第12話 ハーレム計画始動。この世で一番の美女たちVS最強チート持ちの俺
──それから、一週間が経った。
夜。
サウス・アルデ・ダンジョン外周の丘は、昼とはまるで別世界のように静まり返っていた。
地平線の向こうで魔力の粒子が淡く揺れ、星空は冗談みたいに近い。
異世界の夜は、どこを切り取っても美しかった。
「……やっぱ、夜の空中散歩は最高だな……」
カナタは風魔法で体をふわりと浮かせ、夜空を滑るように移動した。
月の光を背にしてくるりと一回転。
魔力の流れが身体に優しく触れ、まるで空気そのものがカナタにじゃれてくるかのようだ。
浮遊、透明化、風の滑空。
チート能力を自由に使い、異世界の夜をひとりで満喫する。
(これが異世界ライフか……。魔力も空も星も、全部俺のものみたいで……最高じゃん……)
満足感は確かにある。
いや、本来なら“満足しかない”はずだった。
それでも──胸の奥に小さな穴のような感覚が残っている。
(……何か……何かが足りない……)
丘の岩に腰を下ろし、夜風を受けながらカナタはため息をついた。
自由、金、力。
この三つは完全に揃っている。
それも、この世界、いや神に匹敵するレベルで。
なのに心が満ちきらないのは、理由が一つしかなかった。
(……女だ……どう考えても “女” が足りない……)
ここ一週間、街では何度も絶世の美人を見かけた。
通りを歩いていた黒髪の一般女性は息をのむほど綺麗で、
露店で値札を書いていた金髪のお姉さんはモデルみたいで、
夕暮れに水汲みしていた薄銀色の髪の娘は幻想的だった──
とにかく美人率が異常に高い。
だというのに、カナタがやったことといえば──
(風魔法でスカートをめくっただけ……俺のチート、使い道それだけ……)
カナタは空中でズルッと崩れ落ちるように顔を覆った。
最強のチートを持ちながら、成果が“スカートめくり”。
(……いや弱すぎるだろ……俺のハーレム行動力……チートも泣いている気がする……)
本来の目的はもっと壮大だ。
“この世界で最高に可愛い子たちとハーレムを作る”。
それは魂に刻まれた、揺るぎない目標だ。
「……奴隷? いや違う。それもありかもだけど……」
本当に欲しいのは、
“誰もが羨む高嶺の花を、正面から落とす”
というロマンだった。
夜空を眺めながら、カナタは決意を固める。
(この街の最高の美女……知る必要がある……)
風が吹き、森の木々がざわりと揺れた。
その音を合図にするように、カナタは立ち上がる。
「……そうと決まれば、情報収集だ。こういうときは酒場に行こう」
そう呟いた瞬間、風魔法が足元に流れ、カナタの体は軽く宙へと跳ね上がった。
丘の上から街へ向かって滑るように飛びながら、彼は小さく笑った。
* * *
《アーデン酒場》。
木製の看板に描かれたジョッキのイラストが、夜の灯りでぼんやりと浮かび上がっている。
カナタが扉に手をかけると、
──ガヤガヤッ!
中から勢いのある笑い声と酒の匂いが一気に吹き出してきた。
(……おお……これが異世界の酒場か……)
扉を押し開ける。
──カラン。
店内は思っていた以上に活気に満ちていた。
木のテーブルにはジョッキが山のように積まれ、
胸元の開いた女将が料理を運び、
どこもかしこも酒と話と喧騒で溢れている。
冒険帰りらしき男たちが肩を組んで歌い、
商人風の男性は仲間と取引話で盛り上がり、
若い冒険者グループは今日の戦利品を自慢し合っていた。
(ここだ……ここしかねぇ……美女情報を持ってる奴の匂いがプンプンするぜ!)
カナタの視線は、店の奥で盛り上がっている四人組の男冒険者に向かう。
年齢は二十代後半から三十代前半といったところ。
壁に剣を立てかけ、酒を片手に笑いながら騒いでいる。
(あの見た目とノリ……明らかに経験豊富なタイプだな……
年齢も雰囲気も“女の情報持ってます”って感じ全開……
話を聞くなら、あのテーブルしかない……)
カナタは深呼吸して、彼らのテーブルへと歩み寄った。
「ちょっといいか?」
声をかけると、四人全員がこちらを見た。
最初に反応したのは、髭の濃い男だ。
「ん? 兄ちゃん、どうした?」
「悪いんだけど、少し聞きたいことがあるんだ。
その代わり……ここの会計、全部俺が持つからさ」
その瞬間、テーブルの空気が変わる。
「……ほう? 会計持つってマジか?」
「兄ちゃん、金持ちか? いや、歓迎するぜ!」
「聞きたいことってなんだ? 女の話か? 冒険の話か?」
酒の勢いもあって、四人は一気に上機嫌になった。
カナタも椅子を引き寄せて、彼らの隣に腰を下ろす。
(……いい感じの雰囲気……
異世界での情報集めといえば酒場が鉄板……これは期待できるな)
目当ての情報──
“この街で一番の美女”。
カナタは真っ直ぐに男たちを見据え、口を開いた。
「教えてほしいのは一つだけ。
……この街で一番の“美女”って誰だ?」
四人が一斉に、
「おおーっ! 出たな!!」
と爆笑し、ジョッキを打ち鳴らした。
カナタの問いに、四人の冒険者は一瞬だけ顔を見合わせ──
すぐに全員がニヤリとした笑みを浮かべた。
「“美女”だぁ? 兄ちゃん、なかなか良い質問するじゃねぇか!」
「よし、面白ぇ! 一人ずつ言ってみるか!」
ジョッキを掲げて盛り上がる四人。
すでに酒が入っていることもあり、話は思いのほかスムーズだった。
「まず俺からだが……この街で一番綺麗なのは“パン屋の奥さん”だな!
あれは反則だ! 笑顔でパン渡されたら全員落ちるわ!」
「いやいや、違うだろ。“赤い月”のミラ嬢だよ。
あの店の看板娘は毎晩指名で席が埋まるレベルなんだぞ?」
「お前ら全然分かってねぇな……。
この街一番の商家“ファルマ商会”の令嬢を忘れてるだろ。
顔も家柄もトップクラスだ。あれはマジで高嶺の花だぞ」
三者三様の意見が飛び交い、カナタは内心で“異世界美女争いの激しさ”に驚いていた。
(一般人でその美貌って……この街、完全に美人の巣窟かよ……選びたい放題だな……)
そんなカナタの心中とは裏腹に、三人目が話を終えた瞬間──
四人の中で一番落ち着いた雰囲気の男が、静かにジョッキをテーブルへ置いた。
「……で、だ」
声が低く、少しだけ空気が変わる。
「本当の“この街で一番の美女”は、その三人じゃねぇ」
「お? じゃあ誰なんだよ?」
他の三人が身を乗り出す。
落ち着いた男は、言葉を区切ってはっきり告げた。
「『月光の祈り』の三人だ」
『月光の祈り』と聞いた瞬間、三人は「おおーっ!!」と一斉に身を乗り出した。
「……ああ! それは間違いねぇわ!!」
「確かに! あの三人に勝てる女なんて、この街、いやこの世の中にいねぇ!!」
「街で“本物”っつったらよ、もうアイツらしかいねぇわ!! 文句なしのトップだ!!」
まるで決まりきった答えのように、全員が頷いた。
(……『月光の祈り』……?)
聞き覚えのない名前に、カナタは首を傾げる。
すると四人のうち一人が、ジョッキを置きながら説明を始めた。
「『月光の祈り』ってのは、この街じゃ有名なCランクパーティだ。
美人三人組ってことで“月光の三姉妹”なんて呼ばれてるけどな」
「三姉妹じゃねぇけどな、全然血繋がってねぇし!」
「でも仲の良さはマジの姉妹以上だろ。あれは隙がねぇ」
次々と情報が流れてくる。
「まず一人目はリヴィア。黒髪のスラッとした女だ。
剣を構えてる姿がまるで絵画みてぇでな……街の男の9割は惚れてる」
「二人目はエステル。金髪の派手な魔術師だ。
胸も態度もデカいけど、あれがまた男を惹きつけるんだよなぁ!」
「三人目はセラフィナ。銀髪のヒーラーで、神殿からスカウト来るレベルの逸材だ。
清楚系の極みって感じで、近くにいるだけで空気が変わるぞ」
カナタの背筋に、ぞわりと興奮が走る。
(黒髪の静……金髪の華……銀髪の清……
これ、理想郷セット……ロマンしかねぇ……!)
男たちの話はさらに続く。
「昔な、この街最高峰のAランクパーティの男が三人にアタックしたんだ。
けどよ……誰一人、相手にされなかったんだとよ」
「そりゃそうだろ。あの三人、マジで隙がない。“美人無双パーティ”って噂もあるくらいだしな」
(……なるほど……これは俺が求めて高嶺の花だな。
やべぇ……会ってみたくて仕方ねぇ!)
ここまで聞けば、カナタの中で確信が固まった。
(……狙うなら当然そこだ。それ以外は視界に入らない……
最高峰に挑まねぇで何がハーレムだ……何が男だ!)
異世界最高の美人三人組。
街で誰も手の届かない高嶺の花。
その名は──
『月光の祈り』
カナタの胸は、ハーレム計画の開幕を告げる鼓動で静かに高鳴っていた。
ひと通り話を聞き終わったカナタは、軽く息をついて立ち上がった。
テーブルの上には支払いとして貨幣を多めに置く。
「情報、ありがとう。助かったよ」
「お、おい兄ちゃん……こんなに払って大丈夫か!?」
「もちろん。これくらい安いもんだよ」
笑って言うと、四人組は目を丸くしてから、すぐに酒場らしい陽気さを取り戻した。
「兄ちゃん、まさか……『月光の祈り』狙いか?」
「本気で行く気なのかよ!? あいつら、マジで手強いぞ!」
「街のAランクどころか、ギルドの支店長ですら寄り付けねぇレベルなんだぞ!」
「やめとけって! いや、マジで! ハート折られるぞ兄ちゃん!」
四人が口々に止めようとするが、テンションはどこか楽しげだ。
その顔には「無茶する若造を見るのが面白くて仕方ない」表情が滲んでいた。
カナタは肩をすくめ、少し笑う。
「止められてもな。男なら……引くわけにはいかないだろ?」
その一言で、四人の男たちは一瞬だけ沈黙した後──
酒場が揺れるほどの爆笑が巻き起こった。
「はははは!! 言いやがった!!」
「いいぞ兄ちゃん! その心意気は嫌いじゃねぇ!」
「よっしゃ、応援するわ!! 玉砕したら戻ってこい、酒奢ってやる!」
「成功したらしたで英雄だ! どっちでも盛り上がるから頑張れ!!」
見知らぬ冒険者たちから、なぜか力強い激励を受けてしまった。
しかしその声は、カナタの背中をしっかり押してくれる。
(……ああ、悪くない……)
カナタは軽く手を振り、酒場を後にした。
──ギィ……
扉を開けて外へ出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。
熱気と喧騒に満ちた酒場とは対照的な、澄んだ静けさ。
夜空には大きな月が浮かび、その下でカナタの影が長く伸びる。
(よし……決まりだ……)
黒髪、金髪、銀髪──
完璧すぎる三人の姿が脳裏に浮かぶ。
【月光の祈り】
誰もが羨み、誰もが手の届かないと嘆く、街の至宝。
(狙うなら……絶対あの最強トリオだ
最高難度に挑む瞬間が……一番興奮するもんだろ……)
風が吹いた。
カナタは一歩、前へ踏み出す。
「……俺の異世界ハーレム計画。ここからスタートだ」
月光を背に受けながら、カナタは街路の先へと歩いていった。




