30 トワイライトエクスプレス加賀美 vs 北陸新幹線つるぎ
からっ風街道の北新地信号から同時にスタートする小岩剣と加賀美のN-ONE。
小岩剣にとって、初めてのカーバトルだ。
右コーナー。インから入る加賀美は、アウトサイドにいた小岩剣のラインを潰して前に出た。
次の左コーナーには、加賀美先行の状態。
CVTながらもパドルシフトの付いたN-ONEの小岩剣は、パドルシフトを駆使して食い付く。しかし、加賀美には敵わない。
だが、今までとは何かが違う。
加賀美にすら置いて行かれていた小岩剣のN-ONEだが、今、加賀美のN-ONEには喰い付けている。
富士見総合グランド前のコーナー。
加賀美は、サイドミラーに写る小岩剣に僅かなプレッシャーを感じた。
そして、僅かにアウトへ膨らむ。
(アンダーステアだ。)
と小岩剣。アンダーステアを出して、アウトへ僅かに膨らむ加賀美のN-ONEの隙間へ、自分のN-ONEを捩じ込む。
富士見総合グランド前を通過して、登り勾配。
パドルシフトで変速する、小岩剣のN-ONEだが、N-ONEオーナーズカップ仕様の加賀美のN-ONEの方が、剛性が良く、コーナースピードも僅かに早いため、また、加賀美が突き放しにかかるのだが、両者エンジンに手を入れていないため、一度差を詰められると、それを広げるのは難しい。
登り勾配の先。
高速のS字に、加賀美が先に入るが、最初の左でアウトサイドにいた小岩剣は、次の右でインサイドに入れる。
パドルシフトでエンジンブレーキを僅かに効かせて進入。
オーバースピードな上、アンダーステア傾向の強いFF車の特性を敢えて利用。
加賀美は、アンダーステアを出した小岩剣に、アウトサイドへ飛ばされる格好になり、やむ無くブレーキング。
失速した。
目の前に迫る、右ヘアピン。
(拓洋さんのように出来ないけどー。)
「ギャーーッ!」と、タイヤが鳴る小岩剣のN-ONE。
ヘアピンを抜けて、立ち上がり加速。
この先は、緩いコーナーはあるが、ほとんどストレートに近い。
加賀美も最後まで食い付くが、東金丸町の信号を先に突破したのは小岩剣のN-ONEだった。
「北陸本線でトワイライトエクスプレスは、在来線特急 (サンダーバード)に抜かれる。お前、トワイライトを抜いた。トワイライトエクスプレスに依存するのもいいが、あまりにも依存が過ぎて、トワイライトエクスプレスより優れた物まで潰したら、目も当てられないぞ。」
三条神流に以前言われた事に、今納得した。
自分は、N-ONEを卒業し、加賀美の手を離れ、更に高い場所へ行けると。
転回して、グリーンフラワー牧場に向かう。
「なるほど。」
と、加賀美。
「更に上に行こうってわけね。N-ONEと、私から学んだことを活かして。」
「はい。加賀美さんを踏み台にする格好になってしまいますがー」
「車、乗り換えるの?」
小岩剣はそれに頷いた。
「分かった。何に乗り換えたにせよ、車仲間である事に、変わらないから。」
と、加賀美は微笑んだ。そして、
「私も、もうすぐ居なくなるかもしれない。だから、後輩を見送れてよかった。」
と、小さく言った。
「加賀美さん。それはどう言う?自分は、加賀美さんのことがー。」
ここまで出たがその後が出ず、エンストするかのように言葉に詰まってしまった。
なぜなら、加賀美の指が唇に触れているからだ。
加賀美は微笑みを浮かべているが、その奥には何か暗く寂しい物が見え隠れしていた。




