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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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36/52

犬がすっかり兄弟になりまして・35


 大きなクルーズ船だった。幸いまだ乗船している途中だった。

 これにリクとカイが乗っている、あるいは乗るのかどうかもわからない。だが迷っている暇は航にはなかった。

「すいません!これに盲導犬は乗っていますか!?」

 航は搭乗ゲート前にいるスタッフらしい人物に早口で訊く。

「もうしわけございません。そのようなことは……」

「盲導犬じゃなくても、ゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーは乗って来なかったですか!?」

「ですから、お客さま……」

「トイプーかもしれない!乗ってませんか!?茶色いトイプー!」

「落ち着いてくだ……」

 掴みかからんばかりの航に他のスタッフが近寄ろうとしたとき、美馬は曹操とパーカーのリードを外した。

「GO!」

 放たれた曹操とパーカーは勢いよく走り出し、航を押さえようとするスタッフたちを思い切り蹴り飛ばした。

 航はスタッフたちの手を振りほどくとゲートを突破しギャングウェイを駆け上る。追って来る人々はことごとくパーカーに引き倒され蹴り飛ばされ、船から駆け下りてくる船員たちは航の先鋒を切る曹操にばったばったとなぎ倒される。

 倒れた人々を踏みつけ飛び越え、航は叫びながらデッキを走った。

「リク!カイ!いるか!?」

 大きな船の甲板が騒然とし始めた。

「リク!カイ!ショージ!フスマ!いるか!?どこだ!?」

 大型犬を2頭連れた男が叫びながら走っているのだ。優雅なクルーズ船の旅を満喫しようとしていた客たちは、思わぬ騒動に驚きと野次馬根性を隠せず遠巻きに見ている。

「誰か!犬を見ませんでしたか!?ゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーです!それとトイプードル!盲導犬かもしれませんし、ペットかもしれない!この船に乗ってませんか!?」

「盲導犬なら、さっきオープンデッキに……」

 誰かが上を指した。航はその方向へ走り出す。その間も曹操とパーカーは追手の襟首を掴んで引きずり倒し、足の間をくぐって背後に回り蹴り飛ばす。

「てか、どっから登ればいいんだ!?階段……!」

 クルーズ船など乗ったことのない航は某映画の豪華客船を思い出そうと記憶の中を探り出すが全くわからない。たぶんどこか端に階段があったような気がする程度だ。でなければなんか真ん中にダンスホールみたいなオペラハウスみたいなのがあって、螺旋階段みたいなのがあったようななかったような……。思いながら航が船の内側をぐるりと囲む大きな窓ガラスの方を見ると、サングラスをかけた男性の横に立つ、見慣れない恰好をしたリクと目が合った。

「リク!?」

「お兄ちゃん!」

 航を見つけたリクは叫ぶと、男性を振り払い走り出した。

「リク!……ってなんだおまえその恰好!?」

 船首の方から現れたリクは赤いシマシマの長袖の服を着せられていた。

「ダッサ」

 思わず航は言ってしまった。たしかにおまえを探しには来たのだけれど。

「おい!待て!こら!」

 追って来た誰かを振り返り、リクは航に駆け寄りながら叫んだ。

「お兄ちゃん!こいつら目え見えてる!」

 迫るリクを飛び越した曹操はそのまま、リクを追っていた男性のかけていたサングラスをひっかけて落とす。その勢いで男性の肩を蹴り飛ばし倒すと、眼前に静かに顔を突き付けた。

「ひいいいいい!」

 リクを追って来た男性は目を見開いて曹操を凝視する。

「な、なんでシェパードが船に乗ってるんだ……!」

「なんでシェパードってわかるんです?」

「だっ……!?」

 男性は航と、その後ろに迫る船員たち、そして警察官に絶句した。


「カイは!?」

「カイくん!?なにそれその顔!どうしたの!?」

 航がリクに訊くと同時に下から美馬の悲鳴が聞こえた。

 航は慌てて下を除いたがあまり様子がよく見えない。美馬の近くで誰かが何人かの男に取り押さえられているようだが、よくわからない。焦りながらまた全力疾走で階段を駆け下りる。事情が伝わったのか、もう航たちを邪魔する者はいない。

 心配そうな顔をする美馬の前に、やっぱり変なフードの付いた青いシマシマの長袖の服を着た見覚えのある後ろ姿があった。あの後ろ姿はまごうことなき航の弟のひとり。

「カイ!」

 だが振り返ったそれを見て航は悲鳴をあげた。

「なんだそれおまえ!?」

 カイの顔は真っ白だった。長袖の先から出た手足も。

 カイの顔はこの上もなくしょぼくれていた。


「変な粉かけられたのか!?変な粉かけられたのか!?」

 我を忘れて絶叫する航を警察官たちが押さえながら「違いますよ」と宥めた。

「なんか……、白いラブじゃないとだめだからって言って……。小麦粉かけられた……」

 不貞腐れたカイがぼそぼそと話す。

 航はぴたりと暴れるのを止めた。

「よ、よかった……」

「よくないよ」

 カイがじろりと睨む。

「そうだよなー!よくないよなー!」

 気が抜けた航はへなへなと座り込みながらカイと、寄って来たリクを両脇に抱き締めた。

「よかったー……、ホントに無事でよかった~……」

「よくないよ。もうちょっと早く来てよ」

「いやもう、ホント、どんだけ大変だったと思うんだ、ここまで来るの……。もう、勝手な真似はやめてくださいね、キミたち……。お兄ちゃん寿命が縮んだよ……」

「おれらだって大変だったんだよ」

「そうね、そうね。顔真っ白にされちゃったもんね」

 航は笑いながらカイの顔を手で拭う。

「ケツの穴にもなんか入れられてるし」

 航の手が止まった。

「はい?」

「なんか寝てる間に入れられたらしくてさー。むずむずするんだよね、ケツの穴の中」

「はい?」

 航は目が点になっている。

「ウンコしていい?」

「え!?」

 航はおおいに慌てた。

「ここで!?今!?」

「出したい」

「もう出る」

「待て待て待て待て!」

 リクとカイがしゃがみ込んだとき、電話をしていた美馬が振り返った。

「天道さん!ショージとフスマは空港みたいです!あら?」

「見ないでー!!見ないであげてー!!」

 悲痛な叫びと共に、航はリクとカイを美馬の視線から背後に庇った。犬なのに。





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