無能な王妃の昔の話:奔放な令嬢による王子再教育事件
無能な王妃様シリーズ4作目です。文章の練習として、1000文字縛りでやってます。
「叔父上に説教された」
まだ子どもの王子は、不満げに従者の伯爵令息に言う。
ここは婚約者候補の居城の庭園。
親睦のための訪問で、令嬢を待っているところだ。
「調子に乗りすぎだと叱られた。家臣のお世辞を本気にするなと。失礼な話だ」
「でも、実際、勉強も遅れてますし……」
令息がおずおずと諫める。
「勉強はお前が得意だろ。私の分まで学んでおけ」
「はっ?」
「そうしたらお前をずっと補佐で使ってやる。光栄に思え」
「……はい」
悔しげにギュッと握られた令息の手に、王子は気付かない。
そこに、青菜を山程抱えた令嬢が通りかかった。
「……令嬢!?」
王子が驚いた声を上げる。
「まあ! 王子様、いらしてましたの」
「令嬢、泥だらけではないか、どうしたのだ」
「庭師の畑に遊びに行っていました」
「庭師?」
「刺繍の図案のスケッチに庭に通っていて仲良くなりました。最近は畑を手伝っています。ほら、こんなに採れました!」
令嬢は王子の目の前のテーブルに青菜を広げる。王子は泥の匂いに顔を顰めたが、それより好奇心が勝った。根付きの菜など見たことがない。
「おっ、これ他より長いな。だが……」
「背ばかり高くて弱そうですよね」
うふふ、と令嬢が笑う。
「庭の灯火が夜も煌々と辺りを照らすので、その近くの葉がヒョロヒョロと伸びたんです。太陽の光でないと栄養にならないのに、青菜さんは灯火を太陽と勘違いして、調子に乗ってしまったのですね」
「……ん?」
「頼りなくて不味そうです」
「……んん?」
「葉が少し枯れているのもありますね」
伯爵令息が言う。
「私の肥料の撒き方が偏っていたようで、ここは根っこ用のご馳走が多すぎたそうです。それで、苦土? と言う成分が吸収できなくなって枯れるのですって」
「その苦土を足せばいいのでは?」
「気づいた時はもう遅くて……。もう少し早ければ良かったのですが。あと、苦いのを入れすぎても枯れちゃうそうです! 苦いのはほんの少し、ご馳走は程々。皆に平等に、ですって」
「……苦いものを、平等に」
令息が噛み締めるように繰り返す。
「そうです、ご馳走もですよ?」
令嬢は令息に笑いかける。その笑顔に、令息は握ったままだった手の力を抜いた。
「そして、この不味そうなのは捨てます!」
「えっ」
王子が驚く。
「美味しそうなのは他に沢山あるので!」
「待っ……!」
「はい?」
「いや、なんでもない……」
その後、王子はなぜか突然謙虚に勉学に励み、周りを大いに驚かせたのであった。
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