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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第八章 破滅の月と月の入り
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71 破滅へのカウントダウン

鳥居峠駐車場で方向を変える小岩剣のS660は、そのまま、再度スタートラインに並ぶので、拓洋が駆け寄る。

「これもう一回ですよね?」

と、小岩剣。どうやら、振り切れていないのでもう一回だと思ったらしい。

「違う。お前の勝ちで終わり。同時スタートで出てって、先にゴールライン通過したのはお前だからな。」

「えっ?」

その時になって、皆が小岩剣の勝ちを祝って大歓声を上げていると気付いた。

小岩剣は車外に出て周囲を見回す。

日奈子と恵令奈に泣き付いている玲愛の姿を確認。

一方で、小岩側陣営は拓洋を除き歓喜に包まれている。

(まさに光と影。)

と、小岩剣は思う。

玲愛が涙を拭いながら、小岩剣の元へ向かう。

「どこであの技を。」

「自分一人で覚えたわけではありません。ここに来るまで、玲愛さん、日奈子さん、恵令奈さんのみならず、群馬の皆さん。そして、拓洋さん、モビリティもてぎ、筑波サーキットで出会ったレーシングドライバーの教え、走り方を見て、自分のものにしました。」

「今の気分は?」

「やっと、玲愛さんに追いつけたと思います。いや、玲愛さんだけではなく、群馬で出会った、皆さんに追い付くことが出来たと思います。ここまで来ることが出来たのは、今までお世話になった方々のおかげです。」

ようやっと、ヘルメットを脱ぐ小岩剣に、三条神流も歩み寄る。

「赤城山の月から見た景色はどうだ。」

と聞く。

「何処までも、広い世界です。この世界は。どこまでも行きたいです。皆さんと一緒に。そして、あのS660と一緒に。」

「お前、なんか名乗れよ。俺は名前負けする。」

「いや、自分はー」

「俺を拒絶したエスロクだが、お前は受け入れられたんだ。」

「え?」

「このエスロク、前のオーナーは一週間で手離したんだろ?」

「ええ。」

「車に拒絶され、乗りこなせなかったため、泣く泣く手放した。」

「ー。」

「その手放した奴は、俺だよ。そのために、マルシェでは訳アリの車。そして、群馬では呪いの車とされていた。その車を操って、乗りこなしている。」

小岩剣はこの時、自分のS660の正体を初めて聞いた。

小沼側からギャラリーしていた奴等の車が降りてきた。

その中に、愛衣のS2000GT1と、大山神威のNSX‐NC1も居る。

拓洋も腕時計を見た。

「もう、帰るのですか?」

と、小岩剣。

「ああ。」

「あの、また、赤城山に来てください。いや、赤城山の他、草木ドライブインにも来てください!あと、AK50にも!」

「おいおい。随分と行く場所が多いなぁ。」

拓洋は笑った。

「また群馬に来るよ。でも、俺はお前と別の場所で逢えることを期待している。」

「別の場所と言いますと?」

「モータースポーツの世界。そして、ここより更に1000m標高が高い、天と地の境目の世界。公道レース最高峰のコースで行われるレースでね。」

「―。」

小岩剣は一瞬、どう言い返すか考えたが、

「機会があったら、誘ってください。自分も、走りに行きます。」

と言った。

「待っているよ。モータースポーツの世界で。」

拓洋のS660がエンジンスタート。

NSX‐NC1を先頭に、S2000GT1、そして、拓洋のS660が単従陣を組み、再び小沼側へ登ったら方向を変えて、鳥居峠に降りてくると、目の前で3台同時にドリフトを披露し、赤城道路へ向かって、赤城山を降りて行く。

「俺達も引き上げようぜ。腹減った。」

霧降が言う。

三条神流、松田彩香も同調する。

玲愛も何かに気付いて「行こう早く」と、小岩剣をS660に押し込む。

「お前は来るな!」

と、霧降要が誰かに怒鳴ったのが聞こえた。

「ほら、さっさと行くわよ!」

玲愛も強い口調で小岩剣に言う。

「いや、行くってどこへですか!?目的地分からなきゃ出しようがないですよ!」

「ええい面倒なもう!カンナ適当に!」

「いや無茶苦茶な!」

三条神流は「とりあえず、富士見温泉!」と言ったかと思えば、「臭いから嫌だ!」と誰かが言い、「大胡のマック」と言えばまた別意見。とうとう頭に来た小岩剣は、

「勝手に飯食いに行きます!お疲れ様でした!」

等とブチ切れ、ヘルメットを被ると、赤城山を1人降りてしまった。

ヘルメットを被ったのだから、単独アタックである。

慌てて護衛艦隊を編成していた霧降艦隊よりも早く、ダークグリーンのN-ONEがその後を追って行った。

「ああ、もうダメだ。」

と、霧降要が言った。


赤城道路を駆け下るHONDAの隊列に、小岩剣が追いついた。

いくら本気では無いにしろまぁまぁなペースで走っていたのだが。

隊列最後尾、大山神威は先頭の坂口拓洋に無線を送り、ペースアップを指示。

坂口拓洋がペースを上げ、隊列の速度が上がったが、小岩剣もついてくる。

「愛衣、退け。」

大山神威が言い、坂口愛衣のS2000GT1と大山神威のNSX-NC1が退避すると、坂口拓洋と小岩剣の一騎打ちになる。

退避した大山神威から「本気で走れ」と指示を受け、坂口拓洋は本気になる。

その瞬間、坂口拓洋のS660の挙動が変わった。

訓練走行時とは違い、目の前を阻むあらゆる物を切り裂き、串刺しにしながら、鋭く走るのだ。

イライラのフラストレーションを一気に吐き出すつもりで赤城道路に飛び込んだ小岩剣だが、坂口拓洋のS660の挙動の変化に圧倒される。それでも強引に付いて行く。

しかし、姫百合駐車場手前の連続ヘアピンのストレート区間。坂口拓洋のS660エンジンが吠え、坂口拓洋のS660が一気に小岩剣のS660を突き放した。

「ー。」

小岩剣、顔面蒼白からの意気消沈。

姫百合駐車場に入ると、坂口拓洋、坂口愛衣、大山神威も続いて入ってきた。


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