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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・3


「気にしなくていいのに、私たちあなたにどう感謝の気持ちを伝えればいいの?ほかに欲しいものは何かないかしら?もしかしてこの子?そうね、娘も年頃だしとても可愛いからあなたがお望みになる気持ちもわからないでもないけれど、こればかりは本人の気持ちが一番大事だからお礼として差し上げるにはいささか親として気が引けるのよ。そうだわ、こちらのマンションにお住まいなら毎日娘の手料理でも食べに来て気長に口説いてみてはどうかしら。口説き落とせるかどうかはさて置いて、食費が浮くことがお礼の代わりにならないかしら。いい考えだと思うのだけどいかがかしら。では心置きなく食べにいらしてね。母親公認なんだから遠慮なんてすることはないわよ。もちろん犬も連れて来てちょうだい。娘は犬のごはんも手作りするからきっと犬たちにも喜んでもらえるわ。いかがかしら沁。あなたも親切でやった入院費の支払を断られて気にしているんじゃないの?手料理をご馳走すればちょっとは胸が治まるんじゃない?そうでしょう?そうね、いいわよね。では遠慮なく食べに来てちょうだい」

「来ませんよ」

 お礼と言われた黒いカードを返した後「何故?」と言わんばかりに眉をひそめた美馬母は、立て板に水というか滝の勢いで一気に喋ったのだが、航は冷静にひと言で返した。

「堅物ねえ」

 ちょっと薄ら笑いながら言う美馬母に、航の目が座った。

「からかってますね?」

「ねえねえ」

 美馬母は航の方に身を乗り出した。そしてテーブルの真ん中の菓子鉢に盛ってあった一口サイズのチョコレートを一粒親指と人差し指で挟むと、ぱっと手のひらに握りこんだ。

「どーっちだ」

 握りこんだ両手の拳を航の前に突き出し、チョコレートがどっちに入っているかと訊いてくる。

 突然のどっちだ大会に航は途轍もなく怪訝な顔をしたが、今の今まで威風堂々していた美馬母が少女のように無邪気に訊いてくるのでなんだか拒絶し損ねて、「こっち」と右手を指してしまう。

「ぶー。はずれー。じゃあじゃあ今度は?」

 きゃっきゃと喜びながら両手を開き左手に入っていたチョコレートを見せると、また同じようにチョコレートをひょいと放り投げ、どちらかの手のひらに包み込む。

 すぐ目の前の至近距離だし、一口サイズとはいえまあまあ大きさのあるチョコレートを見失っていたことに航は驚き、「ええっ!?」と身を乗り出して凝視してしまう。そして左手を指す。

「ぶっぶー。こっちでしたー。じゃあじゃあもう1回!はい!」

 再再度握りこまれた拳を凝視し、「えええええ~!?」と航は悩む。たしかにチョコレートが握りこまれた方を指しているのだ。なんでこんな距離で間違えるのだ。右。

「ぶっぶっぶー。こっちでしたー」

 美馬母は手のひらを開くと左手にあったチョコレートを摘まみ上げ、袋を開けて口に放り込んだ。航は「えええ~」とひたすら驚いている。

 美馬母は、曹操とパーカーにおやつを食べさせている美馬の方へ首を伸ばして言った。

「ここちゃん、違うよこの人。小次郎じゃないって。小次郎はこういうの百発百中だったもん」

 美馬母の手とチョコレートを見比べていた航は一瞬で素面に戻った。

「おい」

「もう、やめてよお母さん、天道さんからかうの」

 美馬はぷりぷりと怒りながら立ち上がるとテーブルの方へやってきた。

「そういうんじゃないの。鼻とか耳とかが犬じゃなくって、天道さんは犬の言葉がわかるの」

 言葉がわかるとかそういう次元じゃないんですけどと脳の片隅で思いつつ、もう片隅では母娘で人を肴にどんな話してんだと航は思う。

「犬の言葉なんて、ねえ?犬好きだったら、ねえ?」

 いちいち航を見ながら相槌を求めてくる悪い顔をした美馬母であるが、ということは一応小次郎の生まれ変わり説は否定してくれているのであろうと、航も一緒になって「ねえ」と頷く。

「それに……、夜の散歩も心配してついてきてくれるし……」

 ぽっと頬を赤らめながら横をうつむく美馬である。

「あんたそれ、普通の男にやったら気があると勘違いされるからやめなさいね。幸い天道くんは犬バカっぽいから小次郎を想像してあんたが照れてるってわかってくれてるからいいようなものだけど」

 真面目な顔をして説教を垂れる美馬母に、さすがお母さん、美馬さんのことをよく理解していらっしゃると航は感心する反面、何故自分まで『娘に無害な犬バカ』扱いされているのかと少々疑問を感じる。

「ごめんなさいね、沁がなんか変なこと言い出しちゃって。この子こういうとこあるけど悪い子じゃないから、これからも仲良くしてやってね」

 美馬母は出会いがしらの厳しい表情とは打って変わって柔らかいような情けないような顔をして航にほほ笑みかけた。

「ご飯、毎日じゃなくてもいいからたまには一緒に食べてあげて。一人はやっぱり寂しいから。これはお礼とかじゃなくて、お母さんからのお願い」

 美馬母はニコリと笑ったかと思うとすぐににやりと口角を上げる。

「あなたは大丈夫だと信じてるけど、もし万が一うちの娘にオイタしようとしたってボディガードいるからね」

「今、あんなんですけど?」

 包帯にぐるぐる巻きにされベッドに横たわるふたりを指さして航が美馬母を見ると、美馬が声を上げた。

「曹操とパーカーが立った!」

 ふたりはすっくと立ちあがり、航を睨んでいた。





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