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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第四章 月の出
43/78

41 領土侵犯

三条神流、仕事終わりに走ることは無くなり、富士見のガレージハウスまで、松田彩香とカルガモ走行で帰る事が多くなった。

少し古いが、それでも快適なガレージハウスに感じるのは、松田彩香の存在が大きい。

しかし、今日は違った。

前橋駅で終電を逃した旅客を狙おうとして、県庁付近までの短距離客を引いてしまい、がっかりしていたら、またも前橋駅のタクシー乗り場に入れた上、今度は宇都宮までのお化けを乗せたのだが、あまりにも遅くなってしまうので、松田彩香には先に帰れと伝えたため、今日は1人で帰る。

あわや帰庫遅延ギリギリになって仕事を終え、雇われ外国人の洗車屋にタクシーを洗車させ、やっと富士見のガレージハウスに帰宅したら、もう朝4時。

「やり過ぎた。」

と、三条神流はフラフラしながらシャワーだけ浴びると、松田彩香が起きた。

「あっ起こしちまった?」

「今起きた。今日は朝から昼まで研修。」

「ああ。」

「午後は遊ぶよ。明け公だし。」

と、松田彩香は言いながらテレビを付けた。

同時に流れ出した音楽は、「銀河鉄道999」だが、あまりにも音痴な醜男がピアノで生演奏している。

三条神流、突然苦しみ始めた。

これが原因となって、突発的な発作だ。

元カノと松本でよく見ていた「銀河鉄道999」だが、うつ病になり、群馬へ逃げ帰ってからは見ていなかった。ようやく落ち着いた矢先に音痴な醜男野朗に生演奏されたら敵わない。

「うわぁぁーーーっ!!」

叫びながらテレビに回し蹴り。

中古で買ったテレビは見事に壊れてしまった。

「あのさあ。」

振り返ると松田彩香が微笑んでいるが、目は笑っていない。

松田彩香は三条神流をベッドへ背負い投げし、布団でぐるぐる巻きにして、耳にイヤホン。口はガムテープで塞ぎ、目隠しまでした挙句、

「超エッチなASMRを」と言いながら6時間の長時間ASMRのエロボイスをイヤホンからリピート再生で流した上で、日勤に出かけて行った。


昼前、松田彩香が帰宅すると三条神流は干からびたミイラのようになっていた。

酷い淫夢に魘された三条神流は、フラフラだ。

「午後は遊べない。テレビ買いに行く。あんたが壊すから。」

「だからって、エロボイスはー」

「うるさい。ロシア式にした方がいい?極寒の赤城山頂に全裸にして縛り付け、ガソリンかけて放置。身体にかけられたガソリンは凍らずに気化し続けて体温を奪い続けていき、数十秒でシャーベット状になって細胞が壊死していく。そのときの激痛ときたらね。まだ、いつものプロメテウスの刑の方がマシでしょ?磔にして、脇腹をくすぐり啄む。」

松田彩香はかなりのサディストだ。

「分かったよ。」

三条神流、溜め息を吐いた。

最も、突発性の発作とは言え、テレビを壊したのは自分だから自業自得だ。

「テレビ嫌いだ。」

「まっカンナのテレビ嫌いは今に始まった話じゃ無いからね。でも、ニュースは見ないと世間の流れがね。」

と、松田彩香は言った。


三条神流がテレビを破壊したため、遊びは次の休みに持ち越しとなってしまったが、その休みの日は軽い戦争状態になった。

三条神流と松田彩香は大洞赤城神社にいた。

先日のテレビ破壊事件後、三条神流は持病であるうつ病の発作が起こりやすい状態になっていたが、松田彩香はこれをいい事に、三条神流との入籍の為、外堀を埋めていく。

しかし、松田彩香は三条神流との入籍がほとんど決定となっていたが、三条神流は入籍せず、事実婚という形をとって欲しいとしていた。逃げ場が無くなることを恐れてである。

だが、松田彩香は発作が起こりやすく、同時に判断力が衰えた三条神流を唆し、「事実婚でもどうせ入籍や婚姻届も必要だから」などとでっち上げたため、まんまとハマった三条神流は、松田彩香に騙された格好で、入籍することになっていた。

大洞赤城神社から、大沼湖畔を経て、鳥居峠のバーベキューホールのオヤジとその話をしていた際、三条神流が松田彩香にでっち上げられた話をしたら、オヤジに「おかしい話だぞそれ」と指摘され、何がおかしいのかを聞いた。

「おい。エリア88じゃねえんだ。薄汚ねぇ真似すんなよ。」

「ふーん。なら、今度は十字磔がいい?碓氷峠の磔河原で。」

「あそこは―。」

碓氷峠の磔河原は、三条神流が目を逸らす場所。碓氷の関所破りをした者を、磔にした処刑場で、処刑された者の中には、三条神流のように、周囲の反対を押し切って碓氷の関所を破って磔にされた者も多数いるからだ。

三条神流はかつて、長野の年上女と付き合っていたが、素行の悪さや浪費癖、浮気癖を見抜けず、周囲の反対を押し切り、一緒にいたいが故に長野へ移住。結果、散々痛めつけられ、群馬へ逃げ帰るハメになった。

「どうせさ、いつから入籍することになる。だったら、ジタバタしてないでしてしまおうよ。それに、事実婚で将来的に子供出来たら、後々面倒よ。」

「子供―。」

三条神流にはまた未知なる話だ。

しかし、非現実的な話を遮って、サンダーバーズの望月光男から緊急連絡が入った。

「草木に、埼玉から来た遠征部隊が現れた。そいつらは、人探しをしている。どうも、両毛連合の誰かに、埼玉でやらかした奴がいて、その仇討ちにきやがった。今、ADMとサンダーバーズが草木ダムでバトルしてんだが太刀打ちできない。」

「分かった。カンナ連れて、すぐ行く。」

松田彩香と三条神流、スクランブル発進だ。

三条神流と松田彩香は、赤城サンダーボルトラインから赤城山を駆け下りるが、三条神流はその際、松田彩香に自分の走り屋としての実力を見せつける。しかし、午前10時を回り、観光客が徐々に登って来る赤城山。

サンダーボルトラインにも、ナビに騙された、哀れで邪魔な観光客が居て、途中でバトル中止だ。だが、三条神流はなりふり構わないらしく、からっ風街道に降りた途端、またもバトルモード。

「はいはい。付き合うよ。」

松田彩香も乗った。

BRZとGR86。

紅と紺の閃光が交錯する。

先行するBRZはストレート区間で一気に加速し、前にいた軽トラを蹴散らすと、GR86もそれに続く。支援学校前の信号を通過。GR86がBRZに接近する。しかし、抜けない。左コーナーでGR86がタイヤを鳴らす。

(ドリフトしないとついて行けない。カンナも速くなった。まっじゃないとサンダーバーズの2号車なんて名乗れない。)

タイヤを鳴らしているだけでは、ドリフトではない。

右コーナー出口で、BRZが路肩ギリギリまで膨らむ。

(もっと攻め込めるはずだ。)

ギリっと歯を鳴らす三条神流の前方に、GRカローラ。

(ネルソンさん。どうするか―。)

ネルソンに気を使って、減速しようとハザードに手を伸ばしたが、その隙に、松田彩香が強引に追い抜いてしまった。

(あのよ、そこで戻ると―。)

案の定、右コーナーでエイペックスに付いたネルソンのイン側から、ネルソンのGRカローラに衝突しかかる松田彩香。

「馬鹿野郎!」と、ネルソンが怒鳴っているのが三条神流からも見て分かった。

三条神流はこの時点で、バトルを中止した。

少し先で、ネルソンが止まるので、三条神流もそこに止めて謝罪し、ネルソンが前に出る格好で草木を目指す。

桐生カントリークラブ手前で、松田彩香が待っていた。三条神流はネルソンより先に出て「危ない事するな!」と怒鳴った。

「いやぁ、見えなくて。」

「なんでハザード焚いたか考えろよ。」

三条神流は頭を掻きながら言う。 

懲りずに、松田彩香先行、三条神流後追いで、カントリークラブから梨木温泉までの間でバトルするが、呆気なく、松田彩香に振り切られてしまった。

「あーあっ。あの人形のようなメガネ娘。かわいい顔しておっかねえ。あんなのと付き合いたくねえ。」

と、ネルソンが言った前で、どこかのBRZに乗っている奴が盛大にくしゃみをした。


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