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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・18


 まずは話を聞き、要点をまとめてから航は美馬にプレゼンすることに決めた。

 次の日も航はリクとカイを伴って保護施設に行った。


 ラブラドールの彼の名前は『ルイ』といった。介助犬の訓練を受けていたそうだ。

 だが活発過ぎて適性がなかったために、一般の飼い主のもとで暮らすことになった。

 しかし面会して決定した飼い主のもとに行くことは無く、気がつけばあの繁殖場にいたという。

「なんで!?」

 驚く航にルイは淡々と答える。

「わからない。明日飼い主が迎えに来ると言われ、寝て起きたらあそこだった。こいつらもそんな感じだ」

 膝を抱える3人をルイは見渡す。

「なんなんだよ……」

 わけがわからず航は混乱する。ただの繁殖屋なら介助犬にこだわる必要はないはずだ。しかもそのやり方はどう考えても盗んだか騙したかして連れて来たものだ。いわば誘拐だ。なぜ問題になってないのか。よく知らないが、介助犬や盲導犬の養育システムってもっとこう、厳重に縦とか横とか繋がってるもんじゃないのか。

「じゃ、おまえ、介助犬の訓練所に入るまで面倒見てくれてた人とか訓練所の先生とかの名前覚えてないの?」

「先生はタチバナ先生だった。飼い主はパパとママとケンちゃんとミナミ」

「パパとママとケンちゃんとミナミ……」

 飼い主とはそんなもの。お父さんとかママとか、親は記号でしか呼ばれないのは人間も犬も同じなのかと航は少し寂しく思う。リクとカイには自分のフルネームを覚えさせよう。

「訓練所の名前わかる?」

「訓練所にも名前があるのか?」

「だいたい場所の名前が付いてると思う。県名とか町名とか」

「けんめい……、ちょうめい……」

「うん。ごめんごめん。難しかったね」

 見た目ヒトなのでついついなんでも理解していると思いがちだが、そこはやっぱり犬。書いてる文字まで読めないし、自分が何県に住んでいるなんてわかるわけがない。むしろ先生の名前を憶えているだけでも素晴らしいことだというのに。試しに。

「リク。おまえ何県生まれだ」

「なに、けん……」

 リクは徐々に徐々に眉をひそめて答えた。

「ゴールデン、レトリバー……けん……」

「上出来」

 航は親指を立て、リクとカイはハイタッチした。

 『犬』が『けん』って知ってるだけでエライ。航は褒めて伸ばすタイプだ。



「タチバナさんという訓練士の方ですか?」

「知りませんか?」

「どうしたんです?突然」

 帰り支度をしている美馬に航は真剣な顔で言った。

「いや、実はですね」

 小次郎の生まれ変わりという切り札を出すにはまだ早い。航は策を練りに練って台本を作り上げた。

「ゴールデンとラブばっかりってなんか変だなーと思いまして」

「そうですね。人気のある犬種ですから、ブリーディングすれば売れると思われたのかもしれないですね」

「で、思い出したんですけどぉ。ちょっと前にどこかの訓練所から犬が盗まれたとか盗まれてないとか……」

 嘘である。

「そこの訓練士の方の名前がタチバナとかなんとか……」

「ええ、あったかな、そんなニュース……」

 大嘘である。そんなニュース、さっきスマホで検索したが見つからなかった。

「ね、あの子たち、おとなしくていい子たちじゃないですか。もとはそんなところから盗まれて来たのかな~なんて」

 苦しい。大嘘過ぎて吐きそうなくらい苦しかったが、航はなんとか誤魔化した。今は苦しくとも、もしその訓練士のタチバナという人物が見つかれば、ルイたちが誘拐された経緯もわかるかもしれない。なにより、決まっていた本来の飼い主のもとへ戻れるかもしれないのだ。

「わかりました。水口さんに訊いてみますね」

「水口さん?」

 受付の水口が事務処理担当なのだろうか。

「言ってませんでしたっけ?水口さんは元訓練士さんですよ。その世界では有名な人です。あっちこっちの訓練所や訓練士さんに顔が利くから、何か知ってらっしゃると思います」

 やべー。と航は思った。タチバナはすぐに見つかるかもしれないが、嘘もすぐにバレる。ねちねち追及されそうだなと航は覚悟した。



「よく知ってたね、その話。テレビでやってたかなあ、全然見なかったけどなあ」

 次の日も保護っ子たちの面会に行くと、水口が航を待っていた。タブレットの画面をスクロールしながら航に見せる。航は余計な返事はせず、あいまいに笑って画面を見ていた。

「あちこちの訓練所やボランティアのところから結構犬がいなくなっててさ。訓練されてる犬だから逃げるわけないって言うんだけど、それだけじゃ盗まれた理由にならないからってなかなか警察も動かなくってね。はい、これ」

 水口が画面を止めて見せたのは、ルイの写真だった。今でこそ鋭い細い目を写真の中では三日月のように垂らし、にこにこと笑っている。環境さえ良ければ、こんな風に笑う子なのだと航は思った。

「間違いないですね」

「さっすが。顔見てわかるんだね」

 なにせヒトなもので。とは言わずに飲み込む。

「立花さんには連絡したから。明日飼い主になる予定だった人と来るって」

 よかったと安堵しつつ、航は水口の持つタブレットを受け取った。全国に渡る行方不明犬の資料は想像したより多い。航はそれをスクロールしつつ、ときどき止める。

「これと、これと、この子。ここで保護してるゴールデンとラブです」

「本当に!?確かによく似てるとは思ったけど。本当?」

「間違いないです」

 ヒト化している顔が同じなので航には間違えようがない。しかも記載されている名前も本人から聞いた名前と同じものだ。水口には説明しようもないが。

「一応、明日訓練所に連絡してから確認しようと思ったんだけど……」

「大丈夫。間違いないです。すぐ迎えに来てもらってください」

 無駄足を踏みたくない踏ませたくない人間の気持ちもわかるが、彼らには早く安心してもらいたい。安心して、落ち着いた生活を取り戻して、幸せになって欲しい。

 犬が幸せになってくれるのなら、犬の言葉がわかる変な人扱いされても別にいいかなと航は思い始めていた。

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