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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・51


 航にとっての問題は、檻の中のタヌキやライオンとただ話せるというところではない。

 檻の中の相手がヒトに見えたらどうしようということなのだ。

 ただタヌキがタヌキの姿で人の言葉を話せるのなら、それはそれで可愛いのだと航は思う。

 ただライオンがライオンの姿で人の言葉を話せるのなら、それはそれで怖いけど面白いかもしれない。

 だが。

 檻の中のタヌキがヒトの姿で人の言葉を話したら、それはもうタヌキではなく人なわけで。

『いや、ちょっともう、いたたまれない……』

 例えば檻の並びが、象・タヌキ・鹿・キツネ・猪・ライオン・トラとかだったら、象・ヒト・鹿・ヒト・猪・ヒト・ヒトって檻に入ってるわけで。それはもう商店街歩いてるのと変わりないんじゃないかと……。いや待て。鹿って何科だ。ああ、鯨偶蹄目シカ科よしよし、って、山の中鯨偶蹄目多いな。

 脳みその中が脱線してきて航は頭を振る。

 檻にすがって「出してくれ~!」と叫ぶ『タヌキかもしれないヒト』の姿を想像する。

 いやいや、と航は苦笑いする。それではコントの中の囚人である。実際のタヌキは檻の隅っこで寝たり、人目を避けて箱や木陰に隠れている。ヒトの姿をしているとしても、あまり目立つところにはいないのではないだろうか。……でもわりかしライオンは堂々と寝てるよな……。しかも結構デカい声でがおがお言ってるときあるよな……、ものすっごい罵詈雑言とかだったらどうすりゃいいんだ……。

 なんだかんだで美馬に動物園へ行く約束を取り付けられてしまった航は、動画サイトでその動物園の予習をしている。わりと古い歴史がある動物園だが、環境エンリッチメントを取り入れ、少しづつ改装を進めているところだ。航も子供の頃両親に連れて来てもらったことがあるが、長らく来ていなかったので、見たことのない動物が来ていたり、知らない施設があったりして物珍しかった。

 画面に映る動物たちは皆、きちんとその動物本来の姿で見えた。まだ航が直に会ったことのない動物だからなのか、それともやはり犬や猫以外はヒト化して見えないのか。それに航が動物たちを見たのは20年以上も前のことである。もうそこにはいないのかもしれない。郷愁に駆られた一瞬、航はふと気がついた。

 藍沢と橋本に連れて行かれた猟で、航は生きた猪を見なかった。視界に入って来なかった猪をレオパルトの導きで撃ったのは橋本で、その姿を確認したとき、すでに猪は息絶えていた。鳴き声すら聞かなかった。

『待てよ……』

 犬や猫でも直に会ったことが無ければ、動画でも本でも航の目には犬・猫本来の姿で映る。

 直に会ってしまえば、動画や写真を通してもヒトにしか見えない。

 ちなみに、鏡に映せば本来の犬・猫の姿で見える。

 あのとき、猪は死んでいた。

『もしかして、初対面前に死んでると、動物のまま……?』

 生きてる姿も見てないし、猪の鳴き声も聞かなかった。やめてくれ!とか、撃たないでくれ!とか人間の声も聞こえなかった。

『まさかと思うけど、あれって、ノーカン……?』

 だとすると、鯨偶蹄目とかイヌ科とかネコ科が問題ではなく……。

 航は美馬との動物園デートをキャンセルするべきか真剣に悩み始めた。


 航はソファーの上でくつろぐリクとカイを見る。

『死んだら、どう見えるんだ……?』

 犬・猫がヒト化して見えるようになってから、まだ航は犬・猫の死に目に会っていない。というか、あれだけ危ない目に合っておきながら、リクとカイが死んだときのことなど考えていなかった。

 こんなこと考えるのは縁起でもないのかもしれないが、考えずにはいられない。

『ヒトの姿で死ぬのか……?』

 ぞっとする。考えられない。考えずにはいられないが、考えてしまった。ヒトの姿のリクとカイを見送るなど、ちょっと耐えられない。航は身震いする。

『だから、犬の姿に戻るとか……?』

 いやいやいや、と航は眉を寄せる。ヒトの姿で見送るのは辛いでしょうから犬の姿に戻しますってのはどうなんだ、犬の姿でも死んだら辛い。辛いものは辛い。

「どうしたの?」

 視線に気づいたのかリクが顔を上げ、航を見た。つられてカイも顔を上げる。

 航は眉を情けなく下げて言った。

「動物園、行くのやめよっかなーって思ってさ」

「えー、行きなよー。せっかくのデートじゃん」

「美馬さんから誘ってくれたんだよ。チャンスじゃん」

 リクとカイは起き上がると航の背後に回り、肩にそれぞれ顎を乗せる。

「デートじゃねーよ。確認だよ」

 違うでしょと航は肩を揺らすが、リクとカイはしつこく顎を乗せて来る。

「美馬さんとふたりだけが恥ずかしいなら一緒に行ってあげるよ、おれたち」

「動物園に犬は入れません」

「おれら介助犬のフリ得意よ」

「ダメだって」

 笑いながら航はカイの顔を押しやった。そして言った。

「おまえらがホントに人間の弟だったら連れて行けたんだけどな」

 リクとカイは笑って言った。

「いや、ムリだって」

「おれら犬なんだって」



            おわり

 


 長々と読んでいただき、ありがとうございました。


 気が向いたら続きます。

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