28 緊急ピットイン
三条神流がマルシェにいる。
三条神流はモビリティリゾートもてぎのレースの際、ダウンヒルストレートの先の90°コーナーでコースオフし、グラベルに落ちたため、霧降のローダーでBRZを運び、マルシェで緊急的に足回りの点検を行っていた。
そこへ、小岩剣が姿を見せる。
こちらは先日、オイル交換をしたばかりだと言うのだが。
「どうしたんだ?」
と、三条神流。
「いやぁ―。」
と、小岩剣は、間瀬峠でスピンした事を話す。
「秩父の間瀬峠を走っていて、誰かが道端に棄てた油を踏んでしまってスピンしたのです。それで足回りの点検を。」
と言う小岩剣。
「間瀬峠か。少し遠出したのか。まっ気を付けろよ。」
と、三条神流は言った上で自分のことを話す。
「こっちは、もてぎの90°コーナーでアンダー出してグラベル突っ込んで足回りの点検。」
「そうでしたか。」
三条神流が頭を抱える。
三条神流はアライメントを狂わせたらしく、アライメント調整が始まった。
(えーっと。)
小岩剣は無傷で済んだが、三条神流のアライメントと言う物が気になり、教科書でアライメントを調べる。
(アライメントとは、ホイールの整列具合を表すもの。ホイールの向きや角度などを調整して揃えることを指す。キャンバー角、トー角、キャスター角の3つで構成される。)
ふむふむと勉強する小岩剣を見る三条神流は僅かに溜め息。
「無理に、アヤに追い付こうとするから、痛え目に遭うのかもな。でも-。」
「歩き続けることは止めない。目的のためならば、手段を選ばない。それがお前だな。」
「だが、強制された道を強制的に歩くのは嫌だね。」
「教師嫌いめ。」
「うるせ。トー角はっとー。」
などと、三条神流と霧降要は話す。
小岩剣の方は異状なし。
三条神流も、さっさと修理してしまった。
そして、ついでにと言って、小さな作業も行った。
「試運転行くか?」
と、三条神流。それに頷く小岩剣。
赤城道路へ進路を取る三条神流に随伴する格好で、小岩剣もN‐ONEを走らせる。
修理及び点検後の試運転であるが、三条神流はなりふり構わず、BRZを攻め立てる。
小岩剣も負けじと、喰い付いていく。
バックミラー越しに見た三条神流は、小岩剣が4WDドリフトのような事をしていると気付いた。
だが、小岩剣はドリフトをしていると言う実感がない。
(違う。拓洋さんのやっていた、4WDドリフトはこうじゃない。それに、S660のように走れない。)
小岩剣、首を横に振る。
姫百合駐車場から、ヒルクライムが始まる。
そうなると、BRZは一気に離れていく。
登りきった時にはまたも、三条神流に待っていて貰う格好になってしまった。
バーベキューホールで昼食後、三条神流は北面道路を走りに行くと言うが、小岩剣は例によって、赤城サンダーボルトラインへ向かう。
つづら折りの低速ヘアピンを駆け抜ける。
サンダーボルトラインならば、どうにか、ADMの下っ端やサンダーバーズの下っ端には付いて行ける。だが、三条神流や松田彩香クラスとなると、ついて行けない。同じ軽自動車のS660にも、ついて行くのは不可能だ。
粕川を渡って、三夜沢赤城神社への参道に出て、今日は終了だ。
三夜沢赤城神社に参拝する際、小岩剣は三条神流のBRZを見て「あれ?」っと言う。
給油口に付いているエロゲのキャラのステッカーが貼ってある。先程、マルシェで貼ったのだ。
「お前も、なんか名乗れば?」
三条神流が言うが、小岩剣は「生憎、名乗れる名前は持ち合わせておりません」と、首を横に振った。




