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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第四章 月の出
34/78

32 モビリティーリゾートもてぎ

いよいよ、小岩剣の元に新しい車が納車された。

隣に並ぶ、坂口拓洋のS660とNSXと比べるとまだ見劣りするが、N-ONEと比べるとその差は歴然だ。

ちなみにN-ONEはホワイトレーシングプロジェクトの社用車となるようだ。

「ナンバープレート取り付けりゃ終わりだ。」

と、坂口拓洋はナンバープレートを持って来た。

少々余分に金を払ったが、赤城山をデザインしたナンバープレートで、ハタから見れば白ナンバーに見える。

群馬587 し 62-18

これが、小岩剣の新しい車のナンバーだ。

「下がりつばめナンバーとは、俺に対抗か?」

と言う坂口拓洋のS660のナンバーは、熊谷583 し 62-2である。

「まぁ、そんなとこです。」

「なら、これも貼っ付けろ。」

それは、下がりつばめのマークだ。

坂口拓洋のS660のフロントフェンダーにはつばめのマークが付いている。要するにこれを付けてみろと言うのだ。

「はっはーん。超特急つばめの先頭に立つC62みたいな姿になったじゃねえか。」

と、坂口拓洋は笑った。

しかし、坂口拓洋のS660のキーホルダーには、つばめではなく別の鳥が象られているのに、小岩剣は気付いた。

だが、それが何かは聞けなかった。


初めての長い休暇。

小岩剣は夏の陽射しが少し弱まり始めた群馬を出発。

目的地は、行ったことのない場所である。

いや、それまでにも、一応、近くを走るローカル線には乗りに来てはいた。

大学時代に一度、ゼミの旅行で乗ったのだが、あまり楽しい思い出はない。

原形に近い形を留めている50系客車に乗ったという事と、小さなC12蒸気機関車でありながら、80キロ近いスピードで突っ走るSL「もおか」に驚いた記憶はあるのだが。

最も、何となくで生きていたのでは、真岡鉄道に乗ったという思い出など、別の記憶に上書きされて消えてしまってもおかしくない。

(最近になって真岡鐵道の話聞いたのは、C11-325を東武に押し売りした際、大井川鐵道と揉めた事と、SL飲酒運転した挙句、国交省に逆ギレしたってやつだな。真岡鐵道はSL走らせるの無理なんじゃ無いか?)

などと思う。

群馬県高崎市から真岡鉄道の近くまで行くとなれば、下道だけで行くのはかなり難儀する。

一応、国道50号等を使えば行けるのだが、時間がかかり過ぎる。

なので、珍しく高速道路を利用している。

高速代をケチろうとして作戦を練ったが、無意味な愚策に終わってしまいそうだったので、横着せず、素直に高崎玉村から高速に乗って、ひたすら走る。

東北自動車道を一瞬経由する北関東自動車道。

東北自動車道と重複する区間を過ぎ、水戸方面へ進むと、それまで、赤城山から遥か遠くに見えていた筑波山が近付いてきていた。

そして、一度訪れているらしい、真岡の町の最寄り、真岡ICで高速を降りると、ひたすら下道だ。

途中、コンビニで朝飯を買うのだが、食費をケチって、ウィダーゼリーだけ買って済ませる。

のどかな田舎道は、群馬と変わらないのだが、雰囲気が何処か違って見える。

踏切が見え、それを渡った時、それが真岡鉄道の踏切と気付いたが、見覚えのない景色だ。

(まっ、見慣れない景色、見覚えのない景色に見えてしまうのは、車のせいかもしれないけど。)

と、小岩剣は思う。

両親には一応、このことは伝えた。

だが、他の、ADMのメンバー。更に「サンダーバーズ」の主要メンバーも、三条神流も松田彩香も、そして、ディスタント・ムーンの三人姉妹も、このことは知らない。

山道を走る。

前には、ローダー車が走っていたが、ローダー車の積荷は、見るからにレーシングカーであることから、ローダー車の目的地は自分の目指す場所と同じだろうと小岩剣は思っていた。

時折、カーブミラーに写る自分の車の姿を見て、困惑する。

そして、車内の様子にも困惑する。

だが、困惑するようではまだ、自分の車として扱いきれていないということだろう。

(なるほど。拓洋さんが、「買ったら、何もせず、まずはどんな車で、どんな性質を持っているかを知れ。それまで、出来る限り、この車に乗っている事は内緒にしろ。群馬の車仲間に会う事も止めろ。」って言った理由が分かってきた。こりゃぁ、扱うのが大変だ。)

燃料計を見ると、半分程度になっていた。

この車は以前に増して、燃料補給の頻度が高い。

燃費はいいのだが、肝心の燃料タンクが小さいため、燃料を小まめに補給しなければならないからだ。

ナビを見ると、JAのスタンドが近くにあるので、そこに行く。

セルフ式スタンドで、現金を入れられるだけ入れ、燃料を入れる。

そして、入れ終わり、出発間際、店舗のガラスに写った自分の蒼い車を見て困惑するが、これが自分の今の車である。

「よろしく頼む。S660ModuloX。」

小岩剣の今の車。

それは、オーナーに恵まれず、流れ流れてホワイトレーシングプロジェクトに流れ着いてきた、あの、蒼いS660ModuloXである。

そして今、小岩剣と蒼いS660ModuloXのどちらも、初めて訪れることになる場所のゲートが見えた。

(拓洋さんは、南から行けと言っていたけど、遠回りじゃないかな?)

と、思いながらも、南ゲートでガードマンに書類を見せて入れてもらう。

そして、場内を走っている内にどういう理由か分かった。

(そういうことか!でっけぇ―。)

場内の道路からは、秩父サーキットとは比べ物にならない程大きなサーキット。そこを、レース用のバイクが走っているのが見える。

ここは、栃木県茂木町。

HONDAの所有する国際サーキット。

「モビリティーリゾートもてぎ」である。


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