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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・24


 ドッグランに行ってすぐ水口に捕まった。

「ねえねえねえ天道くん。これどう?ショージだと思う?」

 水口に差し出されたタブレットにはまさしく『ショージ』が映っていた。しかも名前が

「あ!ほら!やっぱり『コハク』じゃん!」

「え?なに?名前知ってたの?」

 驚く水口に航はまくし立てる。

「俺、言ったんですよ昨日!美馬さんに!この子の名前『コハク』だって!」

「なんで名前知ってたの?」

「だって本人……!」

 思い切りいぶかしがる水口の冷たい視線に気づいて、航は慌てて口をつぐんだ。

「……めっちゃ琥珀色じゃないっすか!」

 苦しい!航は血を吐きそうになりながらも「毛とか!目の色とか!」と言いつのる。正直琥珀色がどんな色なのか全然知らないが、とにかく誤魔化すしかない。

「琥珀色……。なかなか詩人だねえ、天道くん」

 一見切れ者のようだが、どうしてこう水口は航の言い訳をすんなり聞いてくれるのか。ありがたいやら申し訳ないやらで、航は冷や汗をだらだら流す。

「いや、間違いないっすよ、『ショージ』です『ショージ』」

「じゃ、これ『フスマ』?」

 水口が画面に出したのは見覚えのない女性。水口が『フスマ』というからにはきっとトイプーで、航の目にヒトとして見えるということは、あの繁殖場で会ったことがある犬ということだ。

「この子もあの繁殖場から保護した子なんですよね」

「うんそう」

「あの繁殖場から保護したトイプーって何頭いました?」

「6頭だね」

 ということは、もうわかってる『ショージ』を外して確率は5分の1。

「う~ん、ちょっと自信ないです。間違えてたら申し訳ないし」

「さすがの天道くんでもわからないことあるんだ」

 意外な顔をする水口に航ははははとカラ笑いする。

「やだなー、たまたまですよ、たまたま」

「ゴールデンとラブは百発百中だったじゃないの。やっぱり飼ってる子と同じ犬種には愛情が違うんだねえ」

 ひたすら感心する水口にリクとカイは口を揃えて言った。

「なにせ兄弟ですから」



「ライくん!ライ!立て!stand!」

 アジリティのあるランへ行くと、胡坐をかいて耳をほじっているライを露口が怒鳴っているところだった。

 ライは航の姿を見つけると、すぐさま立ち上がって満面の笑みで駆け寄って来た。

「アーニキー!」

「待て!」

 同じく走り出そうとしたリクとカイの首根っこを掴み、顔はライの方を見たまま航は叫んだ。つまりこの「待て」はライだけではなくリクにもカイにも言っている。なので3頭とも一応ぴたりと止まった。一応とは、リクとカイはライを睨んだまま、ライは航を見て笑ったままとりあえず金網に張り付いている状態だからだ。

「ライ!おまえはまず露口さんの言うことを聞け。リク、カイ。なんでそうライに突っかかるんだ?とりあえずこっちで待ってろ、おまえら」

 航はリクとカイを引っ張ったまま大型犬用のランに入る。

 ライは露口の方を振り返るとへらへら笑ったまま訊いた。

「行っていい?いいよね」

「ライくん!come!」

 comeと言いながら駆け寄ってくる露口を無視し、ライは金網を上ろうとしていた。

 大型犬用のランに入れられたリクとカイは扉から出て行こうとする航の前に立ちはだかる。

「なんでお兄ちゃんあっち行くんだよ!」

「頼まれたんだよ。聞いてただろ、このあいだの美馬さんの話。ちょっとライと露口さんと話してくるだけだから」

「いいじゃん、ほっとけば!ライと露口さんの問題じゃん!」

「……元カノとその彼氏の別れ話に首を突っ込む彼氏を止める今カノみたいなこと言い出したな、おまえら。どうした?」

 若干引いている航の袖を、リクとカイが引っ張った。

「なんでライばっかり相手にするんだよ!おれらのお兄ちゃんだろ!」

「うっわ、マジでめんどくさいこと言い出した。どうしたどうした」

 気味が悪くなって航は少しのけ反る。

「おれらより運動神経の良いライの方が大事なのかよ!?」

「言うこと聞くライの方が一緒にいて楽しいのかよ!?」

「そんなイエスマンの犬のどこがいいんだよ!?」

「どこがイエスマンだよ。世界一マイペースだわ、あいつ」

 さすがに冷静になって航が言うと、ぶうたれたリクとカイは航の袖を放した。

「……露口さんの気持ち、なんとなくわかるんだよね、おれら……」

 項垂れたリクがぼそぼそと話し始めた。

「火事のときもライが最初に外に出たし。遠くまで行っておまわりさん連れて来たのもライだったし。曹操とパーカー助けたのもライだったし……」

「なんだって先回りして、人間の役に立ってる」

 カイがぽつりと付け加える。

「まあ、つまり、俺の言うことは聞いてないのよ?あいつ」

 ライが絡んでくるので航が指示しているように見えるのだろうが、実際航は何もしていない。ライは自主的に動いている。人、それを勝手と言う。

「でも、お兄ちゃんだって、人間の役に立つ犬の方が好きでしょう?」

 おずおずと上目遣いで航を見るふたりに、航はなんとなく察した。今までこんな感情は誰からも寄せられたことがない。女性からも、友達からも。航から見たら実質デカい成人男子から寄せられる感情にしては少々重く気持ち悪いはずだが、その実犬とわかっているからであろうか。やぶさかでない。だがやはり、はっきりその想いに答えてやるには照れが少々邪魔をする。

 航はリクとカイの頭にそれぞれ手を置いた。

「いや」

 そして赤くなりながらもぽんぽんと叩いた。

「おまえらの方が……」

 リクとカイの目が輝いた。そのキラキラとした少女のような目がどんなひと言を待っているのか航にもわかる。わかるけど、おまえらは決して少女でもないしいたいけな少年でもない。そして残念ながら犬でもない。

「役に立つとか立たないとかじゃなくて、おまえらの方が……」

 航は言葉を探す。言った方がいい言葉、期待されている言葉はわかっているが、非常に言いにくい。でもリクとカイは心なしか1歩近づいて来ている。

「……おまえらの方が家族だから、全然、……大事」

 リクとカイの眉が悲しく下がった。

「兄貴ー!おれのことは好きー!?」

 金網越しに叫ぶライに、航は叫び返した。

「うるせー!おまえのせいで変な三角関係みたいになってんだ!黙って露口さんの言うこと聞けー!」

 

 





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