私たち、揺れてるんです。(1)
佐藤華:どこにでもいる平凡な女子高校生。2年1組。いつもポニーテールをしていて身長は少し低め。部活は家庭調理部。成績も運動もまあまあ。なぜか亮太のことが気になっている。少女漫画をたくさん読んでいてロマンティックな展開をいつも期待している。
鈴木亮太:どこにでもいる平凡な男子高校生。2年1組。短髪で中肉中背の体格。部活はバスケ部だが、ベンチを温めている。成績も運動もまあまあ。
高橋優香:華の小学生からの幼馴染で親友。同じクラス。成績優秀だが、運動は苦手。部活は吹奏楽部。
田中遥人:亮太の小学生からの幼馴染で親友。同じクラス。運動は学年でもトップクラスだが、勉強は苦手。部活は野球部。
小川茜:クラスの1軍女子グループのリーダー。見た目は可愛くてモデルのようだが、性格があまり良くない。
渡辺先生:2年1組の担任の先生。新人でもベテランでもない男性教師。
ちょうど私のお腹がぐー!と大きい音を鳴らしたので、私たちは思わず吹き出した。
(亮太くん、やっぱりすごい優しいな。今日1日だけでどんどん好きになっちゃう…このまま両想いになっちゃたりして…!?)
私はニヤニヤするのを隠しながら、亮太くんと急いで玄関に向かうのだった。
夕飯を食べ終えて、亮太くんと田中くんは温泉に入りに行った。
部屋に戻ると、布団と衝立が用意されていて女子と男子でしっかり分かれるように配慮されていた。私と優香はふかふかの布団に大の字に寝そべって今日1日の全身の疲れを取る。
「あー今日本当に頑張ったよね。明日もあるのに今日だけでこんなに疲れるとは…。老いを感じるよ。」
優香の言葉に私は思わず吹き出した。
「私たち、まだ13歳だって。まあでもね、今日はみんなよくやったよね。すぐに寝れそうだよ。」
「あ!そういえば華って夜の見回りしないといけないんだよね…?手伝おうか?」
優香が気の毒そうに言うので、私は苦笑した。
「ううん、大丈夫だよ。女子の部屋開けて閉めるだけだからそんなに大変じゃないよ。」
「そっか…っていうか、夜の見回りって先生がやるべきことじゃないの?渡辺先生、かなりテキトーだよね。」
私が肯定も否定もできないでいると、亮太くんと田中くんが「ただいま!」と部屋に帰ってきた。2人とも浴衣姿で少し髪の毛が濡れている。
(浴衣姿…やばすぎるって!こんなゆるい姿初めて見た…めっちゃかっこいいんですけど!?直視できないよ…!)
思わず布団に潜ると、優香と田中くんの笑い声が聞こえた。
「急にどうしたの?佐藤さん、もう寝るの?」
「華はまだ寝れないよ。夜の見回りがあるんだから。」
私は我に返って布団から顔を出した。亮太くんをちらっと見ると、彼と目が合ってしまった。亮太くんは頬を真っ赤にしていた。のぼせる寸前まで温泉に入っていたのだろうか。
「あれ!?佐藤さんが髪下ろしてる…!いつも1本結びなのに!」
田中くんが目を丸くして私を指差す。私はキョトンとして彼に目線を移した。
「そっか!2人は今まで見たことなかったのか、華の髪結んでないところ。雰囲気変わって可愛いでしょ?」
優香がまるで自分の娘を自慢するような言い方で言うと、田中くんが何度も頷いた。
「可愛いね。いつもよりもっと大人っぽい気がするよ。」
(田中くんってお世辞うまいのかな!?こんなにストレートに男子から可愛いって言われるの初めてかもしれない…なんか不思議な感じだな…。)
私が「うーん…そうかな?」と困り顔をすると、優香が私の頭を優しく撫でた。恥ずかしくて自分の顔が一気に赤くなるのを感じる。
「亮太もそう思うでしょ?黙ってないで何か言いなって。」
田中くんがひじで亮太くんをツンツンする。亮太くんは頭を掻きながら何か呟いた。でも、ボソボソ声すぎて何を言っているのか聞こえなかった。
「うん?何て?」
優香が聞いても、亮太くんはとぼけたような表情をして答えてくれない。
(えー!?電車の時も今も肝心なところが聞こえないんだよなぁ…。もしかして可愛いって言ってくれたのかな!?それで恥ずかしくてもう一回言えない…とか!?)
「髪の毛長いね、だってさ。」
田中くんが笑いながら言った。私はずっこけそうになるのを必死に堪えて苦笑した。
「そ、そうだね、うん。胸の下くらいまであるから長いね、あっははは…。」
私の言葉に田中くんと亮太くんは目のやり場に困ったようにきょろきょろし始めた。私は「しまった!」と思って優香を見たが、彼女は何も気にしてない様子だった。
「じゃあさ、修学旅行の夜だし…枕投げする?」
優香の提案に私たち3人は口をそろえて「嫌かな。」と言った。優香は納得したように何度も首を縦に振った。
「そう言われると思ったわ~!冗談だよ、冗談。」
「分かった!定番だけど、恋バナじゃない?」
今度は田中くんが提案したが、小川さんの件があったので残りの3人は少し顔を曇らせた。田中くんは周りを見回して気まずそうな顔をする。優香が彼を見て慌てて口を開いた。
「たしかに恋バナはみんなしそうなことだよね。じゃあ、初恋についてだけ話すのはどう?」
「おお!いいね、面白そう。」
田中くんが笑顔になったので私は心底安心した。亮太くんは首に手を当てて無表情のままだった。
(私の初恋!?待って、それって…亮太くんのこと話さないとダメになっちゃったじゃん…!全然安心できないって!どうしよう…まさか本当のことを話すわけにもいかないし。)
「佐藤さんはどうだったの?」
田中くんが早速目を輝かせながら聞いてくる。私は首を傾げて黙り込むことしかできない。優香が何か言おうと口を開けたので、私は思わず「えっとね!」と大きな声を出してしまった。3人の視線が一気に私に向けられる。
(やばいやばいやばい…優香に何か言われると思ってでっかい声出ちゃった…何か言わないと…何とか乗り切らないと…。)
「私は…うーん、はっきり初恋を覚えてなくて。たぶん幼い頃だったかなぁ。記憶が曖昧でよく分からないや。」
3人にツッコまれるかと思いきや、誰も大きな反応は見せなかった。私の後に続いて、田中くんも話をする。
「僕は小学生の時ってはっきり覚えてるよ。担任の先生がとても美人な方で、一目惚れしちゃったんだよね。でも、もう既婚者だったから狙うの辞めたけど。」
「狙ってたの!?先生を!?」
優香が驚愕しながら尋ねると、田中くんは真剣な顔で頷いた。私も亮太くんも目を丸くして彼を見たが、彼は何も恥ずかしがらずに爽やかな笑顔を作った。
「だって、好きな気持ちって誰が誰を好きになろうが止められないじゃん。僕は自分の好きっていう気持ちに素直になりたいタイプだから。」
(自分の好きっていう気持ちに素直…。すごく素敵な考え方だなぁ…。やっぱり田中くんは大人びてる。)
私が勝手に感心していると、今度は優香の番になった。
「私の初恋は幼稚園の頃。近所の男の子で運動神経がめっちゃ良くて頼りになる子だった。性格も優しくて私が泣いてるといっぱい励ましてくれたの。小学校で離れちゃったから幼稚園以来会ってないけどね。」
「そうなんだ…。いつかまた会えるといいね。」
私が微笑みかけると、優香は嬉しそうに「うん!」と笑った。それから私たちは亮太くんの方に視線を移した。
「さーて、僕たちの大トリでございますね。鈴木亮太さん、どうぞ!」
田中くんがおちゃらけると、亮太くんは小さく息を吐いた。
「…分からないよ、俺は。」
「何が?初恋の時期が?」
(もしかして亮太くん…好きって感情がよく分からない人!?それって人を好きになるまで時間かかるやつだよね…。)
優香の問いかけに対する亮太くんの答えを、立たずを飲んで待つ。亮太くんは眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「時期っていうか…そもそも今まで恋愛的に人を好きになったことないかも。」
「えー!?そんなことある!?」
田中くんが怪しげな視線を送るが、亮太くんの瞳は揺らぎない。
「うん。友達としか考えたことなかったかな…。」
(え…それって…恋愛対象で人を見れないってこと!?)
私の頭の中が一気にパニックになった。優香と田中くんは「亮太くんらしいね。」と顔を見合わせている。すると、亮太くんはまだ話を続けた。
「でも、今は違う。今はそうじゃないよ。友達…以外にも考えられるように成長したかなって思う。」
(この言い方って、もしかして今誰かを好きになってる最中ってこと!?じゃあ…亮太くんには…。)
私の心臓の鼓動が高まっていくのを感じる。優香が私の言いたいことを代弁してくれた。
「それって、今の亮太くんには好きになりかけてる人がいるってこと?」
「おいおい、随分ストレートに聞くなぁ。」
田中くんが苦笑いする。でも、そんなことはお構いなしに優香はじーっと亮太くんを見つめた。亮太くんは彼女から目を反らして小さく首を傾げるだけだった。
(ほんっとに全然分からない…。亮太くんに好きになってる最中の人がいることはほぼ確定だけど…これが私にとってチャンスなのかピンチなのか全然分からない!!!でも、やっぱり私の可能性だってあるよね!?もしかしたら、私のことを好きになってくれてるの?それともやっぱり優香?どっち!?それとも、どっちでもない!?もーう!頭がパンクしそうだよ…。)
私がボーっとしていると、いつの間にか亮太くんが近くに来ていた。私が亮太くんを見ると、彼は俯きながらボソッと呟いた。
「あのさ…今日、見回り一緒にやろうね。」
(それ今のタイミング!?見回りのことで頭がいっぱい!?やっぱり亮太くんって真面目だなぁ…。)
「あ、うん、手伝ってくれるんだよね。ありがとう。」
私が何とか笑顔を作って言うと、亮太くんはニコニコしながら私に言った。
「佐藤さん…1人で行かないでね。夜に1人だと危ないから。」
体温が一気に上昇していくのを感じる。亮太くんの言葉に固まってしまったが、私は慌てて大きく頷いた。
(どうしよう、そんなこと言われたら私勘違いしちゃうじゃん…!やっぱり亮太くんは私のこと好きになってる途中なの?それとも…ただただみんなに優しいだけなの?)
亮太くんの純粋で眩しい笑顔を眺めながら、私の頭の中には同じ疑問が繰り返されているのだった。
つづく
次回も乞うご期待です!お楽しみに♪




