チートスキルは発動しなかった
少しでも笑っていただけたなら、嬉しいです。
俺は異世界に転移した。
そして、この世界を司る女神様から、チートスキルを授けられた。
その名も──「深淵の破壊者」。
どんなモンスターでも一瞬で消し去る、究極の破壊スキルだ。
ゴブリン? オーク? 魔王? 関係ない。
一瞬で跡形もなく消し飛ぶらしい。
……らしい、んだけど。
このスキル、実は不遇だった。
というのも、発動条件が意味不明すぎる。
その条件とは──
「スキルを発動させたいモンスターを、倒すこと」
は?
意味、分かる?
俺は分からない。
だってそれ、スキルを使う前に倒してるじゃん!
結局、地力で倒してるじゃん!
何のためのスキルなの? いる? これ?
「不遇だけど、使い方次第で最強になる」みたいなスキルならまだ分かるよ。
でも俺のスキル、使うことすらできないんだよ!?
女神様は──いや、もはや女神なんて呼ぶ気にもなれない。
あの女は、何の説明もせずにこう言ったんだ。
「じゃあ、頑張ってね~! 私はこれから南国の島に旅行だから~」
……消えた。
ふざけんなよ!
南国で日焼けしすぎて「痛っ痛っ」って悶絶しろ!
変な形の日焼け跡が残れ!
そんなことを考えていたら、モンスターに遭遇した。
三匹のスライムだ。
俺の装備はTシャツに短パン、足元はサンダル。
完全に、異世界、いや「この世界」をナメてる格好である。
……まあ、でもスライムなら素手でなんとかなるっしょ?
よし、やってみるか!
──数分後。
俺はスライムにボコられた。
……ヤバい。マジでパネぇ。
連携力、素早さ、攻撃回避能力、全部高すぎる!
こっちはパンチすら当たらず、体当たりを二十発くらい食らったわ……
でも、スライムたちは満足したのか、去っていったから助かった~。
粘液まみれにならなかったのも、不幸中の幸いだし……。
でも、ヤバくない!?
最弱モンスターすら倒せないって、俺どうやって生きていくの!?
異世界──じゃなかった、「この世界」で生き残れんの、俺?
とりあえず、村とか町に行こうか?
でも今いるのは森の中。どっちに行けばいいかも分からない。
木が高すぎて視界ゼロ~。
ランドマークもな~い。人の気配もな~い。
てか、この世界に人間、いるの?
モンスターしかいない世界だったりしない?
俺、何のために呼ばれたんだっけ……
魔王を倒すって話だった?
魔王、そもそも存在する?
女神、説明なさすぎだろ……!!
どうすんの!? 俺、どうすんのマジで!!
呼び出しといて放置って、マジ鬼!!
女神、いやもう、「女鬼」だよ!!
放置系RPGってあるけど、
その放置とは違うんだよ……
はぁ~~……
俺、これからどうするんだよ……。
とりあえず、「アビス・ブレイカー」について考えてみるか……。
発動条件
「スキルを発動させたいモンスターを、倒すこと」
だったな……
これって、もしかして、謎解きみたいな感じ……?
「発動させたいモンスター」
──もしかして「種類」って意味?
例えば、スライムを一体でも倒せば、以降はスライム全般にスキルが効くようになるとか?
おっと、おあつらえ向きに、スライムがいらっしゃったぜ!
しかも、一匹!
やるしかない!!
──数分後
パネぇ…… マジ、パネぇ……
一匹でも、強えじゃん!
体当たり十発くらい食らったんだけど……
そもそも、スライムって元の世界だったら何?
素早くて、体当たりしてくる動物……
ん、イノシシか……?
イノシシは、厳しくない?
素手で倒すの、厳しくない……?
ん~、スライムを倒すのは諦めよう!
だって、絶対違うじゃん!
そんな発動条件なわけないじゃん!
魔王と同種って何だよ!
そんなやついるわけないじゃん!!
違う方向から考えてみよう……
そもそも、「倒す」の定義は?
「倒す」って、「やっつける」以外に「立っているものを横にする」みたいな意味もあるよね? 「押し倒す」みたいな……。
え?
それじゃね?
気づいちゃったよ、俺!
天才じゃん!!
……いやいや
違くね…… スライムを横に倒すって、どういうことよ?
足で立っているヤツなら分かるけど……
あんな丸くて、
プルプルしてて、
形状が変化するヤツ……
どういう状態だと、
「横に倒れた」って認定されるの?
やっぱ、これも違うっしょ……
そう言えば、
「倒した」って、どの状態?
「相手が負けを認めた」なのか……
「息の根を止めた」なのか……
いや、それよりも重要なのは──
「誰が倒したと認定するのか」
もしかして、俺が倒したと思い込めばよいんじゃない?
キタ、キタ、キター
それだよ、それ!!
女神は旅行中だから、
俺の戦闘をいちいち見ているわけがない……
そうなると、
「倒した」と判断するのは、スキルの所有者……
俺しかいないじゃん!!
おっと、
またまた、おあつらえ向きに、スライムが一匹いらっしゃったぜ!!
今度こそ、やったるぜ!
お前は、もう死んでいる……
お前は、もう死んでいる……
お前は、もう死んでいる……
よし、発動せよ!
アビス・ブレイカー!!
シーン……
──数分後
パネぇ…… マジで、パネぇ……
また、スライムにボコられたし……
アビス・ブレイカーも発動しなかったし……
「アビス・ブレイカー!!」とか言っちゃって、何も起こらないとか……
恥ずかし過ぎ!!
顔から火が出ちゃう……
顔から「ファイアストーム」だよ……
その後も
俺は考えられる様々な方法を試したが、
「アビス・ブレイカー」は発動しなかった……
──十年後
俺は最強の格闘家となり、魔王を瞬殺した。
もしかしたら、
「どんなモンスターでも瞬殺できるほど、俺が強くなること」──
それが、
アビス・ブレイカーの本当の効果なのかもしれない……
その時、女神が現れた。
え?
魔王を倒すまで、時間がかかり過ぎ?
なぜ、「アビス・ブレイカー」を使わなかったのか……?
いやいや
だって、発動条件がワケわからんでしょ!
「スキルを発動させたいモンスターを、倒すこと」って!
え?
発動条件を間違って伝えてた……?
伝えていたのは、ドロップアイテムを増やすスキルの発動条件だった……?
……ま、マジかよ。
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