開した。
5階層の草原を滑るように移動していると、視界の端で大きな影が動いた。
(……ん?)
遠くの丘の向こう。
草を薙ぎ払うような重い音が響き、何か巨大なものが暴れている。
カナタは速度を落とし、透明化を維持したまま、さらに高度を下げた。
(……あれは──)
丘の下で、三人の女性冒険者が巨大なオークと交戦していた。
身長は優に2.5mを超え、丸太のような腕、岩みたいな筋肉。
荒い呼吸のたびに地響きが起き、剛力の唸り声が草原に散る。
(女三人……あの雰囲気……来たな、“絶対これ”だろ……)
酒場で聞いた特徴が、頭の中で勝手に照合されていく。
黒髪の剣士──リヴィア。
金髪の魔術師──エステル。
銀髪のヒーラー──セラフィナ。
(……『月光の祈り』、だな……)
確信と同時に、無意識に近づいていた。
カナタは草原すれすれに浮かび、物音ひとつ立てずに後方へ回り込む。
(……うわ……これはレベル高ぇな……)
戦闘の迫力。
連携の速さ。
身のこなしの美しさ。
だが──それらすべてよりも先に、視線は“別のところ”に吸い寄せられていた。
(……いや、美人すぎるだろ三人とも……)
リヴィアは細くしなやかなラインが妙に目立ち、
エステルはローブ越しでも分かる女性らしい曲線が存在感を放ち、
セラフィナは白い肌がちらりと見えるだけで目が離せない。
(なるほど……街の連中が揃って名前を挙げるわけだ)
距離があるはずなのに、妙に存在感が強い。
柔らかな色気と輪郭の美しさが、目を離させてくれない。
色気に気を取られていた視線を戦いへ戻すと、どうにも様子がおかしい。
オークは攻撃を受けても怯まず、逆に勢いを増している。
魔力の乱れが起き、三人の呼吸も荒くなる。
(おいおいおい……押されてないか?)
リヴィアが一撃受け、バランスを崩す。
エステルが魔法を放つも、オークは力任せに突っ込んでくる。
セラフィナが急いで距離を取る。
(……大丈夫かこれ。普通に危ないぞ……)
カナタは迷った。
いま助けに入るべきか、まだ見ておくべきか。
しかし──
巨大な棍棒が、三人まとめて叩き潰す軌道で振り下ろされた。
(……いや、さすがにヤバいだろこれは……)
カナタは右手をオークに向ける。
手の形は銃──人差し指だけを前に伸ばす。
指先へ魔力を凝縮。
空気が震えるほど圧縮された魔力弾が形成される。
そして──
「──ばん」
軽くつぶやいた瞬間、指先から光が弾けた。
魔力弾は一直線に走り、巨大オークのこめかみを正確に貫通。
次の瞬間、オークの巨体は膝から崩れ落ち、地面を揺らして倒れ込んだ。
静寂。
草原に響くのは、オークが倒れたときの余韻だけ。
(……今日来てなかったら、結構やばかったよな。正解だったわ……)
カナタはそのまま静かに、次の行動に移ろうとする。
セラフィナは膝に手をつき、呼吸が乱れている。
リヴィアは剣の切っ先を地面につき、体勢を保つだけで精一杯。
エステルも魔力切れ寸前で、肩で息をしていた。
(……とりあえず回復か……)
カナタは三人の女パーティに手を向ける。
「ヒール」
三人の体が一瞬だけふわっと明るくなり、
光が消えたときには、もう全員が完全に回復していた。
(……こんなもんかな……)
カナタは静かに地上へと降りた。
柔らかい草を踏む音が一回。
三人が一斉にカナタの方へ視線を向けた。
そしてカナタは──
真正面から『月光の祈り』の三人を見た。
黒髪は夜のように艶やかで、肩から背へまっすぐ流れており、
細く引き締まった腰と、立ち姿のラインが驚くほど綺麗で、
静かに佇むだけで、凛とした色気が空気を締める。
金の長髪が光を弾き、動くたびにきらめき、
ローブ越しでも分かる柔らかな曲線が、否応なく目を引いて、
表情のひとつひとつが鮮やかで、華やかな色気を放っていた。
銀の髪は風に揺れるだけで清らかな光を帯び、
白い肌と長い脚が淡い光に溶け、その静かな佇まいが印象的で、
柔らかな笑みの気配だけで、上品な色気が漂っていた。
街の冒険者たちが“揃って名前を挙げる”理由が、一瞬で理解できた。
(……うお……ちょっと待て……めっちゃ美人だ……!)
空気ごと持っていかれるような美貌。
近くで見ると、遠目とは比べものにならないほど完成された顔立ち。
三人三様の魅力が、えげつないレベルで迫ってくる。
(……日本にいた頃、こんなレベルの女、見たことねぇぞ……)
心臓を鷲掴みにされたような衝撃。
戦いの緊張感が残る表情がまた、さらに魅力を増していた。
三人はまだ状況を把握しきれていない様子で、
黒髪の剣士がわずかに警戒しつつ口を開きかけ──
その瞬間、三人の視線が一斉にカナタへ向いた。
「……あなた、誰?」




