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残ってしまったものについて

Ⅰʼ 問いが立たなかった場所


その人は、問いを持たなかった。

持てなかったのかもしれない。


選択肢は示されていた。

説明もあった。

納得する時間も与えられていた。


それでも、

何を問えばよいのかが分からなかった。


後から誰かが言った。

「あなたは選べたはずだ」と。


その言葉が届いたとき、

すでに問いを立てる場所は失われていた。


Ⅱʼ 立ち上がらなかった出来事


何かが起きた、とは言えない。

ただ、終わった。


誰も声を上げなかった。

異議もなく、反論もなく、

ただ処理が完了した。


「問題は解決しました」と記録に残った。


だが、

その場にいた全員が、

どこかで同じ違和感を持ち帰っていた。


それが何であるかを、

誰も言葉にしなかった。


Ⅲʼ 引き受けられなかった時間


時間は進んでいた。

しかし、何も進んでいなかった。


終わったはずの出来事が、

生活の中で何度も姿を変えて現れた。


話題にするには遅すぎた。

蒸し返すには、理由が足りなかった。


だから、

誰も引き受けなかった。


引き受けられなかった時間だけが、

そのまま残った。


Ⅳʼ 断絶として残ったもの


関係は切れた。

公式には、円満に。


その後、

誰とも再会しなかった。


連絡先は残っている。

だが、使われることはない。


何が断絶したのかは分からない。

ただ、

戻る理由が見つからなくなった。


それだけだった。


Ⅴʼ 境界が意味を失う場面


それは人が決めたのか、

それとも仕組みがそうしたのか。


誰も気にしなかった。


結果は妥当で、

説明は整っていて、

手続きも正しかった。


だから、

境界について考える必要はなかった。


境界は、

考えられないまま、消えた。


Ⅵʼ 分配できなかった重さ


一人に集まったわけではない。

ただ、

分ける言葉がなかった。


誰かが背負っていることは、

皆が知っていた。


しかし、

それを分配する仕方を、

誰も知らなかった。


支え合う余地はあった。

だが、

始める合図がなかった。


重さだけが、

静かに残った。


記録されなかったこと


これは失敗の記録ではない。

成功の記録でもない。


ただ、

何も言われなかったことがあった、

という記述である。


それは説明されず、

評価されず、

制度にもならなかった。


だが、

確かにそこにあった。


そして今も、

どこかで続いている。



この記述集は、理解を妨げるためではなく、理解が間に合わなかった場所を残すために書かれている。

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