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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第三章 月への道
33/78

31 蒼きS660

翌日は、変わらず倉賀野貨物ターミナルで仕事だ。

今日は、ヤードの端で、別な作業をしている業者が入っていた。

小岩剣や、鉄道好きにとって、見るのが嫌な物だ。

鉄道車両の解体である。

解体されているのは、先日ここへ運び込まれた、DE10型ディーゼル機関車だ。

福岡から来たコンテナ貨物列車の入換中、横目で解体が行われている方を見ると、残骸となったDE10を載せたトラックが、どこかの鉄屑屋へ向かっていくのが見えた。

機関車1両の解体なんて呆気ないもので、午前中にはもう、一通りの解体が終わってしまっていて、後にはDML61ZA形エンジンなどの残骸が運び出されようとしていた。

後は、またいつもの仕事をこなし、仮眠休憩と翌朝の仕事を終えたら、秩父へ向かう。

今日もまた、秩父で、拓洋に指導してもらう予定だった。

そして、その際に、相談したいことがある。

もう、N‐ONEで速くなるのは無理ということは、耳にタコが出来るほど聞いた。今日の相談というのは他ならない。

自分の手持ちの金と予算で変える速い車は無いかと言う事だ。

だが、その相談をすることは、どうも気が引ける。

と、言うのも、このN‐ONEは先述の通り、離れ離れで暮らしていた両親が、せめてもの罪滅ぼしとして、買ったものであり、それを、自分の私利私欲のために、売り払って、別の車を購入するのは親不孝ではないかと思っていたからである。

一応、両親と電話で話した際、車好きの友人と出会い、自分もスポーツカーが欲しいと思っていると話をし、両親は「自分のN‐ONEなんだから、売って資金にしても良いぞ。」とは言っていたのだが、やはり後ろめたい。

コンビニで買った、パンとお茶を貪って朝飯とし、間瀬峠を越えて、秩父にやって来た。

ホワイトレーシングプロジェクトの客用駐車場にN‐ONEを停めると、拓洋の姿があった。

「今日は買える車が無いかってことだったな。」

と、拓洋。

「ええ。買うかどうかは別として、自分の資金力で買える車が無いかなと。当然、買った後の事もありますので―。」

「車は買って終わりじゃねえからな。その後の事も工面出来ねえとな。」

「それで、とりあえず、見積もりだけでも―。」

「中へ。」

拓洋は、小岩剣を店舗に通す。

拓洋は小岩剣から、大まかな予算を聞く。

拓洋は渋い顔をした。

(予想はしていたけど。後のこと考えてその予算か。)

と、言いたげだった。

だが、拓洋はそれでも、車に心当たりがある。

拓洋は真穂と、ホワイトレーシングプロジェクトの代表で、坂口真穂、愛衣、知恵の三姉妹の父ある、坂口正孝に何かを相談した。

そして、見積書を作ると、

「この値段で。」

と、拓洋は言いながら、それを渡した。

「これは―。」

「現物、見るか?」

拓洋は再度、外へ案内する。

予算より安い。

これならN‐ONEを売った資金プラスαであるが、買える。

だが、そんな値段で買える車なんてあるのだろうか。

「まっそれなりの戦闘力はあるぜ。」

と、拓洋は言うのだが、値段から見て、どこからどう見ても、ポンコツにしか考えられない。

だが、ガレージを開けた拓洋が「これだ」と言った車に目を疑った。

先日、言い値で売ると言っていた、蒼いS660だった。

「これって―。」

「俺の車と同じ、S660。なんだけど、これはただのS660ではない。S660ModuloX。速く走るための最低限のパーツはくっ付いている。更に速く走るには、ECUや吸排気系統には多少手を加える必要はあると思うが、デフォルトでも速く走れる状態になっている。」

「―。あの、どうして―。」

「こいつは、オーナーに恵まれないでいた。お前、速くなりたいんだろう?」

「ええ。でも―。」

「速く走りたい。追い付きたい人がいる。そんな意志がお前にあるのなら、それに、こいつも応えてくれると思ってな。こいつは、速く走るために産まれた車だ。」

「でも、俺、あの、N‐ONEは―。」

と、小岩剣はN‐ONEについて話す。

拓洋は「ふーん。」と言ったが、笑っていた。

「俺も、学生の頃、親に金出してもらって一人暮らししていた。そんなある日、秩父に電車で遊びに来たら愛衣と出会い、愛衣がなんか知らねえけど、俺をレースの世界に引き摺り込んだ。結果、遠い生まれ故郷を捨て、大学行かねえでレーシングスクールに入り、レーサーデビューして、気が付いたら愛衣とくっ付いてしまった。でもね、後悔はしていない。やるかやらないかで、人生は大きく変わる。問題は、お前にやる気があるのか無いかだ。」

「やる気はあります。なので―。」

「買います」と言おうとした時、諸用で熊谷に行っていた愛衣が戻ってきた。

そして、愛衣は、拓洋と小岩剣の話に割って入ってきた。

なので、「買います」という一言を、小岩剣は飲み込んでしまった。

「秩父鉄道の三峰口駅のイベントで、車を展示してほしいって事になった。」

と、愛衣。

「展示?誰の車出すの?」

真穂が言うと、

「戦闘車両って事なら、大山さんのNSX-GT3と、知恵のFK8スーパー耐久仕様って感じかなぁ。」

「そっか。でも、どうやって運ぶの?ローダー入れないっしょあそこ。かと言って、2台とも、公道走ったら、警察デカにパクられるよ?」

「それなんだけど―。」

その時、小岩剣の姿を見つけた愛衣。

「あっ!ねっちょうど今、会いたいと思っていたんだよ!お願い、って言うか、話だけ聞いてくれない!?」

小岩剣はあっけにとられる。

拓洋が愛衣の頭に拳骨を食らわせて黙らせた上で、ホワイトレーシングプロジェクトは貨物列車でレーシングカーを運べないかと考えていると話した。

「それなら、宇都宮貨物ターミナルに元NISSANのカーパックコンテナが余剰になって、山積みされてますし、倉賀野でも、同じようなことやっている人居ますよ。UM60Aをその方は使用してますね。」

その人というのは、東郷三姉妹の事だ。

彼女等も遠征時に貨物列車を利用することがあり、AK50の片隅には、UM60A型自動車輸送コンテナと、機材輸送用の20フィートコンテナが置いてある。

「車の大きさはどれくらいですか?」

「現物見せるよ。」

と、拓洋は言いながら、隣りの、FK8とNSXが居る倉庫に連れて行く。

倉庫で小岩剣はそれを見、車検証を確認しながらメジャーで車幅と車高を測り、

「この大きさなら、UM60Aの方が確実でしょうね。UM60Aなら宇都宮に余剰があるらしいので、一言、宇都宮貨物ターミナルに言えば破格で譲ってもらえるかと思います。」

と言った。そして、その上で、

「こちらから一つ、お願いしてもいいでしょうか?」

と、小岩剣。

「やる気は、あります。なので―。」

一瞬、唾を飲んだ。

そして、

「買います。あの、S660を。」

と言った。

「条件がある。」

拓洋が条件を突き付ける。

「この日、仕事か?」

「いえ。まだ、分かりません。」

「なら、S660買ったら、何もせず、まずは、これに行け。これに行き、S660はどんな車で、どんな性質を持っているか、そして、サーキットで走るという事、スポーツ走行という物を経験してこい。」

小岩剣の目付きを見た拓洋は、

「いい目付きになってんじゃねえか。」

と、ボソっと言った。

「あの、これは?」

「速くなりたい人向けの、練習会だ。お前は基礎的な部分をすでに、N‐ONEで習得している。だが、S660に乗り換えると、一気に世界が変わる。その変わった世界を前に、暴走すれば、必ず事故を起こす。なので、購入後はこれに行くことを絶対条件とする。でねえと、この車の正規料金払わせるぞ。それからだ、これを終えるまでは、出来る限り、この車に乗っている事は内緒にしろ。群馬の車仲間に会う事も止めろ。自慢して、自慢が過ぎて、ドッカンやらかしてみろ、大恥で目も当てられない。また来週、金持って来い。」

僅か1日で、S660を購入することになってしまった。

確かに、悩んだ期間はあるが、こうもあっけなく決めてしまうとは思わなかった。

帰り際、小岩剣は自分で、自分の両親にこれを報告。

そして、次の日の仕事の後、明けを利用してAK50に向かった。


「どうして?」

小岩剣が「しばらく顔を出せない」と言って、日奈子が取り乱しかける。

「あの、事情を言う事が出来ないのですが―。あっでも、この前のことは本当に関係ないです。仕事―。そう、仕事で―。」

ワタワタしながら話す小岩剣に、日奈子は何か隠していると察した。

「正直に言わないなら、拷問しちゃうよ?からっ風で喧嘩売って来たカンナを、恵令奈とアヤがくすぐったら、ぶっ倒れてもんどり打って、超ダサかったよ。まぁ許さずに、大の字に拘束して、アヤとアタシと恵令奈の3人がかりで、気絶するまで大体5時間ぐらい、くすぐり地獄見せてやった。ワンコ君は本番いっとく?」

日奈子はニヤニヤし、手をワキワキさせながら言う。

が、玲愛が割って入った。

「エッチな拷問なら、私にして。」

「えっ―。」

日奈子が困惑する。

「きっと、何か、やりたいことをやろうとしているのよ。秩父に行っていた事も、そういうことよ。その帰り道の間瀬峠でスピンしたとも言っていた。」

「でも、私は不安よ。ワンコ君が、玲愛を捨てて、別の人に行っちゃうのではって。」

「隠し事は出来ないよ。ワンコ君は。私は、そう思う。」

日奈子が手を引っ込めた。

「あの、えっと―。」

と、小岩剣はもごもごしながら言う。

そして、

「これに、行ってきます。」

と、拓洋が与えた課題についての案内を見せた。

「あっ。ああ、これかぁ。」

日奈子が納得した。

「速く走れるようになりたくて。皆さんに置いて行かれたくないのです。少しでも速く走れるテクニックを身につけようと思うのです。」

小岩剣は理由を話す。

「ワンコ君。N‐ONEで速く走るのは無理よ。」

と、恵令奈が言った。

「でも、安全に速く走るための基礎的な技術を学ぶという点で、これに行くのはいいことよ。だから、頑張って来て。」

恵令奈が笑って言った。

「うん。頑張りなさいよ。」

日菜子も笑った。

「でも、事故は起こさないでね。安全に、無事に帰ってくるんだよ。」

最後に、玲愛が言った。

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