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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第四章 月の出
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42 埼玉連合艦隊群馬侵攻

対岸道路経由で草木ドライブインに向かって行くと、途中の草木ダムで、サンダーバーズ最後の要である、霧降艦隊旗艦の霧降要のBRZが、埼玉から来たBRZ‐RAに撃墜されたばかりだった。

「埼玉の定峰峠から来た、ランエボ艦隊の須川だ。「赤城サンダーバーズ」のリーダーってのは、貴方達か?」

と、埼玉から来たという、須川が言う。

「リーダーって言うか、中心的存在ですな。」

霧降が応えた。

「埼玉からわざわざお疲れ様です。」

と、三条神流が挨拶した。

「人探しをしている。蒼いS660がこの辺りにいるはずだ。バカみたいに早い。そいつが、定峰峠でウチのチームのエボⅢを撃墜したんでね。仇討に来んだがな。」

「なるほど。」と、三条神流は言い、蒼いS660に心当たりはあったが、小岩剣がそのようなことをするとは思えない。

「ふーむ。確かに自分の取り巻きに、蒼いS660は居るには居るけど、定峰峠でランエボとやったって話は聞いていないですね。同乗指導で定峰峠を走ったようですけど、その時はそいつじゃなくて、別のドライバーが運転したと聞いてます。」

三条神流は首を捻りながら言い、松田彩香も周囲に聞くが「知らない」と言う。

「ああそう。んじゃ、岩月。お前がミスったんだろう。」

と、須川が岩月というドライバーに言う。

どうやら、彼がその蒼いS660に撃墜されたらしい。

しかし、向こうは納得いかないらしい。

それを察した松田彩香は、

「もし、腹の虫がおさまらないなら、私とカンナで相手しますよ。」

と言った。

松田彩香は、勝手に群馬にやって来てイチャモンのような事を言われたのが不満のようだった。

まして、既に、下っ端の奴等が喰われているとあっては、松田彩香は黙って指を銜えて見ているだけでは済まない。

三条神流は乗り気ではないのだが、

「やりゃいいんだろ。」

と、溜め息混じりに言った。

バトル区間は、対岸道路の草木ダムの下から上までの短い区間。

最初に、松田彩香のGR86と岩月のランエボⅢがバトルする。

「勝手にウチ等にイチャモン付けといて、腹立つ。」

と、松田彩香。

これで万一、松田彩香が負けようものなら、三条神流にそのシワ寄せが来るだろう。

「バトルのやり方だが、ハンディーキャップ方式って分かるか?」

と、須川が言う。

「いえ。」

「スタートする時、普通なら、カウントダウンを取るが、ハンディーキャップ方式は、馬力の低い方の車が好きなタイミングでスタートし、もう一方はそれに合わせてスタートする方法だ。こうすることで、馬力が大きい方が有利にならないようにしているのだが、それでいいか?」

須川に、三条神流は肯いた。

また、それに追加で、バトル区間にはマーシャルを何人か配置し、対向車が来ている場合には、ランプや旗で合図を送ると言う。

松田彩香は自信満々で、スタート地点に向かった。

(さぁて、さてさてぇ。余所者のイキリさんに、私が負けると思ってるの?)

と、メガネっ娘はニヤリと思う。

しかし、埼玉から来た方の指揮官らしき男は、須川ではなく、別の男。

その男は、松田彩香のメガネをかけた童顔を見て「自滅したな」と呟いた。

まもなく、スタート地点からGR86がスタート。

後追いで、ランエボⅢがドカンとロケットのように発進。

松田彩香はニヤリと笑いながら最初の右コーナーをクリア。

その後方で、岩月が見事な4WDドリフトを繰り出すが、とっ散らかる。

S字で、ランエボⅢはフェイントモーションからドリフト体制。

一方で、松田彩香のGR86と言うよりも「赤城サンダーバーズ」のほとんどのメンバードリフトはするが、そこまで派手なドリフトは出来ない。

現在、「赤城サンダーバーズ」も「ADM」も、ドリフトではなくグリップが主体で走っている。

理由は、ドリフトによるスキール音の騒音被害防止と、タイヤスモークやタイヤ痕による環境破壊を防止するためだ。

だが、それでも松田彩香はタイヤを鳴らしている。

グリップ力の限界値まで、タイヤのグリップを使い切れているのだ。

しかし、それを、松田彩香はドリフトだと思い込んでいる。

だが、それはドリフトではない。

松田彩香はこの他にも、コーナー出口でアクセルを思い切り踏み込んでテールを振る事があるのだが、これもまたドリフトだと思い込んでいた。だが、これもドリフトではなく、パワースライドだ。

これでは、単にパワーを横へ無駄に流してしまっているだけである。

「自滅したな」と呟いた男は、この後の展開を読んでいた。

(どうせ、不動滝のところで岩月さんがサイドバイサイドになり、左コーナーでパニックになってドカンとブレーキを踏んで、その間に一発顔面パンチぶっかますように、オーバーテイクして岩月さんのKO勝ちだ。)

と。

まさしく、その通りだった。

不動滝の橋の上で、岩月がパワーまかせにランエボをGR86のインサイドへ飛び込ませる。

センターラインを踏むように走っていたGR86は、後ろから押し潰される。

「うそっ!?」

目の前で4WDドリフトを見せつけられた松田彩香。

何も出来ず、オーバーテイクを許してしまうハメになった。


三条神流にとって、嫌な展開になった。

どこかの眼鏡っ娘が、自分で負けておいて、三条神流がもし負けたら、本当に磔にして嬲って貪り食ってやると言い出したからだ。

「私の好みは十字架磔ね。プロメテウスの刑ってことで、磔にして脇腹から腑を啄むやつ。」

などと言い始める松田彩香。

「知らねえよ。お前が勝手に負けておいてなんだよ。」

と、三条神流は舌打ち。

(ふーむ。ここにも、俺に似た奴が居るんだなぁ。)

と、埼玉から来た奴等の指揮官らしき男が肯いた。考えている事は、かなり尖っていて、気の短そうなのだが、意外と奥手でビビりな指揮官らしき男だ。

草木ダムを降り、三条神流と須川は車の向きを変え、スタート位置に着くと、須川のランエボからは闘争心が沸き上がる。

三条神流も負けじとする。

三条神流がスタート。須川も鉄砲玉のようにスタートするが、三条神流はクラッチが滑った。

更に、「バァーン!」と言う、炸裂音がランエボから轟く。

三条神流はビビらない。

(長野のバカの理不尽な怒鳴り説教に比べりゃ、こんなの序の口だ。)

序盤で出遅れこそした三条神流だが、度胸では、松田彩香よりも上手な面を持ち合わせている。

最初のコーナーで、マシンガンを乱射するように「バムバムバム」と炸裂音を轟かせるランエボに続いて、三条神流も加速していく。

S字コーナーで、ランエボが見たこともない挙動を見せる。

一旦、左へ切ったと思ったら右へ舵を切った。

(フェイントモーションってやつかこれ。)

三条神流は驚いた。

(あの、マシンガンのような炸裂音を轟かせるランエボに加え、ドライバーも俺以上。こりゃぁ―。)

無理だと言いそうになった。

だが、

(でも、これで逃げてたら、結局逃げてるだけじゃねえのか。俺、長野から逃げてきて、群馬で生きている。でも、逃げてばかり。松田に言われるまま入籍だの結婚だのって話になって―。自分の意志は?)

と、悩み始めた。

不動滝の橋が見えた。

ランエボがコーナーの立ち上がりでフラついた。

三条神流は松田彩香と同じく、グリップで迫る。

不動滝の橋の上で、サイドバイサイドになる。

(俺は―。)

次の左コーナーでは、三条神流がアウトサイドに居る。

ギャラリーは緑ランプ。

つまり、対向車無し。

「俺は、赤城サンダーバーズの2号車!」

三条神流は叫ぶ。

左コーナーもサイドバイサイドで抜けるが、前に出れない。

その先の高速の右コーナーで、須川が再び鼻面をねじ込み、三条神流のZD8型BRZを抑える。

「退けぇ。退けって、言ってんだよ!俺は負けない!絶対に!余所者には!」

コーナー立ち上がりで、もう一発「バーン!」と、ランエボから炸裂音。

耳元の炸裂音にビビるが、三条神流はそれでもBRZの挙動を乱さない。

ずっと、サイドバイサイドのまま、激しい攻防戦が繰り広げられる。

(なかなかやるなこのBRZ。)

と、須川は感心するが、

(速い。群馬の中で、赤城山の走り屋は高レベルであると自負しているが、余所者にこうも呆気なく負けちまうのかよ。)

と、三条神流は焦りを見せる。

だが、

「赤城ディスタント・ムーンには、こいつらも勝てんな。サンボルでなら、勝てるかもしれないけど。でも、ここで俺は負けない!」

最終のS字。

ここで、須川が姿勢を一瞬崩した。

フェイントモーションをかけようとしたが、そこに三条神流のBRZがいて、姿勢作りに失敗したのだ。

その間に、コーナーに飛び込む三条神流。

これにて勝負あり。

一瞬諦めかけたが、逃げ出さない、諦めないという三条神流の思いが、最後の最後の逆転を生み出した。

ランエボ艦隊旗艦と赤城サンダーバーズのリーダー格の直接対決は、赤城サンダーバーズのリーダー格である三条神流の勝利。だが、もう一人のリーダー格である松田彩香が負けているため、最終的には痛み分けという結果で終わった。

松田彩香が草木ダムを登ってきて、

「ありがとう」と言った。

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