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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・17


「あの、美馬さん」

 帰り支度をしている美馬を航は呼び止めた。

「はい?」

「血液検査とかしたんですよね、あいつら」

「はい。どうかしたんですか?」

 どういったらいいものかと航は悩んだ。クスリを飲まされたり打たれたりしてたらしいですよ、あいつら、と言いたいのはやまやまだが、それを犬に聞きましたとはとても言えない。よしんば自分のことを小次郎の生まれ変わりだと思っている美馬なら信じてくれるかもしれないが、それはそれで厄介である。

「いや、なんかほら、変な薬物反応が出たりとかしたかなーって」

 しどろもどろに言う航に美馬は一瞬キョトンとしたのち、大声で笑った。

「やだー、天道さん。何言い出してるんですか、いきなり」

「いや、ほら、あの、うちの子たちが!うちの子たちがですね!なんか最初、人間の薬かなんか飲まされてたらしくて!」

 美馬は驚いて航を見た。

「え。リクくんとカイくんのこと、何かわかったんですか?」

「このあいだ実家に帰ったとき、両親が散歩してたときの犬友さんたちに会って、昔の話を少し聞いたんです。そしたら、両親がリクとカイを預かってすぐに行った病院で、病気じゃなくて薬物中毒起こしてたって言われたって」

「薬物?」

 美馬の眉間が寄る。

「はい。病気になったからって、適当に人間の薬でも飲まされたんじゃないかって言われたらしいんですけど……」

 言いながら航はあれ?と疑問に思い始めた。頭の中で奇妙な線が繋がり始めている。

「たしかリクくんとカイくんって、あの繁殖場から来たかもしれないっておっしゃってましたよね?」

 美馬の視線がいつになく真剣で、航の語尾は力なく消えかかっていく。

「……そうなんですよね~……」

 そしてはたと振り返る。後ろでカイがうつむき、そんなカイをリクが心配そうに見ている。

「お母さんだったのかな……」

 小さく呟くカイを、航は慌てて抱きしめた。

「違う違う!時期的にたぶん違うだろう!おまえのお母さんはきっと誰かに貰われて行ってるって!」

 苦し紛れのウソだった。

「……姉妹かもしれない……」

「そうとは限らない!」

 何ひとつ慰めにならない。わかっていてもカイの悪い予想を、ひとつひとつ否定していくことしか航にはできなかった。

「どうしたんですか?具合悪くなったんですか?」

 元気のないカイを抱き締める航に、美馬が心配そうに寄り添う。薬の話をしたので具合が悪くなったと思われたのかもしれない。

「いえ、ちょっとあの。……保護っ子たちの姿を見て、悲しくなったんだと思います……」

 美馬に背を向けたままカイを抱き締め、あながち嘘でもないことを言って航は誤魔化す。

 リクとカイが最初に中毒を起こした薬は本当に人間の薬だったのか。人間の薬ってどんな薬だったのか。お腹に何かを詰められたラブラドールはカイと関係はあるのか。

「とりあえず帰ろう」

 航はぽんぽんとカイの頭を叩くと、車へ向かった。

 マンションに着くまで、リクはずっとカイの頭を抱き締め、撫でていた。

 たぶんそれがカイの母親でなかったとしても、あんな環境ではどんな最期を迎えたのかわからない。それはリクの母親でも同じだろうにと航は思った。



 薬の実験など素人がやっていいはずがない。製薬会社とかちゃんとした研究所でやるもんじゃないのか?航はネットで検索する。検索すればするほどヤバい話しか出てこない。

 そういえばとあのときスマホで撮影した動画を観ようとして思い出した。藍沢が警察に見せたら、証拠品として押収すると言って航のスマホのデータは消されたのだ。もしかして、なにかヤバいものでも映っていたのか。

 航は記憶の中を探り出す。

 ドアを開け、事務所らしきところへ入ってすぐに撮影を始めた。事務机や椅子があって、簡単な台所みたいなものもあったはずだ。先に進むと左側にビニールのカーテンみたいなのがかかってる部屋があって、右側には青いランプが点いてる部屋が……。あれ?なに?理科の実験室みたいな……。

 なに?

 航は目を開け、ふるふると首を振った。

 想像である。しっかり覚えているわけではない。薬の話など聞いたから、なんとなくイメージしてしまったに過ぎない。

 そもそももし本当に犬たちが実験に使われていたのなら、健康診断のときになにか異常が出ているはずだ。だが美馬からは微塵もそんな様子はうかがえない。一般的な保護っ子としてケアしているし、なにか大きな問題のある子であれば、それこそ素人の航の手を借りるはずがない。

 だが。

 犬が。航にはしっかりヒトに見える犬が。薬の実験台にされたと言った。

 心も体も傷ついている犬たちが、航に、殺されそうになった経験を告白した。

 それは。黙って見過ごすわけにはいかないのでは。

 でもどうやって美馬に伝える?

 美馬に伝えて収まるか?これはもっと大きなどえらい問題なのではないか?

 でもどうやって?

 いっそ小次郎の生まれ変わりになりすますか?そしたらまずは美馬ぐらい話を聞いてくれる?

 いや、だめだろう。美馬は聞いてくれても他の人の信用を失う。

 ていうか、全然まるっきり一般人の航が関わっていい問題なのか?

 一般人がどうこう言って信じてもらえるレベルの話か?

 犬がヒトに見えて、ヒトに見える犬と会話できて、ヒトに見える犬が薬の実験台にされてますって言ってますって。

 だれにどう説明すればいいのか。

 航は途方に暮れた。




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