72 玉と砕けて玉砕
「現実ってもんがよく分かっただろう。」
と、大山神威。
「良い気になって、ケンカふっかけて玉取られてりゃ世話無いねぇ。」
坂口愛衣も言う。
「帰り際に一つ言っておく。お前とは今後も付き合っては行きたいが、今度ケンカふっかけるなら、さっきも言ったように、モータースポーツの世界でな!」
坂口拓洋はかなり強い口調で小岩剣を叱責する。
(後味悪い。)
と、小岩剣は溜め息。
そこへ、ダークグリーンに金帯を巻く、トワイライトエクスプレス色のN-ONEがやって来たのだから、小岩剣は驚いた。
「加賀美さん!」
落ち込み気味なのを見せず、必死に笑みを浮かべる。だが、
「えっー?」
「私、結婚するの。だから、もう、レースには出ない。」
加賀美の隣には、自分より一回りくらい歳上の大男が微笑んでいた。
坂口拓洋これを見て確信した。
小岩剣が追っていたのは、東郷三姉妹ではなく加賀美だったのだと。
言われていたのに確信がなかったのは、信じたくなかったからだ。
「N-ONEオーナーズカップ、どうして、あんな形でー」
「つるぎ君が、私を追って、レーシングライセンスを取得して、レースに出ようとしているって。」
「いつから、その方と?」
「つるぎ君に、少し距離を置けって言った頃。」
小岩剣は目の前が真っ暗になり、今までの努力は何だったのかと思う。
そして、思い出したく無い物を思い出してしまう。
「じゃあね。」
と言う加賀美は、トワイライトエクスプレスカラーのN-ONEを発進させる。
そこへ、追って来た三条神流と松田彩香、東郷三姉妹、霧降艦隊が駆け付ける。
「私、嫁さんになったからね。彼ピッピがいるのに、他の男の子と連絡するのはあまり忍びない。だから、もう、連絡しないね。最後に、つるぎ、元気で生きるんだよ。私がいなくても、つるぎは生きられるよ。一人じゃないよ。じゃあ、サヨナラ。」
そう言って、他の男に取られてしまった、かつての姉のような存在だった相手が、雪降る青森駅から他の男と一緒に、寝台特急「日本海」で行ってしまった、嫌な思い出を思い出した小岩剣。
やり場の無い思いから、手に持っていた、黄色いホンダレオスのヘルメットを地面に叩きつけようとする。
しかし、そんな事をしても何にもならない。
泣きながら、叩きつけようとしたヘルメットを、正規に仕舞い直した。
「自分がこんな、子供のような姿だからー。大人っぽくないから、捨てられるのでしょうか?きっと、レースに出ても無駄です。何の為に、自分は今日まで走って来たのでしょう?」
三条神流は何も答えられない。だが、
「あーあっ!俺も時間無駄にしたよ!そんなチンケな事の為に訓練してたのかよ!」
と、坂口拓洋が吐き捨てる。
「あのさ、もう少し視野を広げなさい。そして、自分を客観視して、考えなさい。あの彼女、N-ONEオーナーズカップで見たけど、ロクな成績無かったじゃん?だいたいさ、N-ONEオーナーズカップの優勝経験どころか、入賞経験も無いポンコツと、勢い乗ってる今の君が釣り合う?」
坂口愛衣は珍しく優しい。
「ほっとけよこんなバカなんか。」
「なっー」
「何もしてねえくせに、レースに出てもねえくせに、無駄だとか吐かす奴、何も出来やしねえよ。寝言は寝て言えよ!帰ろ帰ろ!」
言いながら拓洋は、小岩剣のスマホにレースの情報を送って、帰路に着いた。
「辞めるも走るも、勝手にしろ。今のお前は、あのグズ以下だ。だから振られるんだ。」
最後に残った大山神威も冷たく言った。




