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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第八章 破滅の月と月の入り
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75 遠き富士

長距離遠征に出撃する東郷三姉妹含むADMの隊列。

隊列には小岩剣の姿もあった。

三条神流、松田彩香も随伴するが、トワイライトエクスプレス色のN-ONEの姿はない。夜も明けていない真っ暗な時間に出発した隊列は、関越自動車道をひたすら南へ行き、鶴ヶ島で圏央道に入ると、八王子方面に行く。

今回、小岩剣をこの遠征に無理矢理参加させたのは三条神流だ。普段なら、強制するのを嫌う三条神流だが、真相を知って意気消沈としている小岩剣を見ていられず、「1人きりで泣いているなら出て来い!」と引っ張り出したのだが、図らずも小岩剣もまた別のところから、同じ場所へ呼ばれて居た。

散々、怒り散らかし怒鳴り散らした坂口拓洋が、最後の最後のお情けとして、同じ場所に呼んでいたのだ。

中央自動車道に入る。

三条神流には気が重い道だが、前を行く小岩剣は何を思っているのだろうか?

大月を通過して、富士吉田線に入り更に南下する隊列が、リニア実験線を潜る頃には、空が白み始め、その空に、富士山がぼんやりと見えて来た。

群馬から見る富士山は、山々の隙間から僅かに山頂部が覗いている程度にしか見えないが、ここまで来ると大きな美しい独立峰であると分かる。

富士急ハイランドを過ぎ、自衛隊の演習場を過ぎて須走で高速を降りると、道の駅で再度ブリーフィングをする。

一応、途中の談合坂サービスエリアのエネオスで全車給油したが、改めて燃料を確認する等の点検をするが、やはり燃料タンクが小さい小岩剣のS660は不安になる。

群馬のガソリンスタンドで、携行缶にも10L入れて来たのだが。

この後向かう場所にもガソリンスタンドはあるが足元を見るような値段だと言われた。

かと言ってこんな朝早い時間からやっているガソリンスタンドは周囲に無い。

溜め息を吐きながら小岩剣は「とりあえず始まる直前に1500円分でも給油しよう。」と言いながら、隊列に入る。

静岡県小山町。

富士の裾野にある小さな町で、少し走れば御殿場だ。

だが、御殿場には行かず、別荘地らしき場所を走ってゲートを潜る。

(国際サーキットは二度目だ。)

と、小岩剣は思いながら無線で三条神流に通信する。

「自分は、Bパドックに行きます。」

「えっ?いや、俺らの付き添いで来たならー」

「付き添いでは無く、別な案件もあり、そちらに行かなければー。」

「あっ、あぁもしやとは思ったが。分かった。」

と、三条神流は納得。

トランボが多く止まっている隙間を縫うように止まる隊列から離れ、小岩剣は1人、パドックの端のBパドックに向かっていった。

TOYOTAのサーキットであるだけに、周囲を見ても、TOYOTAが幅を利かせているし、明日に開催されるレースもあって、小岩剣のレースなんて、押し潰されてしまう。

屋根無しの青空パドックに、小岩剣と同じS660の姿。その中に、フロントはホンダツインカム、リアはバックヤードスペシャルのエアロパーツで武装した、坂口拓洋のS660を見つけた。

坂口拓洋が最後の最後にお情けとして送ったのは、スーパーフォーミュラに併催される形で併催されるS660ワンメーク走行会兼、ワンメークレースの情報。

オーガナイザーを務めるのは、坂口拓洋だった。

「いきなりのレースが、FSWなんて贅沢過ぎるくらいだぜ。」

と、坂口拓洋は言う。

今回のレースは、スーパーGT最終戦に併催される形で併催される。

坂口拓洋はスーパーGT最終戦にスポット参戦するのだが、走行会のみ参加組の指導員を務めつつ、自分もS660のワンメークレースにオーガナイザーとして参加しながら、今日の夕方のスーパーGTのフリー走行でも走る。

走り通しだ。

走行準備を終えると、ブリーフィングのため、ピットビルのホールに向かう。

その時、ピットビルの1階を覗き込むとそこには、今の今まで見たこともない、GTマシンが搬入されていた。

「すっげっー」

と、小岩剣。

「君はGTを見るのは初めてか?」

後ろから声をかけられ、振り向くとそこに居たのは山本尚樹。HONDA所属のレーシングドライバーで、スーパーGTの第一線で活躍する人物だったのだから驚いた。

「カートに少しだけー。」

と答える小岩剣。

「カートと比べると、異次元だろう?何せこのマシンは、時速300キロ以上のスピードで走る。そんな中で戦うのさ。」

山本尚樹の話を聞きながら、震え上がる。

時速300キロ以上のスピードがどんなものかを知っているからだ。

新幹線に匹敵するスピードだ。

「エスロクレースの参加者だろう?」

山本尚樹の問いに頷く。

「坂口拓洋君に引っ張り出された。」

どうやら知られていたらしい。

「坂口拓洋君はある日突然現れたと思えば、電光石火の如く、FIA-F4から一気にGTまで登って来た。来シーズンは、牧野任祐の病気療養期間中のみ、スーパーGT500クラスにスポットだけど参戦することになっている。俺とな。」

「ー。」

「君はー」

「小岩剣と申します。」

「小岩君か。坂口拓洋君が君をどう扱うのかは分からんが、もし、スーパーGTまで登りたいと思うならば、速くなれ。」

山本尚樹が顎でピットビルの入り口を指す。

坂口拓洋がそこに居た。

「来い」と、坂口拓洋は目で言った。

それは、ブリーフィングに早く来いと言うようにも見え、また、スーパーGTまで登れと言う無茶な注文をしているようにも見えた。


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