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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第五章 筑波の月
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54 ハチロク祭り

筑波サーキットに着いた。

今回は走行こそしないが、小岩剣もコース2000のパドックで活動する。

小岩剣は玲愛の助手として、玲愛のロータスに積んであった機材を自分のS660の助手席に積み替えたり、レーシングスーツに着替えるのを手伝ったり、或いはちょっとした軽食を買いにS660で出掛けたりという雑用だ。

サーキット走行に合わせ、トランスポンダやゼッケンを付けた車で公道を走れば、ナンバー隠蔽等の違反になる事があるため、小岩剣や日奈子等の走らないメンバーが追加の買い物に出かけるのだ。

加賀美の方をチラッと見る。

加賀美も準備を進めている。

見ると、加賀美の方には見知らぬ男の姿があり、彼は三条神流や松田彩香にも少しだけ話している。

「ちょっとトイレ。」

と、小岩剣。

「場所は分かる?」

「ドラサロの隣ですね。」

言いながら、小岩剣はトイレに行くふりをして、その男の話を聞いてみる。

「あっ」と、男は小岩剣に気付いたが加賀美と三条神流が止めた。

「彼はちょっとワケありで。」

と、加賀美が言ったのが聞こえた。

レーシングライセンスはあるが、実績が無いと言うのか?

(ー。直近で参加可能な競技会調べて参加実績残そう。畜生!走っても走っても、加賀美さんの背中が遠くなる。)

小岩剣は歯軋り。

N-ONEオーナーズカップ予選が始まった。

その後、三条神流、松田彩香が出撃する「86/BRZサーキットチャレンジ」予選、ユーロチャレンジ予選が行われる。

ピットの屋根から、N-ONEオーナーズカップの予選を見ていると、

「新幹線に抜かれた貨物列車を、新幹線から観ると、どう見える?」

玲愛が横に居た。

嘘を見抜き、玲愛なりにどう言えば小岩剣にも分かりやすく、小岩剣を傷付けないか考えた上での発言だ。

「自分よりも遅い奴に近付く事は容易。だけど、あっという間に追い抜いて、後は遠ざかる一方よ。咲さんは、もう先がない。ワンコ君が咲さんから学べることはもう無い。」

「それは、N-ONEからS660に乗り換えたからでしょうか?」

小岩剣は秩父サーキットで坂口拓洋に見せつけられたN-ONEと S660の差を思い出す。

「言ったでしょう?ワンコ君は、N-ONEに収まらず、もっと高い場所へ行けるって。」

玲愛は複雑な笑みを浮かべながら、小岩剣の手を握り、自分のロータスに向かう。

「私はお姉ちゃんとして、ワンコ君を思っている。お姉ちゃんとしては、弟がお姉ちゃんを越えて行って、更に広い世界へ行くのを願っている。」

小岩剣は「恋人では無いのですね。」と言い掛けたが止めた。加賀美の方に気があるのに、何という発言かと思ったからだ。


N-ONEオーナーズカップ予選が終わり、三条神流、松田彩香が出撃する「86/BRZサーキットチャレンジ」予選が始まる。

「どうだ?」

と、霧降が加賀美に聞く。

「予選突破。10位。私の最後のレース、悔いは残さない。」

加賀美は言うと、連れの男と並んで腰を下ろした。

その様子を、ピットロードを走りコースインしながら横目で三条神流は見ながら、

(俺も似たような事されたから、つるぎにも言うべきだろう。だけど、つるぎは加賀美を目指しているって言う側面も見える。つるぎは玲愛では無く、加賀美に気がある様子でもあるし、だからつるぎは走っているって思える。それを踏まえると、今言ったらつるぎは目標無くす。)

と、難しく考えてしまった。

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