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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第七章 暗雲の月
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66 サンダーボルトラインへ!

クールダウンのため再度ヒルクライムを行った上で、拓洋、愛衣、大山神威は満場一致で小岩剣に「合格」と言った。

拓洋もまた、愛衣と大山神威が気付いたことを知っていた。

そして、なぜ、小岩剣がその走り方をしているかも理解している。

それは、以前、ランエボ艦隊とBRZ・ハチロク連合軍に随伴して群馬遠征を行った時に遡る。

このとき、群馬の、特に赤城山周辺の走り屋の多くは、タイヤを鳴らすことは出来ても、それ以上のことをしていなかったのだ。

タイヤ代の節約という要素もあるのだが、ドリフトを多用せず、グリップをメインにして、時折タイヤを鳴らす程度に止めている最大の理由は、赤城山の自然環境を保護するためであると聞いた。

ドリフトをすれば、当然、路面にタイヤカスをまき散らしたり、路面を汚したり、タイヤスモークを発生させたりする。まして、ブレーキングドリフトのような事をすれば、発癌性の高いブレーキダストを大量に撒き散らすことになる。そのような有害な物を極力排出しないよう、ドリフト行為は行わず、グリップをメインで走っているのだ。

そして、そのような走りをしている周囲を見て、小岩剣は自然と、同じようなことするようになったのだろうと、拓洋は考えていた。

だが、拓洋はそれが、大山神威や愛衣が危惧する「後々、拓洋がこのガキに潰される危険がある」ということに気付いていない。

仮に気付いたところで、それに対処する方法を知っているのは、大山神威だけである。

なので、大山神威は拓洋に、

「お前も今以上にタイヤマネージメントを考えたほうがいい。後々、あのガキに潰されるぞ。」

とだけ、警告した。

「ほっほーっ。」

と、近寄る人影。

東郷三姉妹だった。

更に下から、N-ONEが登って来た。

「見ていたよ。試験の結果は?」

「合格です。」

玲愛が言うのに答える小岩剣。

その向こうに、三条神流と松田彩香。それから、霧降艦隊の姿。

小岩剣は下から上がって来るN-ONEが誰か気になるが、それより早く三条神流が、

「サンボルで玲愛とバトルしてみろ。」

と言い出した。

「サンボルか。うーむ。」

拓洋は腕組みした。

と、言うのも、一台、不安な車がいる。

大山神威のNSX NC1だ。

(デカ過ぎて通れないんじゃねえか?)

と、拓洋は不安に思う。

「サンボルとはどんな道だ?」

と、大山神威が聞く。

小岩剣が説明する。

「ふーむ。ちょっと微妙だな。」

と、大山神威。

「でも、せっかくここまで来たんだ。このままとんぼ返りでは忍びない。せめて、鳥居峠の方まで連れてってくれ。」

大山神威が言い、拓洋と愛衣も同意した。

小岩剣のS660。拓洋のS660。そして、その後に愛衣のS2000GT1と大山神威のNSX NC1が続く。

だが、坂口拓洋、坂口愛衣、大山神威は赤城サンダーボルトラインで小岩剣と東郷玲愛のバトルを行わせる気でいた。

そして、試験云々とは別に、三条神流は小岩剣と東郷玲愛のバトルを行わせようとしていた。

なので、坂口拓洋の方から「ギャラリーとマーシャル要請」と言われた時には二言返事で了承してしまった。

三条神流はどうやって、小岩剣をバトルに引っ張りださせようかと考える。そして、自分を餌にしようと思ってワザと、「サンボルで、つるぎはディスタント・ムーンに勝てるかも」と、松田彩香や東郷日奈子に聞こえるように冗談でバカにした事を言った。

案の定、松田彩香は三条神流を捕まえて、日奈子が三条神流に馬乗りになる。

日奈子が加わり、松田彩香と来れば、「人をバカにする奴はこうだ!」と、三条神流の首筋に噛み付いた。

「ギャぁぁーーーーーーっ!」と、三条神流が悲鳴を挙げた。

小岩剣は一瞬、空を見上げた。

そして、何かを察した。

「拓洋さん。今の俺は、玲愛さん達と互角でしょうか?」

と、聞く。

「何をするつもりだ?」

「三条さんを助けます。自分は玲愛さんに勝てると実力を見せて。その上で、認めてもらいます。」

認めてもらう相手は違うのだが。

小岩剣が言うと、三条神流はニヤリと笑う。

坂口拓洋は少し考えると、

「サンボル以外、認めんぞ。」

と言う。

「それはどういう?」

「条件付きだ。勝てるかどうか、自信はあるのか?」

「なぜ、サンボルで?」

「俺の見立てでは、赤城山の3つの道路。赤城道路、北面道路、そして、サンボルの中で、最も危険で、厳しい道はサンボルと見ている。違うか?」

「―。それがどうしたと言うので?」

「やるなら、その、一番厳しい場所でやれって言ってんだよ。」

小岩剣は一瞬、迷った。

だが、拓洋はその迷いの中に、何かを試そうとしているように感じた。

自分の、蒼いS660を一瞬見たからだ。

「俺は、お前が勝っても負けても関係無い。この先は、お前が決めろ。」

「―。行きます。やります。」

と、小岩剣は言った。

「だ、そうだ。」

玲愛に視線を飛ばす坂口拓洋。

「結構。もし、ワンコ君が勝ったら、ワンコ君の言う事、願い事、聞いてあげる。でも、負けたら、一生、私達の言う事を聞いてもらうからね。」

と、玲愛が条件を突き付けた。

「構いません。」

小岩剣は肯いた。

「じゃあ、コースは、サンボルのダウンヒルとヒルクライムよ。バーベキューホールをスタートし、忠治館の所でUターン。ゴールは、サンボルと70号線が合流する交差点よ。」

玲愛がコースを決めた。

小岩剣は小用を達すると、燃料、タイヤ、ブレーキ等の各所を点検。

そして、ヘルメットとグローブ。そして、この日初めて、レーシングスーツも着用する。

ホンダレオスの黄色いヘルメット。

赤いレーシンググローブ。

赤いレーシングスーツ。

元は坂口愛衣の物だったが中古品で買い取った物だ。

「おい。」

と、拓洋。

「このバトル、お前にとってどういうバトルだ?」

「自分に課す、卒業試験。そう思ってます。このバトルで、勝てれば自分は、彼女等のペットではなく、自らの意思を持って生きていきます。ダメなら―。」

「ペットになる。そういうことか。」

「ええ。」

玲愛がスタート地点に付く。

小岩剣は、

「行ってまいります。」

と言う。

恵令奈がカウントを取るが、

「待て!」

と、拓洋。

「俺がカウントを取る。愛衣。チェカーフラッグはあるか?」

「あるよ。」

「結構。ゴールも俺がやる。」

マーシャルの配置、ギャラリー退避完了の連絡が入る。

「カウントダウン開始!ファイブカウントダウン!5、4、3、2、1、GO!」

拓洋のスタート合図と共に、玲愛の白いロータス・エミーラと、小岩剣の蒼いS660が、赤城サンダーボルトラインへ飛び込んで行った。


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