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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第七章 暗雲の月
72/78

70 チェッカーフラッグ

スタート地点の鳥居峠。

トワイライトエクスプレスのカラーリングのN-ONEが姿を見せた。

「なんかやってんの?」

と、加賀美咲が三条神流に言う。

三条神流は嫌な顔を浮かべる。

なぜなら、助手席に小岩剣が見たら卒倒する要因があったからだ。

東郷日奈子が溜め息を吐きながら、何をやっているかを伝える。

三条神流は嫌な予感を感じた。そして、

「バトルを止めさせろ。」

と、恵令奈に進言。

恵令奈、松田彩香、そしてADMと霧降艦隊が同意し、マーシャルに赤旗指示を出そうとしたが、

「なぜ止める?」

と、坂口拓洋。

坂口拓洋他、ホワイトレーシングプロジェクトは事情を知らないのだ。

一瞬考えるが、日奈子と恵令奈が「小岩剣が追っていたのは、自分等三人姉妹では無く、トワイライトエクスプレスカラーのN-ONEの加賀美だ」と言い、今の小岩剣に加賀美の真相を話せば、小岩剣が積み上げた物が台無しになるどころか、最悪、学んだ事を用いて暴走する恐れがあると言うが、「知るか」と坂口拓洋は一蹴し、バトル中止を認めなかった。


小岩剣を必死になって追う玲愛。

しかし、今度は目の前に落雷。

激しい閃光が目に入って視力を一瞬失う。

「わっ!」

ガードレールに衝突しかかった玲愛。

一瞬、真後ろに付けた小岩剣のS660がまた離れると、またもや変形溝走りを行う。

「嬬恋ラリーでも見ているの私は?」

玲愛は舌を巻いた。

抜こうにも、抜けないサンダーボルトラインのコースに、S660からジェットエンジンのような、ブローオフの音が響く。

以前はこれにすらビビっていた小岩剣だが、今はもうビビらない。

むしろ、どこまでも駆け抜けていけると言う思いが湧き上がってくる程だ。

雲の隙間に、何かが見えた。

もう登ってきたのかと思う小岩剣。

後を見ると、玲愛がビタビタに付けている。

「引かないですね。玲愛さん。」

と、小岩剣は言う。


展望台にいる愛衣は、雲の中から聞こえる車の音が近付いてくるのを感じた。

展望台を境に、雲は切れて満天の星空が広がり、道の伸びる方向には月が見えていた。

(私達は、金精峠―いろは坂往復公道レースで、雷の中を走った。小岩君も雷雲を抜けて来い!)

「ドギャッ!」と変な音。

そして、雲の中から2台が現れた。

先頭はロータス。

だが、背後にピタリと、S660が付いていた。

S660が通過した瞬間、雲が道の部分だけいきなり、ナイフで切り裂いたように晴れてしまったように見えた。

(ほう。拓洋と同じく、勝利へ向かうオーラを形成したか。マジで速い奴は、どんな状況をも覆す程のオーラを発生させる。この勝負、S660が勝つ。)

その時、愛衣の背後に落雷。


玲愛は小岩剣のS660のバンパーを押した。

バランスを崩したS660の隙を突き、強引にオーバーテイク。

接触であるが、これはレーシングアクシデントとなる範囲と思われるので、玲愛のペナルティーは無い。

しかし、逆に、玲愛はとんでもないものを見てしまった。

小岩剣が雲を抜けた瞬間、目の前に月が現れ、それに向かって道が伸びていくように見えたのだ。

(速い奴、強い奴というのは時に、勝利へ向かうオーラを形成する。ワンコ君がそれを―。)

月の方向を見る玲愛は、人影のような物を見た。

(美輝、お父さん、お母さん、私って―。)

61号ヘアピン。

玲愛突っ込みすぎた。

パワーオーバーステアで乗り切るが、小岩剣がインサイドから変形溝走りで迫ってくる。

立ち上がりでサイドバイサイド。

次のコーナーでもサイドバイサイド。

そのまま、62号ヘアピンに突入する。

小岩剣は大外刈を試みるが失敗。

だが、失速は最小限に抑える。

そして、66号ヘアピンでもう一度サイドバイサイド。

しかし、ラインをブロックされてしまい前に出られない。

「イカ踊りして、目茶苦茶なラインを走らないから、これはペナルティーにならない。でも、だからってこんなことしていたらダメだ。」

何度も何度も、小岩剣は仕掛ける。

だが、馬力で上回るロータスを前に、どうすることもできない。

「落ち着け!」

と、小岩剣は自分に怒鳴る。

(ここで仕掛けるのは無理だ。仕掛けるのは、小沼から先のダウンヒル区間。そこまで温存する。筑波で、電気自動車相手にやったやつをやる。)

軽井沢峠を通過。

すでに、山頂カルデラ壁の淵に来ている。


大山神威のいる、小沼駐車場は晴れていたが、雷の音は聞こえた。

「おい。赤城の警告の中に飛び込んだことになるんじゃねえのか?」

「大丈夫かあいつ―。」

と、小岩剣の心配をする声が聞こえるが、大山神威は、

(ガキは登ってくる。ゴールする。)

と思っていた。

小沼駐車場前を通過。

小岩剣とロータスがサイドバイサイドになった。

インサイドにロータス。

アウトサイドにS660。

ロータスはドリフトしている。

そうとくれば、小岩剣も同じくドリフトだ。

しかし、抜けない。

「セナvsマンセルのバトルを見ているようだ。」

と、大山神威は言った。

ダウンヒルに入った。

小沼から鳥居峠まで、最後のダウンヒルだ。

「温存していたもの、全部ぶつける!」

「負けないよワンコ君!」

そうした思いのぶつかり合いだ。

ヘアピン。

ロータスが溝走り。

だが、S660も同じく溝走り。

立ち上がりでは、S660が上。

赤城山第3スキー場も通過。

まだ勝負は分からない。

ゴール地点。

最終コーナーを立ち上がってくるマシンを確認。

小岩剣がインサイドから溝走りで。玲愛がアウトサイド。

サイドバイサイドだ。

しかし、玲愛のロータスのタイヤが悲鳴をあげたと思ったら、リアが滑り始める。

「コノッ!」

クラッチペダルを踏み込んでスピンを止める玲愛。

しかし、小岩剣がその間に前へ出た。

拓洋は、

「よし。」

と頷くと、チェッカーフラッグを用意。

(ロータスぶち抜けんだ。N-ONEのタコなんか相手にするな!もっとデカいとこ行け!俺は、それでもまだ、あの場所でトップチェッカーを受けられていないんだ。)

拓洋がチェッカーフラッグを思い切り降る。

小岩剣のS660がパッシングで応えた。

バトル終了。

小岩剣の教育プログラムは、全て終了である。

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