犬がすっかり兄弟になりまして・27
「犬をなんだと思ってるの!?人間以外なら何やってもいいと思ってるの!?しかもなんの関係もないリクくんとカイくんまで巻き込もうとしてたなんて!!どういうことお母さん!!」
先に全部美馬に言われ、かえって冷静になってしまった航は美馬の後ろでそうだそうだと頷くしかなかった。まるっきり虎の威を借る狐状態である。
美馬にはなんの責任も無いことはわかっていたが、少々怒りに任せて美馬の母親の所在を語気粗く聞いたところ、美馬のマンションまで車を飛ばしてくれたのだ。
「いや、だから、リクくんとカイくんにはお願いしないから。天道さんにも言ってないはずよ?」
「藍沢さんに聞きました」
航の言葉に美馬母はちっと舌打ちする。
「あのバカ余計なことを」
「ショージとフスマの件も断ったよね!?」
「あの子たちは仕方ないでしょう、関係してるんだから。それに命に関わらないようにちゃんと対策してるから」
「せっかく救い出したのに、また危ない目に合わせる気!?やっと私たちにも心を開いてくれるようになったのに!」
「短期間で解決するようにちゃんとこっちも手を打ってるから」
「ちょっと待ってください。ショージとフスマもってどういうことなんですか?」
延々続きそうな母娘喧嘩に、とうとう航は割って入った。
「天道さんは気にしないでいいのよ。これはこっちの」
「母はショージとフスマをおとりに使おうとしてるんです!」
「はあ?」
航はあんぐりと口を開き、美馬母は思い切り眉を顰めた。
「沁。捜査に関わることは部外者には言わないで」
「天道さんはこの件に関してはもう部外者じゃないわよ!リクくんとカイくんまでおとりに使おうとしたくせに!」
番犬の剣幕で美馬はまくしたてた。
「だからもうそれは」
「ショージとフスマを誘拐した犯人がまた取り戻しに来るはずだから、家に連れ帰らないで夜も施設に置いとけって言うんです!しかも誘拐されやすいように、警備をゆるゆるにしろって!信じらんない!」
「はあ?」
怒りのこもった「はあ?」である。
「それもショージとフスマだけじゃなくって、一緒に保護されたゴールデンやラブもいたら向こうも信用するはずだから、リクくんとカイくんをルイくんたちの代わりに一緒に施設に預けろって!」
「はああ?」
怒りを通り越して呆れの「はああ?」である。
「もう、だからリクくんとカイくんにはお願いしないって言ってるでしょう?そもそもカイくんの色が違うから犯人も騙されてはくれないでしょう」
うんざりと美馬母は言う。
「だいたいなんで悪徳ブリーダーの犬誘拐事件にそんなにこだわるのよ!おとりまで使って!そりゃあ犬の誘拐なんて許されることじゃないし、悪徳ブリーダーなんて全滅すればいいけど、おとりまで使う!?そもそもそれってお母さんの仕事じゃないでしょう!?」
「そうなの。お母さんの仕事じゃないの」
あっさりと美馬母は認めた。
「じゃ、なんでよ!」
「あなたが預かってるからでしょ、あの子たちを。説得してくれって頼まれたのよ」
「誰に!?」
「そっち関係の人に」
「犬がいなくなったときは探さなかったって水口さん言ってた!」
「そうよね~、あの時はね~」
「じゃ、どうして今になって!?」
「あ」
思い当って、航は思わず声を出した。もしかしてそれはルイが言っていたクスリ関係の話では……。だが、犬たちが保護されて受けた血液検査ではなんの異常もなかったと聞いた。なのになぜ警察は気づいたのか。航はもしかして、と思う。
「あの、それって、僕が撮っていたスマホの動画に映ってたものと関係ありますか?」
「……何か気づいたことでもあるの?」
片眉を上げる美馬母に恐怖を感じる。
「いや、あの、なんでもないです……」
気づいたところで黙っておけということであろう。航は口を閉じた。
「何が映ってたんですか?」
美馬が気にして航に確認するが、「なんでもないです、気のせいでした」と航は答えるしかない。
「とにかく、ショージとフスマは今日から夜も保護施設の方で面倒見てもらいなさい。連れ帰るの禁止よ」
「なんでそんなことお母さんに決められなきゃいけないの。あそこの責任者は私よ!」
「あなたには曹操とパーカーが付いてるからショージを奪いに誰かが押し入って来たとしても大丈夫かもしれないけれど、もう一人のスタッフは?フスマを連れ帰ったスタッフのところに賊が押し入ったらどうするの?」
「警察が助けてくれるんじゃないの!?」
「そんなにあっちにもこっちにも人員割けないわよ、いつどうやって来るのかわからないのに。来ることだけはわかってるんだから、だったら一か所にまとめて一網打尽にした方が効率良いでしょ?」
「勝手すぎる!」
「とにかく。今日中に正式に協力依頼が来ると思うから、素直に従ってちょうだい。信じて。絶対犬たちを危険な目には合わせない」
美馬の手を取って力強く言う美馬母の目を、キッと美馬は睨んだ。
「心配させてごめんなさいね。リクくんとカイくんには迷惑かけないから」
気にせず美馬母は航にほほ笑みかける。
航は全然腑に落ちていなかった。




