ただの噂
あらすじみたいな第一話。不安で怖かったから書きました。他意はないです。
きっかけは、ホントに単純。目にしただけだった。
セミが五月蠅く鳴いて、太陽は光を発しながら皮膚を焦がしてゆく。夏休みが始まって少し経った7月後半。少女、瀬奈は憂鬱になりながら帰路についていた。
何故夏休みで学校はないはずなのに、部活動にはいかなくてはならないのだろうか?補修なんて受けなきゃいけないんだろうか?
高校1年生になった少女は、美術部に所属していて、成績はそこそこ。よくはないが、ものすごく悪いわけではない。友人もそこそこ居て、学校の中ならば、目立たない普通な子だ。
ふぅとため息をついて遠い空を見上げる。
(…鬱陶しいな)
キラキラな太陽が上から捧げる光は、少女にとっては天敵。プールや夏コミ、楽しいイベントを綺麗な姿で楽しめないことは最悪な恥さらしだ。日焼け止めは塗ったが不安、さっさと帰ってエアコンの聞いた涼しい部屋に避難したい気持ちでいっぱいだった。
ふと、カバンに隠したままのスマホが鳴る。何かの通知だ。
(え、誰からだろ…)
可愛いスマホケースに収められたスマホを取り出す。日光のせいで画面は見ずらい
(…なんだ、先輩からLINEか…後でいいや。無視無視)
なんとなく一度スマホを手に取ると、止まらない感じがして、次いで次いでで、いろんな通知を確認してしまった。ネット料金がもったいない…通知を確認し終わると、そのままスマホを片付けて再び歩き出せばよかったのに、ネットニュースまで開いてしまった。スクロールする手が止まらない。
(…なんだろ、この記事?)
記事の見出しを見た瞬間に、ぴたっとスクロールした手が止まる。
『今年の8月、大地震が起きる?』
「…え?」
一気に暑かった頭から血が抜けて、冷たくなった気がした。恐る恐る…見たくないのに、見てみたい好奇心。少女は猫を殺してその見出しをタップしてしまった。
『突如としてネットに現れた、20○○年から来たと名乗る男性、色々な質問を答える中で、彼はこう、答えた。今年の8月14日、大地震が日本を襲い、首都は陥落する、と』
『それが本当であるか定かではないものの、気象庁が出した○○というデータから…』
少女はそこでスマホからその記事を消した。もう体中の血が抜けてしまって、暑さを感じなくなっていた少女は、記事をスマホごとカバンに隠して、また家に向かって歩き出した。
(…嘘だよ、未来から来たとかありえない)
少女は昔から心配性で怖いのは大嫌い、自分の命に関わることは聞きたくもない。そんな人だった。
(忘れちゃおう。確証なんかないもんね)
忘れろ、頭ではそういう指令を出しているのに、さっきの記事ばかりが頭を支配している。まともに他のことは考えられそうにない。
のろのろと動いていた足は焦りを帯びて徐々に早くなっていく。最終的には走り出して家に突撃する勢いで帰ってきた。
「た、ただいま」
声のトーンは少し高め、何かがあったことを悟られないようにしたかった。だが、家には誰もいない。妹も両親も出かけてるみたいだ。なんだ、「ただいま」なんて言わなくてよかったじゃないか。
化け物の追ってから逃れたみたいに安心して、靴を脱いで玄関に座り込んだ。
「…」
座りだしたらまた不安になって、避難用の緊急バックがちゃんとあるのか、足りてるのか確認したくてたまらなくなった。幸い、バックは玄関に4つ、家族全員分おいてある。とりあえずは安心だろう。
「…賞味期限とか、切れてないよね…?」
自分の防災カバンを少しだけ開けて中身を確認してみる。そこには最低限ものは入っているし、これさえ持っていれば大丈夫だと言えた。
(安心、安心…よかった)
でも、それはまた不安へと変わった。玄関にある、少女の胸当たりまである大きさの靴棚、放置されたままの植木鉢、玄関を圧迫している変な箱、上に飾ったままの家族写真。座り込んでいる少女の頭上にあるすべては少女を襲う怪物か鈍器に見えて、震えが止まらない。
(これじゃ、逃げられない)
玄関にいるのがつらくなって、急ぎ足でリビングに入った。
リビングには大きな窓がある。あそこから外に逃げ出せそう…だけど、もし地震が起きたならば、窓ガラスは割れて危険になる…あそこからの脱出はできない。
いや、何を考えてるんだ、まずは落ち着こう、あれはただのデマでホントじゃない。大丈夫なんだ。
「…8がつ、14」
かけてあるカレンダーをめくると8月の日付が出てきた。その日はまだ夏休みで、行こうと思えばどこにだって逃げられる。
「…どうしよう、後…少ししか、時間ないじゃん」
ハザードマップ見ないと、だとか棚固定されてるか見ないと、とか。デマなのはわかっているけど怖くてたまらない。忘れたくても忘れられない。
「…やだ、怖い」
不安でしかたないから、早く家族が帰ってきて欲しかった。とにかくここで一人いることが不安だった。
「…(どうか、ホントに嘘でありますように)」
太陽のせいで汗がぐっしょりになって、シャワーどころか風呂に入りたかったが、裸になってしまえば逃げれない。怖い。閉鎖空間であり、玄関から遠い場所にはいきたくない。
(…せめて、せめて…服だけ着替えよ)
急ぎ足で階段を駆け上がって、服だけ取って逃げるように下へ降りてくる。少しの移動のはずなのに、今もしも地震が来たら…とか思ってしまってどうしよもなかった。その未来から来た人の言った日付とは違う、でも確証がないなら今起きても不思議じゃない。
「…気分転換しよ」
不用心だが、鍵を開けて、スマホの通知音量は最大にして、さっきの防災バックは膝の上にのせて、ついでに大切な思い出ある品をまとめてカバンに詰めて…
少女はソファに座り、ショート動画のスクロールを始めた。
(…どうか、それが本当じゃありませんように)
盲目的に安全にすがることだけ考えている少女の逃避行妄想は、その日から始まった。
どうぞ、投稿頻度がどれぐらいか分かりませんが、少女の2年間の逃避行路をお楽しみください。