秋はトマトの旬なんだぜという話
トマトの旬はいつかと言われたとき、皆さんは何と答えるだろうか。
そりゃ夏でしょうよ?と常識のごとくそういう人は多い。
実際トマトの生産量が多いのは5月〜8月。霜に当たると枯れてしまうトマトの性質上、11月を境に大半のトマトは手間のかかるハウス栽培に移行するため、暑い時期に生産量が伸びるのは自然なことだ。
しかし、しかしである。量ではなく味がピークに達する時期は、夏とは別にある。
それこそがタイトルにも書いた「秋」だ。とくにハウスではなく、露地ものの秋トマトの味は旬の概念を変えざるを得ないほどにうまい。今回はそれを語ろう。
トマトと言えば赤みのある野菜だが、あの色のつく条件というのをご存知だろうか。
実はトマトは、花が咲いてからの1日1日の最高気温を順々に出していき、合計1000度になると、リコピンが蓄積してきて赤くなる。
カンの良い人はお気づきかもしれない。じゃあ暑い夏は1000度に達するのが早いのでは?と。
まさしくその通り。夏のトマトは花が開き始めてから1カ月、近年の猛暑の環境下では3週間で色が付き始める。色が付き始めれば、収穫しないわけにはいかないので収穫され、流通を経てスーパーに並ぶ。
では秋のトマトはどうか?たとえば8月末に花を咲かせたら、果実の生育序盤は暑いが、9月半ばから最高気温は下がってくる。30度を切る日も増え、地域差はあるだろうが開花から40日ほどたたないと色があまりにも青く、出荷基準を満たさない。
そこで色付きとは別の尺度に注目してみよう。
それは糖度の上がり方だ。トマトは面白い植物で、果実の色付きは色付き、糖度上昇は糖度上昇でお互いが影響しあうことはほぼない。
糖度の上昇は品種にもよるが、ここでは一般的に食べられている生で食べる用の大玉種を例に挙げよう。
大玉種トマトは花の咲き終わりから徐々に栄養が果実に流れこんで甘みと旨味が増していく。乱暴に言えば1日につき糖度0.1度ほど上がっていくとイメージしてくれて構わない。
さて、真夏のトマトは30日ほどで色が付き始めることはすでに述べた。この場合、糖度は0.1度ずつ30日間上がるので約3度で収穫を迎える。
ということは秋のトマトは、40日間糖度が0.1度ずつ上がり続けるわけなので収穫時期には糖度4度で収穫し流通に乗る。
さあもうおわかりだろうか。夏トマトと秋のトマト、どちらが甘く味が濃いか。
そう秋のトマトなのだ。夏に高温で葉があちこち枯れ茎が焼けてボロボロになった姿でも、秋に実った果実は間違いなく夏より美味である。
昨日も本当に美味いトマトを食べた。酷暑で一度は死にかけたトマトの株に、しかしきちんとなっている果実は、こちらの背筋を正されるような心持ちさえする。
実を探すと食べごろの美しい赤を呈するものが3つ。うやうやしくそっと指で包んで、空いている方の手で、剪定ハサミを慎重に混み合った枝の中に差し込みヘタを切り離す。とたん、トマトを持っている手にずっしりとした重みが伝わる。中身がぎゅっと詰まっている証拠だ。
収穫した新鮮なトマトを、わくわくしながら家に入って実を水洗いして、まな板の上で8等分にする。タッパーに入れて先に切った人間の特権でつまみ食いする。
んん〜っ、甘い。
いわゆるフルーツトマトの気配を一瞬感じる。エステル系と呼ばれる甘い香りだ。鳥を呼び寄せて実を食べさせ、種を運んでもらうための香りだと言われている。
そこから秋トマトの甘くて濃い味が口いっぱいに広がる。はたと思いついて光学式糖度計に果汁をのせて計る。糖度はなんと6度に届いていた。これは甘いわけだ。ここから先は専用設備で調整しないと踏み込めない領域だ。大満足で糖度計を洗って戻す。
さすがに実の形が不格好ゆえ売り物にはならないが、こんなうまいもの売ってなるものか。作っている人間の特権でわが家で残らず消費させていただく。とはいえ、秋トマトを頑張っている各地の生産者さんたちのトマトをスーパーでを見かけたら、是非とも買って食べてみてほしい。一番うまい時期のトマトの底力に、改めて感心するはずだ。
秋の楽しみは色々あるが、トマトも外せないと思いさつまいもに続いて書いた。
食事シーンも練習ついでに書いてみたがなんか描写過多な気がする……今後の課題。




