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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第七章 暗雲の月
70/78

68 ダウンヒル

軽井沢峠。

ここでも小岩剣がミス。

逃げようとするあまり、オーバースピード。

まだ、突っ込みすぎる傾向がある。

今度ばかりはダメだ。

玲愛に抜かれてしまった。

「畜生!」

と、小岩剣。

「追いつこうとしたり、もっと早くって思うあまり、そうした、突っ込みすぎの傾向になってしまうのだよ。心を研ぎ澄まし、落ち着いて、冷静に、リラックスして走るんだよ。」

モビリティーリゾートもてぎのレーシングスクールのインストラクター、そして、坂口拓洋から言われた言葉が脳裏を過ぎった。

「常に冷静に。平常心で挑む。どんな状況でも平常心。そうでなければ、イザと言うときに、適切な行動を取れない。冷静さを欠いたら、終わるぞ。」

筑波サーキットで、拓洋に言われた事だ。

(冷静になろうとすれば、余計に泥沼にハマる。だったらいっその事、楽しんでしまえ。この状況を―)

横目に、木々の切れ間の景色が見えた。

街明かりはない。

広がっているのは、満天の星空。そして、真っ白な雲海からピカピカと光。

(赤城の警告。やはり発生したか。面白くなってきたじゃねえか!待っていた。この状況を!)

ニヤリと、小岩剣は笑った。

牛石を通過。

抜かれた際に、玲愛のロータスとの差が開いてしまったが、ここで小岩剣が追い付いてきた。

「拓洋さんは言っていた。「どんな時でも冷静に」って。ここは走り慣れた赤城。だけど、それだけに、慣れが過信になる事もある。冷静に。行けるタイミングを見計らう。」

拓洋の教えを思い出す。

そして、その過信を起こしていたのは、小岩剣ではない。

前にいる、玲愛だ。

84ヘアピン。

ここで、玲愛がブレーキングポイントを一瞬誤って、突っ込みすぎた。

更に、小岩剣はアウトサイドから一気にインサイドへ飛び込む。

膨らんだ玲愛は、小岩剣に進路を塞がれる格好になってしまった。

小岩剣、ここでオーバーテイクし返したのだ。

一瞬、小岩剣は何が起きたのか解らなかったが、とにかく、視界が開けた。

ロータスの姿は無い。

プッシュしまくる。

玲愛が怒って、更にプレッシャーをかけようと、タイヤを鳴らしたり、ドリフトして圧をかけるが、小岩剣には通用しない。

逆に、81コーナーで玲愛がオーバーステア。

ハーフスピンしかかった。


赤城山パノラマ展望台には愛衣がいる。

展望台から見ると、足元から雲海が広がっていて、ここから一気に雷のようにつづら折りの低速ヘアピンを下りながら標高が急激に下がっていく赤城サンダーボルトラインは、霧の中にあると分かる。

(中止はない。このまま行く。)

と、愛衣は腕組みをしながら、バトル中の2台を待つ。

(赤城ディスタント・ムーンの由来は、赤城山に登る月明かりと聞いている。私たち「ホワイトレーシングプロジェクト」は三峰山の狼。今後、「赤城山の月」と、「三峰山の狼」は何度となく出会して、何度となく刃を交えるであろう。)

2台のヘットライトを確認。

先頭にいたのは、なんとS660だった。

展望台を通過。

小岩剣のS660が雲の中へ飛び込んでいく。

ロータス・エミーラの玲愛もそれを追って飛び込んだ。

つづら折りのヘアピンに突入する小岩剣。

目の前で雷が光った。

赤城の警告の状態にしている雲は、雷雲だったのだ。

雲に突入した瞬間、大雨に見舞われる。

濡れた路面から、S660の履いているアドバン・ネオバが水滴を跳ね上げる。

ロータスは、その水煙の中を駆け抜ける。

「―!」

小岩剣、何かに気がついた。

「仮説だったが、やれる!」

S660を一気にインサイドに寄せる。

縁石の向こう側に、フロントタイヤを押し込む。

ガクン!と一揺れ。

独楽のようにコーナリングして行く。

(拓洋さんが、定峰峠で見せてくれた物、変形溝走り。サンボルでやったことはないが、ここで実行。良いタイミングで実行に移せた!)

小岩剣が変形溝走りを行う度、水しぶきが上がる。

玲愛はドリフトをするが、序盤でプレッシャーをかけるために行ったドリフトのため、タイヤが熱ダレをしてしまい、更に、濡れた路面のため、うまくコントロール出来ていない。

「変形溝走り!?良い根性!やっぱりワンコ君は、サーキットでは無く、公道レース、特にラリーの才能がある。早く彼女と組ませてあげたい!」

玲愛はニヤリと笑って言う。

42号コーナー。

ここで、小岩剣がスピンしかかった。

「ちっ!」

立て直したが、玲愛に接近を許してしまった。

更に、立て直したものの、雨で後輪が空転。

バランスを崩した小岩剣はすれ違いのための膨らみに突っ込んでしまった。

元の道に戻ろうとしたらそこに玲愛のロータス。

やむ無く引く。

玲愛の先行を許してしまった。

(しょうがない。あれで強引に戻ったら、失格喰らう。抜かれたら抜き返すまで。絶対に負けない!)

と、小岩剣は思った。

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