私たち、気付いたんです。(1)
佐藤華:どこにでもいる平凡な女子高校生。2年1組。いつもポニーテールをしていて身長は少し低め。部活は家庭調理部。成績も運動もまあまあ。なぜか亮太のことが気になっている。少女漫画をたくさん読んでいてロマンティックな展開をいつも期待している。
鈴木亮太:どこにでもいる平凡な男子高校生。2年1組。短髪で中肉中背の体格。部活はバスケ部だが、ベンチを温めている。成績も運動もまあまあ。
高橋優香:華の小学生からの幼馴染で親友。同じクラス。成績優秀だが、運動は苦手。部活は吹奏楽部。
田中遥人:亮太の小学生からの幼馴染で親友。同じクラス。運動は学年でもトップクラスだが、勉強は苦手。部活は野球部。
立石直哉:クラスのムードメーカー。お調子者男子軍団のリーダー的存在。
小川茜:クラスの1軍女子グループのリーダー。見た目は可愛くてモデルのようだが、性格があまり良くない。
渡辺先生:2年1組の担任の先生。新人でもベテランでもない男性教師。
私が思わず目を閉じると、亮太くんはさらっと言ってしまった。
「遥人が佐藤さんのこと…好きだってこと。」
あっという間に頭の中が大洪水になった。何の言葉も思い浮かばない。
「でも…でも、佐藤さんの気持ちはどうなの?」
周りの雑音が何もなくなった。私はハッとして彼を見つめる。
「佐藤さんの…本当の気持ちは?」
今まで見たことがないほど真剣な眼差しだった。私は彼の瞳に吸い込まれるように、ただただ彼の目を見つめることしかできなかった。
(本当の気持ち…私の本当の気持ちは…。)
私の目にだんだんと涙が溜まってくる。いろんな感情が胸の中で鬩ぎあっていた。
「なんか…ごめん。」
亮太くんがしばらく続いた沈黙を破って口を開いた。
「俺は自分の本当の気持ち、ちゃんと分かってないくせに偉そうなこと言っちゃったな。」
彼の言葉に私は慌てて首を横に振った。
「そんなことない!亮太くんは悪くないよ。悪いのは…私なんだ。」
「なんで?なんで佐藤さんが悪いと思うの?」
「そ…それは…。」
(自分の本当の気持ちを知ってるのに…。それなのにずっと隠し続けてるからだよ。)
心の中ではこんなに簡単に言えるのに、声に出すのはすごく難しい。私はまた黙ってしまって、亮太くんも何も言わなかった。
「おーい!2人とも、何してんの?早くしないと置いてかれるよ?」
優香が不安そうな表情で叫んできた。私は「ごめん、今行く!」と手を挙げて、亮太くんと一緒に歩き出した。
「亮太くんはさ。」
私はようやく自分から話を切り出した。
「自分の気持ちが分からないってことを…どうやって自覚したの?」
「うーん、そうだなあ。どう言えばいいんだろう。なんかこう…モヤモヤしてて。」
亮太くんが眉間にしわを寄せながら話を始めた。
「なんか気になるし、守りたいって思うんだけど、いつも支えられてばっかりなんだ。」
(亮太くん…それって、誰かのことじゃん!?もしかして…私のこと?いや、そんなことないよね、優香のことかな…?)
私の胸の鼓動が一気に速くなる。亮太くんは我に返ったような表情をした。
「今のは、俺が思ってる人についての話だよ。変な感じだなってこと。」
「それってさ…恋してるんじゃない?」
亮太くんは少し目を泳がせた。私は平然を装って話を続ける。
「その人を好きな気持ちなんだよ。だって、その人が他の異性と一緒にいたら少し嫌な気持ちになったりするんじゃない?」
「うん…そうだな、嫌かも。」
意外にも亮太くんは即答する。私は胸の鼓動を感じながら、彼を見て笑顔を作った。
「そしたらもうはっきり分かってるよ。その人が好き、きっとそれが本当の気持ちだよ。」
(亮太くんには幸せになってほしいから…亮太くんの気持ちを応援したい。亮太くんが好きな人と結ばれたらいいな…うん、たぶんそれでいいんだよ。)
私が泣きそうになっていると、亮太くんは困ったような表情で頬を掻いた。
「じゃあ…本当の気持ちが分かったら、ちゃんと伝えた方がいいかな。俺、全然自信ないんだよね。友達ですらいられなくなったら…立ち直れないかもしれないんだ。」
(そこまで思うほど好きな人なんだ…。どんな人なんだろう。きっと可愛くて素直で優しくて最高の人なんだろうな、私なんて足元にも及ばないくらい…。)
私は亮太くんに見えないように手の甲で涙を拭って、それから彼を励ました。
「亮太くんなら大丈夫だよ。だって、亮太くんは…。」
一息ついて、私は亮太くんの目をしっかり見つめた。
「だって亮太くんは、すごくかっこいいもん。」
亮太くんは目を丸くして黙り込んだ。私は何だか恥ずかしくて「優香のところ行くね。」と小走りしてしまった。
(私…何やってるんだろう。亮太くんのこと好きなのに、なんで応援しちゃったの?ちゃんと自分の気持ち伝えないといけないのは、私の方なのに…。)
私たちは駅に着いて、予定通りの時間で新幹線に乗ることができた。
「みなさん、何とか間に合いました。2日間過ごしてきっと疲れていると思うので、静かに過ごしてくださいね。」
私たちが席に座ったのを確認しながら渡辺先生が呼びかけた。私は優香の隣に座ってゆっくりと目を閉じた。
「あれ?華、もう寝ちゃうの?1個だけ聞いていい?」
優香が小声で私に囁いてきた。私が首を傾げると、彼女は真剣な表情でこう言った。
「華って本当は亮太くんのことが好き?それなら、小川さんに負けちゃダメだよ。」
(え…?なんで?なんで優香、知ってるの?私、優香に言ってないはずなんだけど。)
あまりに唐突すぎて私は黙ってしまった。優香は私の肩に手を置いて力強くうなずいた。
「その反応は、そういうことなんだね。うん、大丈夫。絶対に勝てるよ。」
「か…勝てるって、そんな…競争してるわけじゃないんだから。」
私が動揺すると、優香は私の口に人差し指を当てて小さな声で叫んだ。
「いやいや!早い者勝ちだよ。告白するの、相手に先を越されたら危ないじゃん。」
(それって、亮太くんが小川さんのことを好きになっちゃうってこと?まさか、そんなことないよね?でも…100%は保証できない。そしたら私、めっちゃショックなんだけど…。)
私は自分の顔がだんだん青白くなるのを感じた。すると、優香は私の肩に乗せた手を私の手の甲に乗せてきてぎゅっと握りしめた。
「私は華のこと、ずっと応援してるからね。いつでも味方だし、何かあったら何でも言ってよ。ちゃんと頼ってね。」
「優香…。ありがとう。」
彼女の言葉が胸にしみて涙が出そうになると、優香は口を尖らせて私を見た。
「だってさ~亮太くんとか田中くんと2人で何かコソコソ話してたりしてさ、心配なんだもん。華は優しすぎるところがあるんだから。」
「あーごめん、たしかにコソコソしてたかも…。ちょっと色々あってね。」
私は彼女に田中くんと話したこと、亮太くんと話したことを簡潔に伝えた。優香はすごく驚いた表情で私の話に耳を傾けた。
「ええ!?2人にそんなこと言われてたの!?それって…三角関係なのでは?」
「さ…三角関係?」
私が目を見張ると、彼女は呆れたような顔をする。
「華、この状況で分かんないの!?だって、田中くんが華を好き、華は亮太くんが好き、亮太くんは華が好きかもしれない…ってことだよ?間違いなく、三角関係です。」
優香が「紙に図でも書こうか?」と聞いてきて、私は慌てて首を横に振った。
(三角関係って、少女漫画でめちゃくちゃあるやつじゃん!?やばい、この展開はもう…少女漫画の現実版だ!めっちゃ嬉しいんだけど!)
興奮している私を不思議そうに眺めて、優香は苦笑した。
「でも、三角関係は大変だよ。3人全員の気持ちは叶わないし。」
(そっか…。たしかにそうだよね。田中くんが私を好きでも、私は亮太くんが好きで…。私が亮太くんが好きでも、亮太くんは別な人が好きで…。なんかすごく…切ないな。)
私が深刻な表情で黙り込んだので、優香は「まあまあまあ。」とすぐに慰めた。
「とにかく1番大事なことは、自分の気持ちだからね?自分の本当の気持ち。」
優香が私の胸に手を当ててきた。私がキョトンとすると、彼女はにっこり微笑んだ。
「自分の感情を1番大切にするんだよ?自分のための人生なんだからね。」
(自分のための人生…。それって自分のために人生を歩んでいくってこと?そんなことしていいのかな…。)
私がうつむくと、優香は話を続けた。
「自分のために生きるっていうのは自己中でも自分勝手でもない。だから、いいんだよ。」
優香には私の心の声が聞こえているのかもしれない。私は彼女の言葉を信じることにした。きっと優香は、私のことを私以上に知っている人なんだと、そう感じたからだ。
「ありがとうね、優香。そうしてみるよ。」
私の言葉に優香は安心したような表情を見せるのだった。
つづく
今回ちょっと短めなんですが、いろいろなことに気付けるエピソードになったと思います♡
ぜひご覧ください!




