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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・10


 ふと、犬友さんならリクとカイが両親のもとへ来たいきさつを知っているのではないかと航は思った。

「あれ、お兄ちゃん聞いてなかったとね?」

 ふたりの犬友さんはとても意外そうな顔をした。

「なんか、山に山菜取りに行ったらいきなり人が出て来て『犬を貰ってください』って押し付けられたて言いよんしゃったもんね」

「そうそう。断ったらたぶんその辺に捨てるんだろうなーって雰囲気だったからって、すごく弱ってる子犬だったけど引き取ったって。で、そのまま病院に連れて行ったら、ね?」

 思い出したご婦人たちは頷きあう。

「中毒かなんかやったってねえ」

「中毒?」

 驚いて航が繰り返すと、ご婦人は頷いた。

「そげん。なんの中毒かお医者さんでもわからんかったらしいけど、飼い主が適当に人間の薬ば飲ませたんやなかろうかーって」

 健康診断か、もしくは子犬特有の病気かなにかで病院に行っていたものと思っていた航は、まったく予想だにしていなかった診察理由に驚いていた。



 夜遅くマンションに着いたが、次の日の朝も結局早く起きる。なぜなら飼い主は犬の散歩の都合に合わせなければいけないから。ヒトのなりをしているのだから少しは慮れと航は週末の朝を迎えるたびに叫びたいが、本犬たちはヒトのつもりなど微塵もないので構わず航の上で起きろ起きろと飛び跳ねる。重さ的には犬と変わらないのだが、なにせヒトに見えるので十分に内臓が口から出そうなくらい重く感じる。いやもとい。犬としても充分重いゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーであった。

 どすんどすんと航の上に乗ってきて、それでも航が起きないと家中を走り回り出す。勘弁してほしいのだが、腹の上にふたりで乗って来るから鳩尾をやられてしばらく起き上がれないだけで、わざと起きないわけではないのだ。なのにふたりは不貞腐れて、仕返しとばかりにソファーの上もテーブルの上もばたばたと全速力で踏み散らかす。ヒトのなりでテーブルの上に上がるのだ。それが成人男子のやることか、腹立たしい。

 鳩尾を撫でさすりながら洗面所に立ち、歯を磨いてえずきながら静かに二度寝が出来ていた休日の朝を回顧する航であった。

 午前中は溜まった洗濯物や掃除、買い物や平日のための犬用レンチンチキンなどを作る。学生時代から一人暮らしをしているとはいえ、もはや主婦の域ではなかろうかと航は思う。たぶん友達や凝った趣味などあればこれほど家事に時間をかけることもなかったかもしれないが、あいにく親しい友人たちは皆県外だし、これといった趣味もない。そう考えると、今こうして手間暇をかけさせるリクとカイは案外自分の良い趣味なのかもしれないと航は思っていた。

『こいつらのおかげで実家にも帰るようになったし……』

 両親が生きてるうちにリクとカイがいることを教えてくれれば良かったのに、とちょっと恨み節も出たりした。


 昼食も済ませ、天気もいいのでのんびりと歩いてドッグランのある美馬の保護施設へと向かう。広い駐車場も完備された保護施設だが、休日ともなると利用者も多く、タイミングによっては満車のときもある。暑い夏より寒くなりかけの今の時期の方が利用者は多いのではなかろうかと航が思っていると、案の定駐車場には多くの車が停まっていた。

「オフ会かなんかあってるんですか?」

 入ってすぐ航は受付の水口に声を掛けた。

「保護犬の取材だよ。火事のやつの」

 あー、と航は間延びした声を出した。

「一応、天道くんのことは何も言ってないけど。インタビュー受けたかったら記者呼ぶけど、どうする?」

 人の悪い顔で水口が言う。

「やめてくださいよ」

 ごめん被るとばかりに顔をしかめる航に水口は笑った。とはいえ、営業先では田嶋が吹聴して回っているのだが。

「ニュースになったんだったら、すぐ飼い主候補者とか見つかるんじゃないですか?有名になると、うちで飼います!って手を上げる人いっぱいいるって聞きましたよ」

「おかげさまで問い合わせがいっぱい来てるねえ」

 シラジラと水口が言う。

「あんまり乗り気じゃない言い方ですね」

「うちはミーハーなお客様はお断りなんでね。面会の手間がやたら増えただけだよ」

「出会いは多い方が幸せも掴みやすいかもしれませんよ」

「なにその出会い系アプリみたいなキャッチコピー。なに?やってんの?」

「やってませんよ。今はリクとカイで手いっぱいです」

「おまえら、兄貴のモテない言い訳にされてるぞ」

 リクとカイを見て言う水口に、リクが言った。

「大丈夫。お兄ちゃんには美馬さんがいるから」

「おいおいおいおいおい。誤解を招くようなことを言うな」

 水口がリクの言葉を理解してないことはわかっているが、航はうっかりはっきりリクに突っ込んでしまった。水口は気にすることなくリクに答える。

「なんだなんだ。兄貴、実は本命がいるのか?」

「美馬さんだよ」

 答えるカイの口をぐいと航は押しやる。

「やめろと言ってるだろが」

「ちょっちょっちょ。せっかくカイくんが教えてくれようとしてんのに、なあ?」

 水口は笑いながらカイの口を塞ぐ航の手を掴む。

「こいつらの話は聞かないでください。いい加減なことしか言ってないんで」

 真面目に言う航に、水口はますます笑った。

「ホント、天道くんたちは本物の兄弟みたいだよなあ」



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