私たち、分からないんです。(3)
佐藤華:どこにでもいる平凡な女子高校生。2年1組。いつもポニーテールをしていて身長は少し低め。部活は家庭調理部。成績も運動もまあまあ。なぜか亮太のことが気になっている。少女漫画をたくさん読んでいてロマンティックな展開をいつも期待している。
鈴木亮太:どこにでもいる平凡な男子高校生。2年1組。短髪で中肉中背の体格。部活はバスケ部だが、ベンチを温めている。成績も運動もまあまあ。
高橋優香:華の小学生からの幼馴染で親友。同じクラス。成績優秀だが、運動は苦手。部活は吹奏楽部。
田中遥人:亮太の小学生からの幼馴染で親友。同じクラス。運動は学年でもトップクラスだが、勉強は苦手。部活は野球部。
小川茜:クラスの1軍女子グループのリーダー的存在。見た目は可愛くてモデルのようだが、性格があまりよろしくない。気が強い。
渡辺先生:2年1組の担任の先生。新人でもベテランでもない男性教師。
「はーい、それではみんな部屋に移動してくださいね。部屋の鍵を失くさないようにしてくださいよ。」
渡辺先生の指示で私たちは一斉に部屋へと向かう。
私と優香、田中くん、亮太くんの4人は奥の広い部屋だった。私がルームキーを受け取ったので、船頭を切って部屋に向かった。
「3105室…ここだね!」
優香がウキウキしながら叫んだので、私たちは何度も頷いた。
「行きます…オープン!」
「おーすごい!!!」
私が鍵を開けると、そこには綺麗で上品なお部屋が広がっていた。和風モダンな雰囲気で広い部屋だ。私たちは大興奮で部屋のあちこちを見て回った。
「窓からの景色もすてきだね。」
「露天風呂まで付いてるし…めっちゃ高そうな部屋だな…。」
田中くんと亮太くんも嬉しそうに部屋を見ている。優香と田中くんはベランダに出て外の景色を楽しみ始めた。私はルームキーを机に置いて、ふかふかの座布団に座った。ずっと歩いていたから足がパンパンだったのだ。
すると、いきなり隣に亮太くんが座ってきて机に突っ伏した。
(え…突然サービスショットかましてくるのやばいって!突っ伏して寝てる顔…今すぐ写真に撮りたいくらい可愛い…!この無防備な感じがたまらん…。)
私が亮太くんの顔を凝視していると、亮太くんが目をぱっちりと開いたのだ!私は慌てて目を反らして咳払いをした。
(や…やばいやばいやばい、顔見てたのバレたかな!?どうしよう、変な人だと思われたかも!?)
亮太くんは目を開いたのにまだ机に腕と顔を付けたままにしている。私がちらっと亮太くんを見ると、目が合ってしまった。私はとってつけたような笑顔を作った。
「今日は…いっぱい歩いて疲れたもんね。眠いよね。」
「佐藤さんも疲れたでしょ。俺が駅間違えたのに巻き込まれちゃったもんね。」
亮太くんがいたずらっぽく言ってきたので、私は動揺のあまりなぜか両頬に手を当てて黙り込んだ。
(なんでこんなにドキドキさせられるの!?もしかして亮太くん…私のこと好きなのかな!?いやいや、でも亮太くんは優香が好きなんだよね…?少女漫画なら修学旅行で好きな子に告白するんじゃないの?優香に…告白したいのかな?)
「ほっぺ、どうしたの?」
亮太くんが不思議そうに私を眺める。私は慌てて手を膝の上に置いた。
「なんか、その、頬が熱いように感じただけだよ。」
「大丈夫?熱あるの?」
すると亮太くんは私のおでこに手を当ててきた。私は目を丸くして彼を見る。
(え、ちょっと待って…今の状況やばくない?亮太くんが…私のおでこを触ってる!?そんな簡単に触れちゃうの!?もっと体温上がっちゃうんですけど…!!!)
「うーん、熱い気がする。」
亮太くんが心配そうな顔をする。私は胸の鼓動がさらに速まっていくのを感じた。
(あのですね、それは…それは亮太くんのせい!!!)
「あれ?どうしたの?佐藤さん、熱あるの?」
「え!?華、無理してたんじゃない?大丈夫?」
田中くんと優香がベランダから戻ってきた。亮太くんがおでこから手を離したので、私は慌てて首を横に振った。
「ないない!元気だから全然大丈夫!亮太くんも…ありがとう。心配してくれて。」
亮太くんは頭を掻いて小さく頷いた。田中くんも優香も安心したように顔を合わせた。私はまだ胸の高鳴りが収まらず、亮太くんから距離を取るために立ち上がった。すると、優香がバックからしおりを出して私に言った。
「最初に女子が温泉に入るみたいだよ。華、もう行っちゃう?」
「そうだね、行かないと。食べる前にって書いてあったからね。」
「じゃあ、2人でお留守番しててね。私たち、行ってくるから。」
私と優香はバスタオルなど必要なものだけを持って外に出た。温泉は1階にあるので、私たちはエレベーター乗り場に向かった。
「ふう…。男子2人も同じ空間にいるってなんか緊張するっていうか、気遣うね。」
優香が腕を天井に突き上げて背中を伸ばす。私は苦笑して呟いた。
「まあね。でも、一緒なのが田中くんと亮太くんだから良いと思うけどな。」
「たしかに。あの2人でまだ良かったよ。」
私の言葉に優香が共感してくれて私は少し安心した。エレベーターを待っていると、他の女子のグループもこちらにやって来た。
「あ!華ちゃんと優香ちゃんだ!ねえ、田中くんと亮太くんに聞いてほしいことがあるんだけど!」
1軍女子グループのリーダーである小川茜が私たちに声をかけてくる。明日雨が降るのではないかというくらいレアなことだ。私と優香が恐る恐る後ろを振り返ると、小川さんとその仲間たちが私たちをじっと見つめている。
(まるで私たち、オオカミに囲まれたウサギみたいじゃん…。田中くんと亮太くんに聞きたいことなんてあるの!?小川さんがあの2人に興味あるなんてあり得ないはず…なんだけど!?)
「あの2人の恋バナ聞いてほしいんだよね~!あの2人、地味な感じだけど好きな子いるのかなって思って。もしいたら、まじでおもろくない?」
小川さんが笑いながら言うと、周りの女子たちもつられて笑った。私と優香が唖然としていると、彼女は二重でぱっちりした目をさらに大きくした。
「え、まさか2人があの2人のこと好きだったりして!?違うよね!?」
(これって…私たち、馬鹿にされてない?っていうか、田中くんと亮太くんのことも馬鹿にしてるよね。許せないんだけど。)
私は拳を握りしめ、小さく息を吐いた。優香が心配そうに私を見ていたが、私は一歩前に出てはっきりした声で言った。
「悪いけど、それは約束できない。地味って言うのも…良くないと思う。」
「え、何?それって私が悪いこと言ったって言いたいの?自分も地味だからって同情してんの?」
小川さんが急に表情を変えたので私の手が震え出した。でも、負けたくなかった。私は首を横に振って冷静に話を続けた。
「違うよ、同情なんてしてない。私が地味なのは認めるけど、優香と田中くんと亮太くんは地味じゃないよ。だから、そういうことは言わないでほしい!」
私が目をつぶりながら勇気をふり絞ると、小川さんは呆れたように「もういい。」と言い放って私たちから離れていった。力が抜けて膝から崩れ落ちると、優香がしゃがんで私の背中を擦ってくれた。優香が何か言おうとしたその時!
「あの…ルームキー、持ってきたんだけど。」
驚いたことに、亮太くんの声が聞こえてきたのだ。私と優香が見上げると、ルームキーを手に持った亮太くんが突っ立っていた。
(なんで…!?なんでこのタイミングで亮太くん!?いつからここにいたんだろう!?小川さんの話、聞いてないよね…。聞いてたらどうしよう、ひどいこと言ってたのに…。)
「あ…わざわざ届けに来てくれたんだ。ありがとう、亮太くん。」
優香がお礼を言うと、亮太くんは頷いてルームキーを渡してくれた。私は何となく亮太くんの顔を見れずにいた。
「じゃあ、また後で。」
亮太くんはそそくさと部屋に戻っていった。私は彼の背中が少し寂しく見えて胸が一気に苦しくなった。
(もしあの言葉を聞いてたとしたら、すごいショックだったろうな。うーん、でもそんな前から亮太くんがいたとは思えないよね。たぶん…たぶん、聞いてないよね、うん。)
私はモヤモヤした気持ちのまま、優香とエレベーターに乗り込むのだった。
私たちが温泉から部屋に帰ってくると、田中くんと亮太くんは2人で荷物の整理をしながら待っていた。
「おかえりなさい!温泉気持ちよかった?」
田中くんが無邪気な笑顔を見せる。私と優香が大きく頷くと、彼は羨ましそうに私たちを眺めた。
「僕たちも温泉入るの楽しみだよ。ご飯食べて落ち着いたら入ってこような、亮太。」
「あ…うん、そうだね。」
(あれ?亮太くん、元気ない?気のせいかなぁ…。)
亮太くんは笑顔こそ作っているものの、声がいつも以上にボソボソしている。すると、田中くんが立ち上がって口を開いた。
「そろそろ夕飯の会場行こうよ。お腹減ったな~いっぱい食べれそう!」
「賛成!レッツゴー!」
田中くんに続いて優香が玄関の方に向かった。私も2人に続いて行こうとすると、服の袖を引っ張られた。下を向くと、亮太くんが私のことを見上げている。
(待って、何この不意打ちの上目遣い…!!!心臓止まる寸前なんですけど!?これって何か相談される雰囲気!?元気ないから励ましてって甘えられるやつ!?)
私が小さく首を傾げると、亮太くんは真剣な眼差しで私を見つめた。
「さっき…怖かったんじゃない?」
その言葉を聞いて私はハッとした。やっぱり亮太くんは小川さんと私のやり取りを聞いていたんだ。私の目にいつの間にか涙が溜まってきてしまう。
「でも、俺は地味なんて思ったことないよ、佐藤さんのこと。」
「…え?」
「佐藤さんだって地味じゃないから。もしまたそういうこと言われたら、俺に言ってね。」
亮太くんが表情を変えずに言うので、私はますます涙がこぼれそうになる。
(亮太くん、なんでこんなに優しいの…?あんなこと言われて嫌な思いしたのは亮太くんのはずなのに…。)
「ごめん…亮太くん。私、私本当は聞かせたくなかったのに。」
私は溢れ出る涙を服の袖で拭って俯いた。亮太くんは驚いたように「なんで佐藤さんが謝るの。」と言った。
「ありがとう、佐藤さん。はっきり言ってくれたの本当にかっこよかった。」
亮太くんは立ち上がって私の背中を擦ってくれた。
「おーい、2人とも!早く早く!」
玄関の方から優香の声が聞こえてきた。私と亮太くんは顔を見合わせてハッとする。
「そうだ、夕飯食べに行くんだったね。」
「すっかり忘れてた…!」
ちょうど私のお腹がぐー!と大きい音を鳴らしたので、私たちは思わず吹き出した。
(亮太くん、やっぱりすごい優しいな。今日1日だけでどんどん好きになっちゃう…このまま両想いになっちゃたりして…!?)
私はニヤニヤしてしまうのを隠しながら、亮太くんと急いで玄関に向かうのだった。
つづく
華ちゃんの強さと亮太くんの優しさ、かっこいいですね(^^♪
次回も乞うご期待!ぜひぜひご覧くださいませ!!!




