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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第1章 始まりの月
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3 小岩剣と貨物列車

春になった。

入社式の後は、しばらくJR貨物中央研修センターで研修だ。

JR貨物関連企業に就職したが、大元はJR貨物。故に、一部の研修はJR貨物中央研修センターで行う。

本来なら動力車免許も取得するのだが、学生時代に既に甲種内燃動車と電動力車の運転免許を取得して、更には学園構内実習線でDE10とEF200、その他キハ110系や125系電車を運転した小岩剣にはその必要は無く、更に本線を走るのでは無く倉賀野駅から倉賀野貨物ターミナル間の貨物引き込み線を走るだけなので、現場の線路を確認し、免許を書き換えれば良く、研修は早い。

しかし、問題がある。

それは、小岩剣は倉賀野で扱うハイブリッド機関車のHD300を知らないのだ。

今まで扱った事の無い機関車に慣れるのに手こずると思ったが、意外な事にこちらも一連の操作はすぐに覚えてしまい、JR貨物組をも凌駕し、実際に隣接する東京貨物ターミナルで入換作業の実践練習でも優秀な成績を納めていた。

だが、肝心な小岩剣にそのような実感が湧かず、いつもビクビクしていた。

にも関わらず、成績優秀。その成績はトップなのだから、JR貨物組の怒りを買って嫌がらせ行為をされた挙句、見るに見かねた教官から、「上手く走れてんのにビビってんじゃねえ!自分に自信持てよ!」と叱責されてしまった。

東京貨物ターミナル構内での研修もまもなく終わり、いよいよ正式に倉賀野貨物ターミナルへ配属となる。

それを実感した時、小岩剣は最後の東京貨物ターミナルでの入換作業を楽しむ事にした。

東海道本線を中心に日本各地からの貨物列車が多く発着し、隅田川駅と並ぶ東京の二大貨物駅である東京貨物ターミナルには、佐川急便が貸切り運行しているM250系特急貨物電車「スーパーレールカーゴ」等、群馬に行けば見ることの出来ない貨物列車の姿がある。そうした列車と一緒に過ごす僅かな時間を楽しみ始めた時、ようやく小岩剣はHD300と言うハイブリッド機関車に慣れたと実感した。

そして、研修を終えた小岩剣はいよいよ、群馬での生活が始まるのだ。

M250系特急貨物電車「スーパーレールカーゴ」や、吹田機関区のEF66電気機関車といった、群馬にはまずやってくる事の無い東海道本線を走る電気機関車や貨物列車と別れ、群馬に行くと、既に桜は散ってしまっていたが、JR貨物中央研修センターや東京貨物ターミナルでの研修で得た物を発揮させて仕事に取り組み、休日に三条神流や松田彩香と会った際には、研修の内容や、貨物列車の話で盛り上がれた。

しかし、やはり他の人が一緒になり、話題が車になってしまうとついて行けない。

(これでは、自動車に追われた国鉄の貨物列車だ。)

と、小岩剣は歯痒くなる。

しかし、JR貨物中央研修センターで車の知識なんて勉強出来るわけはないし、いくらトップの成績でも、こうなると関係無くなってしまう。

最も、JR貨物中央研修センターにそこまで求める方が間違いだ。


今日も仕事がまもなく終わるので、今日は赤城道路を走るつもりで居る。

長い勤務時間になる隔日勤務も、すぐに慣れてしまった小岩剣。今日の勤務もまもなく終わる。

愛機である、HD300 ハイブリッドディーゼル機関車が入換作業を終えてエンジンを止めると、コンテナホームでは荷役作業が始まる。小岩剣はここで、交代で来た機関士に、業務を引継ぎ、勤務終了。

「さてと。」

勤務先である、倉賀野貨物ターミナルから歩いて数分のアパートで着替えて汗をシャワーで流すと、そのまま、自分の車で走りに行く。

(今日は赤城道路を走り、その後、「からっ風街道」の三夜沢辺りを走る。明日は、城ヶ崎でラーメンからの、草木だな。)

今日と明日の予定を頭の中で確認した後、スタンドで燃料を満載し、ふと赤城山を見る。曇り空のため、全容は見えないが、赤城山の頂上まで登ってしまえば、そこには青空が広がっているだろう。

中央前橋駅を過ぎ、小暮を通過して赤城道路の、峠区間に入ると、途中から雲に入った。

いや、雲と言うよりそれは、霧だった。

視界不良。

(群馬に来てまだ日は浅いかもしれん。だが、こんな赤城山の姿は初めて見た。)

前橋のカーショップ「マルシェ」で鹿用の警笛を装備したばかりの小岩剣はニヤリと笑う。

雲を抜けると、一瞬、サイドミラーが雲を引いたように見えたが、それよりも前方を見ると、青空が広がっていた。

そして、後方には雲海。

(一応、対策はしている。こんな赤城山も、いい!たまらない。凄い!まるで、天への梯子だ!天への階段を登っていく感覚。これほどまでに、気持ちいい事、たった一回で終われない!)

雲を突き抜けて、雲に入ってを繰り返す。

午前中はひたすらに、赤城道路やサンダーボルトラインを走り通し、午後、からっ風街道に降りて走っていだが、邪魔臭いトラックに出会し、からっ風街道を外れた、小径に入り込む。

こちらの小径もまた車の通りはまるでない。にも関わらず、路面がキレイだった。

結局はまた、「からっ風街道」と合流する道だったのだが、本当に誰も通らないらしい。何往復もいい気になって走り込むうち、タイヤが鳴った。

(今のがドリフト?ここで練習走行出来るかも―。)

と、思った時、目の前に一台の車が進路を塞ぐように止まっていた。

小岩剣はその車に見覚えがある。

(なんだっけあれ?ロータスだっけ。あと、ドライバーの人はえっと、東郷玲愛さんだっけ?)

「コンコン」と、運転席側の窓をノックされる。

窓を開ける。

「久しぶり。ワンコ君。」

「えっと―。」

「あっ私のこと、忘れちゃった?東郷玲愛です。」

幼い印象のある顔立ちに前髪パッツンの髪は暗灰色寄りのセミロング。光に当たると蒼みがかった色に見える髪質。顔つきは人形のように可愛らしい。だがこれでも、年は小岩剣より1つ上だそうだ。

「ずっと、走っていたっしょ?この車で。」

「ええ。」

「見ていたよ。」

「あっああーそうですか。では、下手くそな走りでがっかりでしょう。」

「最初は誰でも素人よ。それより、よかったら家に来ない?すぐ近くなんだよ。」

 小岩剣は少し考えてから、

「是非、お邪魔させていただきます。」

と答えた。

玲愛はニコリと笑った。

小径から更に分岐する道を案内されるまま入ると、そこにはログハウスがあった。

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